学校の教育内容を定める「学習指導要領」の改訂に、中央教育審議会が取りかかる。下村博文・文部科学相が諮問した。2020年度にも本格実施する。
グローバル化や情報化の進むなか、学校で習った知識が社会で通用し続けるとは限らない。
そこで学校も「何を学ぶか」だけでなく、社会との関係を意識し、知識を使って「何ができるようになるか」を重視する。
「ゆとり」か「脱ゆとり」かといった、教える質と量の議論を超える大転換だ。指導要領の構造ごと改めると文科省は言う。教科書や通知表も変わる。
目指すのは、教わったことを多く覚え、早く答えを出す力ではない。自ら考え、問いを見つけ、対話しながら新しい価値を生み出す「21世紀の学力」だ。
肝心なのは、目の前の子どもの実態を踏まえ、実際の教室の授業をどう改革するかである。
改訂では、黒板とチョークによる一斉授業を変え、子どもが討論や体験を通じて自ら学ぶ「アクティブ・ラーニング」を充実させる。
だが、100万人もの教員が自ら経験したことのない手法で授業をするのは簡単ではない。
国際調査の結果を見ると、道は険しい。日本は、子どもが少人数グループで解決策を考え出す授業をしている割合が最低レベルだ。学習の動機づけや批判的な思考を促すことに自信を持つ割合も、圧倒的に低い。
「総合的な学習の時間」が、不十分な条件整備のもとで始まったときのような混乱を繰り返してはならない。教員が授業研究に取り組む時間を確保し、研修の機会を設けてほしい。
諮問のもう一つの柱は、高校の教科や科目の検討だ。
そこには、安倍政権が打ち出した改革案が盛り込まれた。日本史の必修化を含め、地理歴史科を見直す。国や社会の責任ある一員として自立する力を育てる新科目を設ける。自民党の提案した「公共」を踏まえた。
日本を知ることは重要だ。社会生活を営む力も欠かせない。
だが今の日本史のまま必修にして世界史を外すなら、世界の視点を学ぶ機会が減る。高校教員や大学研究者のアンケートでも、「日本史のみの必修」に7割以上が否定的だった。
新しい科目も規範意識や国家への義務、愛国心を刷り込むだけなら、批判的に考え多様な人々と協働する人間は育つまい。
今回の改訂は、大学入試改革と同時に検討する。幼稚園から大学までの教育が一気に変わる。理念と現実をつなぐ議論が求められる。
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