政府の怠慢が、アスベスト(石綿)被害を拡大させた。これが司法の結論である。
政府は重く受け止め、今後の対策に万全を期さねばならない。
大阪府南部の泉南地域の石綿紡織工場で働き、石綿肺や肺がんになった元従業員と遺族計89人が国家賠償を求めた2件の訴訟で、最高裁は、82人に対しての国の賠償責任を認めた。
旧労働省の調査で、石綿による健康被害が判明したのは1958年だ。だが、旧労働省が工場に排気装置の設置を義務付けたのは、71年になってからだった。この対応について、最高裁は「著しく合理性を欠く」と結論付けた。
行政の不作為を厳しく批判する判決である。2004年の筑豊じん肺訴訟判決、関西水俣病訴訟判決と同様、規制の遅れによって被害を受けた原告は救済されるべきだ、という最高裁の姿勢が示されたと言える。
石綿工場のほとんどは、中小零細企業だ。最高裁は、資金力の乏しい工場に、労働安全の取り組みを任せきりにした政府の責任も重く見たのだろう。
最高裁は、一部の原告については、賠償額算定のため、審理を大阪高裁に差し戻した。既に14人の原告が亡くなっている。
政府は、和解などで早期の決着を図るべきだ。
耐火性に優れる石綿は70~90年代に大量輸入され、主に住宅建材に用いられた。使用が全面禁止されたのは、2006年だ。
石綿が使われた建物の多くは老朽化しており、解体時の飛散が懸念されている。阪神大震災や東日本大震災でも、家屋の倒壊で大量の石綿が飛散したと言われる。
政府は6月、改正大気汚染防止法を施行し、解体工事を実施する際、発注者に自治体への届け出を義務付けた。無届けでの解体には、罰則が科される。
自治体は、解体現場への立ち入り検査を実施するなど、石綿被害の防止に努めてもらいたい。
肺がんや中皮腫などを発症した人の救済も欠かせない。
石綿による疾病で、労災認定や石綿健康被害救済法の給付認定を受けた人は2万人を超え、今後さらに増えるとみられる。
石綿を吸入してから発症するまでの潜伏期間は、20~50年に及ぶ。過去に吸い込んだのではないか、と不安に思う人は、検診を受けることが大切だ。
政府には、治療法の研究開発に一層の支援が求められる。
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