米一般教書演説 経済危機、着実な克服を

朝日新聞 2010年01月29日

オバマ演説 逆境でも内向きを排して

「チェンジ(変革)を実現できるか、確信を持てなくなった人が多くいる」。オバマ米大統領は初めての一般教書演説で、こう率直に認めた。

熱狂的な支持を受けて当選したオバマ氏はほぼ1年前、同じ議会の壇上で「我々は再生する」と力強く宣言したものだ。

だが、その後、不況からの脱出が軌道に乗ったとはとても言い難い。この日の演説も3分の2が、米国経済の立て直しにあてられた。

「2010年の一番の焦点は、雇用だ」と大統領は宣言した。米国の輸出を5年間で倍増させ、200万人の雇用を創出すると公約した。

失業率は10%に達し、大統領の支持率は低落している。今月のマサチューセッツ州の連邦上院補選では、民主党の強固な地盤であるにもかかわらず、与党候補が敗北した。政権への有権者の不満が高まっているのは明らかだ。今年11月の中間選挙を控えて、演説には危機感があふれていた。

中間所得層へのアピールが欠けてきたという反省なのだろう。子育て世帯への支援策や中小企業向けの新規減税を打ち出した。高速鉄道網の建設などインフラ投資や、代替エネルギー開発による雇用創出も進めていく。

「米国が第2位になることは受け入れられない」と、大統領は経済力でも米国の地位を維持する決意を示した。

しかし、財源には限りがある。雇用に直接の効果があがるような新たな大型の景気対策をうつ余裕はすでにない。過去最大規模にふくらんだ財政赤字への懸念も募る。大統領は一部の政策支出を3年間凍結する一方、超党派の委員会を設置して財政規律を保つとも語った。

こうしたジレンマは、日本を含む先進諸国に共通する苦しみだ。そして、いくら大胆な成長戦略を描いてみせても、雇用や景気への成果が生まれてくるまでには時間がかかる。

オバマ政権の誤算は、経済危機対策で巨大金融機関を救済しながら、日々の暮らしにあえぐ勤労世帯への手当てが後手に回ってしまったことだろう。社会的弱者へのセーフティーネットを完備しないままでは「米国の再生」はない。医療保険改革も議会でもみくちゃにされ、めどが立たない状態だ。

残念だったのは、対外政策で新機軸がほとんどなかったことだ。テロ対策の強化や核軍縮への努力は強調したが、地球温暖化対策での新たな国際枠組みづくりの問題は素通りされてしまった。経済の苦境を考えれば内政重視は理解できることだが、米国が内向き一辺倒になっては困る。

「われわれはあきらめない」とオバマ大統領は演説で述べた。新大統領は米国を変え、世界を変える。そんな私たちの期待を忘れてほしくはない。

毎日新聞 2010年01月29日

米一般教書演説 経済危機、着実な克服を

これほど内政に、特に経済に時間を割いた一般教書演説も近年珍しいだろう。5年で輸出を倍増させる「国家輸出戦略」と200万人雇用創出、中間所得層中心の減税や財政赤字削減--。米議会の演壇に立ったオバマ大統領は、新たな施策を打ち出しつつ笑顔はあまり見せない。

議員たちも時に立ち上がって拍手を送るが、議場の空気はいま一つ盛り上がりを欠くようだ。オバマ政権の政策が経済危機克服につながるか、誰も確たることが言えないからだろうか。オバマ氏の初の一般教書演説は、例年の演説とは趣が異なり、米国が直面する経済危機の深刻さを再認識させる場にもなった。

11月の米国の中間選挙ではオバマ氏が支持基盤とする民主党の苦戦が予想されている。もともと中間選挙では政権与党が議席を減らす傾向があるが、民主党の牙城・マサチューセッツ州での連邦議会上院補選(19日)で同党候補が敗北し、オバマ政権への強い逆風を感じさせた。

では、この日の演説が、補選敗北を乗り越えた反転攻勢の第一歩になったかといえば、きわめて疑問と言わざるを得ない。

大統領は共和党に超党派の協力を呼びかけ、第二次大戦時のノルマンディー上陸作戦を持ち出して「米国は成功するよう運命づけられている」と国民を鼓舞した。大統領選のスローガンとした「チェンジ(変革)」については、変革が容易だと言ったことはないと言い訳めいた言葉も口にした。

生活苦にあえぐ人々と同じ目線で率直に語ろう。そんな現実的な姿勢を感じさせた点は評価できる。だが、中間選挙に向けて対決色を強める共和党が医療保険制度改革の法案審議などで協力するかどうか。大統領支持率が回復に向かう保証もない。オバマ政権の奮闘に期待したいが、前途はなお多難と言うしかない。

演説では外交や安全保障への言及は少なく、「内向き」の印象を与えたことも否めない。01年の同時多発テロ以来、「テロとの戦争」を続けた米国にとって、今は一段落の状況といえないこともないが、世界の脅威が消えたわけではない。

確かに、オバマ大統領は「核兵器なき世界」や米露核軍縮に言及し、「オバマの戦争」と言われるアフガニスタン情勢やイラクの現状にも触れた。だが、核開発を通して国際社会と対立する北朝鮮やイランに強いメッセージを発信したとは言いがたい。中東和平に触れなかったことも、イスラム世界の対米不信につながりかねない。

経済の立て直しは重要とはいえ、世界の安全と安定に対する米国の関与という観点では、物足りなさも残る演説だったといえよう。

読売新聞 2010年01月29日

一般教書演説 オバマ大統領は巻き返せるか

オバマ米大統領が初の一般教書演説を行い、雇用創出を今年の最優先課題に掲げた。

演説は、全体の3分の2以上を経済政策に費やす異例の内容となった。国民の不満が根強い雇用対策と財政再建に焦点をあてたのがポイントだ。

経済の立て直しをアピールすることで、急落する支持率の反転を目指す狙いがあろう。

就任から1年。金融危機は最悪期を脱したが、「力強く繁栄する米国の復活」という公約実現には程遠い。景気の低迷で米国の内向き傾向は強まり、「変革(チェンジ)」を掲げた当時の熱狂は失われつつある。

昨年は約416万人の雇用が失われ、失業率は7・6%から10%台へと悪化した。2009会計年度(08年10月~09年9月)の財政赤字も、過去最悪の1兆4000億ドル超に膨らんだ。

二つの州知事選とマサチューセッツ州の上院補欠選で、与党・民主党候補が相次いで敗れたのも、経済失政への批判が主因だ。

大統領は、雇用創出の中心は中小企業にある、として、積極的な政策を打ち出した。新規雇用への税控除など中小企業減税や、中小企業融資強化策だ。

輸出を「今後5年間で倍増」させることで、200万人の雇用を確保すると言明した。

財政再建では、安全保障と、医療・教育など国民生活に直結する項目を除いた予算の伸びを、11年度から3年間、凍結すると表明した。財政赤字の拡大に歯止めをかけるのが狙いだ。

国民の間に広がる将来の増税不安や、共和党の「大きな政府」批判に配慮したものだろう。

大統領は、公的資金を投入した大手金融機関に金融危機責任税を課すことや、厳しい金融規制への意欲も改めて示した。ウォール街への対決姿勢も、支持率回復を狙った起死回生策といえる。

内政の最重要課題としてきた医療保険制度改革については、引き続き議会に、法案を一本化して再可決するよう求めた。

大統領が演説で示した政策課題は多彩だが、多くは、議会で法案が成立しなければ実行できない。11月の中間選挙に向け、民主党と共和党の対決色が強まる中、それは容易ではない。

内政で大統領の指導力が揺らぐようでは、外交・安全保障政策に悪影響が及ぶ懸念がある。

大統領が議会を働かし、政策遂行につなげられるのか。政治手腕が問われている。

産経新聞 2010年01月29日

オバマ政権1年 日米台の連携を強化せよ

就任1年を迎えたオバマ米大統領は初の一般教書演説で、「米国が世界第2の地位になるのは許容できない」と訴え、経済改革や外交面で世界の指導力を回復する決意を強調した。

この1年間、米国は高失業率と景気低迷のために内外で自信を失い、アジア太平洋では中国の台頭とともに日米同盟の不協和音が目立ってきた。米国の指導力復活と同盟の活性化が何よりも求められているのはいうまでもない。

その意味で教書演説では触れられなかったが、最近の米中関係の変化に注目したい。

オバマ政権はミサイル防衛(MD)システムを含む台湾への武器売却に踏み切る決定を下し、米グーグル社に絡むネット検閲問題でもクリントン国務長官が中国を名指しで「検閲は人権や自由の普遍的価値に反する」と批判した。

オバマ氏が昨秋の訪中前に見送ったチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世との会見も、今年前半には実現させるという。

昨年2月、クリントン長官が初訪中した際には「人権よりも経済が大切」と述べ、7月に行われた米中戦略経済対話でも米国側が目立った中国批判を避けてきたのとは大きな違いといえよう。

とりわけオバマ政権が決めたPAC3を含む台湾武器売却計画はブッシュ前政権の政策を継承し、安全保障上も重要な意味を持つ。中国は中・長距離ミサイル開発と海軍力の強化を進め、日本の伊豆諸島やグアム・サイパンなどを結ぶ「第二列島線」への軍事的進出を狙っているとされる。

日本、台湾だけでなく米国の安全にも大きな影響をはらむ中国の意図に対応する上で日米、台湾が連携できればきわめて有益だ。

こうした対中姿勢の変化には、内政面での支持率低下や「弱腰外交」という議会からの批判を回避する狙いもありそうだが、中国への備えの認識を高める意味では評価してよいだろう。

その場合に問われるのは、同盟国日本の対応だ。良好な米中、日中関係をめざすのは大切だが、その大前提が安全保障の備えにあることを忘れてはならない。

オバマ氏の教書演説には中国批判もなかったが、同盟50周年を迎えた日米同盟への言及もなかったのは残念だ。鳩山由紀夫政権は米中関係の変化を認識し、普天間飛行場移設問題の早期決着などで同盟の盤石化を図るべきだ。

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