香港民主化デモ 流血招く鎮圧より対話だ

朝日新聞 2014年10月03日

香港デモ 長官選のあり方再考を

「雨傘革命」と呼ばれる大規模な抗議行動が香港で続いている。警官隊の催涙ガスを傘で防いだことに由来するという。

中心街の大通りを埋め尽くす人びとの数は、香港の自治が脅かされていることへの危機感を表している。

過去のデモに比較的穏やかに対処してきた香港警察が今回、催涙ガスを使ったことは、市民の驚きと反発を招いた。さいわい犠牲者は出なかったが、89年の北京・天安門を思い出した人も少なくない。

警察はこれ以上の実力行使を控えるべきだ。万が一にも、香港駐留の中国軍部隊が出動することがあってはならない。

今回のデモは、香港トップの行政長官を選ぶ3年後の次期選挙をめぐる対立が招いた。

香港史上初めて全有権者による普通選挙をすることになっている。問題は、候補者の資格を与えられる人の決め方だ。

中国と香港当局は、各界代表1200人による指名委員会で候補者を2~3人に絞る制度にしようとしている。事実上、中国寄りの人物しか立候補できなくなり、中国に批判的な民主派は排除される。

これに反発する学生が立ち上がり、多くの市民が同調した。街頭が長く占拠される事態により経済や観光への影響を心配する声もあるが、これまで学生らは冷静に行動しており、多くの国々にも共感を広げている。

候補者の事前指名制は、香港の憲法にあたる香港基本法に明記してある。それを実施したまでというのが中国の言い分だ。しかし普通選挙にはそれを支える精神というものがある。立候補をしにくくし、異なる立場、意見の候補者が自由に競うことを妨げる制度は正当性を欠いていると言わざるを得ない。

中国領になっても、国際金融都市・香港は大陸と異なる自治領域を維持している。この「一国二制度」の知恵が、97年に英国から返還された当時の共産党指導部の選択だった。しかしその後、歴代政権は、残念ながら「二制度」より「一国」を強調しがちだ。

中国政府はいま、抗議行動の報道を厳しく規制しており、ネットなどで見られないように管理している。香港の動向が大陸各地に影響することを恐れている証拠だろう。

行政長官選挙の制度設計は見直し、思想や主張にかかわらず、だれにでも立候補の道を開くことを検討すべきだ。それで香港の自治と繁栄がいっそう保障されることはあっても、損なわれることはない。

毎日新聞 2014年10月04日

香港学生デモ 民主化は普遍的願いだ

中国の特別行政区である香港で2017年の次期行政長官選挙の制度改革に抗議する学生らの大規模なデモが続いている。アジアの金融センターであり、各国の企業も拠点を置いている大都市だ。各国メディアも先月末のデモ開始以来、大きなニュースとして報じ、世界的に関心が高まっている。

読売新聞 2014年10月19日

香港抗議デモ 強制排除で安定は得られない

香港の安定回復に必要なのは、実力の行使ではない。対話を通じて「高度な自治」を守らない限り、持続的な安定を実現することはできない。

香港警察は、政府庁舎の周辺道路で、学生や民主派団体支持者らのデモ隊を強制排除した。衝突が起き、数十人が逮捕された。

学生らがデモを始めたのは9月下旬だ。中国の習近平政権が決めた“民主派排除”の行政長官選挙制度の撤回を求めている。

デモの長期化に伴い、多くの住民が経済的損失や生活上の不便に不満を示し始めた。

香港政府の強制排除の決断にはこうした世論の分裂に乗じて、勢いに陰りが見えるデモ隊をじり貧状態に追い込む狙いがあろう。

ところが、排除に加わった警官数人が、無抵抗のデモ参加者を暴行する模様がテレビで放映され、住民に衝撃を与えた。

政府には誤算だったはずだ。梁振英・行政長官は、懸案となっていた政府と学生の対話に応じる意向を表明した。ただ、行政長官選挙制度の見直し要求はあくまで拒否する方針を強調している。

対話姿勢の一方で、デモを完全に強制排除する時機をうかがう、硬軟両様の構えと言えよう。

これでは、対話表明が、政府批判を一時的にかわすための方便と見られても仕方あるまい。習政権が決めた有名無実の「普通選挙」を住民に押しつけるのでは、香港特有の「高度な自治」を維持したことにはならない。

力による異論の抑圧は、香港の「中国化」にほかならず、「一国二制度」の自殺行為と言える。

その意味で、デモ反対派が、学生を支持する日刊紙の社屋を包囲し、新聞発行を妨害しているのは看過できない。香港政府は、デモ反対派の業務妨害を取り締まるなど、報道の自由を守るべきだ。

問題の根源は、習政権が香港の自治を軽視し、「北京支配」を一方的に強めていることにある。

共産党機関紙・人民日報はデモについて、政権転覆を狙う「革命」と見なす論評を掲載した。1989年の天安門事件時と同様、「動乱」との表現も使った。デモ隊への厳しい姿勢が際立っている。

今週の党中央委員会総会や北京で来月開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を前に、習政権が事態の収拾を急いでいるのは間違いない。

だが、人権を軽視した実力行使は、国際社会の批判を高めるだけだ。習政権が熱望する「APECの成功」はおぼつかない。

産経新聞 2014年09月30日

香港民主化デモ 流血招く鎮圧より対話だ

香港の民主化後退に民主派団体や学生らが抗議行動を続けている問題は、中心部での座り込みを警官隊が催涙弾を使って排除に乗り出し、緊迫した状況となった。

中国は、2017年に予定される香港特別行政区の次期行政長官選びで直接選挙(普通選挙)の導入を認める一方、親中派から成る指名委員会で候補を事前選考し、民主派を事実上、排除する仕組みを決定した。

名ばかりの普通選挙に抗議運動が起きるのは当然である。

中国は1997年に香港が英国から返還される際に、「一国二制度」下での「高度な自治」を保証した。香港トップの候補者の恣意(しい)的な選抜は「国際公約」違反であり、撤回すべきである。

抗議行動は、中心部の金融街、「セントラル(中環)」の占拠を目指して26日に始まった。民主派は近隣の幹線道路や繁華街に陣取り、デモ継続を宣言している。

梁振英行政長官は「街頭占拠は違法行為だ」とし、より強硬な措置も辞さない構えだ。

すでに民主派と警官隊の衝突で多数の負傷者が発生し、拘束された者も少なくない。

民主派や学生らの平和的なデモをさらに暴力的な手段で鎮圧すれば、流血の事態となる。絶対に避けなければならない。香港当局に求められているのは、真の普通選挙に向けた対話である。

週明けの香港株価は急落するなど経済への影響も目立ち始めた。市場では、デモが拡大し長期化すれば、金融センターの機能に支障が出るとの見方も出ている。

香港は英国譲りの、アジアで最も成熟した金融センターだ。それは自由で規範重視の社会に下支えされている。約束が反故(ほご)にされて民主化が後戻りすれば、香港の信用も価値も傷つくことを香港、中国当局とも認識してほしい。

中国の習近平国家主席は最近、台湾野党党首らとの会見で、統一には「一国二制度が最も良い」と述べた。香港の現状を見て台湾側が納得するはずがあるまい。

それにしても、「一国二制度」合意の当事国である英国から民主化を強く後押しする声が聞こえず、動きも見えないのはどうしたことか。

英国に限らず、米国や他の欧州諸国、そして日本も、中国に対して公約の順守を促すべく、強く働きかけてもらいたい。

読売新聞 2014年10月02日

香港抗議デモ 混乱の長期化が懸念される

1997年に英国から中国に返還されて以降、香港がこれほどの混乱に陥ったことはない。習近平政権に、政治的難題が突き付けられている。

香港行政長官選挙の民主化を求める学生や、民主派団体の支持者らが、中心部の政府庁舎周辺や金融街、繁華街などを占拠する状態が続いている。中国の建国記念日にあたる1日も、大勢の学生らが中心街に集結した。

交通機関がマヒするなど、市民生活にも支障が生じている。憂慮すべき事態である。

中国の全国人民代表大会(全人代)が8月、香港の2017年行政長官選挙の新制度を決定したことが、混乱を招いた発端だ。

習政権は、有権者が直接投票する「普通選挙」導入を初めて認めたものの、親中派以外は事実上、立候補できない仕組みにした。

香港は一国二制度の下、「高度な自治」が法的に保障されている。学生たちが「偽の普通選挙だ」と反発したのは理解できる。米大統領報道官も「香港市民の強い願いを支持する」と表明した。

これに対し、香港当局は、催涙弾や催涙スプレーを使い、授業のボイコットや街頭デモを繰り返す学生らの排除に乗り出した。多数の逮捕者も出ている。

梁振英・行政長官は、今回の混乱について、「長期間に及ぶ」との見通しを述べた。早期収拾に有効な手立てを持たない当局の苦しい内情が見てとれる。

カギを握るのは、習政権の出方である。占拠を「社会の安定を破壊する違法行為」と断じている。学生らの要求をのめば、香港統治が思うようにできなくなるとの懸念があるのだろう。

1989年の天安門事件以来、封じ込んできた国内の民主化要求の再燃につながるとの危機感があるのも間違いない。

台湾に一国二制度の適用を図る中台統一戦略にも、狂いが生じよう。少数民族地域では自治要求が一層、強まるのではないか。

北京主導の強引な統治が限界に達しつつある。香港の現状が、それを如実に物語っている。

武力鎮圧という最悪の事態は避けねばならない。習政権には、香港の自治を尊重し、対話によって解決する姿勢が求められる。

混乱の影響が、株価の下落や銀行の休業など、経済面にも及び始めているのは気がかりだ。

国際金融センターの一角を占める香港の混乱が長引けば、日本を含む世界の金融市場の波乱要因にもなりかねない。

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