台湾地方選 中国に向けられた民意

朝日新聞 2014年12月04日

台湾地方選 中国に向けられた民意

これは歴史的な惨敗である。台湾の統一地方選で、政権与党の国民党が多くの首長ポストを失った。選挙結果を受けて馬英九(マーインチウ)総統が党主席を辞任した。

これまで党が進めた中台関係強化の動きは停滞を余儀なくされ、中国の対台湾政策も見直しを迫られよう。

今回の選挙は、各地の首長、議員ら計1万人以上を選出するため初めて同時実施された。22の県・市長ポストのうち15を占めていた国民党は6にまで減らした。ここに表れたのは、馬総統が率いる国民党政権に対する批判の強さだ。

馬総統は08年の就任以来、中国との関係改善により台湾の経済成長を図る方針を掲げ、当初は支持された。

しかし、それは中国事業で稼ぐ大企業を潤しただけで多くの庶民は取り残され、格差を広げたとの疑念が広がった。不祥事が重なったことも響いた。

最大野党の民進党は、国民党の強固な地盤だった地域で首長ポストを奪取した。16年初めにも実施される総統選での政権交代が視野に入ってきた。

台北市長選は、組織を持たぬ無党派の医師が国民党の次世代指導者候補を大差で破った。この春に起きた学生運動以来の新しい動きとしても注目される。

「台湾統一」を目指す中国は国民党との関係を重視し、台湾企業に便宜を図る一方、「台湾は独立国家」という立場をとる民進党への警戒感を隠さなかった。だが今後、国民党を不安視するようになれば、戦略を練り直すことになろう。

台湾から見て中国大陸は、軍事的に仮想敵だが、経済的には依存する矛盾した関係にある。大半の市民は中国との統一を求めているわけではなく、適度に経済交流をしながらの現状維持を望んでいる。

今や台湾海峡を直行便が飛び交い、大陸から毎日おおぜいの観光客が訪れ、親中派企業がメディアを買収し、中国の影は日に日に色濃くなっている。

だが、かえってそのために、台湾人アイデンティティーは馬政権下でいっそう高まった。

隣の香港では、若者らが大規模な街頭行動で当たり前の選挙制度を求めても、訴えは実現していない。「民主化をかたくなに拒む中国」という印象を改めて台湾社会に与えている。

総じて言えば馬政権の6年は、対中接近のペースが速すぎて危険だと、投票を通じて判定が下された。

この台湾の民意こそが、中国・習近平(シーチンピン)政権が真摯(しんし)に向き合うべき相手である。

読売新聞 2014年12月05日

台湾統一地方選 性急な対中融和が否定された

台湾の馬英九・国民党政権の性急な対中融和路線が、否定された。

先月末に行われた統一地方選で、国民党が大敗を喫した。

22県市の首長選で、国民党のポスト数は、15から6に激減した。1998年以来無敗だった台北市長選では、党名誉主席の長男が、無所属新人に敗れた。

野党の民進党のポストは、一気に6から13に増えた。

馬総統は、大敗の責任を取り、党主席を辞任した。残り約1年半の任期中のレームダック(死に体)化は避けられまい。

選挙は、2012年に再選された馬総統の政権運営に評価を下す中間選挙の意味合いがあった。

馬氏は10年に、中国との事実上の自由貿易協定である「経済協力枠組み協定」を締結した。2期目に入ってからも、経済面での中台一体化を推し進めてきた。

経済界はおおむね、中台の融和を歓迎したが、庶民の間では「格差が拡大した」との声が高まっていた。中国マネーの流入で住宅価格が高騰したことなどが原因だ。

今年3月には、サービス分野などで中台間の規制が大幅に緩和されることに反対し、学生らが立法院(国会)を占拠した。

中国は台湾に対して、香港と同様の「一国二制度」による統一を呼びかけている。

中国にのみ込まれることへの台湾住民の危機感は、民主化を求めてデモを繰り広げる香港の学生と通じるものがある。

今後の焦点は、16年の次期総統選に移る。国民党が党勢を立て直すには、急ぎ過ぎた対中融和路線の修正が不可欠だろう。

台湾独立の志向が強い民進党が勢いづくのは間違いない。ただ、住民の圧倒的多数は、中台関係について、「統一でも独立でもない現状維持」を望んでいる。経済成長には、中国にある程度依存せざるを得ないのも事実である。

現実的な対中政策を打ち出せるかどうかが、民進党の課題だ。

台北市長選における無所属候補の当選は、2大政党への批判の表れと言える。国民党、民進党は共に、岐路に立っている。

今回の選挙結果を受けても、経済面を足がかりにした中国の統一攻勢は変わるまい。台湾を取り込むことは、日米が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)に対抗し、経済圏を拡大する上でも重要な意味を持つ。

中台関係の動向は、日本を含む東アジア全体の安定にかかわる。情勢を注視する必要がある。

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