石綿被害判決 見過ごした政府の責任

朝日新聞 2014年10月10日

石綿被害判決 見過ごした政府の責任

吸い込むと肺に刺さり、がんなどを引き起こす石綿。経済成長の陰で、その被害への対策が軽視されていた。

大阪・泉南地域の石綿加工工場の元労働者らが起こした裁判で、最高裁が1971年までの13年間、やるべき規制を怠った政府の責任を認めた。

労働現場の安全を確保する規制は、産業重視の立場とときに衝突する。最高裁は労働者の生命・健康を守る政府の義務を重くみる考え方をとった。

厳しい労働環境が依然としてなくならないなかで、説得力をもつ判断だ。

政府が規制の影響を慎重に検討するのは当然のことだが、労働者あっての成長であることを改めて確認したい。

判決が言い渡された二つの訴訟のうち、大阪高裁で原告側が敗訴した第1陣については、高裁に差し戻された。2006年の提訴以降でも原告の14人が亡くなっており、救済を先送りすることは許されまい。政府は原告勝訴の第2陣の判断基準に準じて、早期に救済すべきだ。

泉南地域には戦前から石綿紡績工場が集まり、戦後の高度経済成長を支えた。石綿被害の潜伏期間は長く、大半の工場はもうない。被害者は政府を相手に裁判を起こすしかなかった。

戦後、国際機関が石綿の発がん性などを指摘し、80年代に欧米諸国は使用の禁止や使用量の急減などの規制を強めた。しかし、日本では「代替品がない」という業界の抵抗が受け入れられた形で、90年代後半まで相当の量が使われていた。全面禁止されたのは06年のことだ。

同じ年に石綿救済法ができ、広範な被害対策に乗り出した後も、政府は過去の対応に問題はなかったと主張し続けてきた。まずは誤りを認め、被害者に謝罪しなければならない。

有害と知りながら、政府が徹底した対策をとらないまま事態が深刻になることは、これまでの公害や薬害、労災でも繰り返されてきたことだ。リスクと向き合うことに難しさがあるなら、それはなぜなのか政府自身で検証すべきだろう。

石綿被害をめぐっては、今回の裁判も含め、各地の建設現場の労働者や、機械メーカー・クボタの旧工場の周辺住民が原告になったものなど、14の裁判が起こされた。労災決定は全国で06年以降、毎年1000~1800程度出ており、全容がつかめない産業災害といえる。

いまの石綿救済法では救済は不十分という指摘もある。埋もれた被害はないか。判決を機に、再検証するべきだ。

毎日新聞 2014年10月11日

石綿被害判決 国の怠慢もう許されぬ

大阪府南部地域のアスベスト(石綿)関連工場の元従業員らが起こした集団訴訟で最高裁が国の責任を初めて認めた。産業発展を優先し労働者の健康対策を後回しにした国に被害者の救済を迫る当然の判決だ。

読売新聞 2014年10月11日

アスベスト判決 「泉南」の教訓を対策に生かせ

政府の怠慢が、アスベスト(石綿)被害を拡大させた。これが司法の結論である。

政府は重く受け止め、今後の対策に万全を期さねばならない。

大阪府南部の泉南地域の石綿紡織工場で働き、石綿肺や肺がんになった元従業員と遺族計89人が国家賠償を求めた2件の訴訟で、最高裁は、82人に対しての国の賠償責任を認めた。

旧労働省の調査で、石綿による健康被害が判明したのは1958年だ。だが、旧労働省が工場に排気装置の設置を義務付けたのは、71年になってからだった。この対応について、最高裁は「著しく合理性を欠く」と結論付けた。

行政の不作為を厳しく批判する判決である。2004年の筑豊じん肺訴訟判決、関西水俣病訴訟判決と同様、規制の遅れによって被害を受けた原告は救済されるべきだ、という最高裁の姿勢が示されたと言える。

石綿工場のほとんどは、中小零細企業だ。最高裁は、資金力の乏しい工場に、労働安全の取り組みを任せきりにした政府の責任も重く見たのだろう。

最高裁は、一部の原告については、賠償額算定のため、審理を大阪高裁に差し戻した。既に14人の原告が亡くなっている。

政府は、和解などで早期の決着を図るべきだ。

耐火性に優れる石綿は70~90年代に大量輸入され、主に住宅建材に用いられた。使用が全面禁止されたのは、2006年だ。

石綿が使われた建物の多くは老朽化しており、解体時の飛散が懸念されている。阪神大震災や東日本大震災でも、家屋の倒壊で大量の石綿が飛散したと言われる。

政府は6月、改正大気汚染防止法を施行し、解体工事を実施する際、発注者に自治体への届け出を義務付けた。無届けでの解体には、罰則が科される。

自治体は、解体現場への立ち入り検査を実施するなど、石綿被害の防止に努めてもらいたい。

肺がんや中皮腫などを発症した人の救済も欠かせない。

石綿による疾病で、労災認定や石綿健康被害救済法の給付認定を受けた人は2万人を超え、今後さらに増えるとみられる。

石綿を吸入してから発症するまでの潜伏期間は、20~50年に及ぶ。過去に吸い込んだのではないか、と不安に思う人は、検診を受けることが大切だ。

政府には、治療法の研究開発に一層の支援が求められる。

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