日中首脳会談 「戦略的互恵」を再確認せよ

朝日新聞 2014年11月14日

米中首脳会談 誰も望まぬ覇権争い

21世紀の世界を占ううえで、米国と中国は決定的な影響力をもつ。だが、その関係はいまも明確な輪郭を描けていない。

友人か、ライバルか、敵か。多面的な関係が続くなかで、今週の北京での首脳会談も、明暗入り交じる結果となった。

歴代皇帝の庭園で、いまは共産党政権の中枢である中南海にオバマ大統領を招き入れた習近平(シーチンピン)国家主席。会談は、2日間で約9時間に及んだ。

破格の国賓待遇をみせた習氏としては、いまや米大統領と肩を並べる特別な地位を誇示する狙いがあったのだろう。

成果として、地球温暖化対策での新たな目標を掲げることができたのは朗報だった。

両国は温室効果ガスの最大排出国ながら、対策に消極的だった。遅ればせながら世界の取り組みに貢献するのは、大国として当然の責務である。

ただ会談全体をみれば、温暖化対策でしか、協調を演出できなかったというほかない。

共同会見は対立が際だった。香港の選挙をめぐる街頭活動についてオバマ氏が「透明な選挙」を促すと、習氏は内政干渉をはねつける姿勢をみせた。

軍事面では、偶発的衝突を避ける連絡の仕組みづくりで合意したが、積年の軍事交流の努力は深まりを見せていない。むしろ西太平洋での軍展開をめぐる緊張感は高まっている。

領土問題が入り組む南シナ海の島々で、中国は支配の強化を進める。米国は周辺国との同盟強化を広めており、オバマ氏は「航行の自由」を強調した。

米中の根本的な問題は、既存の大国と勃興する大国とが衝突を避け、共存共栄できるかだ。覇権争いはしばしば激烈な戦争を生み、世界を混乱させたことを世界史は教えている。

習氏は今回も焦点の発言を繰り返した。「太平洋には米中両大国を受け入れる十分な空間がある」。そう説く「新型の大国関係」である。

その真意が「アジアのことは我々が決める」という意識なら、折り合いはつくまい。

米欧が主導する国際金融体制をめぐっても、中国は対抗するかのようなアジアインフラ投資銀行の設立を決めた。

アジア諸国の側から見れば、望むのは平和的な発展の支援であり、米国か、中国か、の選択はありえないだろう。

国際社会が戦後築いてきた協調秩序の中に、中国をどう穏当に導くか。その知恵が試される最前線には、米国だけでなく、日本もいる。その自覚を忘れてはなるまい。

毎日新聞 2014年11月16日

アジア女性基金 努力と限界の再検証を

アジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて、日中両国が首脳会談にこぎ着ける一方、日韓関係は大きな進展もなく終わった。日韓には、慰安婦問題という長年の懸案が横たわっているからだ。

読売新聞 2014年11月17日

日米豪首脳会談 重層的な安保協力を強めたい

アジア太平洋地域は現在、多くの安全保障上の課題に直面している。これらの解決へ、日米豪3か国が重層的な協力を推進する方針を確認した意義は大きい。

安倍首相は16日、豪ブリスベーンでオバマ米大統領、アボット豪首相と会談した。日米豪首脳会談の開催は7年ぶり2回目だ。

イスラム過激派組織「イスラム国」の脅威除去や、エボラ出血熱対策、北朝鮮の核・ミサイル・拉致問題、海洋安全保障などで協力するとの共同文書を発表した。

オバマ米大統領は15日の外交演説で、残る2年の任期中、アジア重視の「リバランス(再均衡)政策」を堅持し、同盟国との関係を強化する方針を表明している。

日豪両国がこれに呼応し、安保協力を拡充することは、東・南シナ海における中国の独善的な海洋進出や、北朝鮮の軍事的挑発を牽制けんせいするうえで有効だろう。

会談では、アボット首相が潜水艦の共同開発の必要性に言及し、日米豪協力の推進で一致した。

豪軍潜水艦6隻を更新する際、日本が船体技術、米国が武器を提供する方向で検討している。

日本の船体技術は、潜航深度や航続距離で世界最高水準にある。最高機密である潜水艦の装備技術での協力は、日米豪の安保協力が新段階に入ることを意味する。今年4月に決定した防衛装備移転3原則の重要な成果にもなろう。

安倍、アボット両首相は協調関係にある。日豪協力を重層的な日米豪協力に発展させることはアジアの平和と安定に寄与する。

共同文書は、安保協力として、自衛隊と米豪軍の共同訓練や、3か国による途上国軍隊の能力構築支援の強化も明記している。

自衛隊と米豪軍は昨年以降、グアムなどで陸海空3分野の共同訓練を重ねている。今月上旬には東北での自衛隊などの大規模な防災訓練に米豪軍が参加した。

共同訓練を通じて、相手国の部隊運用や戦術を間近に見ることは自国部隊の能力向上につながる。有事や大規模災害時の即応力も高まる。着実に拡大したい。

安倍首相とオバマ大統領は日米首脳会談も行い、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉について、早期妥結に向けて両国が一層の努力をする方針を確認した。

日豪が7月に署名した経済連携協定は、年明け以降に発効する方向だ。米国も、中間選挙の終了を踏まえ、日米の関税協議で一定の柔軟性を示し、TPP交渉の合意へ役割を果たしてもらいたい。

産経新聞 2014年09月27日

TPP足踏み 妥結に米の譲歩欠かせぬ

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉をめぐる日米の閣僚協議が物別れに終わった。

交渉全体を主導すべき両国が歩み寄れず、逆に足を引っ張ったままであるのは極めて残念だ。再協議のメドすら立たず、交渉参加12カ国が目指す年内合意も危ぶまれる。日米に引きずられて各国の交渉機運がしぼみ、妥結への推進力が失われないか心配だ。

問題は、米国がいまだに強硬な交渉態度を崩さないことだ。オバマ大統領が安倍晋三首相との4月の会談でみせた早期妥結への決意はどこへ行ったのか。

いつまでも溝を埋められないようでは、本当に交渉をまとめようとしているのかすら疑わしくなる。双方の国内事情を乗り越えて打開を図れるよう、両首脳には強い指導力を発揮してほしい。

閣僚協議では、日本の重要農産品をめぐり相も変わらぬ対立が続いた。牛・豚肉の関税引き下げ幅や、輸入が急増したときに関税を引き上げる緊急輸入制限(セーフガード)の扱いなどだ。甘利明TPP担当相はフロマン米通商代表部(USTR)代表に「柔軟性のある案」を提示したが、それでも協議は進展しなかった。

国益がぶつかり合う通商交渉では双方向の譲歩が欠かせない。安倍政権には引き続き妥協点を見いだす努力が求められる。同時に米側に対し歩み寄りを強く促さなければならない。日本が一方的に譲歩するようでは禍根を残す。

11月の中間選挙を前に農業団体などからの圧力が増しているオバマ政権が、簡単に妥協できないことは理解できる。だが、日本はもちろん他の参加国も国内事情を抱えている。米国の都合だけを押し通すことは許されない。

もともと閣僚協議の開催は米側が強く求めてきたものだ。日本側はむしろ政治決断による着実な前進が期待できないなら開くべきではないと慎重だった。閣僚協議が米国内向けに対日強硬姿勢を示す場にすぎないなら意味はない。オバマ政権には、国内の反対論を抑えてでも交渉を加速させる覚悟が問われている。

日米主導で貿易・投資ルールをつくるTPPは日本の成長戦略の柱だ。台頭する中国を牽制(けんせい)する狙いもある。年内に交渉全体の大筋合意を果たすには時間的な猶予は少ない。日米ともに交渉を漂流させない責務を負っている。

朝日新聞 2014年11月12日

アジアの交易 TPPを漂流させるな

アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議は、目標に掲げるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の推進を強調した。

APECに参加する21の国と地域は、世界のGDPの6割近くを占め、経済成長を引っ張る。停滞が続く世界貿易機関(WTO)での多角的貿易交渉を支え、後押しする存在でもある。方針を歓迎したい。

そのFTAAPへの道のりは、ゼロから出発するわけではない。東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3(日中韓3カ国)、さらにインド、豪州、ニュージーランドを加えたASEANプラス6、そして環太平洋経済連携協定(TPP)という、既存の取り組みを発展させることを、4年前の横浜でのAPECで打ち出している。

現在、もっとも進んでいるのはTPPだ。TPPの交渉参加12カ国はすべてAPECのメンバーでもあり、TPPの成否がFTAAP実現の時期を左右する。

TPPでも首脳会合が開かれた。年内の大筋合意は断念し、来年も交渉を続けることになった。未決着の課題ごとに交渉の期限を定めたというが、全体の妥結時期は示せなかった。

このままでは、枠組み自体が漂流しかねない。TPPを主導する米国では、来年後半には16年の大統領選挙に向けた動きが活発化し、通商交渉は二の次になるからだ。

残された時間は多くない。各国首脳、とりわけ米国のオバマ大統領と日本の安倍首相の決意と指導力が問われよう。

わが国にとっても、経済連携でアジア太平洋地域の活力を取り込むことが、今後の経済成長に不可欠だ。輸出の8割近く、輸入の6割超、直接投資の相手先の7割がAPEC地域(金額ベース)であり、まずはTPPをまとめねばならない。

中韓両国が自由貿易協定(FTA)で実質的に妥結するなど、動きは急だ。わが国は日中韓のFTAに注力してきたが、戦略の練り直しを迫られる。

引き続き日中韓3カ国の枠組みを大切にするとしても、特に韓国は日本とのFTAに消極的だ。自国の弱点である部品や機械分野で日本からの輸入が増えることを警戒しており、かつて日韓FTA交渉が暗礁に乗り上げた構図は変わっていない。

中韓両国ともTPPへの関心は強い。むしろTPPをまとめることが、中韓を含む経済連携への近道と考えられないか。

さまざまな視点から、TPPの重要性を肝に銘じたい。

毎日新聞 2014年11月16日

TPP交渉停滞 中国の影が迫ってきた

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の行方は、いよいよ見通せなくなった。

読売新聞 2014年11月15日

東アジア会議 対「イスラム国」で結束強めよ

中東のイスラム過激派組織「イスラム国」の脅威に対し、東アジアは結束して対応する、という強い決意が示された。

日米中露や東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国など18か国による東アジア首脳会議(EAS)が、ミャンマーで開かれ、イスラム国を非難する特別声明を採択して閉幕した。

安倍首相、オバマ米大統領など各国首脳が、イスラム国への危機意識を共有し、共同対処する姿勢を打ち出した意義は大きい。

イスラム国の現有兵力は、1万5000人以上と推定される。80以上の国から戦闘員が集まり、インドネシアや豪州などEAS参加国からも多数が渡航したとみられる。警視庁によると、日本の若者も加わろうとしていた。

海外資金も流入している模様だ。逆に、テロが中東以外に拡散する恐れもある。人や資金の流れを遮断するため、各国が協調行動を強化することが急務だ。

現地の戦況は厳しい。イラクやシリアでは、米軍などの空爆で辛くも膠着こうちゃく状態が保たれている。

米国は、最大1500人をイラクに追加派遣し、駐留米軍を2倍程度に増強する。米軍内では地上部隊の派遣も検討され始めた。

今後、「米国は世界の警察官ではない」と宣言したオバマ氏が難しい判断を迫られる局面もあろう。先の中間選挙の惨敗によって、米国内でのオバマ氏の指導力は低下した。米国を支える国際的な連帯を一層強めるべきだ。

日本政府にも、非軍事面での効果的な支援が求められる。

EASでは、焦点の南シナ海問題について、一方的な現状変更に反対し、関係国の行動を法的に縛る「行動規範」の早期策定を求める声が相次いだ。

岩礁埋め立てや石油掘削などで実効支配の強化を図る中国を念頭に置いた発言である。

安倍首相は、海洋における「法の支配」の重要性を強調した。

中国を取り込みつつ、東・南シナ海などでの国際的なルール作りを進めることが肝要だ。

それには、建設的な日中関係の再構築が欠かせない。今週、北京で約3年ぶりに行われた日中首脳会談を足がかりにしたい。

安倍首相との会談を拒み続ける韓国の朴槿恵大統領は、EAS関連の会議で、2012年5月以来開かれていない日中韓首脳会談の開催に意欲を示した。

無論、日中韓の協力の枠組みを立て直すことは大事だが、朴氏の意図がまだ見えない。

朝日新聞 2014年11月11日

日中首脳会談 問われるのはこれから

立冬過ぎの冷え込みと、小春日和の日差しとが入り交じった北京の空気は、いまの日中関係を象徴しているようだ。

両国の首脳会談が2年半ぶりに実現した。互いにこわばった表情ではあったが、報道陣の前で固く握手を交わした。

世界第2と第3の経済大国であり、長く豊かな交流の歴史を培ってきた隣国である。首脳の対話が途絶する異常な期間は、これで終わりにしたい。

会談はわずか25分間だったとはいえ、関係改善の意思を確認し合った意義は大きい。これを出発点に、確かな信頼関係を築けるかが問われている。

両首脳が政権に就いてから約2年間の軌跡は、繰り返してはならない愚策の連鎖だった。

無謀な軍拡を続ける中国は、自衛艦へのレーダー照射や、防空識別圏の一方的な設定など挑発的な行動を続けてきた。安倍首相は、内外の反対を押して靖国神社に参拝したほか、中国を刺激する言動をみせてきた。

尖閣諸島をめぐりアジアの二大国が戦端を開きかねない。100年前の第1次大戦からの連想も手伝い、世界がそう心配しているのは恥ずべき事態だ。

日中関係を穏当な発展の流れに好転させることは、両首脳がそれぞれ語ったように「国際社会の普遍的な期待」である。

その責任の重さをかみしめてもらいたい。遅かったとはいえ、この会談で関係立て直しの入り口には立った。問題は、ここから何をめざすかだ。

実のところ、一党独裁体制を維持したまま国力を高める中国とのあるべき関係は、日本にも米欧にも描ききれていない。どんな問題であれ、価値観の違いによる摩擦は避けられない。

だからこそ、互いに共有点を見いだし、プラスになることを地道に積み上げるしかない。日中の合意文書に盛られた「戦略的互恵関係」は、両国が世界に貢献しつつ共通利益を広げることを指していると考えたい。

安全保障は引き続き優先課題だ。東シナ海域での不測の事態は、何としても防がねばならない。防衛当局間の「海上連絡メカニズム」の運用開始について確認した意味は大きい。

両国とも経済不安を抱えている。日本の対中投資の落ち込みを政府間協力を通じて回復させる余地はあろう。高い付加価値を生む日本企業の投資は、中国経済の構造転換にも資する。

首脳会談に先立つ外相会談では、中断している政府間の様々な対話の再開が議題に上った。そこを手はじめに、両国政府の一層の努力を求めたい。

毎日新聞 2014年11月13日

米中首脳会談 G2では仕切れない

北京で開かれた米中首脳会談は偶発的な軍事衝突を回避するための信頼醸成措置導入や温室効果ガスの排出量削減などで合意した。両大国が協力分野を増やし、摩擦を減らすことはアジア・太平洋地域の安定や繁栄にとって好ましいことだ。

読売新聞 2014年11月13日

北京APEC 中国は「責任大国」になれるか

「アジアの盟主」を目指し、より積極的な外交を展開する中国の姿勢が鮮明になった。だが、まず求められるのは、「責任ある行動」である。

北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の「早期実現」を目指すことなどを盛り込んだ首脳宣言を採択し、閉幕した。

議長の習近平国家主席は、FTAAP工程表の合意について「歴史的な一歩だ」と自賛した。

中国は当初、FTAAPの実現目標として「2025年」を宣言に盛り込むよう主張した。だが、環太平洋経済連携協定(TPP)を重視する日米などが反対すると、あっさりと譲歩した。合意形成を優先したのだろう。

01年上海APECの際、世界6位だった経済規模は今や2位となり、中国は自国主導のアジア秩序構築を戦略目標に据える。今回は日米などとの協調と、近隣国の囲い込みを使い分けたと言える。

後者の代表例が、ミャンマーなどAPEC未加盟のアジア諸国の首脳を招き、自ら提唱する経済圏構想の推進を図る「シルクロード基金」創設を発表したことだ。

習氏はAPEC閉幕後のオバマ米大統領との会談で、テロ対策や北朝鮮、イランの核問題での協力強化で合意した。温室効果ガスの排出削減では、それぞれの新しい数値目標を掲げた。

習氏としては、米中の「蜜月関係」を演出し、中国の「責任ある大国」の姿をアピールしたいのだろう。それなら、国際公約を確実に履行すべきだ。北朝鮮にも核放棄を真剣に迫る必要がある。

オバマ氏は、香港行政長官選挙を巡る学生デモについて、中国に「人々の声を反映した透明で公正な選挙」の実施を呼びかけた。サイバー攻撃自制も求めた。

中国は、こうした国際社会全体の懸念事項についても正面から向き合ってもらいたい。

東・南シナ海などでの「力ずくの外交」は「中国異質論」を広め、日米など関係国の安全保障協力の強化を招いた。中国には孤立感が漂う。海外からの投資も減少し、成長の足かせになっている。

「力」を基調とする習政権の外交姿勢の背景には、共産党内部の権力闘争の火種や、民族主義的な傾向を強める世論がある。

だが、腐敗摘発を通じ、習氏の権力基盤は強まっていよう。強硬一辺倒でなく、協調を重視した外交に軸足を移すことが、中国の国益にもかなうのではないか。

朝日新聞 2014年11月09日

日中合意 首脳会談で再出発を

異例の経過をたどって、日本と中国の首脳が2年半ぶりに会談することになった。

首脳会談を待たずに発表されたのは、日中関係の改善に向けた4項目の合意文書。アジア太平洋経済協力会議(APEC)の機会に、安倍晋三首相と習近平(シーチンピン)国家主席が北京で会うための前さばきとなる。そもそも世界第2位と第3位の経済大国の首脳同士が会えない現状こそ異常であり、ことさら慎重な取り運びになったのだろう。

日中の外交当局が知恵を絞った結果、ようやく関係改善の糸口をつかんだ。大局にたった冷静な判断を歓迎したい。

この合意文書には、玉虫色とも見える微妙な表現がちりばめられている。

最大の懸案である尖閣諸島については「緊張状態が生じていることについて異なる見解を有している」と記した。見解の違いがあることを示したに過ぎず、領有権での譲歩はないと読める書きぶりは、日本にとって許容範囲と言っていい。

中国は、尖閣に領有権問題が存在すると認めた上での「棚上げ」を首脳会談の条件にあげていた。その立場を反映したと主張する可能性はあるものの、隔たりが大きな問題で両国がギリギリの接点を見いだした外交技術と言えるのではないか。

もとより東シナ海の危険な状況は放置できない。中国の公船の領海侵入や戦闘機の異常接近が繰り返され、軍事衝突への発展が懸念されている。合意文書は「危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避する」と明記しており、防衛当局間のホットラインなどの実現に道筋をつけてもらいたい。

中国側は、安倍首相が靖国神社に参拝しない確約も求めていたが、「歴史を直視し、未来に向かうという精神」「両国関係に影響する政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」などの表現になった。

首相らの靖国参拝は、日本の指導者の判断として慎むべきだ。中国も、日本の過去と結びつける形で国際的な宣伝材料に使うべきではない。戦後70年を前に、互いに自制しながら安定的な関係を築く必要がある。

なにより、第1次安倍内閣のときに打ち出された日中の「戦略的互恵関係」が、再び盛り込まれたことが重要だ。

今回の文書や首脳会談で関係が軌道にのると考えるのは早計だろうが、対立を抱えていても共存共栄をはかることは可能だ。双方の慎重な行動によって、この大方針を確かなものにしなければならない。

毎日新聞 2014年11月13日

日露関係 原則崩さず対話継続を

安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が北京で会談した。ウクライナ危機でロシアが欧米と鋭く対立し、中国と接近する国際情勢を背景に、日本外交が難しいかじ取りを迫られる中での会談となった。日本は今後も主要7カ国(G7)の一員として欧米との協調を維持しながら、ロシアとの対話を継続すべきだ。

読売新聞 2014年11月12日

TPP首脳会合 日米主導で交渉の漂流回避を

アジア太平洋地域に高いレベルの自由貿易圏を創出する野心的な構想は成就できるか。まさに正念場である。

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加する日米など12か国は、北京で首脳会合を開き、「交渉を妥結へと導く大きな進展を歓迎する」との声明を採択した。

声明は、交渉について「終局が明確になりつつある」として、早期妥結を図る方針も示した。

交渉の前進ぶりを強調する声明とは裏腹に、目標だった年内の大筋合意は見送られ、新たな期限も明示できなかった。

このままでは、交渉が漂流してしまう恐れがある。来年2月の開催を目指す閣僚会合での決着を期し、参加国は協議を加速させなければならない。

TPP交渉が大詰めで足踏みしているのは、牽引けんいん役となるべき日米が、農産品の関税など重要な分野で対立を続けているためだ。

特に、米国産の牛・豚肉の輸入が急増した場合に関税率を元の高い水準に戻す緊急輸入制限措置(セーフガード)の発動要件などで、協議は難航している。

今月4日の米議会中間選挙をにらみ、オバマ政権が国内世論の反発を警戒し、強硬な交渉姿勢をとった影響が大きかった。

米国は新興国とも、知的財産権の保護や国有企業改革などを巡って鋭く対立している。

米議会は、大統領に通商一括交渉権(TPA)を与える法案の成立を急がねばならない。

中間選挙に勝利し、上下両院とも多数派を占めたのは、自由貿易推進に積極的な共和党だ。オバマ政権は共和党も巻き込み、TPP妥結へ、より前向きな姿勢で取り組んでもらいたい。

気がかりなのは、TPPがもたつく一方で、中国がアジア経済圏の「盟主」の地位を固めようと、動きを強めていることだ。

TPP首脳会合と同じ日に、中韓の自由貿易協定(FTA)を妥結させた。アジア太平洋経済協力会議(APEC)では、中国もメンバーとなるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想の早期実現を、強く訴えた。

中国抜きで進められているTPPを牽制する狙いだろう。

日米の主導するTPPの枠組みは、透明で公正なルールに基づき、アジア経済圏に新たな秩序を形成するために欠かせない。

日米両国が大局的な観点に立ち、TPP交渉を速やかに決着させることが重要である。

毎日新聞 2014年11月11日

日中首脳会談 合意を土台に前へ進め

安倍晋三首相と中国の習近平国家主席が、北京で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に合わせて、初めて会談した。沖縄県・尖閣諸島と歴史認識をめぐり、1972年の日中国交正常化以降、最悪の関係に陥った両国が、現状打開に向けてスタートラインに立ち、一歩を踏み出した。一度の首脳会談だけで解決できるものではないが、今後、互いに挑発的な言動を慎み、対話や協力を重ねてこの流れを軌道に乗せ、加速させてもらいたい。

読売新聞 2014年11月11日

日中首脳会談 対立から協調へ舵を切る時だ

世界の平和と繁栄に重い責任を持つ大国同士として、対立から協調関係へかじを切る時である。

安倍首相と中国の習近平国家主席は北京で会談し、「戦略的互恵関係」の原点に立ち戻り、関係を改善することで一致した。7日に発表した4項目の合意文書に基づき、様々なレベルで協力することも確認した。

首相は「中国の平和的発展は国際社会と日本にとって好機だ」と指摘した。習主席は、首相発言を評価し、「徐々に関係改善の努力をしていきたい」と応じた。

尖閣諸島や歴史認識などを巡る日中の深刻な対立は、政治・経済関係を冷え込ませ、両国の世論にも悪影響を与えている。米国など国際社会も懸念を示す。

約3年ぶりの本格的な首脳会談の実現は、新たな協調関係を築く重要な好機である。

首相と握手した際の習主席の表情は硬いままだったが、今の機運を一過性にしてはなるまい。

中断している経済閣僚による「ハイレベル経済対話」や、外務次官級の戦略対話などを早期に再開し、実務的な協力を着実に拡大することが大切である。

中でも、偶発的な海上衝突事故などを回避するため、海上連絡メカニズムの構築が急務だ。

安倍首相がメカニズムの早期運用の必要性を強調したのに対し、習主席は「既に合意はできている」と語った。その言葉通り、防衛当局間のホットラインを開設し、きちんと機能させねばならない。

中国は、尖閣諸島周辺での公船の領海侵入や戦闘機による軍事的挑発を繰り返している。東・南シナ海で力による現状変更を目指す姿勢は改めさせる必要がある。

政府は、米国などと連携し、国際ルールの順守を中国に引き続き働きかけることが重要だ。

安倍首相は会談で、「歴代内閣の歴史認識を引き継いでいる」と改めて表明した。中国が首相の靖国神社参拝などに反発していることに配慮したのだろう。

習主席は靖国問題に言及せず、「歴史問題は13億人以上の中国国民の感情に関することだ」と述べた。「歴史を直視して未来に向かうことが重要」とも語った。

習主席が未来志向の日中関係の構築を本気で目指すのなら、国内外で続ける中国政府の「反日宣伝」を慎むべきではないか。

来年は戦後70年の節目の年だ。中国では反日感情が高まる恐れがある。両首脳は、歴史認識の問題が日中関係全体を損なうことがないよう努力すべきだ。

読売新聞 2014年11月11日

日露首脳会談 平和条約交渉へ環境整えたい

ウクライナ情勢など、困難な課題があっても、首脳間の対話を重ねることが重要である。

安倍首相が北京でロシアのプーチン大統領と会談した。3月のロシアによるウクライナ・クリミア半島編入後の本格的な会談は初めてだ。

両首脳は、来年の「適切な時期」の大統領来日を実現するため、準備を開始する方針で一致した。

日露両政府は2月、今秋の大統領来日で合意したが、ウクライナ情勢の影響で実現が困難になっていた。情勢が改善されず、米国が日露接近に警戒感を示す中、来年の来日で合意したのは、日本としてぎりぎりの判断と言える。

首相は、北方領土問題の解決に向けた日露平和条約交渉の加速を提案した。「双方が受け入れ可能な解決策を作成する」とした昨年4月の日露共同声明を踏まえたもので、大統領は同意した。

平和条約交渉は今春以降、中断されている。両首脳が交渉の加速を確認したことは意味がある。

2人の会談は第2次安倍内閣では7回目で、今回は1時間半に及んだ。首相と大統領の信頼関係をテコに、領土問題の進展を目指す日本の基本戦略は変わらない。

停滞する領土問題の打開には、大統領の政治決断が欠かせない。平和条約を締結し、日露関係を抜本的に改善する意義について、両首脳が議論を深めるべきだ。

交渉の進展には、政治、経済、文化など、多面的な協力関係を構築する必要がある。

安全保障分野では、先月、海上自衛隊とロシア海軍がロシア極東のウラジオストク周辺で捜索救難の共同訓練を行った。こうした取り組みを着実に進めたい。

ウクライナ情勢に関し、首相は会談で、同国東部での停戦合意の完全履行に向けて、ロシアが建設的役割を果たすよう大統領に強く求めた。当然の主張である。

日本は、領土の「力による現状変更」を許さない立場で、米欧とともに対露制裁を実施している。他の先進7か国(G7)との協調関係を維持することが大切だ。

日本はロシアとの対話の中で、注文すべき点はきちんと注文する姿勢を堅持せねばならない。

プーチン大統領は今回、中国の習近平国家主席とも会談し、経済・エネルギー協力などの強化で合意した。「第2次世界大戦勝利70年」の来年、様々な記念行事を行うことも確認している。

日本は、こうした動向にも注意を払い、戦略的な対露外交を進めることが求められる。

読売新聞 2014年11月08日

日中首脳会談 「戦略的互恵」を再確認せよ

対立が長期化していた日中関係の重大な転機である。実質的な関係改善につなげるべきだ。

安倍首相と中国の習近平国家主席が、北京で10、11両日に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に会談する見通しとなった。約3年ぶりの本格的な日中首脳会談を、まずは歓迎したい。

日中両政府は、日中関係の改善に関する4項目の合意文書を発表した。「戦略的互恵関係を引き続き発展させていく」と確認し、「政治・外交・安保対話を徐々に再開し、政治的相互信頼関係の構築に努める」ことで一致した。

日本は従来、「前提条件なしの首脳会談」の開催を求めていたが、中国は、尖閣諸島について領土問題の存在を認めることなどを会談の条件に掲げ、対立していた。

だが、中国も、APEC議長国として、日中の政治対話が途絶したままでは首脳会議の成功は難しいと判断したのだろう。

両首脳は会談で、大局的見地に立ち、日中双方の利益となる方向で議論を深めてもらいたい。無論、1回の会談で日中関係が劇的に好転するわけではない。様々なレベルで対話を重ね、双方が歩み寄る努力を続けねばなるまい。

合意文書は、焦点の尖閣諸島に関して、東シナ海で「緊張状態が生じていることについて異なる見解を有している」と明記した。

東シナ海の緊張関係について「異なる見解」があるとしたことは、「領土問題は存在しない」とする日本の従来の立場を損ねるものではない。日本の主張を堅持しつつ、中国との妥協点を見いだしたことは前向きに評価できる。

文書は「危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避する」ことも確認している。

東シナ海は、中国軍戦闘機による自衛隊機への異常接近が繰り返されるなど、危険な状況にある。日中両政府は、防衛当局間の海上連絡メカニズム構築の協議を再開し、ホットラインなどを設置することが急務である。

中国は、首相が靖国神社に参拝しない確約を求めていたが、日本は拒否していた。合意文書は「歴史を直視し、未来に向かう」精神に従い、「政治的困難を克服することで若干の認識の一致をみた」と言及するにとどめた。

首相の靖国参拝は避けるべきだが、他国の圧力を受けて、参拝しない約束をする筋合いのものではない。この問題を日中関係全体に影響させない形で処理する方向となったことは適切である。

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