(衆院選)安倍政権の安保政策 「異次元」の転換を問う

朝日新聞 2014年12月11日

(衆院選)エネルギー政策 原発回帰でいいのか

福島第一原発の事故から3年9カ月。現場では、地下水の流入による汚染水が今も増え続け、溶け落ちた核燃料は高い放射線量に阻まれて所在すらわからない。12万人の福島県民が住まいを離れ、まもなく4度目となる正月を避難先で迎える。

衆院選は後半戦を迎えている。ただ、原発問題に関する論戦は盛り上がりを欠いている。公示日前日に日本記者クラブで開かれた党首討論でも、原発に関する党首間のやりとりは1回だった。

有権者に、衆院選で重視する政策を尋ねると、景気・雇用対策が47%。原発再稼働は15%にとどまる。一方で、自民党は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、再稼働も国が前面に立って積極的に進める方針を示す。

事故を契機に、政府は電力自由化へと大きくかじを切った。多様な事業者が切磋琢磨(せっさたくま)してサービスを競い、消費者側が電源を選べる新しい仕組みを導入する。しかし、このまま原発問題への関心が薄れれば、日本は新しいエネルギー社会をつくれなくなるのではないか。事故後、国民の過半が脱原発を選んだはずなのに、である。

安倍政権の2年で、原発回帰は鮮明になった。

原子力規制委員会の審査を通った原発はすべて動かす。事故後、周辺30キロの自治体にも避難計画の策定が義務化されたが、再稼働の協議の枠組みには入れない。その避難計画づくりについても、再稼働を前提にすると支援に力は入るが、「本当に実効性があるか」については目をつぶる。

立地自治体に対して補助金を出す法律上の仕組みもそのままだ。原発に依存し、維持を求める自治体の経済的な動機が温存されている。

原発で発電した電気を固定価格で買い取る制度の導入も検討中だ。電力自由化を進める際に利益を保証しないと、巨額の費用がかかる原発への投資を事業者がやめてしまうかもしれないからだという。事実上の原発保護策といっていい。

そもそも、電力会社が地域ごとに市場を独占し、かかる費用を電気料金に転嫁する今の仕組みは、見直しの必要に迫られていた。

競争による新しい技術やサービスの普及が遅れ、電力業界ばかりでなく、割高な電気料金となることを通じて社会全体の経済的な効率を損なってしまうためだ。原発事故で、大規模な電源に依存するもろさやリスクが明らかになって、見直しが加速した。

その結果、料金の完全自由化や電力会社の送電部門と発電・小売り部門を分離する電力システム改革を進めることが決まった。新規参入を促し、新しい技術やサービスが生まれやすい社会にすることをねらう。

新しい仕組みへと移る途上で政府が再稼働を後押しし、原発を保護すれば、新規参入する側にとっては、大きな壁となる。

安倍政権は、原発をベースロード電源として位置づける理由として、化石燃料ではエネルギーの安定供給につながらないことをあげる。輸入で多額のお金が国外に流出し、国際政治の影響も受けることを重く見る。そこに原発の優位性がある、という理屈だ。

しかし、福島第一原発のように、放射能が外へ漏れるような大事故が起きれば、国土が狭い日本は壊滅的な打撃を受ける。損害賠償も巨額に達し、民間企業では抱えきれない電源であることは、事故後の東京電力を見れば明らかだ。

原発をめぐっては、解決しなければならない問題が山積している。

例えば、全国の原発から出た使用済み核燃料の扱いだ。

全量を加工して再利用する核燃料サイクル事業は、技術面でも採算面でも行き詰まっており、開始のめどが立たない。

いまは、多くの使用済み核燃料が安全性の低い燃料プールで保管されており、しかも容量が限界に近づいている。これをどうするのか。

老朽化した原発の廃炉にも難題が立ちふさがる。解体した後に出る放射性廃棄物を最終処分する場所がない。公募から10年以上がたつが、何万年もの管理が必要な施設を、どこの住民も引き受けたがらない。事故後はなおさらだ。

5日に日本記者クラブで会見した内堀雅雄・新福島県知事は「3・11以降いろんな議論が起きたが、今も続いているかというとそうでもない。福島が発信を続けないと本当の意味での国民的議論につながらないのではないか」と関心が薄れていくことに、危機感をにじませた。

原発を見直す契機になった福島からの声に、私たちはどう応えるのか。一つ一つの課題への向き合い方が試されている。

読売新聞 2014年12月08日

エネルギー政策 安易な「原発ゼロ」は無責任だ

◆現実的な電源構成を議論せよ

日本経済を持続的に成長させるには、企業や国民生活を支える電力を安価かつ安定的に確保する必要がある。

このまま「原発稼働ゼロ」が続けば、電力の安定供給体制は大きく揺らぐ。日本のエネルギー政策に原子力発電をどう位置づけるのか。

各党は、企業や家計、環境に与える影響なども踏まえて、現実的な論議を展開すべきだ。

◆各党公約は割れている

自民党は公約で、原発依存度を可能な限り低減させる一方で、原発を「安全性の確保を大前提に、ベースロード電源との位置付けの下、活用する」と明記した。

発電コストや供給力を考えれば、原発の活用は不可欠だ。政権党として妥当な政策である。

公明党は再稼働を容認しつつ、「原発に依存しない社会・原発ゼロを目指す」と公約している。

民主党は、野田政権時代にまとめたエネルギー戦略を踏襲し、「2030年代原発ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する」と主張する。有権者に脱原発をアピールしようという狙いだろう。

しかし、「政策資源」という抽象的な文言だけでは、具体的な道筋は見えない。

維新の党は、核燃料廃棄物の最終処分問題の解決を条件に再稼働を容認しながらも、「原発依存からの脱却」を訴えている。

共産党は「即時原発ゼロ」、社民党も再稼働を一切認めず、新増設の「白紙撤回」を主張する。生活の党も「原発はすべて廃止」し、新増設も容認しない立場だ。

国内の電力事情は、老朽化した火力発電所をフル稼働させ、供給力を確保しているのが現状だ。電気料金の高騰が続いていることも見過ごせない。

こうした厳しい状況を改善する具体策なしに、原発ゼロを主張するのは無責任に過ぎよう。

原発の必要性について、地に足の着いた議論が求められる。

東京電力福島第一原発の事故後、原発の新増設は当面、難しくなっている。原子力規制委員会が安全性を確認した原発を円滑に再稼働させることが肝要である。

◆着実に進めたい再稼働

九州電力川内原発は、鹿児島県など立地自治体の同意を得て、年明け以降に再稼働できるメドがついた。原子力規制委は、これに続く原発の安全審査も効率的に進めてもらいたい。

自民党は「再稼働にあたっては国も前面に立ち、立地自治体など関係者の理解と協力を得るように取り組む」と主張している。

12年の前回衆院選では「原子力に依存しなくてよい経済・社会構造の確立を目指す」としていたのに対し、今回、再稼働実現に着実に取り組む姿勢を示したことは、深刻な電力事情を考慮した判断として評価できる。

民主党は、「責任ある避難計画がなければ、原発を再稼働すべきではない」と訴えている。再稼働のハードルをいたずらに上げることにはならないか。

政府は既に、原発の立地自治体による避難計画の作成を支援する体制を整えている。

原発技術を継承する人材育成も重要な論点である。脱原発を安易に進めれば、培ってきた技術力が失われる恐れがある。福島第一原発の事故収束や廃炉作業、核廃棄物の最終処分に関する技術開発などに支障が出かねない。

次世代の党が、廃炉など「世界最先端の原子力技術の維持」を掲げたことは理解できる。他の党の見解が聞きたい。

太陽光や風力などの再生可能エネルギーには、二酸化炭素の排出量が少ないといった利点がある。可能な限り、発電量を増やしていくことは重要だ。

各党が積極的な導入を主張しているのは、もっともだ。

◆再生エネ普及に工夫を

だが、天候などによって発電量が変動する再生エネの欠点を忘れてはならない。現時点で主力電源と位置づけるには無理がある。

再生エネを巡っては、民主党政権時代に始まった固定価格買い取り制度がうまく機能していない。価格設定が高過ぎたため、買い取り申請が殺到し、混乱を招いた。民主党が公約で制度見直しに言及していないのは理解に苦しむ。

特定の電源に過度に依存することは、エネルギーの安全保障上、リスクが高い。原発、火力、再生エネなどを組み合わせた将来の最適な電源構成について、各党は議論を深めてもらいたい。

産経新聞 2014年12月10日

衆院選と農業政策 確かな攻めのビジョンを

地方の創生は、日本農業の立て直しいかんによるといっていい。

豊かな自然に恵まれた地方の利点を生かすうえで、これほど有利な産業はないはずだが、確たる展望が見えない守りの農業になっているのが実情である。

農業を、稼げる、若者に魅力ある産業にし、そのパワーで地方の活力を生み出す。そうした具体的ビジョンをいかに描いてみせるかが政治の責任であり、今回総選挙でも、地方が最も期待する議論のひとつだ。

ところが、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉のとらえ方でも、各党の公約には旧態依然とした守りの姿勢ばかりが目立つのは情けない。これでは農業の再生図にはほど遠い。

選挙後も見据え、攻めの農業に転じる確かなビジョンを各党はもっと論じあってほしい。

朝日新聞 2014年12月08日

(衆院選)経済政策 配分の偏りをどうする

衆院選で、与野党が経済政策を巡って火花を散らしている。

野党の一部が「日本の社会を支える中間層を厚くして格差を是正する」(民主党)、「格差拡大のアベノミクスをストップする」(共産党)と「格差」をキーワードに攻め立て、与党側は「地方に実感が届く景気回復を加速させる」(自民党)、「景気回復の実感を家計へ」(公明党)と応戦する。

要約すれば、安倍政権が打ち出したアベノミクスを転換・中止するのか、継続するのか、ということになる。

しかし、政権の発足から日本経済はどう変わったのか、残された課題は何か、これらを踏まえなければ、有権者は各党の主張の当否を判断できない。

まずはこの2年間を振り返ってみよう。

安倍首相が強調する通り、雇用は増え、サラリーマン全体が受け取る賃金の総額も上向いた。企業収益は大きく伸び、株価は2倍に迫る。経済全体の「パイ」は確かに大きくなった。

しかし、その「配分」は偏っている。大企業と中小企業、製造業とサービス業、輸出型と内需型。都市と地方、高所得者と低所得者……。

預貯金や株式などの金融資産を1億円以上持っている世帯が100万を超える一方で、生活保護を受ける世帯は過去最多を更新して160万を突破した。賃金も、物価上昇を考慮した一人あたりの実質指数では16カ月続けて前年を下回っている。各種の統計を並べてみても、配分の偏りが浮き彫りになる。

与党、とりわけ自民党は「この道しかない」と政策の継続を強調する。配分の偏りは自然になくなると考えるのなら、理由を説明するべきだろう。

アベノミクスの転換や中止を掲げる野党も、社会保障を中心とする「人への投資」や富裕層・大企業への税制優遇の見直しなどを訴えるが、その具体的な内容はぼやけたままだ。

ここは政策の常識を疑い、惰性から抜け出すことが必要ではないか。

まず「円安と輸出」である。政府・日銀は「輸出型の製造業が円安で潤えば経済全体を押し上げる」と政策を進めてきた。

ところが、円安でも輸出数量の伸びが鈍い。だから国内の生産が盛り上がらず、設備投資は勢いを欠く。雇用の増加も非正規が中心だ。むしろ、円安による食料品やエネルギー価格の上昇が家計や中小企業を直撃し、消費や投資の足を引っ張ってもいる。

輸出量が増えない理由は様々に指摘されている。円高時代に生産拠点の海外移転が進んだ。一部製品で日本勢が競争力を失った。いや、欧州や中国の景気がパッとしないためだ……。

いずれにせよ、軌道修正が必要な局面だろう。中・低所得層や中堅・中小企業の消費や投資を、どう増やしていくのか。そこを各党に語ってほしい。

次は「成長戦略」である。

バブル経済の崩壊後、毎年のように戦略や対策が打ち出されてきたが、日本経済は低迷が長期化した。人口減少と高齢化で、戦略づくりはますます難しくなっている。

そもそも、成長戦略と言っても、一本の太い矢があるわけでも、即効性のある決め手があるわけでもない。様々な分野で地道に規制や制度を改めていく以外に手立てはない。

企業の既得権益を守る規制の見直しは峠を越えた。論議の焦点は、雇用や医療など生活の安心・安全にかかわる分野に移っている。それだけメリットとデメリットについて丁寧な検討が必要になっている。

国内の資金や技術を生かして、新たな市場や雇用をどう生み出していくのか。選挙戦で聞きたいのは具体論である。

もちろん、「偏り」の修正にも直ちに取り組むべきだ。

消費税が8%の期間中の対策として、政府は低所得者を対象に臨時福祉給付金を用意した。再増税の延期に伴って追加が必要だ。「社会保障と税の一体改革」に盛り込まれた種々の低所得者対策も、再増税の延期で生じる財源不足への対応に知恵を絞り、できるだけ実施したい。

そのうえで、より本格的な制度改革を検討するべきだ。

高齢化などで社会保障給付は今後も増えていく。それをまかなう負担はできるだけ抑えたい。必要な人に必要な給付を行うには、一人ひとりの所得や資産に応じたきめ細かい制度を作れるかどうかがカギになる。

2016年には、すべての国民に割り振られるマイナンバーの利用が始まり、給付と負担の状況をつかむインフラが整う。これをどう活用し、どんな税・社会保障制度を目指すのか。

配分の偏りをならし、より多くの国民に消費を促すことは、成長への原動力にもなる。

読売新聞 2014年12月07日

農業政策 旧来型のバラマキが目に余る

衰退する農業の再生は喫緊の課題である。

旧来型の農家保護を続けるだけでは展望は開けまい。日本農業の生産性を高める具体策についてこそ、各党は競い合うべきだ。

各党の公約には、相変わらず農家の票を意識したバラマキ的な政策が並んでいる。

自民党の政権公約は、強い農業の実現を掲げる。農家の所得増大を図るため、コメの減反制度(生産調整)を段階的に縮小し、生産を休止していた農地を有効に活用する考えなどを示した。

ところが、公約より後にまとめた個別政策集では、減反に協力した都道府県に、補助金の支給を積み増す施策を打ち出し、減反の温存を図るような姿勢も見せた。

民主、生活、社民の各党は、コメ農家などに補助金を一律で支払う戸別所得補償制度の復活を、それぞれの公約に盛り込んだ。

民主党政権が導入した補償制度は、小規模農家が補助金を目当てに農地を手放さず、農業の大規模化を妨げる弊害が指摘された。

与野党とも、農家を横並びに保護する発想から脱却し、積極的に経営効率化に取り組む中核農家などに支援の重点を置くべきだ。

農協の画一的な事業運営や指導では地域の特性は生かせない。

政府は、全国の農協の頂点に立つ全国農業協同組合中央会(JA全中)について、解体を含む、抜本的な改革を検討している。

だが、自民党は農協改革の公約を「議論を深め、着実に推進する」との曖昧な表現にとどめた。

維新の党は「JA全中の抜本改革」を公約したが、見直しの方向性を示さなかった。民主党は、農協改革への明確な言及がない。

農協の集票力を意識し、改革の内容に踏み込むことをためらったとすれば問題だ。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉では、農産品の関税引き下げが求められている。農業関係者には厳しい協議となるが、貿易自由化を進め、アジア太平洋地域の成長を取り込む意義は大きい。

自民、公明両党は共通公約で、TPPについて「国益にかなう最善の道を求める」とした。民主党は、「国益を確保するために、脱退も辞さない厳しい姿勢で臨む」との方針を表明した。

これでは、賛否が不明確ではないか。交渉の妥結が、日本経済にとっていかに必要かを有権者に分かりやすく訴え、交渉に本気で臨む意志を示さねばならない。

産経新聞 2014年12月08日

衆院選と地方政策 「東京集中」こそが論点だ

東京一極集中がもたらす弊害をどう解決するかは、日本の喫緊の課題である。

各党は地方政策を政権公約の主要政策に掲げている。だが、一極集中の解決策は見えてこない。地方政策の大きな論点に、東京への集中を位置付ける必要がある。

地方「消滅」の危機がささやかれていることもあり、各党は地方対策を選挙戦の柱の一つにすえている。実際に論戦が展開されているのは大きな前進だ。

だが決定的に欠けているのが、地方の人口減少と表裏の関係にある東京一極集中の弊害を解決する視点である。

人口減少に歯止めをかけるのも急務だが、すでに東京に住んでいる人を取り巻く課題への対応を急がねばならない。

東京圏では今後、高齢者が激増する。かつて地方から出てきた人が年齢を重ねたことに加え、現在の若い世代が高齢の親を呼び寄せているためだ。

切実なのはビジネス優先、若者中心の街づくりをしてきたため、高齢者向けの医療機関や福祉施設が圧倒的に不足することだ。

独居や高齢者夫婦のみの世帯も増え、住民同士の結びつきが希薄な地域が多い。医療や介護サービスを十分に受けられない人が続出する懸念が大きい。

公共施設などのバリアフリー化も推進しなければならない。対策に追われる自治体の財政悪化も予想されている。

このままでは深刻な社会問題となることが避けられない。対策が後手に回れば、日本経済の牽引(けんいん)役としての「東京」の機能も損なわれかねない。

各党は「国家的な危機」との認識を持つ必要がある。解決策を具体的に論じることを求めたい。

一方、ここまでの論戦では地方経済の活性策が中心であった。自民党は自治体への交付金新設や地域商品券構想を訴える。民主党は一括交付金や地方への権限・財源移譲を、維新の党は道州制への移行を主張している。

地域経済を元気づける当面の対策や地方分権も重要ではあるが、それだけでは地方の人口減少は止まらない。

いま求められているのは、東京圏などからの移住促進やコンパクトな街づくりだ。各党には国家ビジョンともいうべき大胆な構想を競ってもらいたい。

朝日新聞 2014年12月01日

(衆院選)安倍政権の安保政策 「異次元」の転換を問う

安倍首相は、戦後日本の安全保障政策を根っこから覆すような転換を進めてきた。

政権発足から2年。外交・安全保障の司令塔となる国家安全保障会議(日本版NSC)を創設し、今後10年の指針となる国家安全保障戦略(NSS)を初めて策定した。特定秘密保護法を成立させ、戦後の安保政策の柱だった武器輸出三原則の撤廃に踏み切った。

途上国援助(ODA)の大綱や宇宙基本計画も安保重視に衣替えし、年末に決定する運びとなっている。

首相が唱える「積極的平和主義」のもと、国際社会での日本の軍事的な役割を拡大する内容ばかりだ。それらは、海外の紛争から距離を置いてきた日本の平和主義を変質させる。

金融緩和になぞらえれば、「異次元」の転換の連続だったと言っていい。

なにより大きな転換は、憲法9条の解釈を変えた7月の閣議決定である。歴代内閣は一貫して「集団的自衛権の行使は認められない」としてきたが、安倍内閣はその一線を越えた。

重大な政策変更後の衆院選にあたり、首相は集団的自衛権を真正面に据えてはいない。

閣議決定を反映させる日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の再改定も、安全保障法制の国会審議も、来春の統一地方選後に先送りされた。

あれほど急いで閣議決定に踏み切ったのに、その後、政権の動きが鈍いのはなぜか。有権者の賛否が割れる課題を回避しようとしているのではないか。

実際、自公両党の公約に「集団的自衛権」という言葉はない。自民党の公約は「平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備する」と触れているだけだ。

一方、公明党の公約も安全保障法制について「国民の理解が得られるよう丁寧に取り組む」との表現にとどめている。

公明党が歯止め役を果たしたからこそ、全面的な集団的自衛権でなく、自国防衛と重なる範囲内での「限定容認」でとどまった――。そんな見方もあるだろう。

しかし、肝心の歯止めの中身はあいまいである。「国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」という武力行使の新要件について、自公両党の間で見解が分かれたままだ。

公明党は新要件を厳格にとらえ、「事実上、日本周辺の事態にしか対応できない」と説明してきた。ところが安倍首相は国会で、中東ホルムズ海峡の機雷除去も新要件にあてはまる可能性があると答弁した。

この溝を残したまま、自公は選挙戦に入ろうとしている。

公明党の山口代表は昨年の参院選で、集団的自衛権の行使容認に「断固反対」と強調していた。1年もたたないうちに容認に転じたのは、連立維持を優先させたとしか思えない。

統一地方選までは集団的自衛権をはじめとする安全保障論議を封印し、その後は政府主導の解釈で押し切る。このままではそんな流れにもなりかねない。

解釈変更の閣議決定を受けて、自衛隊はどこまで派遣され、何をするのか。与党内ですら見解が分かれるのに、広く理解が進むはずもない。

憲法9条には、先の大戦と植民地支配の反省を込めた国際的な宣言の意味がある。「戦後レジームからの脱却」を唱えてきた安倍首相が解釈変更を推進したことで、歴史認識の問題とあいまって、国内外からの疑念を招いているのが実情だ。

中国の軍拡と海洋進出に対応するため、日米同盟の抑止力を強化する狙いはあるだろう。だが基本的には、領土・領海を守ることは個別的自衛権の問題である。尖閣諸島周辺の緊張は、集団的自衛権の行使と直接は関係していない。

安倍政権が次々と安全保障政策を転換してゆくなか、国会での審議はあまりに乏しく、そのことについて首相が国民の信を問おうとすることもなかった。首相は「アベノミクス解散」と言うが、安保政策についても、ようやく有権者が判断する機会がやってくる。

民主党は、集団的自衛権の閣議決定について「立憲主義に反するため、撤回を求める」と公約した。自公政権との対立軸は鮮明になっている。

安倍首相が強引とも言えるやり方で解釈変更に突き進んだのは、国会での数を頼みに、従来の憲法解釈に穴を一つ開けようという思惑が働いたとみるべきだろう。そして将来的には全面的な行使容認をめざす――。

安倍政権が進めてきた安保政策をこのまま維持するのか、それとも立ち止まって再考するのか。自衛隊は閣議決定だけでは動かない。今後の法制論議を見すえて、どんな国会の姿を描くのかが問われる。

産経新聞 2014年12月04日

衆院選と原発政策 国益考え堂々と論じよ 再稼働なしに成長あり得ない

衆院選では原発政策も重要な争点だ。自民党と公明党が安全性を確認した原発は再稼働を進める姿勢を示したのに対し、民主党など野党の多くは「原発ゼロ」を掲げ、現状のままでは再稼働も認めないという。

東日本大震災による東京電力の福島第1原発事故以来、原発をめぐる世論の反発は強い。原発の再稼働を不安視する声もある。

だが、そうした声に迎合するあまり、低廉で安定した電力を供給するために原発を活用する議論から逃げたままで、日本の経済再生は望めるのか。

原発ゼロや脱原発を訴える政党は、原発に代わる電源をどう確保し、値上がりが続く電気料金をどう抑制するのか。その疑問に正面から答えなくてはならない。

≪値上げ抑制の具体策は≫

1日から、全国で冬の節電が再び始まった。

大震災以降、慢性的な電力不足に陥り、エアコンなどの使用が増える夏と冬に繰り返される。昨年9月から国内で稼働する原発がゼロという状態が続くが、輪番停電や大規模停電といった事態は起きていない。国民の間には「電力は足りている」との思い込みがあるかもしれない。

だが、老朽設備のフル操業が続く火力発電の故障件数は急増しており、安定供給に対する懸念は高まるばかりだ。電気料金の抑制も喫緊の課題だ。各党はこうした厳しい現実を見据え、国を支える基盤となる原発・エネルギー政策を示す必要がある。

自民党は政権公約で、原発について「重要なベースロード電源」と位置付け、原子力規制委員会の審査に合格した原発は再稼働させるとした。安倍晋三首相は「安定的に低廉なエネルギーを供給していく責任がある」と強調した。規制基準をクリアし、地元同意も得た川内原発(鹿児島)の円滑な再稼働についても論じてほしい。

公明党も再稼働は容認したが、公約に「運転開始から40年を経た原発は廃炉」との方針を盛り込んだ。原発の新増設を認めずに廃炉を進めれば原発はなくなるが、その際の代替電源は不透明だ。

野党は次世代の党を除き、再稼働に否定的だ。民主党は「2030年代に原発稼働ゼロ」を掲げ、維新の党も「原発フェードアウト」と訴えて当面の再稼働には厳しい条件を突き付けた。日本共産党や社民党、生活の党などは再稼働を認めていない。

しかし、電源の火力依存に伴うコスト上昇で、電気料金は大きく値上がりしている。震災前に比べて輸入燃料の増加は年3・6兆円に達する。これは、1日あたり100億円の国富が海外に流出している計算になる。

電気料金は3年前より家庭用で2割、産業用では3割も高い。地方の中小企業などは円安による原材料の値上がりもあり、苦しい経営を強いられている。

原発比率が高い北海道電力は11月から追加値上げに踏み切ったが、原発が再稼働すれば値下げすることが条件だ。こうした再値上げの動きは、赤字が続く関西電力などにも広がりそうだ。

このまま原発の再稼働が認められなければ、電気料金は下がらないだろう。再稼働なしに料金の上昇をどう抑制し、企業や家計の負担を軽減できるのか。再稼働に反対する政党は具体的な処方箋を示してほしい。

日本は成長戦略の一環として、海外への原発輸出にも取り組んでいる。福島事故を教訓として安全性を高めた原発を開発し、世界に提供する責務もある。原発の必要性を丁寧に訴えることで再稼働に向けた理解につなげてほしい。

≪再生エネに頼れるのか≫

与野党は太陽光などの再生エネルギーの導入促進では共通している。原発事故を受けて再生エネに対する期待は確実に高まっている。だが、発電コストが割高で、供給安定性にも欠ける再生エネに過剰な期待は禁物だ。

民主党政権が決めた「固定価格買い取り制度」は見直しを急ぐべきだ。高値で買い取られる太陽光に申請が集中して電力会社が買い取りを保留する事態を招いた。送電線網への接続コストを利用者が払う仕組みにも問題がある。

環境負荷が小さい再生エネは、地域に根ざした分散型電源としての役割も担う。将来にわたって育成するため、各党は現実的な議論を尽くすべきだ。

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