日銀の追加緩和 泥沼化のリスク高まる

朝日新聞 2014年11月01日

日銀追加緩和 目標に無理はないか

日本銀行が追加の金融緩和に踏み切った。

市中に出回る現金と銀行の日銀への預金を合わせた金額(マネタリーベース)を、これまで年間60兆~70兆円増やすことを政策の目標にしてきたが、目標を80兆円に拡大する。そのために長期国債や、株価指数に連動する投資信託(ETF)などの買い入れ額を増やす。

日銀は昨年4月、デフレ脱却を目指して「異次元緩和」を導入した際に「2年程度で、前年比2%の物価上昇を実現」という目標を掲げた。

今年9月の物価上昇率は消費増税の影響を除くと1・0%。多くの民間エコノミストは15年度も1%強にとどまるとし、日銀の目標達成はほぼ不可能と見られていた。「2年で2%」の目標を掲げ続けるうえで、追加緩和が必要だったのだろう。

追加緩和をしても、実体経済に与える影響がそれほど大きいとは考えにくい。これまで日銀は前年比数十%増のペースでマネタリーベースを増やしてきたが、銀行の日銀への預金が増えるばかりで、実際に世の中に出回るお金は数%増にとどまっているからだ。

むしろ狙いは、物価が将来、どれほど上がると考えるのかという、消費者や企業、市場関係者らの期待(予想)に働きかけることにある。

異次元緩和を導入した際には「市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる」としていたし、今回は「好転している期待形成のモメンタムを維持する」「今まさに正念場。揺るぎない決意を表明する」とした。とらえどころのない「期待」を変えようというだけに「不確実性が大きい」ことは日銀の岩田規久男副総裁も認めている。

一方で、異次元緩和策は大きな危うさをはらんでいる。すでに日銀の大量購入で短期国債が足りなくなり、短期金融市場ではお金の出し手が損をする「マイナス金利」が広がっている。

追加緩和で、買い入れる国債の償還日までの平均期間を、現在の7年程度から10年程度に延長する。国債を持ち続ければ、日銀はその分、膨らむ資産とともに大きなリスクを抱える。緩和策からの「出口」を探ることもより難しくなる。

今回の政策決定に賛成したのは9人の委員のうち5人で、4人は反対した。それだけ効果とリスクのバランスの見極めが難しい賭けだと言える。

「2年で2%」の目標を見直すべきではなかったのか。出口が遠くなったことだけは確かなようである。

毎日新聞 2014年11月01日

日銀の追加緩和 泥沼化のリスク高まる

日銀が量的緩和を一段と強化した。アベノミクスの「第一の矢」として異例の大規模緩和が登場し1年半。米国が量的緩和を終了したタイミングでの日本の追加緩和だ。

読売新聞 2014年11月01日

日銀追加緩和 脱デフレへ強い決意を示した

何としてもデフレ脱却を実現する。その強い決意を、日銀が思い切った政策で示した。

日銀が金融政策決定会合で、2013年4月に打ち出した「異次元」の量的・質的金融緩和策の拡充を決めた。

国債買い入れなどによる資金供給量の拡大ペースを、年60兆~70兆円から80兆円に引き上げることが柱である。より多くの資金を市中に流通させることで、消費者物価上昇率を2%とする脱デフレ目標の早期達成を目指す。

黒田東彦日銀総裁は記者会見で、「着実に進んできたデフレ心理の転換が遅れるリスクがある。デフレ脱却に向けて、今はまさに正念場だ」と強調した。

経済情勢の変化に迅速に反応したのは、妥当な判断だろう。

ただ、決定会合メンバー9人のうち、4人が反対に回るという僅差の決定だった。

日銀の国債保有残高を年80兆円ずつ増やす異例の政策が長期化すれば、「財政赤字の穴埋め」と受け取られかねない。財政規律と日銀の信認が揺らがないよう、金融緩和の副作用に注意が必要だ。

安倍政権の経済政策「アベノミクス」で回復していた景気は、今年4月の消費税率引き上げ後、足踏み状態になっている。

家計の消費支出が6か月連続で減少するなど、内需低迷は深刻だ。物価上昇率は、消費増税分を除いて一時、1%台半ばに回復したが、原油価格下落の影響もあり、9月は1・0%にとどまった。

デフレ脱却の期待をしぼませてはならないとの危機感が、日銀の決断を後押ししたのだろう。

追加緩和を受け、東京市場の平均株価は約7年ぶりの高値に急騰した。追加策が見送られるとの見方が大勢だっただけに、市場も前向きに評価したようだ。

だが、先行きは楽観できない。これまでの緩和策で、資金供給量は約2倍に増えたが、金融機関の貸出残高は前年比2%程度の低い伸びにとどまっている。

資金供給のペースを上げることで、設備投資の活性化など、景気の押し上げ効果がどこまで出るのか疑問視する声もある。

民需が回復しないと、資金需要は高まらず、金融緩和の効果も限られる。政府は、規制緩和や法人税実効税率の引き下げなど、成長戦略を着実に推進すべきだ。

追加緩和で円安に拍車がかかっているのも気がかりだ。食品や原材料の輸入価格上昇による家計や企業の負担増に、十分な目配りが求められる。

読売新聞 2014年10月31日

米量的緩和終了 未知の局面に踏み出すFRB

米国による未曽有の金融緩和策が、大きな節目を迎えた。

米連邦準備制度理事会(FRB)が、国債購入などで大量の資金を世の中に供給する量的緩和策を、10月末で終了する。

2008年秋のリーマン・ショック以降、3段階にわたる異例の量的緩和策を打ち出し、「100年に1度」と言われた世界的な経済危機を、ひとまず収束させたことは評価されよう。

米国債などを買い続けた結果、FRBの資産は米国の経済規模の4分の1に相当する4・5兆ドル(約490兆円)に膨らんだ。

景気が回復した一方で、巨額の資金が市中に出回る「カネ余り」が常態化している。放置すれば、投機によるバブルや、インフレの引き金ともなりかねない。

ただ、これほど大量の資金を回収していく経験は、どの中央銀行にもない。FRBは今後、金融政策にとって「未知の領域」に踏み出すことになる。

当面の焦点は、政策金利の誘導目標を「0~0・25%」としている事実上のゼロ金利政策を、いつ解除するかである。

FRBは声明で、ゼロ金利政策を「相当の期間」維持するとし、これまでの表現を踏襲した。「早期利上げ」の観測を打ち消し、市場の動揺を避ける狙いだろう。

昨年5月には、当時のバーナンキFRB議長が量的緩和の縮小を示唆したことをきっかけに、世界的な株安を招いた。

ショックを与えぬよう、FRBの意図を少しずつ市場に浸透させることが大切だ。丁寧な「市場との対話」が求められる。

気がかりなのは、新興国に大量の「緩和マネー」が流入していることだ。米国の利上げ観測が一気に高まれば、米国への急激な資金還流を起こす恐れがあろう。

新興国の通貨や株価の急落などで、世界経済を揺るがす事態は避けねばならない。

FRBは、超金融緩和を脱却する「出口戦略」を、慎重に進めてもらいたい。

米国以外に世界経済の牽引けんいん役が見当たらないことも、市場を不安定にしている要因だ。

特に欧州は、経済政策で各国の足並みがそろわず、低成長とデフレ化の危機が拡大している。財政出動や一層の金融緩和など、機動的な対応が急がれる。

日本も消費を中心に内需が冷え込んでいる。民間企業を活気づける成長戦略を、さらに加速させることが何より重要である。

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