地方創生法案 特色ある戦略に知恵を絞ろう

朝日新聞 2014年10月16日

民間発の地方創生 「社会的投資」を突破口に

安倍政権が重要政策に掲げる「地方創生」を巡り、国会で本格的な論戦が始まった。

「ばらまきはしない」。こう強調する首相は、各地の地域活性化への実例を引きながら「やればできる」「一緒に挑戦しよう」と自治体に呼びかける。

では、具体的にどんな政策を打ち出すのか。早速取りざたされているのは、1兆円を超える自治体向けの交付金や「ふるさと納税」の拡充などだ。

交付金は、国に納められた税金の一部を自治体に移す仕組みだ。ふるさと納税は、好きな自治体に寄付し、地元自治体などへの税金を軽くしてもらう。最近は過熱気味で、自治体間の税の奪い合いの様相だ。

ともに、国・自治体という「官」の内部での資金の配分を変える制度である。地方が自由に使える財源を増やし、自治体が創意工夫を競う仕組みへと見直していくことは大切だろう。ただ、国も地方も多額の借金を抱え、そもそも税収が足りない現状を忘れてはなるまい。

福祉や教育、環境保護など暮らしに身近な分野でも、行政の手が回らずに放置されている課題は少なくない。地域の活性化策も「官」任せでは知恵や財源に限界があり、縦割りの弊害もなくならない。

NPO(非営利組織)や中小企業、大学などの地域での社会的活動を支えるために、民間の資金を呼び込めないか。その資金のもとに官と民、産や学が集い、知恵を出し合って「自治力」を高めていけないか。

こんな問題意識から注目されているのが「社会的投資」である。

個人や企業が「社会のために」と出すおカネには、まず寄付がある。直接の見返りを求めない、渡し切りだ。

一方で、通常の株式や債券への投資でも、もうけるだけではない何か、を求める動きが広がる。社会貢献度が高そうな企業の株式が注目され、投資信託でも収益の一部を寄付に回す商品が関心を集める。

「社会的投資」は、この両者の中間と言えようか。

自分の生活のことを考えると、多額の寄付までには踏み切れない。ただ、もうけはそこそこ、トントンでもいいから、投じたおカネをすべて社会課題の解決に充ててほしい。そんな「志ある投資」を指す。

公益財団法人「京都地域創造基金」は、地元の住民や企業がおカネを出し合って作られた。理事長を務める深尾昌峰さん(40)の思いはこうだ。

補助金を国から取る。工場を誘致して雇用を生む――。深刻な財政難や国際競争の激しさを考えると、そうした「よそから引っ張ってくる」発想自体が、もはや限界ではないか。

人口減や過疎化で「消滅自治体」すら話題になる厳しい状況の中で、地域社会を支えていくには、おカネの「地産地消」の流れを作ることがカギになる。

発想の起点は、自治体によるメガソーラー(大規模太陽光発電所)の誘致合戦だった。おひざ元の京都市も、東京の大手IT企業グループがからむ事業を呼び込んだが、これでは収益の多くが東京に流れ出し、地元での資金循環の効果が薄れる。

以前から地域興しで縁があった和歌山県印南(いなみ)町と組んで太陽光発電に乗り出した。1年前に立ち上げた「1号機」は、教鞭(きょうべん)を執る大学からの拠出と金融機関からの借り入れで資金をまかなった。初年度の利益は、約1千万円の見込み。この一部で基金を作り、地元のNPOなどへの助成に回す。地域を元気にし、新たな資金を生む好循環を目指した一歩だ。

今月に同県串本町で稼働した「2号機」は、借り入れに加え、個人からの投資受け入れを実現した。より理想に近い「市民発電」だ。

「都市部だけでなく、地方にも資金は眠っている。社会的投資への関心も、確実に広がっている。新たな動きを後押しすることこそが政治の役割ではないか」。深尾さんは言う。

実際、資金はある。株式投資を促す少額投資非課税制度(NISA)の口座開設が相次いだり、税制上の優遇措置をつけたことで祖父母から孫への贈与が急増したりしているのは、その表れだろう。こうしたお金を、個人や家系を超えて社会の中へ導き出せるかどうか。

昨年、英国で開かれた主要国首脳会議(G8サミット)では、キャメロン英首相が社会的投資に関する検討チーム立ち上げを提唱し、9月には課題を整理した報告書が公表された。社会的投資は、財政難や高齢化、低成長に直面する先進国に共通する関心となりつつある。

日本政府も、従来の発想や制度を超えて、民間発の新たな動きに応じていく時ではないか。

「地方創生」は、国のあり方をも問い直している。

読売新聞 2014年10月16日

地方創生法案 特色ある戦略に知恵を絞ろう

人口減少に歯止めをかけ、活力を取り戻すには全国一律でなく、地方の特色を最大限生かした取り組みが重要である。

地方創生の基本理念や国と地方の役割分担などを定めた「まち・ひと・しごと創生法案」が衆院で審議入りした。

法案は、今後5年間の総合戦略の策定を政府に義務づけた。都道府県、市町村にも、それぞれの総合戦略の作成を促している。戦略には、人口維持などの目標や施策の基本的方向性を明記する。

安倍首相は衆院本会議で、「地域の声に徹底して耳を傾け、従来の取り組みの延長線上にない政策を実行していく」と強調した。

民主党の渡辺周氏は、「理念法で具体策がない」と法案を批判した。首相は、「自治体や有識者の知恵を得つつ、総合戦略に盛り込む」と反論している。

法案はそもそも、具体的な人口減対策や地域振興策でなく、その進め方の大枠を定めるものだ。

まず自治体が、地元の地理的条件や伝統、地場産業などを踏まえて、独自の町づくりに知恵を絞る。その自助努力を政府が税財政措置や規制改革で後押しする。そうした方向性は妥当だろう。

各地の先進的な取り組みは、一定の成果を上げている。

島根県邑南町は、良質な和牛や野菜、酪農製品を生かした「A級グルメ」の町づくりを進める。都会の若者をシェフや農業従事者の研修生として積極的に受け入れ、観光振興にも結びつけている。

合計特殊出生率が2・81で全国1位の鹿児島県伊仙町は、「子宝の町」を掲げる。敬老祝い金の一部を子育て支援金に回すなど、地域全体で育児を支えている。

こうした事例は、他の自治体のヒントになろう。

政府は、自治体の総合戦略作りを支援するため、中央省庁の若手官僚を市町村長の補佐役として派遣することを検討している。霞が関の行政面の知見と地方の現場感覚をうまく合体させたい。

石破地方創生相は、使途の自由度が高い新たな交付金制度の創設を検討する考えを示した。「やる気のある地方の提案の競い合いが前提だ」とも語っている。

雇用創出や、若者の定住・移住促進、結婚・出産支援など、具体的な政策目標を定め、交付金の効果をきちんと検証できる仕組みにすることが大切である。

重要なのは旧来型の予算のばらまきを避けることだ。府省の縦割りによる事業の重複や非効率な予算執行も排除する必要がある。

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