自民党政治に対する不満と、民主党政権誕生による「変化」への期待が歴史的な政権交代をもたらした。
30日投開票の衆院選で民主党が大勝し、自民党は結党以来の惨敗を喫した。
野党が衆院選で単独過半数を獲得し、政権交代を果たしたのは戦後初めてのことである。
近く召集される予定の特別国会で、首相に指名される民主党の鳩山代表が、国家経営の重責を担うことになる。
◆自民党への失望と飽き◆
このような民意の大変動の要因は、自民党にある。
小泉内閣の市場原理主義的な政策は、「格差社会」を助長し、医療・介護現場の荒廃や地方の疲弊を招いた。
小泉後継の安倍、福田両首相は相次いで政権を投げ出した。
麻生首相は、小泉路線の修正も中途半端なまま、首相としての資質を問われる言動を続けて、失点を重ねた。
この間、自民党は、参院選敗北によって参院第1党の座を失い、従来の支持・業界団体も、自民離れを加速させた。
構造改革路線の行き過ぎ、指導者の責任放棄と力量不足、支持団体の離反、長期政権への失望と飽きが、自民党の歴史的敗北につながったと言えよう。
民主党は、こうした自民党の行き詰まりを批判し、子ども手当や高速道路無料化など家計支援策、多様な候補者を立てる選挙戦術で有権者の不満を吸い上げた。
小泉政権下の前回衆院選では、「郵政民営化」と刺客騒動で、自民党に強い追い風が吹いた。
今回、風向きは一転、「政権交代」を唱えた民主党側に変わり、圧勝への勢いを与えた。この結果、自民党だけでなく、連立与党の公明党も大きな打撃を受けた。
民主党政権に「不安」は感じつつも、一度は政権交代を、との有権者の意識が、それだけ根強かったと見るべきだろう。
しかし、300議席を超す勝利は、必ずしも、民主党への白紙委任を意味するものではない。
◆政権公約の見直しを◆
鳩山新内閣は、政権公約(マニフェスト)で示した工程表に従って、政策を進めることになる。だが、“選挙用”政権公約にこだわるあまり、国民生活を不安定にさせてはならない。
最大の課題は、大不況から立ち直りかけている日本経済を着実な回復軌道に乗せることだ。雇用情勢の悪化を考えれば、切れ目のない景気対策が欠かせない。
来年度予算編成でも、景気浮揚に最大限の配慮が必要だ。
外交・安全保障では、政権交代によって、国際公約を反故にすることは許されない。外交の継続性に留意し、日米同盟を堅持しなければならない。
民主党は、参院では単独過半数を持たないことから、社民、国民新両党と連立政権協議に入る。
懸念されるのは、自衛隊の国際平和協力活動など、外交・安保の基本にかかわる政策をめぐって、民主、社民両党間に大きな隔たりがあることだ。
少数党が多数党を振り回すキャスチングボート政治は、弊害が大きい。民主党は、基本政策で合意できなければ、連立を白紙に戻すこともあり得るとの強い決意で、協議に臨むべきだろう。
民主党は、「官僚政治からの脱却」も目標に掲げている。だが、首相直属の「国家戦略局」を設けたり、多数の国会議員を各府省に配置しさえすれば、官僚を動かせるというものではない。
官僚と敵対するのではなく、使いこなす力量が問われる。官僚の信頼を得て初めて、政策の遂行が可能になることを知るべきだ。
自民党は1955年、左右の社会党の統一に対抗する保守合同によって誕生した。
当時のイデオロギー対決はすでになく、かつての社会党も存在しない。今回の自民党の壊滅的な敗北は、自社主軸の「55年体制」の完全な終幕を告げるものだ。
◆自民党は立ち直れるか◆
自民党は、これから野党時代が長くなることを覚悟しなければなるまい。民主党とともに2大政党制の一角を占め続けるには、解党的出直しが必要だ。
93年、自民党は金権腐敗から一時期政権を退いた。その後、社会党や公明党などとの連立で政権を維持してきた。
しかし、自己改革を怠り、結局、有権者の手によって、再出発を余儀なくされた。
今後は、麻生首相に代わる新総裁の下、来年夏の参院選に向け、党の組織や政策、選挙体制など、すべての面にわたり徹底的な改革が迫られる。
説得力のある政策を示し、民主党政権に対する批判勢力として、闘争力を高めねばならない。
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