FRB議長再任 「出口戦略」が2期目の課題だ

毎日新聞 2010年02月01日

FRB議長 不信はね返す実績を

米国の中央銀行総裁である連邦準備制度理事会(FRB)議長の再任は、普通、淡々と決まるものである。大統領が「再任」を表明すれば、あとは連邦議会が承認するだけだ。

それが、バーナンキ議長をめぐっては、上院の3分の1近い30人が反対票を投じた。過去最多だ。採決は議長の任期満了直前までもつれ、一時は再任も危ぶまれた。金融危機が恐慌に発展するのを阻止したとして、昨年は米タイム誌の「今年の人」にも選ばれた議長だが、議会では批判や再任反対論が噴出した。信認に傷を負っての2期目が始まる。

議長に課せられた最大の任務は、金融危機の再発防止と通貨ドルの信用維持だろう。そのためには、資産バブルやインフレをもたらす過剰な金余り状態を作らない金融政策が何より大切だ。ウォール街の報酬や金融規制に議論が集中しがちだが、中央銀行が長期にわたり低すぎる金利を維持したことに、金融危機のそもそもの要因があったことを忘れてはならない。バーナンキ議長にはこれまで低金利支持の傾向があった。危機の教訓を今後のかじ取りに十分いかしてほしい。

FRBがゼロ金利政策に踏み切り、すでに13カ月になる。「今後も長期間、異例の低金利を続ける」との方針を明確に示しているが、利上げのタイミングが遅れれば、新たなバブルを膨らませ、再び金融危機を引き起こす恐れがある。

「利上げは当分ない」と市場が安心しきれば、ドルを借りて金利の高い通貨などに投資する流れが加速し、ドル安が進む可能性もある。危機対応で、証券化商品などなりふり構わず買い取った結果、FRBの資産が急拡大・劣化したことも、ドルの懸念材料だ。一方、大規模な景気対策は国の借金を膨張させた。いつインフレやドルの信用不安に火がつくか予断を許さない。

2009年10~12月期の実質国内総生産(GDP)は速報値で前期比5・7%(年率)の高い伸びだった。在庫の取り崩しが鈍化した影響が大きいが、企業の設備投資も消費も確かに改善している。

だが、雇用の回復は遅れて始まるため、金融政策を危機モードから平時モードに移す「出口戦略」には、止めようとする政治圧力が予想される。今年は中間選挙の年でもある。政治問題化したバーナンキ議長の再任手続きが、FRBの金融政策に影を落とさないことを願う。

バブルも金融危機もない安定した経済を築くには、中央銀行の適切な金融政策が欠かせない。政治の介入は、適切な金融政策を妨げ、結局、国民に犠牲を強いる。米国に限らず、どの国にも言えることだ。

読売新聞 2010年01月30日

FRB議長再任 「出口戦略」が2期目の課題だ

米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長の続投がようやく決まった。多難な2期目のスタートといえよう。

今月末に任期が切れる議長の再任案が28日、上院で採決され、賛成70、反対30の賛成多数で承認された。新たな任期は、2014年1月末までの4年間となる。

オバマ米大統領は昨年8月、金融危機に対応した手腕を評価し、再任方針を発表した。しかし、承認がぎりぎりまで遅れ、反対票も多かったのは、議長に対する議会の不信感の根深さを物語る。

グリーンスパン前議長の後任として06年2月に就任したバーナンキ議長は、08年末からゼロ金利政策を継続している。巨額な資金を市場に供給し、金融安定化を図ってきた。そうした対応について、市場は高く評価している。

ところが、今秋の中間選挙を控えた議会では、政治的思惑もあって、金融危機を防げなかった議長の責任論が再燃した。金融機関の救済問題でも批判がある。

米国経済はマイナス成長からプラス成長に回復したが、雇用悪化は深刻だ。景気のもたつきも、FRBへの逆風になった形だ。

議長の再任が承認されなければ、市場の混乱も予想された。遅ればせながらも続投が決まり、安心感が広がるだろう。

しかし、2期目の議長には、課題が山積している。金融政策の(かじ)取りはますます難しくなる。

まず、雇用問題に取り組まなければならない。不動産市況の低迷など、金融不安への警戒も怠れない。当面は、超金融緩和策を継続する必要があろう。

ただ、ゼロ金利政策の長期化で、ドルを調達して新興国通貨などに投資する「ドルキャリー取引」が活発になるといった副作用もでている。

このため、景気腰折れを招かないようにしながら、金融危機に対応した政策を戻す「出口戦略」も検討しなければなるまい。

FRBは、市場への資金供給を縮小し始めるなど、すでに出口戦略を模索しているようだ。いずれ、ゼロ金利政策の解除など利上げの決断を迫られよう。

金融規制改革を巡っては、金融機関に対するFRBの監督権限を強化するかどうかで、上下両院が対立し、法案成立が遅れている。オバマ大統領が提示した新たな金融規制案の先行きも不透明だ。

金融危機の再発防止に、議長はこれからも、重い責任を担わなければならない。

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