学習指導要領 21世紀の学力育つか

朝日新聞 2014年11月23日

学習指導要領 21世紀の学力育つか

学校の教育内容を定める「学習指導要領」の改訂に、中央教育審議会が取りかかる。下村博文・文部科学相が諮問した。2020年度にも本格実施する。

グローバル化や情報化の進むなか、学校で習った知識が社会で通用し続けるとは限らない。

そこで学校も「何を学ぶか」だけでなく、社会との関係を意識し、知識を使って「何ができるようになるか」を重視する。

「ゆとり」か「脱ゆとり」かといった、教える質と量の議論を超える大転換だ。指導要領の構造ごと改めると文科省は言う。教科書や通知表も変わる。

目指すのは、教わったことを多く覚え、早く答えを出す力ではない。自ら考え、問いを見つけ、対話しながら新しい価値を生み出す「21世紀の学力」だ。

肝心なのは、目の前の子どもの実態を踏まえ、実際の教室の授業をどう改革するかである。

改訂では、黒板とチョークによる一斉授業を変え、子どもが討論や体験を通じて自ら学ぶ「アクティブ・ラーニング」を充実させる。

だが、100万人もの教員が自ら経験したことのない手法で授業をするのは簡単ではない。

国際調査の結果を見ると、道は険しい。日本は、子どもが少人数グループで解決策を考え出す授業をしている割合が最低レベルだ。学習の動機づけや批判的な思考を促すことに自信を持つ割合も、圧倒的に低い。

「総合的な学習の時間」が、不十分な条件整備のもとで始まったときのような混乱を繰り返してはならない。教員が授業研究に取り組む時間を確保し、研修の機会を設けてほしい。

諮問のもう一つの柱は、高校の教科や科目の検討だ。

そこには、安倍政権が打ち出した改革案が盛り込まれた。日本史の必修化を含め、地理歴史科を見直す。国や社会の責任ある一員として自立する力を育てる新科目を設ける。自民党の提案した「公共」を踏まえた。

日本を知ることは重要だ。社会生活を営む力も欠かせない。

だが今の日本史のまま必修にして世界史を外すなら、世界の視点を学ぶ機会が減る。高校教員や大学研究者のアンケートでも、「日本史のみの必修」に7割以上が否定的だった。

新しい科目も規範意識や国家への義務、愛国心を刷り込むだけなら、批判的に考え多様な人々と協働する人間は育つまい。

今回の改訂は、大学入試改革と同時に検討する。幼稚園から大学までの教育が一気に変わる。理念と現実をつなぐ議論が求められる。

読売新聞 2014年11月25日

学習指導要領 実社会で役立つ力培う教育に

変化の激しい時代に対応し、社会で活躍できる力を子供たちに身に付けさせる。そのために必要な教育の在り方をしっかり議論してほしい。

下村文部科学相が、小中高校の学習内容などを定める学習指導要領の改定を中央教育審議会に諮問した。2016年度に答申を受け、20年度以降の実施を目指す。

08~09年に改定された現行の指導要領は、ゆとり教育からの脱却を図り、学習内容と授業時間を増やした。それが学力水準の底上げにつながったのは確かだろう。

一方、国際学力調査で、日本の子供の学ぶ意欲や関心が低いとの結果が出ている。課題の解決方法を主体的に考えさせる学習が必要だと指摘する専門家は多い。

諮問にあたり、下村文科相が探究心や思考力を育む指導方法の検討を要請したのはうなずける。中教審には、研究発表やグループ討論など、子供の自主性を引き出す具体策を示してもらいたい。

今回の改定で焦点になるのが、英語教育の強化である。

文科省の有識者会議は9月、小学校で英語を教え始める時期を小学5年から3年に早め、5、6年は正式な教科とすべきだとする報告書をまとめた。中学校では英語による授業が基本になる。

国際化が進み、実生活で英語を使う機会は増えつつある。早い時期から英語に親しませ、コミュニケーション能力を伸ばそうという狙いは妥当だろう。

ただ、指導体制の整備や授業時間の確保など、実施には課題も山積している。高い目標を設定しすぎて、子供たちが消化不良を起こしては元も子もない。理解力に応じた、無理のない教育メニューを工夫する必要がある。

現在、高校の地理歴史で選択科目の扱いになっている日本史の必修化もポイントになる。

日本人としてのアイデンティティーを涵養かんようするため、日本史教育の充実は大切だ。同時に、国際情勢が複雑化する中、世界史の知識も、諸外国と日本の関わりを正確に理解する上で欠かせない。

日本学術会議は6月、日本史と世界史を統合し、近現代のアジア太平洋史を重点的に教える必修科目の新設を提言している。検討に値するのではないか。

政治参加や社会規範について、包括的に学ぶ高校の新科目を設けることも課題に挙がっている。選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられる見通しが強まっているためだ。実社会で役立つ判断力を培いたい。

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