原子力事故の損害賠償に関する国際条約に加盟する意義は大きい。
米国などと緊密な協力関係を築き、東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の加速にもつなげたい。
政府が、原発事故の賠償の枠組みなどを定めた「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」に加盟する方針を決め、その承認案と関連法案を国会に提出した。今国会での成立を目指す。
原発事故は発生国だけでなく、周辺国にも被害が及びかねない。CSCは、万一の際に賠償などが円滑に進むよう、国際的なルールを決めておく狙いがある。
すでに米国、アルゼンチン、モロッコなど5か国が加盟しているが、原発の出力合計の要件を満たしておらず未発効だ。日本が参加すれば発効条件を満たす。
この条約は原発事故に備え、各国が最低470億円を用意するよう義務づけている。賠償額がそれを超えた場合は、一部を加盟国の拠出金で支援するが、5兆円に迫る福島第一原発の賠償額を考えれば、備えが十分とは言えない。
むしろ、大きな効果が見込めるのは、賠償責任の所在などが明確化される点だ。
CSCは、事故の賠償責任は全て電力会社が負い、裁判は事故の発生国で行うと定めている。
福島第一原発の事故収束や廃炉作業は、米国技術の活用が求められている。だが、米国企業は、新たな事故が起きた場合、米国で被害者に巨額の訴訟を起こされると懸念し、二の足を踏んでいる。
条約締結で、今後の賠償責任を東電が負うことが明確になれば、積極的な協力が期待できよう。
福島の事故収束は、汚染水処理でつまずいている。前例のない廃炉作業も、日本単独での取り組みには限界がある。
スリーマイル島事故に対処した米国の技術やノウハウを、溶融した核燃料の取り出しなど困難な作業に生かしたい。
CSC加盟は、日本メーカーにとっても、原発輸出に伴うリスクを軽減する利点がある。
世界で建設中や計画中の原発は200基近くに上る。日本の原発輸出には、世界最高レベルとされる安全性能や安全基準を国際的に広める意味がある。
原発事故が起きた場合に備えた法整備が不十分な新興国も多い。日本メーカーが輸出を予定しているトルコやベトナムも、CSCに未加盟だ。政府はこれらの国に加盟を呼びかけ、原発を巡る国際協力の基盤整備に貢献すべきだ。
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