GDPマイナス 消費増税延期は避けられまい

朝日新聞 2014年11月18日

マイナス成長 「誤算」と向き合え

今年7~9月期の日本経済は、消費増税の影響に直撃された4~6月期に続き、2四半期続けてマイナス成長だった。

特に国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費が弱い。夏の天候不順の影響もあるだろうが、円安や消費増税に伴う物価の上昇に収入が追い付いていないことが響いている。

サラリーマンの賃金は、上がり始めてはいる。賃金や雇用の増加が消費を促し、それが企業の業績と投資にはね返る好循環を掲げてきた政府は「もう少し時間が必要」と強調する。

しかし、本当に「時差」なのか。好循環が軌道に乗り切れない背景には日本経済の構造変化があり、それが政府の「誤算」を招いてはいないか。

「アベノミクス」で、円安と株高の基調は続いている。

円安によって、日本経済の主力である輸出型製造業をはじめ企業の収益を支える。好業績で外国人投資家の資金を引きつけて株高をもたらし、経済全体の好転につなげていく――。政府の経済運営はそんな内容だ。

確かに企業業績は好調だ。しかし、円安で増えるはずの輸出数量は伸び悩んでいる。海外への生産移転や一部商品で国際競争力を失ったことが指摘され、消費の不振もあって国内の生産や投資が勢いづかない。原材料を輸入に頼る例も多い中小企業からは「円安はマイナス」との悲鳴もあがっている。

家計も同様だ。株価が上がっても、大半のサラリーマンは給料が安定して増えていかないと消費に踏み切れない。円安が一因の食料品や日用品の値上がりで財布のひもはしまりがちだ。

どう所得を増やしていくか。

まずは民間の取り組みがカギになる。多額の現預金をため込んでいる企業が少なくない一方、人手不足から女性や高齢者を雇い、非正社員を正社員に切り替える動きも目立つ。ヒトへの投資にアクセルを踏むことは、自社の発展に向けた合理的な経営判断のはずだ。

そうした企業の動きを政府は再教育支援策などで後押ししてはどうか。経営者が歓迎する雇用分野の規制緩和に力を入れつつ賃金増へ圧力をかける「アメとムチ」には限界がある。

安倍政権が検討する経済対策には、自治体による商品券配布への財政措置や燃料費の補助など、家計や中小企業への支援策が盛り込まれそうだ。

しかし、目先の対策ばかりでは好循環はおぼつかない。社会保障を支えるのに不可欠な消費増税を先送りするなら、増税できる環境を整えねばならない。

毎日新聞 2014年11月18日

景気とアベノミクス 首相戦略の誤算と限界

7~9月期の実質国内総生産(GDP)の速報値は、年率で前期比1.6%減で、2四半期連続の減少だった。個人消費が4月の消費増税の反動減から回復が遅れ、設備投資も低迷している。国内需要の不振が鮮明となっており、景気は失速し、後退局面に入った可能性もある。

読売新聞 2014年11月18日

GDPマイナス 消費増税延期は避けられまい

予想外のマイナス成長である。景気の停滞が一段と鮮明になった。

内閣府が発表した7~9月期の実質国内総生産(GDP)速報は、前期比0・4%減、年率では1・6%減と、2四半期連続のマイナス成長だった。

安倍首相は、来年10月に予定される消費税率10%への引き上げを1年半程度先送りする考えだ。その判断の是非や、安倍政権2年間の実績の評価を問い、衆院解散・総選挙に踏み切る意向である。

厳しい経済情勢が確認された以上、消費増税よりも、それが可能な経済体力の回復を先行させるのは、合理的な判断と言える。

GDPは年率2%程度のプラス成長が見込まれていた。マイナスにとどまった要因の一つは、4月に消費税率を8%に上げた後、急減した民間消費の回復が鈍かったことである。

天候不順で夏物の販売が振るわないなど、増税以外の要因も重なった。円安による輸入価格の上昇で食品などの値上げも相次ぎ、消費者心理が一段と冷え込んだ。

販売不振で積み上がった在庫を減らすため、企業が生産を抑えたことも、成長を押し下げた。

企業の設備投資も2四半期連続でマイナスだった。消費不振が長引いているため、投資をためらっている面もあるのだろう。

民主党の枝野幹事長は、「アベノミクスの限界が証明された」と批判している。

これに対し、甘利経済再生相は「企業業績が賃金に反映され、消費を後押ししていく循環を考えている。それは成功しているが、完成形ではない」とし、景気を下支えするための経済対策が必要だとの考えを示した。

政府は、円安や燃料費高騰など消費低迷の原因に焦点を絞り、有効な施策を講じるべきだ。

一方、上場企業の業績が、円安の追い風もあって、最高益を更新する勢いなのは心強い。

肝心なのは、企業が利益を内部にため込まず、新たな成長に活用することだ。

賃上げを通じて従業員に還元することで、家計の収入増が消費を刺激し、企業の利益を押し上げる好循環の実現に期待したい。

企業が、稼ぐ力を高める設備投資を積極化することも大事だ。

政府は、事業拡大に挑戦する企業を、政策で後押しすべきだ。法人税の実効税率引き下げの着実な実行はもとより、新規事業の展開を阻む規制の撤廃など、成長戦略の一層の充実が急務である。

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