中国4中全会 民主化なき法治は疑問

朝日新聞 2014年10月25日

中国と法治 誰のための改革なのか

中国共産党の最高指導機関である中央委員会の第4回全体会議が開かれた。4中全会と呼ばれ、主要テーマは「法にもとづく国家統治」だった。

行政や司法の信頼性を高める改革は歓迎すべきだが、そこに込められた真の狙いは、共産党の一党支配をより強固にすることとみるべきだ。

発表されたコミュニケは、法体系のいっそうの整備、人材育成などを含め、幅広く課題を挙げている。中国の問題状況を直視したものと言っていい。

注目されるのは「幹部による司法への関与、介入を責任追及する制度を設ける」と明記した点だ。地方の党・政府幹部が事件の捜査や裁判に口出しをし、身内や業者に便宜を図ることが横行しているからだ。

行政機関についても、責任追及の仕組みづくり、住民参加、情報公開などを今後の方針として盛り込んでいる。

各地方の行政、司法は、権利意識を高めつつある住民とじかに接する部分でもあるだけに、習近平(シーチンピン)指導部としては重視せざるを得ないところだろう。

中国は建国後、幾たびの混乱をへて、70年代末に本格的な法整備が始まった。以来、政府機関での手続きや裁判所の対応が少しずつ改善されてきた。

それがさらに前進するのであれば、中国の国民はもちろん、中国で活動する外国人、外国企業にとってもプラスになる。

だが、この法治をめぐる改革は、党中央が地方の隅々まで統制しなければならない、という点にそもそもの目的がある。コミュニケは「党の指導の堅持」を繰り返し強調している。

では党中央は、つねに清潔で正しいといえるのか。それはどう担保されうるのか。その答えは示されていない。

習指導部のもとで、最高指導部メンバーだった周永康氏ら多くの党幹部が「党規律違反」として取り調べを受けている。周氏の側近らは今回の会議で党籍奪(はくだつ)処分が決まった。

前例のない反腐敗キャンペーンは、党の自浄能力を示すとしている。だが、それはむしろ、最高指導部の権力が腐敗と結びつきやすいことを物語る。

疑問はまだある。習氏は一昨年の演説でも「憲法にもとづく法治」をうたった。しかし、憲法に明記してある諸権利の保障を訴える市民を次々と拘束し、投獄している現実をどう説明するのか。

一党支配システムの堅持と、真の法治はそもそも両立しえない。いまの中国が抱える矛盾の根源はそこにある。

毎日新聞 2014年10月25日

中国4中全会 民主化なき法治は疑問

北京で開かれた中国共産党の重要会議、第18期中央委員会第4回総会(4中全会)は「法に基づく国の統治」を全面的に推進するという方針を決めた。立法機関である全国人民代表大会(全人代)や、裁判所、検察など司法機関の改革で「法治」の徹底を目指す狙いだ。

読売新聞 2014年10月25日

中国4中総会 独裁強化の「法治」ではないか

国際社会が共通認識とする「法の支配」とは全く異質の中国式「法治」が強化される。一党独裁の堅持が狙いだろう。

習近平政権下で4回目の中国共産党中央委員会総会(4中総会)は「法治の推進」をうたう声明を採択、閉幕した。

最大の焦点である周永康・前党政治局常務委員に対する処分は先送りした。習政権は7月、最高指導層の常務委員の不正は問わないという不文律を破り、周氏を摘発したものの、今回は、党内の安定に配慮したとみられる。

周氏の後ろ盾だった江沢民・元総書記を中心とする勢力に加え、官僚の多くも、習氏の強引な手法に異論を持つとされる。習氏は、党内情勢を慎重に見極め、処分内容を決めることになろう。

総会声明には、司法に介入した幹部の責任追及や、行政機関の政策の合法性を審査する機構設立などの具体策が盛り込まれた。

地方指導者らの専横を抑えるのが目的だろうが、実際にどこまで実行されるかは不透明だ。

声明は、憲法に基づく「共産党の指導」を堅持し、「社会主義法治」を構築する決意を強調した。事実上、党が法を支配する現体制を守り抜く意思表示だろう。

これでは、真の「法治」が実現するはずがない。

習政権が「法治」を掲げるのは、党の統治の綻びが表面化していることへの危機感の裏返しだ。

官僚の腐敗や独裁、不公正な司法などに対する国民の不満は根強い。民主化や人権向上の要求も高まっている。政権にとって「法治」は、一連の問題への厳格な対処を正当化する手段ともなろう。

学生らのデモが長期化する香港に関して、声明は、「一国二制度の実践を法に基づいて保障し、長期的な繁栄と安定を維持し、香港同胞の権益を守る」と記した。

表向きは香港の「高度な自治」を尊重しつつ、実際は、デモを「違法行為」として実力で取り締まる方針は一切変更しない。そんな“宣言”とも受け取れる。

こうした強硬姿勢一辺倒では、デモの早期収拾は難しい。

経済成長の減速も、習政権の大きな不安材料である。

7~9月期の国内総生産は前年同期比7・3%増で、5年半ぶりの低水準となった。不動産市況の悪化が響いたようだ。「中国リスク」を嫌う日本など海外からの投資の減少傾向も続いている。

国際的な信用の確保には、経済分野でも中国式ではない「法治」の確立が欠かせない。

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