ノーベル賞 世界変えた青い光を誇りたい

朝日新聞 2014年10月11日

ノーベル平和賞 教育こそ世界の未来

国籍も宗教も性別もかかわりなく、子どもは誰も、守られる権利や育つ権利などをもつ。

人類が20世紀にたどりついた原則を定めた「子どもの権利条約」が国連で採択されて来月、四半世紀を迎える。

世界の現実をみると、その実現にはまだはるか遠い道のりがあると言わざるを得ない。

貧困や戦乱、差別など様々な理由で、教育の機会を奪われる子が少なくない。国連児童基金によると、世界の子どもの15%が働かされているという。

そんな苦境の子どもを救おうと尽力してきた南アジアの2人にノーベル平和賞が贈られる。

インドの男性カイラシュ・サティヤルティさん(60)と、パキスタン出身の女性マララ・ユスフザイさん(17)。

先進国も新興国も、自国の経済成長ばかりに関心を集中させがちな時代である。置き去りにされる子どもたちに少しでも思いをはせる好機と考えたい。

サティヤルティさんは、南アジアから児童労働をなくす運動に長年取り組んできた。その活動団体が80年以降に救った子どもは8万人をゆうに超す。

その訴える言葉は常に説得力に満ちている。代表的な例は、南アジアのサッカーボール産業である。ボールを縫う仕事をさせられている多くの貧しい子たちが、どれほどボールで遊べる日を夢見ているか、と。

史上最年少で平和賞を受けるマララさんは今や、女性教育の権利を訴える世界の旗手だ。

学校に通っていたパキスタンで過激派から銃撃されたが、一命を取りとめた。英国移住後も高らかに声を上げ続けている。

残念ながら、パキスタンとインドはこれまでしばしば対立し、紛争も経験した。その一番の被害者は子どもたちだった。

ノーベル賞委員会は、2人が「教育のために、過激思想に立ち向かう共通の闘い」にあることを重く見たと授賞理由で表明している。

それなりの国力を持ちながら、核兵器を保有する一方で、なぜ自国の宝である子どもたちの教育に十分な力を割けないのか。授賞には、そんな警告も込められているだろう。

子どもの窮状は、日本にとっても、決して他人事ではない。子の貧困率は近年、最悪となり、放置される子どもの事件もあとを絶たない。

子どもを守り、学校に通わせるのは、大人と社会の義務である。高齢化に悩む先進国であれ、開発をめざす途上国であれ、子どもの健やかな成長よりも確かな未来への道はない。

毎日新聞 2014年10月11日

マララさん受賞 子供の未来を守ろう

子供の教育の権利を訴えてきたパキスタンの少女マララ・ユスフザイさん(17)と、児童労働への反対運動に取り組むインドの人権活動家、カイラシュ・サティヤルティさん(60)に今年のノーベル平和賞が授与されることになった。マララさんは女子教育を敵視する過激派に襲われたが奇跡的回復で活動を再開し、世界に感動の輪を広げ、史上最年少のノーベル賞受賞者となった。勇気と信念が評価されたことを祝福したい。

読売新聞 2014年10月11日

ノーベル平和賞 テロに屈しない少女への栄誉

銃撃にも屈しない少女の強い意志と勇気が称賛されたのだろう。

パキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)に、今年のノーベル平和賞が贈られることになった。イスラム過激派の襲撃で瀕死ひんしの重傷を負った後も、女性が教育を受ける権利を訴え続けてきた。

インドで不当な労働を強いられている子供の救出にあたるカイラシュ・サティアルティさん(60)への授賞も決まった。

ノルウェーのノーベル賞委員会は授賞理由について、2人による「全ての子供が持つ教育の権利のための闘い」を挙げた。

戦争や、いわれのない抑圧が、子供たちから教育を受ける機会を奪っている。そんな現実を世界が再認識し、問題解決への決意を新たにするきっかけとしたい。

マララさんは、ノーベル賞のすべての部門を通じ、史上最年少での受賞となる。

パキスタンでは女子教育に反対するイスラム過激派が、多くの学校を破壊し、女子の通学を妨害している。そうした実態を、ブログへの投稿などで世界に発信し、一躍注目を集めた。

2年前に通学バスで帰宅する途中、過激派の銃弾を頭部に受け、一時は生死の境をさまよったが、奇跡的に回復した。

国連本部に招かれた際の演説では、「1人の子供、1人の教師、1冊の本と1本のペンが世界を変える」「過激主義者は本とペンを、教育の力を恐れている」と、教育の大切さを訴えた。毅然きぜんとした態度が、世界中に感動を与えた。

今回の平和賞授賞は、女性蔑視などの人権侵害や、暴力を繰り返すイスラム過激派の振る舞いは、決して看過できないという、強いメッセージとなろう。

マララさんの活動に共鳴して設立された基金は、パキスタン国内はもとより、シリア内戦による難民の子供や、教育を受けられないナイジェリア女性の援助などに、幅広く活用されている。

一方、サティアルティさんは、大勢の幼い子供が無理やり親から引き離され、農場などで働かされている問題を糾弾してきた。これまでに8万人とも言われる子供を労働から解放したという。

マララさんらへの授賞に勇気を得た人々が立ち上がり、子供の権利を守る運動が、世界に広がることが望まれる。

正しい教育の普及は、偏見や差別、貧困をなくし、問題を話し合いで解決する社会を作るうえで不可欠である。

朝日新聞 2014年10月08日

ノーベル賞 地道な研究の土壌守れ

発光ダイオード(LED)の原理は知らなくても、現代の先進国でLEDの恩恵にあずかっていない人はほとんどいないだろう。

電気を直接光に変えるから省エネで長寿命、小型の照明が可能になった。この10年ほどで、交通信号やLED照明、大型ディスプレー、携帯電話などに爆発的に使われるようになった。

さらに半導体レーザーに道を開き、記憶容量の大きいブルーレイディスクが実現した。

今年のノーベル物理学賞は、LEDの中でも最も難しかった青色LEDの実現で世界に貢献した3人の日本人研究者に贈られることになった。社会に役立った研究者に賞を贈ろうというノーベルの遺志に沿うものだ。

赤崎勇・名城大教授と天野浩・名古屋大教授の師弟は、名古屋大で明るく輝くLEDに欠かせない良質な結晶を作った。世界の多くの研究者があきらめた窒化ガリウムという物質にこだわり続けた末のことである。

中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授は、徳島県の企業研究員時代に、失敗に失敗を重ねながら結晶を大きくする方法を開発し、青色LEDの製品化にこぎつけた。

赤、緑、青の光の三原色のLEDができれば、光革命が起きることは世界中の研究者がわかっていた。しかし、青色だけは困難を極め「20世紀中には不可能」とまで言われていた。

3人に共通するのは、愚直なまでに一つの道を追求し続けたことである。

その粘り強さをたたえる一方で、今の日本でもこうした地道な研究が実を結ぶだろうかと心配せずにいられない。

目先の成果を追い求める風潮が強まる一方で、企業研究者の貢献が軽視される傾向が、あちこちで見られるからだ。

大学では、研究資金の配分に競争の要素が色濃くなって、短期的な成果が求められるようになった。今でも赤崎さんや天野さんのような研究に、成功までの時間が与えられるだろうか。

中村さんは世界的発明にもかかわらず、所属企業で厚遇を得てはいなかった。

中村さんは企業を辞め、米国の大学へ転出。自らの特許権にもとづく「相当の対価」を求めて古巣を提訴し、最終的に8億4千万円の支払いで和解した。

中村さんの異議申し立てから約10年。果たして、企業は社員に十分、報いるようになっているのだろうか。

イノベーションを掲げながら芽を摘んではいないか、喜ぶだけでなく施策も点検したい。

毎日新聞 2014年10月08日

3氏に物理学賞 21世紀輝かす照明革命

青色発光ダイオード(LED)を開発した3人の日本人に今年のノーベル物理学賞が贈られることが決まった。日本の物理学賞受賞はこれで10人になる。

読売新聞 2014年10月08日

ノーベル賞 世界変えた青い光を誇りたい

日本の技術開発の底力が、世界に示された。

青色の発光ダイオード(LED)を発明し、実用化した日本人研究者3人に、今年のノーベル物理学賞が贈られる。

名城大の赤崎勇教授、名古屋大の天野浩教授、米カリフォルニア大の中村修二教授である。栄誉を心から称えたい。

青色LEDは「実現は不可能」と言われていた。

赤崎氏は、ガリウムという物質をもとに、特殊な結晶を合成すれば青い光を出すのではないか、と考えた。当時、研究室の大学院生だった天野氏と実験を重ね、1989年に初めて、青い光を出すことに成功した。

既存の赤、緑のダイオードと合わせ、光の三原色がそろい、これらを混ぜ合わせることで多彩な色が表現できるようになった。

結晶の大量生産が難題だった。徳島県内の化学会社にいた中村氏が93年、製造法の開発に成功し、普及に道筋をつけた。

着想から実用化まで、すべての過程が日本人研究者によって成し遂げられたことが誇らしい。

LEDは、今日の情報社会を支えている基盤技術の一つだ。コンピューターによる大量の情報処理・伝達には欠かせない。交通信号や大型ディスプレー、カメラのフラッシュなど、身近なものにも幅広く使われている。

さらに、寿命が長く、電力消費量が少ない省エネ型の照明として、旧来の白熱電球や蛍光灯に取って代わりつつある。地球温暖化対策上も、重要な技術である。

製造法に関しては、特許を巡る訴訟もあったが、3人同時の受賞が決まったのは、科学の進歩と社会の発展に等しく貢献したと判断されたからだろう。

日本のノーベル賞受賞者は、これで22人になる。このうち、自然科学分野が19人を占める。日本の研究者の優れた発想力と技術力の証しと言えよう。

気がかりなのは、日本の研究現場で、人材不足や競争力の低下が深刻化していることだ。成果が出るまでに手間や時間がかかる技術開発分野に、若手の研究者が集まらなくなっている。

科学技術水準の目安となる論文発表数は、2000年前後は世界2位だったが、現在は中国などに抜かれ、5位に低迷している。

今回の受賞は、科学を志す若者に大きな夢を与えるだろう。激しい国際競争の中で苦戦を強いられている日本の「もの作り」が再び活性化することも期待したい。

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