年金制度を維持するため、運用の収益性を高める工夫は必要だが、やはり安全性の確保を優先すべきである。
公的年金の積立金を管理する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、新たな資金運用の目安を決定した。
国内株と外国株による運用比率をそれぞれ、12%から25%へほぼ倍増させた。
その一方、国債など国内債券は60%を35%に大きく下げた。
超低金利の現状を踏まえ、国債中心の運用を修正し、投資先を分散する狙いはわかる。
株式市場では、残高130兆円の公的年金から巨額の資金が流入するとの期待が高まっている。日銀の金融緩和効果も重なり、株価を押し上げた。市場活性化に追い風となったのは確かだろう。
ただし、長期にわたる年金資金の運用には、いずれ株価暴落などの危機に直面するリスクがあることも忘れてはならない。
公的年金の積立金は、年金保険料収入のうち給付に充てなかった分を運用し、将来の給付に備える大切な資金である。
運用失敗で巨額の損失を出さないか、不安を覚える人も少なくないはずだ。将来世代の年金給付が大きく減るような事態は、何としても避けねばならない。
株式運用額を、性急に新たな目安まで引き上げるのではなく、慎重かつ段階的に進めるべきだ。
安倍首相が運用改革の前倒しを指示するなど、実施を急いだことから、市場などで「株価浮揚策」と受け取られている面もある。
長期運用すべき資金を、短期の株価対策に使うのは本末転倒だ。株価形成をゆがめかねない。
年金の運用比率は、経済情勢などに合わせて、今後も不断に見直す必要がある。検討過程と結果を公表し、意義や新たなリスクを丁寧に説明することが大事だ。
そのために、GPIFが高い独立性を確保し、中立、公正に投資判断できるガバナンス(統治)を確立することが重要である。
厚生労働省は、GPIFの組織改革について、有識者の作業班で検討を始めた。実効性のある改革が求められる。
現在は、外部の専門家による運用委員会のチェックを受けているが、決定権は理事長1人に集中している。日銀の金融政策決定会合のような、複数メンバーによる合議制に移行してはどうか。
資産運用のプロを採用し、専門性の高いリスク管理手法を導入することも、大事な課題である。
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