宝石サンゴ密漁 看過できない中国船の「無法」

朝日新聞 2014年11月06日

サンゴ密漁 中国の対処を求める

宝石サンゴと呼ばれる赤や桃色のサンゴは、昔から世界中で愛好されてきた。奈良・正倉院には、聖武天皇の冠を飾っていた地中海産サンゴがいまに伝えられている。

この珍宝を狙って小笠原諸島や伊豆諸島周辺に中国漁船が続々とやって来ている。海上保安庁によれば日本の領海、排他的経済水域内に200隻余り。明白な違法行為であり、許されない。何よりもまず、中国側が早急に対応するべきだ。

宝石サンゴは成長に長い年月がかかるため、乱獲は禁物だ。高知など日本近海の産地では、網の数量制限や禁漁期間の設定など厳しい管理をしている。中国の沿岸でも、捕獲は禁じられている。

だが一方で、その美しさを求めてやまない市場がある。上海の店頭では1グラム当たり15万円以上するものが売られている。中国の漁民からみれば、海底に大金が眠っているようなものだ。出港地とされる中国南部から小笠原諸島まで2千キロ以上離れており、燃料費も相当かかる。それだけの価値があると判断しているのかもしれない。

日本政府は厳重に対処しなければならないが、広い洋上に散らばる船を捕らえるのは限界がある。尖閣諸島警備に力を割いている現在、派遣できる巡視船に限りがある。菅官房長官が「非常に無理があるのは事実」と述べている通りだ。摘発したところで罰金が軽い点も漁民らに見透かされているだろう。

違法行為をさせない責任はまず中国側にある。中国外務省の報道官は、取り締まりの強化を表明している。その通りの実行を求める。出港時、帰港時、取引段階、あるいは普段の指導まで、当局が関与する余地は大いにあるはずだ。

それにしても、なぜこれほど多くの中国漁船が集中的に現れたのだろうか。長崎や宮古島の沖に時折出没していたのとは規模がまるで違う。しかも台風が近づくいまの時期だ。どんな背景事情があったのか、中国政府には併せて説明を求めたい。

過去に中国漁船が引き起こしてきた事件は、これにとどまらない。南シナ海ではサンゴやウミガメの密漁がフィリピン政府を悩ませてきた。台湾が実効支配する金門島には中国の漁船団が侵入している。尖閣諸島沖に中国漁船が増えているのも気になるところだ。

漁船は自在に境界を越え、ときに外交問題化してしまう。トラブルが拡大したり繰り返されたりせぬよう、中国側は考えなくてはならない。

毎日新聞 2014年11月05日

宝石サンゴ密漁 中国の法治は口だけか

宝飾品となる宝石サンゴの密漁が目的とみられる中国漁船200隻以上が小笠原諸島や伊豆諸島周辺に集まっている。資源の枯渇が懸念される希少なサンゴだ。世界遺産に指定されている小笠原の貴重な資源の一部でもある。一刻も早く違法な操業を食い止めるべきだ。

読売新聞 2014年11月02日

宝石サンゴ密漁 看過できない中国船の「無法」

世界自然遺産に登録された小笠原諸島の周辺で中国漁船によるサンゴの密漁が急増している。目に余る無法行為だ。

海上保安庁は、複数の大型巡視船を投入し、取り締まりを強化している。日本の領海や排他的経済水域(EEZ)内で違法操業していた中国人船長らを相次いで逮捕した。

だが、多くの船は、小笠原諸島や伊豆諸島の周辺海域に居座っている。10月末には、中国漁船とみられる船が200隻以上も確認された。前例のない数だ。

この海域では、水深100メートル以上の海底に、宝飾品となる希少な「宝石サンゴ」が生息している。福建省などから出港してきた密漁船の目当ては、中国の富裕層に人気が高い赤サンゴだ。

宝石サンゴの採取には、日本漁船でも許可が要る。資源管理や生態系保護を無視した中国密漁船の乱獲が続けば、日本の貴重な生物資源は危機にひんしよう。

中国は、国内法でサンゴの採取を厳しく禁じている。赤サンゴはパンダやトキと同様、国が重点的に保護する対象の野生生物だ。

母国での厳罰を避けるように、中国漁民が日本の海を荒らし回る現状は看過できない。

密漁横行の背景には、中国での赤サンゴの高騰がある。上海では、5年前の4倍以上の1グラム約15万円で販売されているという。

中国の不動産市況が悪化し、経済成長が減速する中、投機マネーが流入しているのではないか。目立たず、高値で換金できるため、賄賂や隠し資産にも使える。

海保は、警察や水産庁とも連携し、密漁船摘発の態勢を強化すべきだ。経済権益や資源を守るばかりではない。小笠原諸島周辺の漁民や住民、海保要員などの安全確保も急務になっている。

密漁船の夜間の無灯火航行は、危険極まりない。尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件や、韓国近海で相次ぐ海洋警察と中国漁民の衝突は、「一獲千金」を夢見る密漁者の凶暴性を示している。

海保は、尖閣諸島周辺の警戒など、他の重要任務も抱える。巡視船の増強には限界がある。

根本的な密漁対策には、中国での出港時の監視強化のほか、違法な流通ルートの摘発など、日中両政府の協調行動が欠かせない。

日本は、密漁の再発防止を中国に申し入れている。違法に採取されたサンゴが市場に出回らないようにすることは、中国の利益ともなるはずだ。国境を超えた犯罪への共同対処を急ぐ必要がある。

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