民主党政権 現実路線で国益を守れ 保守再生が自民生き残り策

朝日新聞 2009年09月04日

鳩山新政権へ 未来に責任果たす財政を

民主党が政権政党としての力量を試される最初の大関門はいうまでもなく補正予算の組み替え、そして来年度の予算編成である。

まず注目されるのは、総選挙で訴えた歳出の改革だ。国の総予算207兆円から無駄を省いて9兆円をひねり出し、子ども手当などの財源にあてる。そう公約して期待を集めた以上、自民党政権ではできなかった無駄の刈り込みをとことん進めてほしい。

総選挙から5日。民主党は動き始めている。来年度予算の概算要求を白紙に戻す方針を示し、経済危機対策として執行が始まっている今年度補正予算も見直す構えで、岡田克也幹事長が「駆け込み執行しないように」と麻生政権にくぎを刺した。

麻生政権がこの1年間に取り組んだ景気対策の事業費総額は130兆円。規模が優先されたため、不要不急の事業も少なくない。46を数える基金の4.4兆円や、国立メディア芸術総合センター(アニメの殿堂)などのハコモノが代表格だ。

失業率が予想を超えて悪化している経済状況を考えても、より効果的で、将来につながる内容の景気対策が求められる。無駄な事業をやめ、適切な予算に組み替えるよう期待したい。

とはいえ、民主党は予算執行に責任をもつ立場となる。現実に出来ることと無理なことを冷静に判断し、政権公約に盛った方針の修正を辞さない柔軟性も求められる。

来年度予算の編成では、そうした大局的判断がとりわけ必要だ。

今年度の予算は経済危機対策で補正後には空前の100兆円規模にまで膨らんだ。来年度にそれを圧縮すれば景気にはマイナスに働く。かといって予算規模を維持しようとすれば、国債の大量発行が避けられない。

鳩山氏は国債発行について「(今年度の44兆円から)増やさない。当然減らす努力をしないといけない」と述べた。だが、景気の悪化で税収の大幅減が見込まれる以上、それもかなり難しくなりそうだ。

民主党が政権公約に盛り込んだ政策の中には「大盤振る舞い」に過ぎるものも少なくない。鳩山政権はそれらを再考すべきである。

たとえばガソリン税などの暫定税率廃止(年2.5兆円)や高速道路無料化(年1.3兆円)は、地球温暖化対策と矛盾する。これらの政策実現を焦って国庫に巨額のつけを回すことは民意に背くのではないか。

一方、子ども手当や出産一時金に5.5兆円を投じる公約は少子化対策として価値がある。だがその実現には、民主党が掲げる所得税の配偶者控除や扶養控除の廃止だけでは足りない。

不足する保育所の整備を組み込んでいくにも、恒久的な財源を確保する展望を示すことが不可欠だ。

民主党は来年夏の参院選に向けて成果を示したいところだろう。だが、無駄の削減や特別会計の運用益などの「埋蔵金」を、別の事業に財源としてつぎ込めたとしても、それは一時的なつじつま合わせにすぎない。

子ども手当に限らず、持続的な制度をつくるには恒久的な財源が必要だ。民主党が進めようとしている歳出改革だけでは不十分であり、歳入すなわち税制も含めた財政構造改革に本気で取り組まなくてはならない。

そのためには、財政の司令塔となる「国家戦略局」や、新しい政府税制調査会が中心となって中長期的な財政再建目標を検討し、そこに至るロードマップを国民に示さねばならない。

国と地方の借金は800兆円超で、国内総生産(GDP)の1.7倍にのぼる。主要国で最悪だ。

政府が巨額の借金をしているのに、大量の国債が売れ、金利も低い。これは個人金融資産1400兆円が不況下で安全な運用先を求めた結果だが、世界経済が回復すれば大量の国債にいつまでも買い手がつく保証はない。

鳩山政権には、発足後に直面する政策課題に取り組みつつ日本のグランドデザインを描くことを求めたい。政府がどこまで国民の安全、安心を支えるのか。そのために社会保障をどう立て直すのか。どれほどの財源が必要で、国民の負担はどのくらいか。

そういうものがあって、初めて財政健全化の目標が描ける。危機克服後の消費税率引き上げを軸とする増税が避けられないこともはっきりするだろう。こうした作業こそが子や孫に責任を負う政府の務めだ。

自民党政権では予算編成も長期的な財政ビジョンづくりも官僚が中心だった。だが官僚主導では変化の激しい時代に大きな方向転換ができなかった。民主党が掲げた「脱・官僚依存」はそうした時代の要請に応えるものだ。

これからは政治がたじろがずに負担増という厳しい選択肢を掲げ、国民に問いかけなくてはならない。

政党が選挙向けのポピュリズム競争に陥り、財源を顧みない政策で後の世代に巨額の付け回しを続けるのでは国が立ちゆかなくなる。すでに納税者はそのことに気づいている。

血税を国民生活の立て直しのために賢く使うとともに、未来への前進のためならいばらの道も避けないという覚悟が鳩山政権には要る。

毎日新聞 2009年08月31日

衆院選、民主圧勝 国民が日本を変えた 政権交代、維新の気概で

まさに、怒濤(どとう)だ。自民党の派閥重鎮やベテランが、無名だった新人候補にバタバタと倒されていった。国民は断固として変化を選んだ。歴史に刻まれるべき政権の交代である。

衆院選は民主党が300議席を超す圧勝を収め、同党を中心とする政権の樹立が決まった。自民党は初めて衆院の第1党から転落するだけでなく議席が3分の1近くに激減する壊滅的大敗を喫し、自公政権は瓦解した。

選挙を通じ政権を担う第1党が交代する民主主義の常道が、日本の政治では長く行われずにいた。政権選択が2大勢力で正面から問われての政権交代は、戦後初めてである。

民主党に不安を抱きながらも政治を刷新しなければ閉塞(へいそく)状況は打破できない、との国民の切迫感が、すさまじい地殻変動を生んだ。鳩山由紀夫代表を首相として発足する新政権の前途は多難だ。だが数をおごらず、政治を一新する維新の気概と覚悟で変化を国民に示さねばならない。

「風」などという段階をはるかに超え、革命的とすら言える自公政権への決別だ。約7割という投票率が国民の関心と、政治のあり方を変える強い意志を物語る。その象徴が、金城湯池とされた自民常勝区の崩壊だ。変化を求める民意は、世代交代による人材の入れ替えに発展した。

政権交代と言えば、93年衆院選で成立した細川内閣も確かに非自民政権だ。だが、第1党はあくまで自民党で、争点は政治改革だった。保守合同による自民党誕生で成立した「55年体制」は同党が唯一、政権担当能力を持つ意味では続いていた。

政権選択を目指し小選挙区が導入されて5回目の衆院選で、その体制についに終止符が打たれた。投票による政権交代という民主主義本来の機能回復を、私たちは政治の進歩として率直に評価したい。

それにしても、いかになだれ現象が小選挙区で起きやすいとはいえ、政治、社会の構造変化を抜きにこの激変は説明できまい。

自民党支配の源泉は業界・団体への利益配分、官僚による行政運営という強固な統治構造にあった。経済成長が行き詰まり、財政赤字などのひずみが深刻化する中で登場したのが小泉改革路線だ。郵政民営化など「小さな政府」を掲げ05年衆院選に圧勝、党は再生したかに見えた。

しかし、医療、年金、格差や地方の疲弊を通じ国民の生活不安が急速に強まり、党は路線見直しをめぐり迷走した。参院選惨敗に伴う「ねじれ国会」のなか、現職首相が2度も政権を投げ出し、政権担当能力の欠如を露呈した。小泉政治を総括できぬまま解散を引き延ばす麻生政権に、国民の不満は頂点に達した。

しかも、小泉路線の下、業界、農村、地方議員など党を支えた集票マシンは急速に衰え、離反した。2世、3世が幅を利かせ人材も不足した。麻生太郎首相が難局にあたるリーダーの資質を備えていたとは言い難い。制度疲労をきたし、自民党はまさに「壊れて」いたのだ。

一方、政権交代をスローガンとする民主党は「生活重視」「脱官僚」をマニフェストに掲げ、自民党が業界重視、官僚主導から脱せぬ中、争点の提示に成功した。衆院解散から約40日の論戦の結果、有権者が民主党を選択した意味は重い。

だが、多数の議席を得た船出は、逆の意味で危うさをはらむ。期待がふくらむほど、裏切られた時の失望も大きい。数を頼みとする政権運営を戒めるべきことは当然だ。来年夏に参院選が控える。政治の変化の証明を待ったなしに迫られよう。

政治主導が可能な体制の速やかな構築が必要だ。縦割り省庁が行政を主導し続けた「官僚内閣制」を脱却しないと、官僚操縦に失敗した細川内閣の二の舞いを演じかねない。

あいまいな外交・安保政策も他党との連立協議の過程で明らかにすべきだ。国民は財源対策の説明のほころびなど、リスク承知で1票を投じた。政権担当能力を十分に信用しての圧勝と過信してはならない。

野党となる自民党の役割も重い。そもそも東西冷戦終結やバブル経済が崩壊した時点で存在意義が問い直される中、政権に安住し続けたことが転落を招いた。真剣な総括なくしては、党存続もおぼつかない。

今選挙を民主、自民両党による2大政党政治の実現とみるのは早計だ。だが、選挙の審判で政権の枠組みを決するというルールは定着させねばならない。

経済危機、財政、年金、医療の立て直しなど喫緊の課題は多い。新政権は、国民との約束である公約を実行してみせるしかない。

そして、かじ取りを委ねた有権者にも責任がある。日本政治は、これまで以上に国民が当事者として参加、監視する新時代を迎えたのだ。

読売新聞 2009年09月01日

政権移行始動 基本政策は継続性が重要だ

民主党の鳩山代表が、新政権発足に向けて動き出した。

鳩山代表はまず、衆院選の政権公約のうち、直ちに実施すべき政策と、時間をかけて練り直すべき政策とを整理することが肝要だ。

民主党は、首相直属機関として新設する「国家戦略局」に、予算編成や外交政策などの司令塔の役割を与えるとしている。

来年度予算の概算要求は8月31日に締め切られ、各省庁が要求を提出した。だが、民主党は、7月1日に閣議了解された概算要求基準を見直す方針だ。

◆補正組み替えは慎重に◆

民主党が公約した子ども手当などの施策で、来年度に要する財源は7・1兆円だ。同じく新設される「行政刷新会議」で予算の無駄を排除していくというが、それだけで財源を捻出(ねんしゅつ)できるのか。

民主党は、今年度補正予算を組み替えることで財源を浮かせ、来年度予算に充当することも検討中だ。だが、景気を下支えしている補正予算の見直しは、慎重に対応しなければならない。

鳩山代表は、法改正が伴う国家戦略局新設の前に、政令などで設置できる「戦略室」で、来年度予算の大枠を示そうとしているが、組織作りに手間取ると、予算編成作業に遅れが出てしまう。

景気対策はスピードが大事なことを肝に銘じてほしい。

鳩山代表は、今月中旬召集の特別国会で首相指名を受けた後、訪米し、首脳外交を展開する。

国連で開かれる気候変動や核不拡散の首脳級会合に出席し、国連総会で演説する。金融サミット(G20)にも出席する予定だ。

◆「25%公約」は避けよ◆

この首脳外交で早くも懸念されているのが、2020年までに二酸化炭素など温室効果ガスの排出量をどれだけ減らすかという中期目標の扱いだ。

民主党は公約で、「1990年比で25%減」を掲げている。

鳩山代表が首相として、この数値目標を国連総会などで表明すれば、12月に交渉期限を迎える「ポスト京都議定書」では、最低でもこの削減目標が日本に割り当てられる可能性が高い。

「90年比25%減」は、生半可な省エネ努力だけで達成できる数値ではない。革新的な技術開発が必要だが、限界があろう。排出削減には、国内総生産(GDP)の押し下げなど経済への副作用と国民生活への痛みも伴う。

民主党はこの際、現実的な視点で中期目標を見直すことが必要である。少なくとも、これを国際公約にして、自縄自縛に陥る愚は避けるべきだ。

鳩山代表は、「外交・安保の継続性もそれなりに認める必要がある」と述べている。

◆外交は日米基軸で臨め◆

政権交代によっても、日本の対外関係の基本に変化がないことを、各国首脳に伝え、信頼関係を築くことが大切だ。

鳩山代表は滞米中、オバマ大統領と初の日米首脳会談を行う際、日米同盟堅持を確認すべきだ。

民主党は、日米間で合意している米海兵隊普天間飛行場の沖縄県内移設について、県外か、国外への移設を主張している。

しかし、移設見直しは、日米合意を破棄するに等しく、同盟関係を損なうのは必至だ。

鳩山代表は、非核三原則について「法制化を検討」し、三原則のうち「持ち込ませず」を明確化するよう大統領に求めるとも語っている。これでは米軍の核抑止力を否定していると受け止められてしまうのではないか。

民主党は「対等な日米関係」を主張するが、具体的政策の裏付けを欠く抽象論に固執し、同盟関係を弱体化させるような言動は慎むべきだ。

鳩山代表は、衆院選の最中、インド洋での海上自衛隊の給油活動をめぐって、「当面は継続する」「来年1月以降は延長しない」などと、発言が揺らいだ。

民主党が連立政権協議を呼びかけた社民党は、インド洋からの即時撤退を主張している。

ソマリア沖での海賊対策について、民主党は自衛隊の活用を認めるとしているが、社民党は反対だ。連立協議で民主党は、安易な妥協をしてはなるまい。

民主党は、いずれの活動についても「継続」する方針を、早期に内外に明示すべきである。

北朝鮮の核ミサイル開発は、日本にとって引き続き重大な脅威である。日本人拉致問題と合わせ、看過できない。

民主党は通常国会で、麻生首相問責決議を可決後、審議拒否に入り、結果として北朝鮮貨物検査特別措置法案は廃案になった。

この法案は、北朝鮮に対する国連安全保障理事会の制裁決議を履行するためのものだ。速やかに成立させることが不可欠だ。

産経新聞 2009年09月01日

政権移行 国政の停滞は許されない

衆院選勝利を受け、民主党の鳩山由紀夫代表は政権移行に向けた準備作業に着手した。

国政の停滞は許されない。鳩山代表の首相指名は今月中旬に召集見通しの特別国会となるが、それまでにできる限りの作業を進めておくべきだ。首相官邸を中心とした現政権側も、これに協力する必要がある。

民主党が急ぐべきは「政権移行チーム」の結成だ。選挙戦の終盤、同党内では選挙後直ちに党幹事長や官房長官など新内閣の骨格人事を固め、閣僚人事や連立協議を進める構想だった。

しかし、鳩山氏は投票日にこの方針を変え、岡田克也幹事長ら現執行部が連立協議にあたることになった。

どういう顔ぶれで新政権を固めていくかは、新首相となる鳩山氏の権限と指導力に直結する。スタート時点から方針がぶれる印象を与えるのでは、心もとない。政権移行に伴う混乱を最小限にとどめるためにも、早期にこのチームを発足させるべきだ。

31日は平成22年度予算の各省庁からの概算要求の締め切りだったが、民主党が概算要求を白紙に戻す方針を示していることから、財務省内で予定されていた受け付け風景の公開が中止された。民主党は新政権下での対応を、早急に決めねば混乱が拡大していく。

新政権発足に向け、民主党は社民、国民新両党に連立政権協議を申し入れたが、重要なのは鳩山氏が国益を守るために現実路線に立ち、どのような政権を樹立するかという基本構想を早急に提示することである。

土台が固まらなければ実質的な連立協議も進めようがない。新政権の下で、外交・安全保障政策の基軸が保たれるかどうかも明確にしておかねばならないだろう。

新政権の方向性をはっきりさせておくことが重要なのは、外交・安保政策で隔たりの大きい社民党との連立協議があるためだ。

社民党の福島瑞穂党首は「連立を組む可能性は高い」と述べ、憲法改正論議を行わないことや、自衛隊の「海外派兵」を認めないとしている。

民主党が社民党などとの連立を模索するのは、参院では単独で過半数を持たないからだが、数合わせのために安保政策の根幹を曲げてはならない。日米同盟の弱体化や国際社会で信頼を損なう懸念を考えるべきだ。

朝日新聞 2009年09月01日

政権移行 1分も無駄にできない

政権移行期に何をしておかねばならないか。総選挙で圧勝した鳩山民主党の、目下の最大の課題だ。

初めて本格的な政権交代を経験する国民にとっても重大な関心事である。生命や暮らしにかかわる緊急の課題で空白が生じては困るのだ。

民主党政権が正式に発足するまでには、2週間ほどかかりそうだ。14日からの週に特別国会を開き、鳩山氏を首相に指名したあと、閣僚が任命され、新政府がスタートする。

鳩山氏は当初、これに向けてすぐにも官房長官、党幹事長ら新政権の骨格人事を固めて「政権移行チーム」を始動させる方針だったが、先送りした。一夜にして3倍近い大所帯になった党内を丁寧に調整する必要があるという判断なのだろう。

ただ、慎重に政権スタートの準備を進めるのはいいが、先延ばしできない問題もある。たとえば新型インフルエンザへの対応である。

国内で約38万人が入院し、約3万8千人が重症になる。そんな発症のピークが新政権発足直後の9月下旬から10月にも迫っていると予想されている。それなのに、新型対応のワクチンはピークには間に合わないという。

自民党政権時代の備え方が不十分だったせいもあるが、一刻も早い対応が必要だ。鳩山氏に求めたい。すぐにでも麻生首相に党首会談を呼びかけ、情報を共有して協力して新しい対策に乗り出すべきだ。

あと2週間、日本政府の最高責任者は法的には麻生氏だが、今後、国民に不安を抱かせないよう手を打っていくのは、次期政権を担当する鳩山氏の責任でもある。

麻生氏も、退任するまでは自民党政府が仕切ると言い張るつもりもあるまい。むしろ、麻生氏の側から協力を求めてもおかしくない。

世界経済危機への対応も、手が抜けない。4日からロンドンでG20の財務相会合が開かれる。現政権から与謝野財務・金融相が出席する予定だが、民主党からも経済や金融にくわしい国会議員を派遣すべきだ。

政権を引き継ぐ民主党にとって、役立つだけではない。これからの日本の財政や金融政策をどうするのか、世界の主要国と基本認識を語り合い、安心感をもってもらう効果は大きい。

参考にしたいのは、今年1月に就任したオバマ米大統領だ。金融危機まっただ中の大統領選挙で勝利するや、「今日から仕事が始まる。1分でも無駄にできない」と就任の2カ月前に経済チームを任命し、過去最大級の景気対策を準備した。

大事なのは、時間をかけるべきものと、緊急に対応すべきものを見分け、迅速に行動することだ。そんな緊張感のある2週間にしてもらいたい。

読売新聞 2009年08月31日

民主党政権実現 変化への期待と重責に応えよ

自民党政治に対する不満と、民主党政権誕生による「変化」への期待が歴史的な政権交代をもたらした。

30日投開票の衆院選で民主党が大勝し、自民党は結党以来の惨敗を喫した。

野党が衆院選で単独過半数を獲得し、政権交代を果たしたのは戦後初めてのことである。

近く召集される予定の特別国会で、首相に指名される民主党の鳩山代表が、国家経営の重責を担うことになる。

◆自民党への失望と飽き◆

このような民意の大変動の要因は、自民党にある。

小泉内閣の市場原理主義的な政策は、「格差社会」を助長し、医療・介護現場の荒廃や地方の疲弊を招いた。

小泉後継の安倍、福田両首相は相次いで政権を投げ出した。

麻生首相は、小泉路線の修正も中途半端なまま、首相としての資質を問われる言動を続けて、失点を重ねた。

この間、自民党は、参院選敗北によって参院第1党の座を失い、従来の支持・業界団体も、自民離れを加速させた。

構造改革路線の行き過ぎ、指導者の責任放棄と力量不足、支持団体の離反、長期政権への失望と飽きが、自民党の歴史的敗北につながったと言えよう。

民主党は、こうした自民党の行き詰まりを批判し、子ども手当や高速道路無料化など家計支援策、多様な候補者を立てる選挙戦術で有権者の不満を吸い上げた。

小泉政権下の前回衆院選では、「郵政民営化」と刺客騒動で、自民党に強い追い風が吹いた。

今回、風向きは一転、「政権交代」を唱えた民主党側に変わり、圧勝への勢いを与えた。この結果、自民党だけでなく、連立与党の公明党も大きな打撃を受けた。

民主党政権に「不安」は感じつつも、一度は政権交代を、との有権者の意識が、それだけ根強かったと見るべきだろう。

しかし、300議席を超す勝利は、必ずしも、民主党への白紙委任を意味するものではない。

◆政権公約の見直しを◆

鳩山新内閣は、政権公約(マニフェスト)で示した工程表に従って、政策を進めることになる。だが、“選挙用”政権公約にこだわるあまり、国民生活を不安定にさせてはならない。

最大の課題は、大不況から立ち直りかけている日本経済を着実な回復軌道に乗せることだ。雇用情勢の悪化を考えれば、切れ目のない景気対策が欠かせない。

来年度予算編成でも、景気浮揚に最大限の配慮が必要だ。

外交・安全保障では、政権交代によって、国際公約を反故(ほご)にすることは許されない。外交の継続性に留意し、日米同盟を堅持しなければならない。

民主党は、参院では単独過半数を持たないことから、社民、国民新両党と連立政権協議に入る。

懸念されるのは、自衛隊の国際平和協力活動など、外交・安保の基本にかかわる政策をめぐって、民主、社民両党間に大きな隔たりがあることだ。

少数党が多数党を振り回すキャスチングボート政治は、弊害が大きい。民主党は、基本政策で合意できなければ、連立を白紙に戻すこともあり得るとの強い決意で、協議に臨むべきだろう。

民主党は、「官僚政治からの脱却」も目標に掲げている。だが、首相直属の「国家戦略局」を設けたり、多数の国会議員を各府省に配置しさえすれば、官僚を動かせるというものではない。

官僚と敵対するのではなく、使いこなす力量が問われる。官僚の信頼を得て初めて、政策の遂行が可能になることを知るべきだ。

自民党は1955年、左右の社会党の統一に対抗する保守合同によって誕生した。

当時のイデオロギー対決はすでになく、かつての社会党も存在しない。今回の自民党の壊滅的な敗北は、自社主軸の「55年体制」の完全な終幕を告げるものだ。

◆自民党は立ち直れるか◆

自民党は、これから野党時代が長くなることを覚悟しなければなるまい。民主党とともに2大政党制の一角を占め続けるには、解党的出直しが必要だ。

93年、自民党は金権腐敗から一時期政権を退いた。その後、社会党や公明党などとの連立で政権を維持してきた。

しかし、自己改革を怠り、結局、有権者の手によって、再出発を余儀なくされた。

今後は、麻生首相に代わる新総裁の下、来年夏の参院選に向け、党の組織や政策、選挙体制など、すべての面にわたり徹底的な改革が迫られる。

説得力のある政策を示し、民主党政権に対する批判勢力として、闘争力を高めねばならない。

産経新聞 2009年08月31日

民主党政権 現実路線で国益を守れ 保守再生が自民生き残り策

第45回総選挙が投開票され、民主党は選挙区、比例代表ともに自民党を圧倒した。

野党が単独で過半数を占め、政権を樹立するのは戦後初めてだ。自民党主導政治を終焉(しゅうえん)させるという歴史的な転換点になった。13年前の総選挙から導入された小選挙区制による政権交代を可能にする二大政党制が、ようやく機能した意味は大きい。民主党が自民党批判の受け皿になったのである。

問題は、政権交代が目的化し、この国をどうするのかという選択肢がほとんど吟味されぬまま、結論が導かれたことだ。

民主党主導の新たな政権により、これまでの内政・外交の基軸は大きく変わらざるを得ないだろう。自民党が曲がりなりにも担ってきた戦後秩序も変化を余儀なくされる。場合によっては、日本を混乱と混迷の世界に投げ込むことにもなりかねない。政権交代が日本を危うくすることもあるのだ。そうなることは民主党にとっても本意ではないだろう。

国の統治を担う以上、民主党には国益や国民の利益を守る現実路線に踏み込んでほしい。マニフェスト(政権公約)で掲げた政策の修正を伴うケースも出てこようが、1億2千万の日本人の繁栄と安全を守り抜くことをなによりも優先させるべきだ。

≪危ういポピュリズム≫

今回の選択で留意すべきは、民主党の政策が高く評価されたというより、自民党にお灸(きゅう)を据えることに重点が置かれたことだ。たとえば、民主党が掲げた「高速道路の原則無料化」に対し、産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、反対が65%と賛成(30%)の倍以上となった。

政権を担う民主党の力量に不安があることも事実だ。本来、政権交代のたびに基本政策が大きく変わることは好ましくない。とくに外交・安全保障政策の基軸が揺れ動いては対外的信用を失う。

民主党はこれまで、インド洋での海上自衛隊による補給支援を一時的に撤退させ、在日米軍駐留経費の日本側負担に関する特別協定に反対してきた。小沢一郎前代表の政局至上主義のためだが、「党利党略は水際まで」の原則を否定したのでは信頼は高まらない。

その意味で、維持されるべき日本政治の方向性とは、日米同盟を基軸とした外交・安保政策の継続であり、構造改革の推進により経済や社会に活力を取り戻すことにほかならない。民主党が現実的な判断に立ち、これらを継承することができないなら、何のための政権交代かということになる。

また、国民の政治に対する判断はどうだったのだろう。4年前の総選挙では、小泉純一郎首相が掲げた郵政民営化を圧倒的に支持した。それが今回は、民主党の主張する「政権交代」というキャッチフレーズに熱狂的に共鳴したといえる。

2年前の参院選でも民主党は勝利したが、振り子の激しさは政治を不安定にしかねない。とりわけ、単一イシュー(争点)に白黒をつけることが最大の選択肢となることは、単純明快かもしれないが、ポピュリズム傾倒の危うさがあると認識すべきだろう。

一方で、多くの国民が民主党に閉塞(へいそく)感を払拭(ふっしょく)することを期待したのも間違いない。民主党が公約に掲げた首相直属の国家戦略局は、予算作りだけでなく、国家ビジョンを検討するという。

≪敗北を徹底検証せよ≫

これまで、こうした外交・安保政策の司令塔はなかった。官僚主導から政治主導への成果を出すことができなければ、国民の失望感は大きくなるだろう。

自民党は歴史的な惨敗になった。党幹部や閣僚らは相次いで選挙区で落選・敗退した。解党的出直しへの答えを見いだせないまま選挙に臨み、政権から退場を求められたといえる。自民党政治への不信や行き詰まり感が広がったことに加え、保守政党としての存在意義を十分発揮できなかった点も見過ごせない。

新憲法草案の策定など、民主党に比べれば保守色をみせていたが、集団的自衛権行使の政治決断には至らず、国の守りに関しても不十分さが残った。

公明党との連立下でもイラク自衛隊派遣などの業績は挙げたが、連立の常態化が何をもたらしたかを考えるべきだった。敗北を徹底的に検証してもらいたい。保守政党として民主党への対抗軸を早急に構築し、再生を果たして国民の期待に応える責務がある。

朝日新聞 2009年08月31日

民主圧勝 政権交代 民意の雪崩を受け止めよ

小選挙区制のすさまじいまでの破壊力である。民意の劇的なうねりのなかで、日本の政治に政権交代という新しいページが開かれた。

それにしても衝撃的な結果だ。小選挙区で自民党の閣僚ら有力者が次々と敗北。麻生首相は総裁辞任の意向を示した。公明党は代表と幹事長が落選した。代わりに続々と勝ち名乗りを上げたのは、政治の舞台ではほとんど無名の民主党の若手や女性候補たちだ。

■100日で足場固めを

うねりの原因ははっきりしている。少子高齢化が象徴する日本社会の構造変化、グローバル化の中での地域経済の疲弊。そうした激しい変化に対応できなかった自民党への不信だ。そして、世界同時不況の中で、社会全体に漂う閉塞(へいそく)感と将来への不安である。

民意は民主党へ雪崩をうった。その激しさは「このままではだめだ」「とにかく政治を変えてみよう」という人々の思いがいかに深いかを物語る。

では、それが民主党政権への信頼となっているかと言えば、答えはノーだろう。朝日新聞の世論調査で、民主党の政策への評価は驚くほど低い。期待半分、不安半分というのが正直なところではあるまいか。

長く野党にあった政党が、いきなり政権の座につく。民主党は政治の意思決定の方法や官僚との関係を大改革するという。だが、すべてを一気に変えるのは難しいし、成果をあせって猛進するのはつまずきのもとだ。

そこで民主党に提案したい。

最初の正念場は、来年度予算編成を終える12月末までだ。9月半ばの政権発足からほぼ100日間。これを政権の足場を固めるための時間と位置づけ、優先順位を明確にして全力で取り組むことだ。

やるべきことは三つある。

第一は、政治と行政を透明化することである。与党になれば、官僚が握る政府の情報が容易に入手できるようになる。それを洗いざらい総点検し、国民に情報を公開してもらいたい。

■賢く豹変する勇気も

天下り、随意契約、官製談合、薬害、そして歴代の自民党政権がひた隠しにしてきた核兵器持ち込みに絡む日米密約……。かつて「消えた年金」を暴いたように、隠されてきたさまざまな闇を徹底的に検証してもらいたい。

第二に、政策を具体化するにあたって、間違った点や足りない点が見つかったら豹変(ひょうへん)の勇気をもつことだ。

マニフェストを誠実に実行するのは大事なことだ。だが民主党が重く受け止めるべきは、その財源について、本紙の世論調査で83%もの人が「不安を感じる」と答えていることだ。高速道路の無料化など、柔軟に見直すべき政策はある。むろん、政策を変えるならその理由を国民にきちんと説明することが絶対条件だ。

急ぐべきは一般会計と特別会計の内容を精査し、ムダな事業や優先度の低い政策を洗い出して、国民に示すことである。その作業なしに説得力のある予算編成は難しい。

鳩山新首相は、9月下旬には国連総会やG20の金融サミットに出席する。これまでの外交政策の何を継続し、何を変えるのか。基本的な方針を速やかに明らかにし、国民と国際社会を安心させる必要がある。

第三に、国家戦略局、行政刷新会議をはじめとする政権の新しい意思決定システムを、人事態勢を含め着実に機能させることだ。

自民党政権の特徴だった政府と党の二元体制に代えて、政策決定を首相官邸主導に一元化する。官僚が政策を積み上げ、政治が追認するというやり方を改め、政治が優先順位を決める。まず来年度の予算編成にそれがどう生かされるかを国民は注視している。

■「二重権力」を排せ

民主党のあまりの圧勝ぶりには、新たな不安を覚える有権者も少なくなかろう。巨大与党に対してチェック機能をだれが果たせるのか。他方、選挙対策を一手に担った小沢一郎前代表の影響力が強まることで、民主党内にあつれきが生じないかも気がかりだ。

93年の政権交代で生まれた細川内閣が、与党を仕切る小沢氏との「二重権力」のなかで短命に終わった歴史を思い出す。それを繰り返してはならない。国民の危惧(きぐ)をぬぐうには、鳩山首相のリーダーシップをはっきりと確立すべきだ。

そのためにも、鳩山氏は来年度予算案に政権担当者としての明確な意思と4年間の行程表を練り込むことだ。

今回の総選挙を、政権交代の可能性が常に開かれた「2009年体制」への第一歩にできるかどうか。それは、2大政党のこれからにかかっている。

自民党の党勢立て直しは容易ではあるまい。それでも、民主党がしくじれば交代できる「政権準備党」の態勢を早く整えることだ。そのためには今回の敗因を正面から見据え、「新しい自民党」へ脱皮する作業が欠かせない。

「とにかく政権交代」の掛け声で巨大政党に膨れあがった民主党は、交代を果たした後の自画像をどう描くかが今日から問われる。広がった支持基盤とどういう距離感をもつのか、外交・安全保障での理念やスタンスは……。「民主党とは何か」をもっと明確に出していかねばならない。

新しくめくられた政治のページを埋めていく作業はこれからだ。

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