(衆院選)アベノミクス 抱えたリスクこそ課題

朝日新聞 2014年11月24日

(衆院選)アベノミクス 抱えたリスクこそ課題

来年10月に予定されていた消費再増税の先送りを、安倍晋三首相が表明した。自らの経済政策の成功を確かなものとするためだという。

「消費税を引き上げることで景気が腰折れすれば、国民生活に大きな負担をかける」。7~9月期の経済成長率が予想外のマイナスに沈んだことにも触れながら、首相は説明した。

17年4月には必ず増税し、財政再建の旗は降ろさないという。日本政府の深刻な財政難を考えれば、再度の先送りは許されないだろう。増税先送りで穴があいた社会保障の財源をどうするのかも重要な課題だ。

同時に増税先送りは、安倍政権の経済政策がはらむ「危うさ」への警戒を促している。

いわゆる「アベノミクス」が依存する、「異次元」とも称される大胆な金融緩和と、財政政策。つまり日本銀行と政府を巡る問題である。

日本経済は90年代末から、物価が下がり続けるデフレに苦しんできた。デフレからの脱却と、そのための大胆な金融緩和を掲げて2年前、安倍政権は発足した。その主張を実行したのが、昨年3月に就任した日本銀行の黒田東彦総裁だ。

黒田総裁は目標を「2年間で物価を2%上昇させる」ことに据え、昨年4月から膨大な国債を買い入れることで市場にお金を供給する「異次元緩和」を開始。最近になって物価の上がり方が鈍ったと見るや、10月末に追加緩和も決めた。

物価が将来、どれほど上がると考えるか。消費者や市場関係者らの期待(予想)に働きかけるのが異次元緩和だ。円安や株高を促す効果も期待された。

安倍首相は「経済政策は確実に成果を上げつつある」と強調する。確かに雇用の指標は改善した。一方、1人当たりの賃金上昇は、物価上昇には追いつかず、実質では減少を続けている。そのため消費も伸びない。

金融緩和で円安が大幅に進み、輸出企業の円換算での利益は増えた。しかし、輸出量の伸びは鈍く、国内での生産も増えないため、恩恵は下請け企業などには広がっていない。

この現実をどう見るか。2年間の経済政策を評価する際のポイントの一つではあろう。

しかし、現状を見るだけでは、安倍政権の経済政策の是非は判断できない。政策の主役である異次元緩和がはらむリスクが、今は目に見えないからだ。

追加緩和の結果、日銀が買い入れる国債の量は、政府が新たに発行する国債の9割相当に増えた。日銀が事実上、国の借金を肩代わりしているに等しい。国の財政に対する信認が失われれば、膨大な国債を抱える日銀、そして日銀が発行する通貨への信認も失われかねない。そうなれば、国債売りや円売りを誘発して日本経済の土台を揺るがすことになる。

その危うさを認識しているからだろう。黒田総裁はかねて、消費増税の先送りで財政健全化に対する市場の疑念が膨らめば「日銀として対応のしようがない」と繰り返し訴えていた。10月末の追加緩和も、景気てこ入れで再増税の決断を後押しするため、との見方があった。それでも安倍首相は増税を先送りした。追加緩和が政府の財政規律を緩めたという見方が、市場関係者からは出ている。

記者会見で首相は「私たちが進めている経済政策が間違っているのか、正しいのか。論戦を通じて明らかにしてまいります」と述べた。「アベノミクス」に対する批判はあっても、ほかの選択肢が示されたことはない、とも指摘した。

しかし、異次元緩和にいったん入ったら、政策を転換することは極めて困難である。仮に日銀が国債購入をやめれば、国債売りや円売りのリスクが顕在化しかねない。市場や経済に混乱をもたらすことなく、今の政策をどうやって終えるのか。政策の「出口」に至る道筋が示されなければ、政策の妥当性を判断することは、無理なのだ。

首相自身が異次元緩和以外の選択肢がない状況をつくったと言える。

異次元緩和は当面続けるしかない。「出口」を探れるのは、今回の選挙期間を遠く超えた先のことになるだろう。

それを前提に、経済政策について有権者が問いかけることができるのは、これまで通りにデフレ脱却の道を突き進むのか、異次元緩和のリスクと限界を踏まえて経済運営をより慎重に進めるのかということだろう。

デフレ脱却を優先すれば財政再建の比重は下がるだろうし、リスクを気にすれば財政再建も急がざるをえない。

いずれにしても細く険しい道だ。異次元緩和の目標を何にし、「出口」の条件となる財政再建はどう進めるのか。有権者が選ぶに足る道筋を示すことが、各党には求められる。

読売新聞 2014年11月28日

アベノミクス 持続的成長の処方箋を競え

◆民間活力引き出す視点が要る

日本経済再生を、安倍政権の経済政策「アベノミクス」にこれからも託するか。それとも他に選択肢はあるのか。

これが、衆院選の最大の争点である。

アベノミクスは、大幅な株価上昇など一定の効果を発揮したが、手詰まり感も強まっている。

減速する景気を回復させ、デフレから確実に脱却しなければならない。各党の活発で建設的な議論が求められる。

◆数字の意味が問われる

「就業者100万人増加」「過去15年で最高の賃上げ率」

自民党の政権公約は、雇用などの統計を列挙して、アベノミクスの実績を強調している。

安倍首相は「景気回復には、この道しかない。国民の信頼と協力を得て、成長戦略を前に進めていく」との決意を表明した。

公明党の山口代表も「連立政権は、アベノミクスで経済再生を進めてきた。さらに強化してやり遂げる」と訴えている。

これに対し、民主党は公約の冊子に、「実質賃金が15か月マイナス」「増え続ける非正規雇用」などと別の統計を掲載して、アベノミクスによって国民生活は悪化し、格差の拡大・固定化を招いたと主張する。

取り上げる統計によって、評価が正反対になることに、戸惑う有権者も多いだろう。それぞれの数字が持つ意味は何か、各党は丁寧に説明してもらいたい。

◆顕在化してきた「誤算」

アベノミクスの滑り出しは順調だった。「3本の矢」のうち、1本目の大胆な金融緩和と、2本目の機動的な財政出動が奏功し、円安・株高に加え、経済成長率がプラスへの転換を果たした。

ただ、2年近くを経て、「誤算」も顕在化している。

今年4月に消費税率を5%から8%に引き上げた後、個人消費の低迷が長引き、実質国内総生産(GDP)は2期連続でマイナス成長となった。

首相が景気に配慮し、来年10月に予定していた消費税率10%への引き上げを、1年半先送りしたのは、妥当な判断である。

金融緩和で円安は進んだが、期待ほど輸出が増えず、設備投資や生産の動きは弱い。円安が燃料や食品の輸入価格を押し上げ、家計や中小企業の負担が増すという副作用も目立ってきた。

自公両党は、速やかな経済対策の策定を、民主党も円安対策の実施を打ち出した。

いずれも、円安による燃料高などで苦境に立つ消費者や中小企業、農家などへの支援が中心だ。景気の下支えに一定の効果が期待できるが、財政支出が過度に膨らむのは避けねばならない。

問題なのは、3本目の矢である民間活力を引き出す成長戦略が、目に見える効果を出していないことである。

自民党は、民間企業の収益拡大が雇用・賃金の増加をもたらし、消費の活性化によって企業業績をさらに押し上げる「経済の好循環」を目指すと公約した。

そのため、法人税実効税率の20%台への引き下げや、農業、雇用、医療分野などの岩盤規制の打破を明記したが、内容は従来の政策の範囲内にとどまる。

民主党や維新の党は「成長戦略が手つかずのままだ」などと、厳しく批判する。

ただ、野党側の対案も、精彩を欠いている。

民主党は、若者に対する支援など「人への投資」で可処分所得を増やし、「厚く、豊かな中間層」を復活させると主張する。

だが、個人に対する給付でお金を配る政策では、日本経済に新たな「富」は生まれない。生産性を高め、経済自体のパイを大きくする視点が不可欠だ。

◆恩恵を全国に広げたい

かつて民主党政権は、財源のメドもないまま子ども手当などのばらまきを公約し、主要な政策の実行が行き詰まった。失敗を繰り返してはならない。

民主党は、環境や医療などの分野に政策資源を集中させるとする成長戦略も掲げているが、新味と具体性に乏しい。

上場企業の業績は過去最高の水準に迫る勢いだが、利益は賃金や設備投資へ十分に回っていない。中小企業や地方の回復が遅れているのも事実である。

日本経済の閉塞感を打破し、持続的な安定成長の軌道に乗せるには、何が必要か。各党はより具体的な処方箋を示し、戦略を競い合うべきだ。

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