中東のイスラム過激派組織「イスラム国」に、世界各地のテロリストや過激思想の持ち主が合流する。そんな危険な現状は放置できない。
国連安全保障理事会が、テロ目的の外国渡航者やその支援者を処罰するための法整備を加盟国に義務づける決議を採択した。
シリアなどで勢力を拡大するイスラム国への外国人戦闘員の流入を阻止するのが目的だ。イスラム国から出身国に戻った戦闘員によるテロを防ぐことも目指す。
オバマ米大統領は「80か国以上から1万5000人以上の外国人戦闘員がシリアに渡った」と指摘した。イスラム国の思想に共鳴する若者らがインターネットなどによる勧誘に応じている。
国際社会は、イスラム国の脅威に対する危機感を共有している。特に、多数のイスラム教徒移民を抱える欧州諸国は、決議を受けた法整備などに熱心だ。
フランス下院は、過激な活動を計画する仏国籍者の旅券の一時剥奪や、テロを正当化するウェブサイトの閲覧制限を柱とするテロ対策法案を可決した。英国も、過激派の旅券の一時剥奪や旅客機搭乗拒否などを検討している。
日本政府は、テロ目的の渡航を刑法など現行法で取り締まる方針だ。テロ組織への資金の流れを遮断する新法も制定する方向で調整している。日本でも、テロリストの動きを封じたい。
懸念されるのは、イスラム国がアジア太平洋地域のイスラム教徒に急速に浸透していることだ。
米太平洋軍司令官によると、この地域から約1000人が、イスラム国への参加を目的にイラクやシリアに向かったという。
世界最多の約2億人のイスラム教徒を抱えるインドネシアなど東南アジアの複数の過激派組織がイスラム国支持を表明している。支援金を集めている組織もある。
ウイグル族と当局との衝突が続く中国・新疆ウイグル自治区からイスラム国に参加したイスラム教徒も一定数いるとされる。
テロ拡散の警鐘となったのは、オーストラリア当局が国内でイスラム国支持者15人を拘束した事件だ。市民を標的にした無差別殺人テロを企てていたという。
アジアでイスラム国に対する共感が広がる背景に、貧困や腐敗の蔓延など、社会の不条理への強い不満があるのは間違いない。
イスラム国の更なる浸透を防ぐには、こうしたアジア各国の土壌を中長期的に改革する、粘り強い努力も欠かせない。