(衆院選)社会保障 増税先送りの影響防げ

朝日新聞 2014年12月03日

(衆院選)社会保障 増税先送りの影響防げ

衆院選がきのう公示された。第一声で自民、公明の与党は経済再生の実績を訴え、野党は景気回復の恩恵が一部の人に偏っていることを批判した。

経済政策の重要性は言うまでもない。しかし、衆院選に先立って決まった消費税の再増税先送りによって、社会保障の財源に穴があいてしまった。

社会保障は私たちの日々の暮らしを支えている。その社会保障は現在、国債発行という将来世代へのつけ回しでまかなわれている。消費税再増税は▽社会保障の給付を受けている今の世代の負担を増やすことでつけ回しを減らす▽同時に手薄な分野の給付も充実させる。このことを目的にしていた。「社会保障と税の一体改革」である。

再増税を先送りしたからと言って「負担」と「給付」を考えることまで先送りするわけにはいかない。

今回の衆院選は、私たちの暮らしを考える機会でもある。

まず、充実すべき給付に優先順位をつける。財源に穴があいたからとそのまま社会保障を削る発想をやめ、予算全体を見直し、浮かせた分を充てる。社会保障の枠内でのやり繰りではまかなえない以上、そうした取り組みが不可欠である。

一体改革を決めた自民、公明、民主の3党はどう訴えているのか。

自民、公明両党は、消費税率を10%に上げる2017年度までの間も、子育て支援や医療、介護などを充実させることを訴える。再増税先送りの結果、当初、予定していた施策をまかなおうとすると、財源は15年度が4500億円、16年度は1兆3500億円不足する。自民は、低年金者への月額5千円上乗せを先送りすることを表明した。公明は経済成長や歳出削減で対応する、としている。

民主党も、介護労働者の待遇改善や子育て支援を掲げて、財源については行政改革で捻出するとしている。

しかし、負担との見合いで本当に実行できるのか、説明を尽くしているとは言い難い。

給付の充実策で、今から優先的に取り組むべきなのは、次の3点である。①子育て支援②介護分野③低所得者対策。いずれも消費増税先送りで影響が懸念される項目だ。

子育て支援策は、これまで高齢者に偏ってきた社会保障を若い世代にも及ぶように転換していく柱でもある。その理念を具体化させなければならない。また、少子化が進む中で、社会全体で子育てに取り組む態勢を整える必要もある。

介護を担う職員の待遇改善も、喫緊の課題だ。

介護現場は、慢性的に人手不足だ。その主な原因が、賃金の低さだ。厚生労働省の統計によると、現場で働く人の平均賃金は月22万円で、全産業より10万円以上、低い。

団塊世代が75歳以上になる2025年には、介護職員を今より最大100万人増やす必要があると推計されている。それを見すえれば、今から待遇改善を着実に進める必要がある。

それから、低所得者対策である。年収200万円以下の働き手が1100万人を超えて格差が深刻になる中では、対策の充実が欠かせない。

世代間の助け合いを基本としてきた日本の社会保障は、世代に関わりなく誰もが負担する消費税に頼りつつ、所得に応じた給付を強化していく必要がある。所得の少ない人たちの生活を安定させることは、低迷する個人消費を支え、日本経済を押し上げることにもつながる。

株価の上昇や好調な企業業績を背景に税収が見込みを上回りそうだという。政府は、近くまとめる経済対策の財源に充てる予定だが、その一部を回してはどうか。政府は、自治体に交付金を支給し、商品券の配布といった対策を検討中だ。商品券より、低所得者に確実に届く対策を優先すべきだろう。

一体改革は、そもそもが息の長い取り組みである。消費税率を10%にしても将来世代へのつけ回しはなくならず、高齢化に伴って社会保障費は増えていく。低成長が続けば、10%超への増税を覚悟せざるをえない局面も予想される。

再増税の先送りで、その第一歩からつまずいたとはいえ、給付の充実策はできるだけ実行していくべきである。それが、増税に対する国民の納得を得ることにつながるはずだ。

米格付け会社が、日本国債の格付けを1段階、引き下げた。再増税の先送りなどで財政赤字の削減目標の達成に「不確実性が高まった」ためだ。

日本の財政規律に内外の目は厳しい。少子高齢化への対応と財政再建と。長期に及ぶ課題の克服に向けて、各党、特に一体改革を決めた自民、公明、民主の3党に、社会保障の論戦を期待する。

読売新聞 2014年12月04日

[14衆院選]社会保障 「痛み」伴う改革避けられない

◆持続可能な制度へ現実的論議を◆

社会保障制度を将来にわたり維持し、暮らしに安心をもたらす。そのためには、給付の抑制など「痛み」を伴う改革が避けられない。

各党は、現実的な政策論争を展開すべきだ。

日本は、世界一の超高齢社会を迎えている。すでに高齢化率は25%に達し、団塊の世代が75歳以上になる2025年には30%に上昇する見通しだ。医療や介護の費用は急速に膨らんでいる。

◆子育て支援を最優先に

一方で、制度を支える現役世代は減り続けている。少子化に歯止めをかけないと、人口減少に拍車がかかり、制度の維持がより困難になる。

子育て支援などの拡充が急務である。

社会保障制度の重要な財源となるのが、消費税だ。安倍首相は、税率10%への引き上げを17年4月に先送りすることを表明した。

景気回復が足踏みする中、妥当な判断だが、社会保障の財源に穴が開いたのも事実だ。

増税分で予定される社会保障の充実策は、実施時期や内容の見直しを迫られよう。

主要政党は、10%への引き上げ延期では一致する。財源不足のしわ寄せをいかに抑えるか。各党の公約に具体策が見られないのは、疑問である。

安倍首相は、保育所などを拡充する子ども・子育て支援新制度について、「来年4月から予定通り実施する」と明言した。

自民、公明の与党は、新制度の着実な実施による待機児童の解消を公約に掲げる。民主党も「新制度への円滑な移行」を訴える。

最優先で取り組む姿勢に異論はないが、問題は、肝心の財源をきちんと示していないことだ。

新制度には年1兆円超の追加財源が必要とされる。消費増税分から手当てされるのは、税率10%になっても年7000億円にとどまる。不足分をどう捻出するかが、大きな課題である。

自民、公明両党は、増税までの間も、医療・介護を含めた充実策を着実に進めるという。ただ、国の借金を増やして、将来世代に負担をつけ回すことは、避けねばならない。優先順位をつけ、有権者に丁寧に説明すべきだ。

◆医療・介護を効率よく

高齢化で膨張する医療・介護費の抑制も大切である。制度の徹底した効率化が欠かせない。

病院や施設に過度に頼らなくてすむよう、在宅医療・介護サービスを充実させ、切れ目なく提供できる体制を作る。自民、公明、民主、維新などの各党が共通して打ち出す方針だ。

限られた財源で、増大する医療・介護ニーズに対応するには、現実的な考え方だろう。

患者の大病院への集中を是正する工夫も求められる。

介護分野で、政府は来年度から、介護の必要性の低い「要支援者」向けサービスの一部を介護保険サービスから外し、市町村の事業に移す。重度者に給付を重点化する狙いは適切だ。

民主党は「要支援切り」と批判し、見直しを公約しているが、費用の膨張をどう抑えるのか。

高齢者の保険料や自己負担分について、経済力のある人に応分の支払いを求める改革も、さらに進めなければならない。

維新の党は、医療費の自己負担割合に年齢で差をつけず、所得で決める方式を提案する。各党は、こうした具体策を示して、論戦を展開してもらいたい。

◆年金の引き下げが急務

年金制度を巡る各党の主張は物足りない。中でも自民党は「若者も安心できる年金制度」とするだけで、あまりに具体性を欠く。

現行制度では、今の高齢者への給付が多くなるほど、将来世代の給付水準が低下する。早期の給付抑制が必要だ。

少子高齢化の進み具合に応じて給付水準を下げる「マクロ経済スライド」は、デフレ下での実施が制限され、十分に機能していない。将来世代の年金を守るため、見直しが求められる。

公明党や民主党は、非正規労働者の厚生年金への加入拡大を訴える。重要な論点である。

民主党が今回も、公的年金一元化と最低保障年金の創設を掲げたのは理解に苦しむ。政権担当時に大幅な追加増税が必要と判明し、事実上、棚上げされた案だ。

社会保障制度を立て直すには、各世代で痛みを分かち合うことが肝要だ。各党は、現実を直視した政策を示しているか。有権者はしっかりと見極めたい。

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