スーチー氏判決 軍政の「北朝鮮化」防げ

朝日新聞 2009年08月12日

ミャンマー 軍政がアジアを脅かす

ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏に対して、軍事政権はさらに1年半の自宅軟禁を命じた。

当局の監視をかいくぐり、湖を泳いで渡ってきた米国人を自宅に泊めたことが、外部との接触を禁じた国家防御法違反に問われた。法廷は労働を伴う3年の実刑判決を出したが、軍事政権が直後に自宅軟禁に変更した。

国際社会の批判を意識して「減刑」したとアピールしたいのだろうが、そもそも根拠の乏しい訴追なのだから、不当さに変わりがあろうはずがない。

スー・チー氏の自宅軟禁や拘束は計14年間に及んでいる。軍事政権は「民政移管」のために、来年前半に総選挙を行うとしているが、結局、国民に支持されるスー・チー氏を選挙活動に加われないようにするのが今回の自宅軟禁の狙いだろう。

こんな形で総選挙を強行しても、その正当性が認められることはありえない。日本をはじめ国際社会の多くの国々は、スー・チー氏を含む全政治犯の釈放を求めている。軍事政権はこの要請にすぐに応じるべきなのだ。

88年のクーデター、そしてスー・チー氏率いる国民民主連盟が大勝した90年の総選挙結果を握りつぶして以来、軍事政権の強権統治はひどくなるばかりだ。2年前、生活難に抗議する僧侶や市民らのデモを武力鎮圧し、日本人ジャーナリストの長井健司さんが射殺された。

軍事政権の独善的な行動は、アジア全体に深刻な影を落としつつある。とくに心配なのは、北朝鮮との軍事協力が進んでいる疑いが出てきたことだ。

6月、国連制裁で禁止されている武器などを積んでいる恐れがあるとして、米軍が追跡した北朝鮮船舶は、ミャンマーに向かっていたとされる。首都ネピドー付近で核関連施設と疑われる地下トンネル網が北朝鮮の協力で建設されている、という報道もある。

クリントン米国務長官は先月、訪問先のタイで北朝鮮からミャンマーへの核技術移転の可能性に懸念を示した。

もしミャンマーが核開発に手を染めているとすれば、アジアの安全保障の構図はがらりと変わる。

日本政府は、軍事政権をあまり追い詰めると、もともとミャンマーと関係の深い中国の影響力がますます強まってしまうとして、激しい政権批判を控え、対話を維持してきた。しかし、ミャンマーに核関連疑惑があるとなれば、悠長なことは言っていられない。中国に対して影響力を行使するよう働きかける必要があるし、中国自体も事態を深刻に受け止めるべきだ。

北朝鮮に対する国連制裁を実効あるものとするためにも、政府はミャンマー問題で国際的な連携を強めなければならない。

毎日新聞 2009年08月13日

スーチー氏判決 軍政の「北朝鮮化」防げ

ミャンマーの民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんに特別法廷で懲役3年の判決が言い渡され、直後に軍事政権が自宅軟禁1年6月へと減刑した。あまりにも見え透いた「寛容さ」の演出である。

スーチーさんは5月、自宅に侵入した米国人男性を無許可で滞在させたのが国家防御法違反にあたるとして起訴された。軍事政権は来年に予定する20年ぶりの総選挙にスーチーさんが関与するのを阻止したい。だが重罰を加えれば国際社会の強い反発を免れまい。ここは減刑で切りぬけ、期限が切れた軟禁を復活し継続させよう。そんな思惑が明白だ。

ミャンマーが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)各国からさえ「失望した」といった声が出ている。米国が進めている対ミャンマー政策の見直しに「否定的な影響をもたらす」と国務省高官は明言した。オバマ大統領は声明でスーチーさんの「即時、無条件の解放」を求め、スーチーさん宅に侵入した米国人に対する懲役7年の判決には「彼の行為との釣り合いがとれない(重すぎる)刑罰」だと不満を示した。

仮に軍事政権がこの男性の減刑や釈放を材料に米国と取引しようとすれば北朝鮮の手法と似てくるが果たしてどうか。そうならないとしても、ミャンマーと北朝鮮をめぐる懸念材料が最近目立つ。

ミサイルや核関連物資を積んだ疑いのある北朝鮮の貨物船がミャンマーに向かっているとされ、米軍艦艇が追跡した。トンネル掘削を得意とする北朝鮮の技術協力でミャンマー各地に秘密の地下施設が建設されているとタイ英字紙が写真付きで報じた。次いで、山中に掘られたトンネルでは核兵器製造のための原子炉やプルトニウム抽出施設を建設中だという亡命ミャンマー人の証言を、オーストラリア紙が伝えた。日本では北朝鮮系の貿易会社が、ミサイル開発に転用可能な「磁気測定装置」をミャンマーに無許可で輸出しようとしたとして摘発された。

ミャンマーが核武装に踏み出したという疑惑には「根拠が薄い」との見方も少なくない。だが軍事政権は透明性に欠ける。独裁に抵抗する人々の存在を許さない平壌政権ほどではなくても、国家の経済発展や国民の福祉を軽視する理解困難なミャンマーの統治に「北朝鮮化」の危険を見るのは不適切とは言えまい。

ミャンマーは中国への依存を深めている点でも北朝鮮に似ている。インドからの支援も大きい。従って一本調子の圧力では効果が薄い。日本政府は米国と政策調整を図りつつ、中国、インドを巻き込む形でミャンマーの「北朝鮮化」を食い止める工夫をしてほしい。

読売新聞 2009年08月12日

スー・チーさん 民主化に逆行する有罪判決

有罪判決ありきの裁判だったのではないか。

ミャンマー軍事政権の特別法廷が、民主化運動の指導者アウン・サン・スー・チーさんに、国家防護法違反の罪で、禁固3年を言い渡した。

直後に、軍政側は、自宅軟禁1年6月への減刑を発表した。異例の措置は、国際世論の批判を意識してのことだ。

軍政側は、スー・チーさんの影響力を恐れ、軟禁を続ける法的根拠がほしかったのだろう。

軍政は、独自の民主化政策の一環として、来年総選挙を実施するという。だが、減刑したにせよ、最大野党を率いるスー・チーさんの自宅軟禁がそのままでは、民主化の実現とは言えまい。

スー・チーさんは、5月上旬に自宅脇に広がる湖を泳いでわたって来た米国人男性を2日間、自宅に滞在させて食事を与えた、として有罪になった。

国家防護法は、軟禁中の者が外国人と接触することを禁止しており、これに違反したという。

米国人男性はスー・チーさんの支持者で、彼女を激励することが目的だったとされる。

特別法廷は、この男性にも禁固7年を言い渡した。

スー・チーさんの軟禁は、今年11月で期限が切れる予定だった。一時的に解放された期間を除けば、過去20年間で通算14年近く自宅に軟禁され、自由を奪われ続けている。

亡くなった夫が外国人だったことを理由に、昨年採択された新憲法の規定により被選挙権を剥奪(はくだつ)されているため、来年の総選挙には出馬できない。

スー・チーさんに象徴される軍政の人権抑圧政策に欧米諸国は長年、制裁措置を取ってきた。それが軍政を中国や北朝鮮寄りへと追いやる結果を招いた。

ミャンマーと中国・昆明を結ぶ天然ガス・石油のパイプライン建設は9月にも開始される。ベンガル湾に面したシットウェ沖のガス田で採れる全量が中国へ輸送されることでも合意済みだ。

加えて軍政は、北朝鮮から支援を受け、原子炉とプルトニウム抽出用の再処理施設を秘密裏に建設中と伝えられている。これが事実とすれば、極めて懸念される事態である。

日本はこれまで、ミャンマーの軍事政権に対し、人道目的などに限定した援助を続けてきた。今後も軍政に対し、人権抑圧の改善などを粘り強く求めていく必要があるだろう。

産経新聞 2009年08月13日

スー・チー判決 日本も制裁強化の決断を

ミャンマー軍事政権が民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん(64)に対し自宅軟禁1年半の命令を下した。

オバマ米大統領が直ちに「不当な判断」と批判し、無条件釈放を求めた通り、人権無視の強権発動以外の何物でもない。ノーベル平和賞受賞者でもあるスー・チーさんの拘束・軟禁は過去20年間ですでに通算14年近くにおよぶ。

スー・チーさんは軟禁期限切れを前に今年5月、自宅に侵入した米国人男性を無許可で滞在させたとして「国家防御法」違反に問われた。特別法廷が懲役3年の有罪判決を下し、直後に軍政当局が特別命令で減刑した。法治国家の常識からかけ離れた措置だ。

軍政当局は来年、20年ぶりの総選挙を実施し、民政に移管するという。新憲法の規定では、外国人と結婚したスー・チーさんに被選挙権はない。軍政当局はそれでも不十分とみたのだろう。民主化のシンボルの影響力を徹底排除したい意図が透けてみえる。

ミャンマー軍政に対し、米国や欧州連合(EU)は制裁措置を続けている。今回もオバマ大統領のほか、ブラウン英首相やサルコジ仏大統領が非難声明を出し、国連安保理が議長声明採択に向けて動き出した。

こうした国際的な圧力に対する壁となっているのが中国である。中国はミャンマー沖の天然ガス、原油鉱区の権益を獲得し来月にはパイプラインの建設が始まる予定だ。ミャンマー軍政が強気の姿勢を崩さない背景に中国との緊密な関係がある。

中国には、ミャンマー軍政と北朝鮮との関係を注視せよ、と言いたい。軍政が北朝鮮の協力を得て原子炉とプルトニウム抽出施設を極秘に建設中との疑惑が最近浮上し、クリントン米国務長官も懸念を表明している。

日本はミャンマーに対し、現在も民主化に役立つ人材育成奨学計画など「緊急性が高く人道的な案件」の援助は続けている。しかし、スー・チーさんの軟禁継続という現実を見る限り、柔軟姿勢は効果を生まなかった。

日本は米欧と連携して対ミャンマー制裁を強化する一方、影響力をもつ中国にも責任を求め、軍政に北朝鮮との核を含む軍事協力の断念へと強い圧力をかけるべきだ。総選挙後の日本の政権がどうなるにせよ、日本外交は決断の時にきている。

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