企業の景況感 軽視できない円安の影

朝日新聞 2014年10月02日

日銀短観 経済は分断されるのか

円安の恩恵を受けられるかどうかで、景況感も分かれてしまう。それが、いまの日本経済、そしてアベノミクスの現実のようだ。

日銀短観の9月調査で、大企業・製造業の業況判断指数が2四半期ぶりに改善した。しかし同じ製造業でも、中堅企業や中小企業では指数が悪化し、特に中小企業では1年ぶりにマイナスに落ち込んだ。円安が収益改善につながるグローバル企業と違い、中小企業にとって円安は、輸入原材料の価格高騰につながるなど負の側面も多い。

非製造業では、大企業でも中堅、中小企業でも景況感は悪化した。非製造業が頼る内需がふるわないからだ。

心配なのは個人消費だ。総務省の家計調査によると、消費支出は4月から8月まで5カ月連続で前年同月を下回り続けている。東日本大震災があった2011年3月から11月まで9カ月連続でマイナスを記録して以来の長期の低迷だ。

消費増税前の駆け込み需要の反動や、夏場の天候不順など不振の理由はいくつかある。中でも大きいのは、賃金が十分に伸びていないことだ。名目の給与総額は増えている。しかし物価上昇分を差し引いた実質賃金は昨年7月以降、前年を下回り続けている。

特に苦しいのは低所得層だ。家計調査をもとに所得階層ごとの消費の増減を、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが分析したところ、低所得層では消費増税前の駆け込み消費は少なかったのに、増税後の支出は大きく落ち込んでいる。駆け込み消費が多かったうえに、増税後も消費が増えている高所得層と対照的だ。

消費の低迷は、生産にも影響し始めた。8月の鉱工業生産指数は2カ月ぶりに低下している。

大胆な金融緩和でデフレから脱却し、円安で収益が改善した企業が設備投資や賃金を増やし、経済全体が潤う。アベノミクスが描く成長の姿だ。安倍首相は「経済の好循環が生まれ始めている」と強調する。もちろん、今回の日銀短観にも、企業の設備投資計画が上方修正されるなど、明るい材料はある。

しかし、現状では、賃金は上昇しているものの物価上昇には追いつかず、消費が縮み、生産も減少、そこに円安で物価が上昇するという、悪循環が生じかねない。

産業界も消費者もアベノミクスの恩恵が偏在して分断されていないのか。政策当局には一層の目配りが必要になっている。

毎日新聞 2014年10月02日

企業の景況感 軽視できない円安の影

日銀が発表した9月の短観で、非製造業の景況感が悪化した。製造業でも、大企業以外は落ち込んだ。円安がその企業の業績にプラスとなるかどうかで明暗が分かれたようだ。

読売新聞 2014年10月02日

日銀短観 景気回復の足取りはまだ重い

消費税率引き上げ後の景気減速は長引くのではないか。そんな懸念を抱かせる内容である。

9月の日銀企業短期経済観測調査(短観)は、景況感を示す大企業・製造業の業況判断指数が13と、前回6月調査より1ポイント改善した。

小売りやサービスなど国内需要への依存度が高い大企業・非製造業は、6ポイントの大幅悪化だった。中小企業は製造業、非製造業とも2四半期連続で指数が低下した。

3か月先の予想は、大企業も中小企業も、景況感の変化が横ばい圏内だった。しばらく景気の足踏み状態が続くと、先行きを慎重に見る企業が多いようである。

景況感がさえないのは、個人消費が低迷しているためだ。消費税率引き上げ前の駆け込み需要で急増した後、反動減で落ち込み、回復の足取りは重い。

大雨など夏の天候不順の影響もあるが、消費増税分を含め約3%の物価上昇に、収入の伸びが追いついていないことが、消費を冷え込ませている主因と言える。

政府・日銀は、景気の緩やかな回復シナリオを描いているが、楽観は禁物だ。日本経済の変調に対する警戒を強め、景気最優先の政策運営に徹してもらいたい。

企業の利益が賃上げとして働く人に還元され、家計の所得増が消費を押し上げる「好循環」を生み出さないと、民需主導の持続的成長は実現できまい。

短観では、企業の「人手不足感」が、1992年以来の高水準になったことが分かった。賃金は上がりやすくなると期待される。

ただし、人員不足による事業縮小など副作用の恐れもある。影響を注視することが重要だ。

円相場は一時、約6年ぶりに1ドル=110円台まで円安が進行した。輸出企業には追い風だが、輸出や海外事業を手がけない内需型産業や中小企業は、輸入原料の高騰などで経営が圧迫される。

政府は、法人税実効税率の引き下げや規制緩和など、国内の事業環境を改善させる成長戦略を、着実に推進する必要がある。

安倍首相の提唱する「地方創生」や女性の活躍支援は、人口減など構造的な変化への対応策を講じ、成長力を底上げする狙いがある。政府は、実効性のある具体策作りを急がねばならない。

首相は年内に、消費税率を来年10月から10%に引き上げるかどうか判断する。再増税に踏み切るのなら、今度こそ食料品などの生活必需品に軽減税率を導入し、家計の負担を和らげるべきだ。

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