産経記者起訴 韓国の法治感覚を憂う

朝日新聞 2014年10月10日

産経記者起訴 大切なものを手放した

韓国の朴槿恵(パククネ)大統領の名誉を著しく傷つけたとして、産経新聞の前ソウル支局長が韓国の検察当局に在宅起訴された。

記事がウェブサイトに掲載されて2カ月余り。処分の決定に異例の長さを要したのは、最後まで迷った結果とみられる。

韓国は、他の先進国と同様に自由と民主主義を重んじる国のはずだ。内外から批判を招くことはわかっていただろう。

韓国の法令上、被害者の意思に反しての起訴はできないため、検察の判断には政権の意向が反映されたとみられる。

その判断は明らかに誤りだ。報道内容が気にいらないからといって、政権が力でねじふせるのは暴挙である。

今回の問題が起きる前から、朴政権の関係者は、産経新聞や同じ発行元の夕刊紙が、韓国を批判したり、大統領を揶揄(やゆ)したりする記事を掲載していることに不信の念を抱いていた。

そんな中、独身女性の国家元首である朴氏の男性問題などが「真偽不明のうわさ」をもとに書かれたことで、怒りが増幅したのだろう。

検察当局は、前支局長のコラム執筆について、うわさの真偽を確認する努力もせずに書いたと指摘した。確かに、この記事には、うわさの内容を裏付けるような取材結果が示されているとは言いがたい。

だが、仮に報道の質に問題があるとしても、公権力で圧迫することは決して許されない。

コラムの主題は、旅客船沈没事故の当日、朴氏が一時「所在不明」だったとされる問題である。この件は韓国の野党も追及しており、起訴を見送れば野党を勢いづかせるとの判断も働いたのでは、との見方もある。

だが、韓国の報道によると、検察当局は、コラムを韓国語に翻訳してサイトに投稿した人物についても名誉毀損(きそん)の疑いで捜査を始めたという。これが事実なら、大統領批判に加わった者は、容赦なく国家権力を発動して狙い撃ちする、と受け取られてもしかたあるまい。

今回の措置は、言論の自由を脅かしただけにとどまらない。

韓国は近年、「グローバルコリア」をスローガンに20カ国・地域首脳会議(G20サミット)や核保安サミットを開催するなど、世界での存在感を着々と強めてきた。平昌(ピョンチャン)冬季五輪の開催は4年後に迫る。

だが、そんな国際社会でのイメージも傷ついた。

かけがえのない価値を自ら放棄してしまったという厳しい現実を、大統領自身が真剣に受け止めるべきである。

毎日新聞 2014年10月10日

産経記者起訴 韓国の法治感覚を憂う

産経新聞の加藤達也・前ソウル支局長が、朴槿恵(パク・クネ)大統領の名誉を毀損(きそん)した情報通信網法違反の罪で在宅起訴された。加藤記者はすでに日本への転勤が決まっているのに、帰国できない状況になっている。

読売新聞 2014年10月10日

産経前支局長 韓国ならではの「政治的」起訴

民主主義国家が取るべき対応からかけ離れた公権力の行使である。

韓国のソウル中央地検が、産経新聞の前ソウル支局長を、情報通信網法に基づく名誉毀損きそん罪で在宅起訴した。産経新聞のサイトに8月に掲載した記事で、朴槿恵大統領の名誉を傷つけたという理由だ。

刑事責任の追及を明言していた韓国大統領府の意向に沿った政治的な起訴だろう。報道への圧力は、到底容認できない。

朴政権に不都合な記事を掲載した日本の報道機関に対し、韓国内の反日感情を背景に、制裁を加える意図はなかっただろうか。

報道の自由は、民主主義社会を形成する上で不可欠な原則だ。

民主政治が確立した国では、報道内容を理由にした刑事訴追は、努めて抑制的であるのが国際社会の常識である。

韓国に拠点を置く海外報道機関で構成する「ソウル外信記者クラブ」は、報道の自由の侵害につながりかねない、と「深刻な憂慮」を表明した。

問題の記事は、韓国有力紙、朝鮮日報のコラムを引用し、4月の旅客船セウォル号沈没事故の当日、朴氏が男性と会っていたという「ウワサ」があると報じた。

別の男性との「緊密な関係」をにおわせる「政界筋」の情報も独自に付け加えた。

起訴状は、こうしたうわさが虚偽であることが確認されたと断じている。前支局長がインターネットを通じて、「虚偽の事実を際立たせた」とも主張する。

前支局長が風評を安易に記事にしたことは、批判されても仕方がない。だが、刑事訴追するのは、行き過ぎである。60日以上に及ぶ出国禁止処分も、移動の自由という基本的人権を侵害している。

産経新聞は、公人である大統領の動静に関する記事は「公益にかなう」と強調し、起訴処分の撤回を求めている。

政治家のように反論の機会がある公人と、それがない私人では、名誉を傷つけられた際の対応に、差があってしかるべきだ。

大統領府が産経新聞に抗議し、当日の行動記録を国会に示したことで、朴氏の名誉は既に回復されたはずではないか。

岸田外相は起訴を受け、「報道の自由と日韓関係に関わる」と遺憾の意を表明した。外相は8月と9月の日韓外相会談で、韓国側に慎重な対応を求めていた。

起訴の強行は、外交問題に発展し、日韓関係の修復を一層難しくしかねない。

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