カジノ法案 解禁ありきに反対する

朝日新聞 2014年10月20日

カジノ法案 懸念材料が多すぎる

自民、維新、生活の3党が出したIR推進(カジノ解禁)法案が成立するかが今国会の焦点となってきた。

私たちは社説でカジノ解禁に反対してきた。世論調査でも反対が賛成を大きく上回る。カジノがもたらす害については、徹底した議論が不可欠だ。推進派は、20年の東京五輪に間に合わせたいとするが、拙速に成立させるべきではない。

最も懸念されるのは、ギャンブル依存症の問題である。

厚生労働省の研究班は8月、依存症の疑いがある人が成人の5%弱、536万人にのぼる、との推計を公表した。他国と比べても高い水準だという。

推進派の議員連盟はこれを意識し、日本人のカジノ入場に関して必要な措置を政府が考えるよう、法案の修正を決めた。

ギャンブル依存症は世界保健機関(WHO)が精神疾患の一種と位置づける国際的な問題である。日本人だけ入場を厳しくすれば済むという話ではない。

カジノを解禁した各国も、依存症対策に苦心している。

シンガポールは、地元住民には8千円程度の入場料を課し、本人や家族の申し出で立ち入りを制約する制度を設けた。それでも対象者はこの2年間で2倍以上増え、21万人を超えた。

全国に17あるカジノのうち、国民が入れる場所を1カ所のみとしている韓国でも、依存症の増加が社会問題化している。

「国内で依存症が多いのはパチンコ・パチスロや、競馬、競輪などの公営競技のため。カジノが加わっても変わらない」との声も聞かれる。推進議連は、カジノの収益の一部を依存症対策にあてる考えも示している。

賭博として禁じられていないパチンコや公営競技が引き起こす依存症には、国としての対策が急務だ。だが、それはカジノ解禁を急ぐ理由にはなるまい。

カジノに前向きな安倍首相はその理由として「観光振興、雇用創出の効果は非常に大きい」と国会で述べた。

ただ、依存症対策などに必要な社会的コストを上回るほどの経済効果は本当にあるのか。

カジノの収益の本質は、客の負け分である。日本進出に意欲的な外国資本は、中国や東南アジアからの観光客以上に、約1600兆円といわれる日本人の個人資産に注目している。カジノで一見カネが動いても、海外に吸い上げられるだけではないか、との懸念がぬぐえない。

目先の利益ではなく、日本にとって長期的にプラスになるかを考える。そういう姿勢を、推進派に強く求めたい。

毎日新聞 2014年10月13日

カジノ法案 解禁ありきに反対する

カジノ解禁をめぐる議論が熱を帯び始めた。「統合型リゾート(IR)整備推進法案」(カジノ法案)について、安倍晋三首相は参院予算委員会で「経済成長に資する」と述べ、改めて積極的な姿勢を表明した。

読売新聞 2014年10月17日

カジノ解禁法案 弊害の議論が浅薄では困る

臨時国会中の法案成立を最優先する、前のめりの姿勢ばかりが目立つ。肝心なカジノ解禁の功罪に関する議論が拙速であってはなるまい。

超党派の「国際観光産業振興議員連盟」が、統合型リゾート(IR)推進法案(カジノ解禁法案)の修正案をまとめた。ギャンブル依存症の拡大への懸念を踏まえ、日本人の利用制限を政府に義務づける規定を加える。

議連は当初、カジノ解禁に慎重な公明党などに配慮し、利用者を外国人に限定する方針だった。

ところが、「外国人客だけでは経営が成り立たない」といった異論が出て、わずか3日後に、日本人の利用を条件付きで認める方針に転換した。論議は煮詰まっていない、と言わざるを得ない。

法案は、IR推進の骨格だけを定め、詳細な制度設計は政府に任せて1年以内に法整備を進める、という2段階方式の内容だ。

とにかく2020年東京五輪にIR整備を間に合わせよう、という安直な発想で、依存症の人や犯罪の増加など、カジノの「負の側面」に正面から向き合おうとしないのは、極めて問題である。

安倍首相は「観光振興、雇用創出の効果は大きい」と語り、カジノ解禁に前向きだ。成長戦略の目玉になり得るとの判断がある。一方で、治安や青少年への悪影響を防ぐ対策の必要性を認めた。議連の最高顧問も辞任した。

地域振興や税収増への期待から北海道、大阪、長崎、沖縄などでは誘致の動きがある。ただ、既存の海外カジノとの競合が予想される。経済効果の持続性がどの程度あるのかも不透明だ。

ギャンブルに頼らない活性化策を検討するのが本筋だろう。

厚生労働省の研究班の推計によると、パチンコなどを含めたギャンブル依存症の疑いがある人は全国で536万人に上る。成人男性では8・7%を占め、他国と比べてかなり高いとされる。

カジノを解禁した場合、依存症の人が増え、多重債務や家庭崩壊に陥ったり、資金欲しさに犯罪に走ったりする懸念が拭えない。

依存症の人の治療・支援に加えて、青少年対策、資金洗浄(マネーロンダリング)の防止、反社会的勢力の排除など、解決すべき課題は多岐にわたっている。

カジノが刑法の賭博罪の対象になるのは、それだけ弊害があると考えられるからだ。カジノを合法化するなら、説得力ある包括的な対策を明示し、国民の幅広い理解を得ることが不可欠である。

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