衆院選きょう公示 国民が主導権を握ろう

朝日新聞 2014年12月02日

(衆院選)きょう公示 白紙委任にしないために

衆院選がきょう公示される。

14日の投開票に向け、12日間の選挙戦が始まる。

「この道しかない」

「今こそ流れを変える時」

きのうの日本記者クラブでの党首討論。安倍首相はアベノミクスの継続を訴え、民主党の海江田代表は政権の強引な政治手法を批判した。

だが、それぞれの公約を掲げた与野党8人の党首がほとんど語らなかったことがある。

急速に進む少子高齢化と、人口減。そのことによって、負担の分配が避けられない日本社会の厳しい現実である。

政治が利益を分配し、有権者はそれを期待しているだけでいい時代は、とうに過ぎた。社会を支えるため、負担をどう分かち合うか。それは、一人ひとりの生活を直撃する。

いずれ有権者の痛みは避けられない。そのことを政治家は直視し、着実な方策を正直に語るべきではないか。

万能の処方箋(しょほうせん)があるかのような甘言はもう通じない。

これから始まる「2014年の選択」は、有権者にとって自らの暮らしと社会の行方を定める重い決断となる。

自民党が圧勝した05年の郵政選挙は、郵政民営化に賛成か反対か。09年の政権選択選挙は、政権交代が是か非か。

政治の側からの二者択一の争点設定があり、熱気とともに政治が大きく動いた。

12年の衆院選では、民主党政権への失望から再び政権交代がおき、自公政権が返り咲いた。

過去3回の選挙に比べると、今回は争点が見えにくい。野党第1党の民主党の候補者は定数の半分に達しない見込みで、高揚感もわきにくい。

いま、なぜ、何を問う選挙なのか。

衆院解散のそもそもの動機が分かりにくかったとしても、選挙に臨む以上、有権者はそれぞれの立場から選ぶことの意味を考えなければならない。

しかも、事は現在にとどまらない。若い世代や子どもらの未来に確実に影響していく。

積み上がった国の借金は1千兆円を超える。次世代へのツケの上に、今の暮らしはある。目先のことだけ考えるわけにはいかない。

市場の視線も厳しい。米格付け会社のムーディーズはきのう、日本国債の格付けを1段階引き下げた。税制や社会保障制度改革の必要性を指摘し、「その達成は容易ではない」との見方を示した。

安倍首相は消費再増税の先送りを表明したが、給付と負担のあり方を描く作業は急務だ。

どんな政治を選ぶのか。その選択は、いのちにも関わる。

安全神話のもとに進められた原発拡大路線。東日本大震災と福島第一原発の事故の教訓から導かれた反省が十分に生かされないうちに、九州電力川内(せんだい)原発の再稼働や、海外への原発輸出が進められている。

集団的自衛権の行使容認など安全保障政策の転換は、平和国家としての「軍事のしばり」を解く方向性を示した。憲法改正の法的手続きも整っている。

中国とどう向き合うかは日本の針路にかかわる。民主党政権時代の尖閣国有化や安倍首相の靖国参拝など、政権トップの判断が外交問題に発展し、いまだに出口が見えない。

やはり視界不良の環太平洋経済連携協定(TPP)について自民党の公約は「国益にかなう最善の道を追求する」としているだけ。交渉の行方も、妥結した場合の影響も見通せない。

候補者が、これまで何を約束していたか。今回は何を語るのか。語らないことがあるなら、有権者から問いかけ、判断材料にしたい。

経済や安全保障での政策転換をどう考えるか。ここで、はっきりした意思を示さなければ、次の政権への「白紙委任」と受けとめられかねない。

そうは言っても、自分の考えを反映できる候補者はどこにいるのか。票の「受け皿」を探しあぐねて途方に暮れる。そんな人も少なくないだろう。

この10年間の衆院選で、民意は揺れてきた。選挙のたびに政治への不満をぶつけ、政治不信に行き着いてしまったのかもしれない。12年の衆院選小選挙区の投票率は59・32%で、戦後最低を記録した。

日本の政治は今、危うい縁(ふち)に立っている。

政治は「悪さ加減の選択」ともいわれてきた。確かに、選びにくい。それでも、選択しなければ声は届かない。票を投じることで政治のありようは変わりうる。

この社会の問題を候補者が正面から見すえ、痛みを語っているか。いままで有権者が見落としがちだったそんな視点も大事だろう。どうせ何も変わらないという冷笑の先に、確かな将来はないのだから。

毎日新聞 2014年12月02日

衆院選きょう公示 国民が主導権を握ろう

衆院選がきょう公示される。発足からおよそ2年を経た第2次安倍内閣へ評価を下す機会だ。

読売新聞 2014年12月03日

衆院選公示 論戦の説得力を吟味したい

第47回衆院選が公示された。どの政党や候補者が説得力を持つ主張を展開しているのか。しっかりと吟味したい。

野党第1党の民主党が政権交代を掲げない異例の選挙である。自民、公明両党が総定数475の過半数を確保し、どこまで議席を伸ばすかが注目される。

安倍首相と民主党の海江田代表は、東日本大震災の被災地である福島県で第一声を上げた。

首相は「強い経済を取り戻し、日本が世界の真ん中で輝く国にしていく」と述べ、経済政策「アベノミクス」の継続を訴えた。海江田氏は、衆院解散の狙いを「アベノミクスの失敗隠し」と断じ、政策転換の必要性を強調した。

維新の党や次世代の党は、アベノミクスの方向性は容認しつつ、成長戦略の強化を主張する。

各党は、デフレ脱却や格差是正の具体策を論じてもらいたい。

主要政党は、消費税率10%への引き上げ延期では一致する。それに伴う社会保障の財源不足をどう補うのか。財政健全化を含め、責任ある論戦を行うべきだ。

集団的自衛権行使を限定容認する新見解の閣議決定も争点だ。

民主、共産両党などは、閣議決定の撤回を求めている。平時から有事まで切れ目のない対応を可能にする法制をどう整備するのか。与党にも具体論が求められる。

選挙戦の構図は、2012年の前回衆院選から様変わりした。

前回は、「第3極」の候補乱立により、「非自民票」が分散し、自民党大勝の要因ともなった。

その反省から、今回は、自民党に対抗するため、民主など5野党が小選挙区の候補者を調整した。非共産の野党の競合選挙区は前回より大幅に減り、全選挙区の2割になった。5野党の候補が1人の選挙区が6割強を占める。

ただ、選挙準備の遅れから、与党と共産党の候補しかいない選挙区が1割に上った。有権者の選択の余地が狭まったと言える。

維新の党は、衆院選後に、民主党の一部を含めた野党再編を目指すと公言している。

民主党は、自党中心の勢力結集を目指す。解党直前のみんなの党や、生活の党などの計7人を公示前に入復党させたが、海江田氏の求心力は回復していない。

渡辺喜美・元みんなの党代表らは、新党結成を模索している。

選挙後の野党再編の行方を見据えることも、有権者にとって一つの投票の判断材料となろう。

産経新聞 2014年12月02日

衆院選きょう公示 危機克服を論じる機会に 成長戦略の確立が不可欠だ

アベノミクス解散に伴う第47回衆院選がきょう公示される。

デフレ脱却など経済政策がすでに論争の中心となっているが、改めて問われるべきことがある。

安倍晋三首相が第2次内閣発足時に掲げた日本の立て直し、国難ともいえる内外の危機の克服をどう図るかである。

立て直しの重要な柱である経済再生に加え、必要な外交・安全保障政策をどうするか。国家戦略を各党が提示し、論じ合うことが重要だ。

もっともふさわしい担い手に一票を投じる。それがこの衆院選の意義といえよう。

 ≪抑止力強化の具体策を≫

日本記者クラブの党首討論会で、安倍首相は「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」に言及した。周辺の2国間関係だけでなく、世界全体を見渡し、自由や民主主義の価値観の共有を重視する考え方だ。

首相は連立を組む公明党の山口那津男代表にも目指す外交を聞いた。山口氏は中国や韓国との関係について「対話を継続し、政府間の安定的な関係を保つべきだ」と主張した。

両者ともさきの日中首脳会談の実現を念頭においている。ただ、力を背景に尖閣諸島の奪取を図る中国の攻勢を、対話のみで阻止することはできない。だからこそ抑止力の強化が求められている。

自民党は前回の衆院選で集団的自衛権の行使容認を公約し、政権復帰後に実現した。討論会では、ペルシャ湾に機雷が撒(ま)かれた際に、集団的自衛権の行使の一環として、海上自衛隊の掃海艇を派遣できるかどうかが論じられた。

山口氏は、戦火がわが国に及ぶ蓋然性、国民が被る犠牲が深刻で重大といった自衛権行使の新3要件に適合するかは「なかなか簡単には言いにくい」と語った。

安倍首相は有事の際、機雷でホルムズ海峡が完全に封鎖されれば油の価格が暴騰し、世界的な経済パニックが起きる危険性があると指摘し、「新3要件にあてはまる可能性はある」と述べた。派遣への余地を残したのは妥当だ。

国民の平和と安全を守り、日本が国際社会でどのような役割を果たすべきか。与野党間でも議論をたたかわせてほしい。

国のありようにかかわる憲法改正について、次世代の平沼赳夫党首が今後の進め方を聞くと、首相は「国民の改正しようという機運は盛り上がっていない」と答えた。自ら優先的に改正すべき内容を提起し、議論を活性化することが必要である。

消費税再増税の延期は、アベノミクスで経済再生と財政再建の両立を果たせるとみていた政権にとっての誤算だろう。

だが、15年に及ぶデフレを脱し、経済を成長軌道に戻す作業は容易ではない。民主党を含む歴代政権も、有効な手立てを示せなかった。政策継続を訴える与党に必要なのは、アベノミクスの変調を懸念する国民の不安を取り除く具体策である。

 ≪規制緩和の工程を示せ≫

成長戦略をいかに肉付けしていくかが問われる中で、維新の党が強く主張する規制緩和をめぐる議論もあった。

安倍首相は「団体とガチンコでやるという、正面から突破して相手を倒すという小泉さん(純一郎元首相)方式」はとらないと語った。関連業界の反発を考慮したのだろうが、農業や雇用など「岩盤規制」と呼ばれる分野での構造改革を断行できるだろうか。

首相がアベノミクスへの国民の信任を問うなら、それをテコに既得権益の抵抗を排すようなしたたかさも求められよう。法案化を含め、規制緩和の具体的な手順も各党で論じ合うべきだ。

野党のアベノミクス批判に具体的な代替案が乏しいことが、論争を抽象的なものにしている。民主党の海江田万里代表は討論で「円安による物価高と格差の拡大」とマイナス面を強調した。

急激な円安を招いた日銀の異次元緩和を「柔軟な金融政策」に改めるという。緩和の縮小を指すのかなど転換の意味は不明確だ。

豊かな中間層を復活させるため、「人への投資」で可処分所得を増やすという。聞こえのいい政策が目立つが、ばらまき政策を頓挫させた政権担当時の失敗の反省が不十分ではないか。

野党であっても、財政状況に目を配り、民間企業が主導する力強い経済再生策を示すべきだ。

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