トヨタ車回収 安全への感度が生命線だ

朝日新聞 2010年01月30日

トヨタ車回収 安全への感度が生命線だ

日本のものづくりを象徴するグローバル企業であるトヨタ自動車。その国際競争力の何よりの基盤であるはずの「安全」への信頼が揺らいでいる。

北米や欧州の主力車種でアクセル関係の重要部品に絡む問題が続発し、リコールによる回収・無償修理だけでなく、生産・販売の一時中止という事態にまで発展した。トヨタ車全体の品質や安全に対する顧客の信頼感にも影が差し始めている。

事の発端は、昨年8月に米カリフォルニア州で起きた高級車レクサスの暴走事故だった。運転席のアクセルペダルがフロアマットに引っかかり、足を離してもペダルが戻らなくなったのが原因だったが、トヨタは「車自体に欠陥はない」という立場に固執した。世論の批判に押し切られる形で11月になって426万台をリコールすると決めたが、「安全への感度」が鈍っていると疑わせる対応だった。

今度は、同じアクセルペダルの部品がすり減って戻らなくなる危険性が判明した。米国で230万台のリコールは、共通の部品を使う欧州と中国にも波及。対象車種の北米5工場での生産と販売を中止することにした。

さらに、昨年と同様のトラブルが指摘された109万台の追加リコールを決めた。こうもリコールが続くと長年の努力で培ってきたブランドイメージも痛手をこうむる。

経済危機で利益が吹っ飛び、「成長」に急ブレーキがかかったのは外部要因だが、安全の問題は経営に責任があると考えざるをえない。

ひとつはトヨタ自身の急速なグローバル化のひずみだ。問題の部品は米国メーカーから調達しているが、設計や品質管理の指導が甘かったとみられる。多くの車種で部品を共通化した結果、問題が起きるとリコール対象が爆発的に増えるようになった。

トラブルへの対応ぶりからは、米ゼネラル・モーターズを抜いて世界の頂点に立つ過程で頭をもたげた自信過剰と気のゆるみもうかがえる。問題がグローバル化しているのに、日本などの顧客への実態説明や不安解消の手だても十分とは言えない。

米国での市場調査では、品質面で韓国の現代自動車が日本勢を上回る結果が出始めている。日本勢はハイブリッド車や電気自動車など次世代技術の実用化や開発では優位にあるが、競争は熾烈(しれつ)で安閑としてはいられない。しかも、次世代カーが普及すればするほど、安全や品質による選別と淘汰(とうた)の時代がやってくるに違いない。

21世紀の世界は、市場構造の激変と技術革新が同時進行する波乱の連続だろう。その中で自動車に限らず、日本のすべての産業で安全と品質への感度が競争力の生命線になる。そのことを確かめ直す必要がある。

毎日新聞 2010年01月31日

トヨタ車回収 安全の確保に全力を

世界の自動車産業の中で日本メーカーが現在の地位を築いたのは、燃費効率の良さに加え、高い品質と安全性を維持してきたからだった。その代表格のトヨタ自動車が、北米や欧州で大規模なリコールを発表した。回収して無料修理するだけでなく、生産と販売を一時停止する事態にまで発展している。

アクセルペダルの不具合によるものだが、これとは別にトヨタ車をめぐっては、米国で昨年発生した事故をきっかけにフロアマットにペダルが引っかかって暴走するという問題が指摘され、米国とカナダで自主的な改修や部品交換を実施している。

リコールは、米国、カナダ、欧州、中国などへ広がっている。北米のリコール対象車のうちかなりの部分が、ペダルが引っかかる問題で実施している自主改修と重複するとみられるが、リコールと自主改修を含めた対象車は、トヨタ全体の年間販売台数に匹敵する規模だ。

経済危機によって世界の自動車メーカーは苦境に立たされた。それから回復過程に入ったところで、トヨタは再びつまずいた格好だ。

コストを削減するため自動車メーカーは、異なる車種であっても部品を共通化するようにしている。改修対象が拡大した背景には、そうした事情も働いている。

ペダルの不具合は、根元の部分に問題があり、踏み込んだ際に戻らなくなる危険性があるというもので、米国の部品メーカーが製造した。そのため、国内メーカーの部品を使っている日本国内で生産した分については、心配はないという。

トヨタは海外での生産を拡大してきた。それに伴って現地での部品調達も増えている。海外の部品メーカーとの関係は、国内の部品メーカーとのように緊密にいかない場合もあるだろう。設計や品質管理に甘い部分がなかったか、十分な検証が必要だろう。

世界の自動車市場は、先進国から中国やインドなどの新興国へと軸足を移そうとしている。市場で勝ち残るために、世界の自動車メーカーは低価格車の開発・販売に力を注いでいる。そこではコストの切り詰めがポイントとなるが、品質と安全が第一であることを忘れてはならない。

トヨタをめぐっては、ペダルが引っかかる問題についての対応が不適切で、それが問題を複雑にしたと指摘されている。危機管理の教訓としたい。

日本車メーカーでは、ホンダも北米、欧州などで60万台強のリコールを行うという。リコールへの積極的対応は必要な措置だが、安全と品質の確保に全力を尽くし、日本車への信頼を取り戻してほしい。

産経新聞 2010年02月03日

トヨタ 危機管理強め信頼回復を

トヨタ自動車がこれまで培ってきた「安全と信頼」のブランドが揺らいでいる。

米国の部品メーカーが製造したアクセルペダルの不具合で、北米、欧州、中国など世界中で大規模なリコール(回収・無償修理)を実施することになった。

トヨタは新たに設計した部品でアクセルペダルを補強するなど改善策を発表し、全米の販売店で24時間体制で修理に応じるという。信頼回復に全力で取り組まなければならない。

これとは別にトヨタは、フロアマットにペダルが引っかかって戻らなくなる問題も指摘され、米国とカナダで自主的な改修や部品交換を実施している。リコールと自主回収をあわせると同社の年間販売台数を超える規模だ。

なぜ、これほどまでに問題が広がってしまったのか。危機管理の対応を検証すべきだろう。

まず、設計や品質管理面の総点検を急ぐ必要がある。問題の根っこには部品の現地化があった。米製品を使わなければ「輸入車と変わらない」といった批判を浴びたこともあり、急速に現地化を進めた。同時にコスト削減のため、異なる車種での部品の共通化も進めた。コストを優先しすぎたために「品質と安全」がおろそかになった可能性も考えられる。

また、2007年にアクセルペダルが戻らなくなる不具合が報告されていながら、「問題なし」と判断されていたことが社内調査で明らかになっている。GMなど米メーカーの販売不振を尻目に業績を拡大する中で、「油断と気の緩み」がなかったかどうか。それが経営の“死角”になっていたとすれば重大だ。

今回のリコールは基本的には一自動車メーカーの問題だが、懸念されるのは通商摩擦に発展しかねないことだ。米下院は、今月中にトヨタ幹部に出席を求め公聴会を開くことを決めた。

米国世論が厳しさを増す可能性も否定できない。こうした摩擦の種を冷静に取り除くためには、順調な日米関係が欠かせない。しかし、支持率低下に悩むオバマ政権は内向き志向を強め、自国産業優先など保護主義的な動きを強め始めている。普天間飛行場問題などで日米間がギクシャクしていることも懸念材料だ。

トヨタの問題は他の日系企業にとってもひとごとではない。危機管理の教訓にすべきだ。

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