自民党公約 300項目列挙で何を問う

朝日新聞 2014年11月26日

(衆院選)政権公約・自民 実績ばかり並べても

自民党の政権公約は「景気回復、この道しかない」と掲げ、経済再生と財政再建をともに実現すると宣言している。

消費税率の再引き上げを先送りしても、基礎的財政収支の赤字を目標通り減らし、子ども・子育て新支援制度をはじめとする社会保障政策も進めていくという。本当に実施できるのか、かつての選挙公約のような「あれもこれも」式の空手形にならないのか、安倍首相らは道筋を示さねばなるまい。

首相自ら「アベノミクス解散」とうたう通り、政権公約は経済対策に重点を置いている。強調しているのは、過去2年間の実績だ。

「就業者数は約100万人増加」「賃上げ率は過去15年で最高」。確かにこれらの数字は、第2次政権発足以来の株高ともあいまって安倍氏の経済政策がそれなりの成果を上げてきたことを示している。

ただ、首相自身が認めるように、その果実は中小企業や地方には行き届いていない。問題の本質はそこにある。

本来なら、株高などの恩恵に浴する富裕層から富がしたたり落ちる「トリクルダウン」効果が出て、多くの国民が景気回復を実感できるようになるのかが問われるはずだ。それなのに、そこにいたる道筋は、次のように極めて抽象的だ。

「雇用や賃金の増加を伴う経済の好循環をさらに拡大し、全国各地への波及を図る」「燃油高騰や米価下落などに十分配慮し、力強い景気対策を速やかに実施する」。公約の詳細版である「政策BANK」をめくっても具体策は乏しい。

民主、自民、公明による2年前の「社会保障と税の一体改革」の3党合意には、国民に負担増を強いる苦い決断を与野党で分かち合う意味があった。それをないがしろにする形で踏み切った衆院選だというのに、政権党の公約が抽象的なかけ声にとどまっていては、アベノミクスの将来にも不安が募る。

一方、有権者の賛否が分かれる課題には、簡単に言及しているだけだ。

安全保障では「集団的自衛権」の言葉は使わず、「平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備する」と触れた。原発再稼働では、相変わらず原子力規制委員会任せの書きぶりだ。

首相は「アベノミクスは成功だった。今後も続けるから、将来のことはみな白紙委任しろ」とでもいうのだろうか。

とうてい納得の得られるものではない。

毎日新聞 2014年11月26日

自民党公約 300項目列挙で何を問う

自民党が衆院選の政権公約を発表した。安倍晋三首相が争点と掲げる経済政策の継続にほぼ絞る形で一点張り戦略を鮮明にしたが、ほとんどの具体的な政策は「第2部」とした約300項目の政策集で優先順位もつけずに列挙された。

読売新聞 2014年11月26日

自民党政権公約 「この道」の具体策が問われる

様々な政策課題に、具体的な処方箋を示し、着実に実現するのが政権党の責務である。

自民党が、「景気回復、この道しかない」と題した政権公約を発表した。安倍首相の経済政策「アベノミクス」の推進を前面に掲げた。

成長戦略として、法人税実効税率の20%台への引き下げや、科学技術基盤の強化、再生医療の推進などを挙げた。農業、医療分野などの「あらゆる岩盤規制を打ち抜く」とも強調している。

企業の競争力を強化し、日本の「稼ぐ力」を高める狙いは妥当だが、具体策は新味を欠く印象が拭えない。農協など自民党の支援・友好団体が反対する規制改革をどう実行するかも不透明である。

来年10月の消費税率10%への引き上げは1年半先送りし、引き上げ時の軽減税率導入を目指す方針を明示した。一方で、財政健全化目標は維持し、その具体的な計画を来年夏に策定するという。

目標達成には、景気回復による税収増に加え、給付抑制を含む社会保障制度改革など、歳出構造の大胆な見直しが欠かせない。

疑問なのは、ばらまき政策の復活である。整備新幹線の工期の大幅な短縮や、商店街の「地域商品券」発行を支援する交付金などが盛り込まれた。財政再建とどう両立していくのか。

焦点のエネルギー政策では、安全性が確認された原発の再稼働を進める。政府が前面に立ち、地元自治体の理解と協力を得るよう取り組む。この方針は適切だ。

中長期的には、「原発依存度は、可能な限り低減させる」とした。電力の安定供給には、火力、原子力、再生可能エネルギーなどのバランスが取れた活用が望ましい。自民党は、最適な電源構成に関する議論を主導してもらいたい。

安全保障分野では、集団的自衛権行使を限定容認する政府見解に基づいて「安全保障法制を速やかに整備する」と明記した。昨年の参院選でも掲げた「国家安全保障基本法」の制定は削除した。

重要なのは、平時から有事まで切れ目のない危機対処体制の構築だ。来年の通常国会への関連法案提出に向け、その必要性を国民にきちんと訴える必要がある。

憲法改正については、「国民の理解を得つつ憲法改正原案を国会に提出する」と記述した。具体的な改正点や手順に言及していないのは、物足りない。自民党は積極的に改正論議を深めるべきだ。

産経新聞 2014年11月28日

与党公約 実績よりも「今後」を語れ

与党は衆院選でアベノミクスを続ける意義を問うという。その判断材料となる政権公約(マニフェスト)に有権者は納得できるだろうか。

自民、公明両党の公約が出そろった。いずれも経済政策を前面に掲げ、特に自民党は「景気回復、この道しかない」と題し、雇用・賃金の改善や企業倒産減少など第2次安倍晋三政権の実績をアピールした。

だが、問われているのは4月の消費税増税後の景気低迷が長引き、再増税を延期した現実を見据え、今後いかに適切な経済政策をとるかである。

首相が「アベノミクス解散」と銘打って経済を衆院選最大の争点とするなら、アベノミクスの課題を検証し、成長路線を強化する実効性ある改善策が不可欠だ。選挙戦で丁寧に説明してほしい。

成長戦略となる「第3の矢」では、業界や関係省庁の強い抵抗がある「あらゆる岩盤規制」を打ち抜くという。ただ、反発の強い農協改革ひとつをとっても「議論を深め、着実に推進する」との指摘にとどまっている。選挙を控え、当たり障りのない表現にしたと受け取られよう。

再増税を延期しても、財政再建の手は緩めないとした。だが、個別政策を羅列するばかりではバラマキ傾向が強まる懸念を招く。

一方、公明党は家計の負担増への対応を重視している。平成29年4月の再増税と同時に、食料品など生活必需品への軽減税率導入を打ち出した点は評価できる。

安倍首相が自らの歴史的使命と位置付けてきた憲法改正にとって、衆院選は改正がなぜ必要か、どこから改正すべきかを国民に語りかける重要な機会である。

自民党が公約末尾で「国民の理解を得つつ憲法改正原案を国会に提出」などと、短い言及にとどまったのはどうしたことか。

むしろ、改正には慎重な立場をとる公明党の方が、憲法を当面する重要課題と位置付け、現行憲法の9条に自衛隊の存在を明記する規定を置くといった「加憲」の考え方を具体的に説明している。

すでに憲法改正草案をまとめている自民党は、発議要件を緩和する96条の先行改正など、優先順位をつけて国民に訴えるべきだ。

両党が集団的自衛権の言葉を用いていないのもおかしい。重要な安全保障政策の転換を図った意義を堂々と説いてもらいたい。

朝日新聞 2014年11月26日

(衆院選)政権公約・民主 「対立軸」は見えるが

民主党のマニフェスト(政権公約)は「今こそ、流れを変える時」として「アベノミクスからの転換」「厚く、豊かな中間層の復活」を掲げた。

「この道しかない」と繰り返す安倍首相に対して、「いや、ほかの道もある」と訴える戦略なのだろう。その意味で、かろうじて与野党の「対立軸」は見えてきたと言っていい。

しかし、それが実効性をもつ「対案」と呼べるかと言えば、いささか物足りない。

冒頭の2ページを埋めたのは安倍政権の2年間への批判である。「実質賃金が15か月連続マイナス」「GDPが二期連続マイナスに!」といった見出しが列挙されている。

政権批判の受け皿をめざしたのだろうが、有権者が聞きたいのは現状からどう抜け出すかの道筋だ。そこを示さなければ、政権与党の経験を持つ政党として怠慢のそしりを免れない。

特に消費増税の延期に同調し、一体改革を棚上げしたのは、財政リスクから目を背けていると言わざるをえない。

アベノミクス批判にうなずける点はあるものの、具体的な政策につながっていない。第1の矢の金融緩和については急激な円安に伴う弊害を批判し「柔軟な金融政策」を掲げたが、それだけでは説得力に乏しい。

第2の矢の財政出動に対しては、公共工事中心のあり方に疑問を投げかけ、子育て支援など「人への投資」を訴えた。「コンクリートから人へ」の発想は理解できるが、その理念を生かし切れなかったのが民主党政権ではなかったか。

「一向に進まない」と批判した第3の矢の成長戦略も、「未来につながる成長戦略」を掲げたが、やはり抽象的だ。

バラ色の公約を掲げて失敗した民主党への不信はなお根強い。野党になって2年。議論を重ね、政策を鍛える時間は十分あった。民主党の政権担当能力を示す絶好の機会のはずだ。

集団的自衛権の行使容認の閣議決定については「立憲主義に反するため、撤回を求める」としているが、手続き論にとどまり、集団的自衛権そのものの是非には踏み込まなかった。党内論議をまとめきれなかったとすれば、党としての一体性に疑問符がつく。

一方で、野党間の連携には前進もあった。維新の党との間では、同一労働同一賃金法や領域警備法の制定など5項目の共通政策で合意した。急場しのぎではあっても、今後の論戦を通じて、「次の政治」の選択肢を示し続ける必要がある。

毎日新聞 2014年11月25日

民主党公約 対案の肉付けが乏しい

衆院選に向けて野党第1党の民主党が政権公約(マニフェスト)を発表した。安倍政権の経済政策批判に主眼を置き「厚く豊かな中間層の復活」など格差是正を掲げた。また集団的自衛権行使を容認した閣議決定の撤回も求めている。

読売新聞 2014年11月25日

民主党公約 与党への「対案」として十分か

安倍政権の政策の対案としては、新味や具体性に欠けるのではないか。将来、政権奪還を目指すなら、より徹底した党内論議が求められる。

民主党が衆院選公約を発表した。「今こそ、流れを変える時」として、経済、社会保障など10項目の重点政策を掲げている。

経済政策では、国内総生産(GDP)の2四半期連続のマイナス成長や、実質賃金の15か月連続減を踏まえ、「アベノミクス」を批判した。「厚く、豊かな中間層」の復活の必要性を強調する。

党の経済政策3本柱として「国民生活に十分留意した柔軟な金融政策」「(子育て支援、雇用の安定など)人への投資」「未来につながる成長戦略」を示した。アベノミクスの金融緩和、財政出動、成長戦略の3本の矢に対抗するものだ。

疑問なのは、「人への投資」の財政政策に、2009年衆院選で訴えた「コンクリートから人へ」の発想が残っていることだ。

子育て支援の拡充などは重要だが、公共事業や産業振興を軽視しては、雇用創出や所得向上を実現するのは難しい。「厚く、豊かな中間層」への道筋も見えない。

肝心の成長戦略も、13年参院選公約とほぼ同じ内容にとどまっている。この1年余の党内論議の成果がうかがえない。

社会保障では、最低保障年金制度の創設を今回も掲げた。「非現実的」と批判された09年政権公約の「月7万円」は12年以降、撤回され、金額は示されていない。

最低保障年金には大幅な増税が不可欠だ。党内に見直し論があるのに、財源問題を棚上げしたまま、看板政策に今なお固執しても、国民の幅広い支持は得られまい。

農家に補助金を配る民主党政権の「戸別所得補償制度」を維持したのも同様だ。バラマキとの批判に、どう答えるのだろうか。

原発については「30年代の稼働ゼロ」を踏襲したが、その道筋は依然、明確にはなっていない。

安全保障では、集団的自衛権の行使を限定容認する7月の新たな政府見解について、「立憲主義に反する」と撤回を求めている。

だが、政府の新見解は、従来の見解とも一定の整合性を維持した合理的な範囲内の憲法解釈の変更であり、批判は的外れだろう。

党公約は従来通り、「行使一般を容認する憲法の解釈変更は許さない」としただけで、行使容認の是非の判断は示さなかった。責任ある対応ではない。

産経新聞 2014年11月26日

民主党公約 これでは受け皿になれぬ

与野党が相次いで選挙公約を発表している。

いずれも急ごしらえの印象が否めない中でも、野党第一党である民主党の示した内容は「緊張感と選択肢のある政治」(海江田万里代表)を目指すに値するものと受け止められただろうか。

民主党は政権担当時に内政外交を通じて公約が破綻して失政を重ねた。だが、国益を損ない、国民の信頼を失ったことへの総括はいまなお不十分であり、再建途上にある。

必要な政策転換を決意しなければ政権批判も説得力に欠ける。受け皿になり得ることを示せるような、現実的な政策論争に挑んでもらいたい。

経済政策では「アベノミクスからの転換」を打ち出して真っ向から首相批判を展開している。同時に「厚く、豊かな中間層を復活させる」との立場を強調し、格差是正を訴える。

行き過ぎた円安の是正や人への投資、未来につながる成長戦略を3本柱としているが、成長のエンジンとなる企業の活力を引き出す具体策が示されていない。

法人税減税にも消極的だ。企業が安定的に収益を上げるようにならなければ、継続的な賃上げや雇用拡大にはつながらない。

何よりも日本経済が長年苦しんできたデフレからの脱却にどう取り組むかがみえない。経済再生に向け、対症療法ではなく、全体の青写真を提示する必要がある。

社会保障では、最低保障年金の創設を改めて掲げた。莫大(ばくだい)な財源を要し、社会保障費の無原則な増大につながる実現困難な政策をいまだに取り下げないこと自体、総括ができていない証しである。

集団的自衛権については「行使一般を容認する憲法の解釈変更は許さない」というが、行使そのものの是非は明確にしていない。安全保障政策の核心部分で明確な見解を示せない政党に、国の安全を託せるだろうか。

自民党はアベノミクスのプラス面を強調しており、両党が公約通りに論争すれば議論はかみ合わないだろう。両党ともに、成長戦略をどう強化していくかの具体策を競い合い、再増税延期に伴い、社会保障と税の一体改革の今後の道筋をどう描いていくかを論じる必要がある。

民主党には、3党合意の時のように「決める政治」を進める勢力にとどまるかも問われよう。

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