◆持続可能な制度へ現実的論議を◆
社会保障制度を将来にわたり維持し、暮らしに安心をもたらす。そのためには、給付の抑制など「痛み」を伴う改革が避けられない。
各党は、現実的な政策論争を展開すべきだ。
日本は、世界一の超高齢社会を迎えている。すでに高齢化率は25%に達し、団塊の世代が75歳以上になる2025年には30%に上昇する見通しだ。医療や介護の費用は急速に膨らんでいる。
◆子育て支援を最優先に
一方で、制度を支える現役世代は減り続けている。少子化に歯止めをかけないと、人口減少に拍車がかかり、制度の維持がより困難になる。
子育て支援などの拡充が急務である。
社会保障制度の重要な財源となるのが、消費税だ。安倍首相は、税率10%への引き上げを17年4月に先送りすることを表明した。
景気回復が足踏みする中、妥当な判断だが、社会保障の財源に穴が開いたのも事実だ。
増税分で予定される社会保障の充実策は、実施時期や内容の見直しを迫られよう。
主要政党は、10%への引き上げ延期では一致する。財源不足のしわ寄せをいかに抑えるか。各党の公約に具体策が見られないのは、疑問である。
安倍首相は、保育所などを拡充する子ども・子育て支援新制度について、「来年4月から予定通り実施する」と明言した。
自民、公明の与党は、新制度の着実な実施による待機児童の解消を公約に掲げる。民主党も「新制度への円滑な移行」を訴える。
最優先で取り組む姿勢に異論はないが、問題は、肝心の財源をきちんと示していないことだ。
新制度には年1兆円超の追加財源が必要とされる。消費増税分から手当てされるのは、税率10%になっても年7000億円にとどまる。不足分をどう捻出するかが、大きな課題である。
自民、公明両党は、増税までの間も、医療・介護を含めた充実策を着実に進めるという。ただ、国の借金を増やして、将来世代に負担をつけ回すことは、避けねばならない。優先順位をつけ、有権者に丁寧に説明すべきだ。
◆医療・介護を効率よく
高齢化で膨張する医療・介護費の抑制も大切である。制度の徹底した効率化が欠かせない。
病院や施設に過度に頼らなくてすむよう、在宅医療・介護サービスを充実させ、切れ目なく提供できる体制を作る。自民、公明、民主、維新などの各党が共通して打ち出す方針だ。
限られた財源で、増大する医療・介護ニーズに対応するには、現実的な考え方だろう。
患者の大病院への集中を是正する工夫も求められる。
介護分野で、政府は来年度から、介護の必要性の低い「要支援者」向けサービスの一部を介護保険サービスから外し、市町村の事業に移す。重度者に給付を重点化する狙いは適切だ。
民主党は「要支援切り」と批判し、見直しを公約しているが、費用の膨張をどう抑えるのか。
高齢者の保険料や自己負担分について、経済力のある人に応分の支払いを求める改革も、さらに進めなければならない。
維新の党は、医療費の自己負担割合に年齢で差をつけず、所得で決める方式を提案する。各党は、こうした具体策を示して、論戦を展開してもらいたい。
◆年金の引き下げが急務
年金制度を巡る各党の主張は物足りない。中でも自民党は「若者も安心できる年金制度」とするだけで、あまりに具体性を欠く。
現行制度では、今の高齢者への給付が多くなるほど、将来世代の給付水準が低下する。早期の給付抑制が必要だ。
少子高齢化の進み具合に応じて給付水準を下げる「マクロ経済スライド」は、デフレ下での実施が制限され、十分に機能していない。将来世代の年金を守るため、見直しが求められる。
公明党や民主党は、非正規労働者の厚生年金への加入拡大を訴える。重要な論点である。
民主党が今回も、公的年金一元化と最低保障年金の創設を掲げたのは理解に苦しむ。政権担当時に大幅な追加増税が必要と判明し、事実上、棚上げされた案だ。
社会保障制度を立て直すには、各世代で痛みを分かち合うことが肝要だ。各党は、現実を直視した政策を示しているか。有権者はしっかりと見極めたい。
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