日米防衛指針 切れ目ない共同対処を可能に

朝日新聞 2014年10月09日

日米防衛指針 拡大解釈が過ぎないか

これは憲法や日米安保条約が許容する防衛協力の姿なのか。拡大解釈が過ぎないか。

日米両政府がきのう、年内の改定をめざす新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の中間報告を発表し、自衛隊が世界規模で米軍を支援する方向性を示した。

後方支援や情報収集、警戒監視、偵察などの分野で、自衛隊と米軍のグローバルな協力を進める内容である。

米軍と肩を並べて攻撃に参加するわけではないが、平時から緊急事態まで「切れ目のない対応」を進め、有事に至る前の米艦防護も可能にする――。

集団的自衛権の行使を認めた7月の閣議決定を受けて、できる限り同盟強化を進めたい政策当局者の本音だろう。

だが日米安保体制は安保条約が基礎であり、ガイドラインは政府間の政策合意に過ぎない。

1978年につくられた旧ガイドラインは、旧ソ連の日本への侵攻を想定していた。冷戦後の97年に改定された現行のガイドラインは「周辺事態」での対米支援の枠組みを整えた。

新ガイドラインは、その周辺事態の概念を取り払い、地理的制約を外すという。

安保条約の基本は、米国の対日防衛義務と、日本の基地提供にある。周辺事態は、安保条約の枠組みや憲法の歯止めと実際の防衛協力との整合性をとるぎりぎりの仕掛けだった。

中間報告に書かれた中身が実現すれば、国会の承認が必要な条約の改正に匹敵する大転換と言える。

安倍政権は憲法改正を避けて解釈を変更したうえ、ガイドラインの見直しで日米同盟を大きく変質させようとしている。

政府・与党内では、閣議決定の中核をなす「武力行使の新3要件」の解釈について見解が食い違ったままだ。公明党は、新3要件を踏まえれば日本周辺の事態にしか対応できず、中東ホルムズ海峡での機雷除去などはできないと主張してきた。

公明党はその主張をガイドラインの最終報告や関連法案に反映させるため与党内で強く働きかけるべきだ。法案審議を来春の統一地方選後に先送りし、日米合意を追認するような、なし崩しの変更は許されない。

一方で注目されるのは、宇宙やサイバー空間での対応が中間報告に盛られたことだ。

情報システムを守れなければ国の中枢が麻痺(まひ)しかねない。新しい安全保障の急所である。防衛協力のあり方を見直すというのなら、むしろこの分野を重視すべきではないか。

毎日新聞 2014年10月09日

日米防衛協力 際限ない拡大を恐れる

日米両政府は、年末改定を目指す日米防衛協力の指針(ガイドライン)について、見直しの中間報告を発表した。憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使などを認めた7月の閣議決定を受けて、新指針は自衛隊と米軍が「平時から緊急事態まで切れ目のない」協力を行うとしている。米軍支援が、地理的にも内容的にも際限なく拡大する懸念がある。

読売新聞 2014年10月09日

日米防衛指針 切れ目ない共同対処を可能に

平時から有事へ、危機の進展に応じて、自衛隊と米軍が切れ目のない共同対処ができる仕組みにすることが肝要だ。

日米両政府が、日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しの中間報告を公表した。平時、日本有事、周辺有事という現指針の3分類はなくす方向で、より迅速、柔軟で実効性ある日米協力を可能にすることが柱である。

1997年の現指針に基づいて99年に成立した周辺事態法は、朝鮮半島有事を念頭に、補給、輸送など様々な対米支援を定めた歴史的な安全保障法制だ。だが、周辺事態の認定のハードルは高く、活用しづらいのは否めない。

北朝鮮の弾道ミサイル発射を、海上自衛隊とともに警戒中の米軍艦船にさえ給油できない、といった問題点も指摘されていた。

武装集団による離島占拠など、平時でも有事でもないグレーゾーン事態の発生時に、自衛隊と米軍が緊密に連携し、効果的に対応する制度を整えることが急務だ。

中間報告が具体的な協力として「アセット(装備品等)防護」を明記したのは重要である。

7月の新政府見解が集団的自衛権の行使の限定容認に加え、グレーゾーン事態での米艦防護を盛り込んだのを踏まえたものだ。海自艦船が攻撃された時と同様の自衛隊法95条に基づく武器使用を、米艦防護にも適用させる。

日本周辺での日米共同の警戒監視活動を円滑にし、双方の信頼関係を高めると評価できる。

集団的自衛権の行使に関する詳細は中間報告に盛り込まれず、年末の策定を目指す最終報告に先送りされた。日米同盟の抑止力を強化するための中核的要素であり、新指針では、明確かつ具体的に記述する必要がある。

中間報告は、アジアと世界における日米協力の強化や、豪州や韓国を念頭に、地域の同盟国やパートナーとの3か国・多国間の安保協力の推進も盛り込んだ。

現指針の策定後、日米の安保協力は、インド洋での給油、イラク復興支援、海賊対処、災害救援など、世界規模に拡大している。

新指針にこの実態を反映し、さらに多様な国際平和協力活動を打ち出すことは、地域の平和と安定に貢献する日米同盟の「公共財」的性格を強める意義を持とう。

米国は中間報告発表に先立って韓国に内容を説明し、理解を求めた。適切な対応だ。日本も、日本側の意図や法整備方針を周辺国に丁寧に説明し、指針改定の透明性を高めることが欠かせない。

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