東海道新幹線が開業し、今日で50年を迎えた。これまで運んだのは延べ56億人にのぼる。
当時世界一の時速210キロ運転は、航空機の台頭で時代遅れとみられてきた鉄道を復権させた。東京と大阪は日帰り圏となり、旅ではなく移動との感覚が強まった。
来年3月の北陸新幹線・長野―金沢間の開業で、全国の新幹線網は2600キロを超す。社会構造に与えた影響は計り知れないものがある。
東海道新幹線は、円熟期にある。開業時は4時間だった東京―新大阪間は最速で2時間半を切る。1日60本だった運転本数はこの夏、最高記録を更新して426本となった。1本あたりの遅れが1分を切るという正確さも、世界に類を見ない。
新幹線の生みの親と呼ばれる元国鉄技師長の島秀雄氏は「新幹線は実証済み技術の巧みな集積」と語っている。19世紀に英国で誕生した鉄道は、狭い国土に大都市が点在する日本で新たな発展を遂げた。成果を集大成し、高速化に成功したのが新幹線の神髄といえる。
支えは地道な努力だ。保守点検は列車を止める深夜に集中する。大雨が予測されるときは、作業員が空振り覚悟で待機して早い運転再開を図る。終着駅に着いた列車は10分足らずで清掃して折り返す。どれ一つ欠けても、新幹線の質は保てない。
東海道新幹線にとって喫緊の課題は施設の劣化である。JR東海は昨年度から10年をかけ、7千億円超を投じる大改修に着手した。新技術を駆使し、列車を運休せずにトンネルや橋を補強していく。
南海トラフなどで起きる地震も心配される。阪神大震災で山陽新幹線の高架橋が落ち、新潟県中越地震では上越新幹線の列車が脱線した。
JR東海はこれらの経験を踏まえた耐震強化を急いでいるが、今後も最新の知見に素早く対応し、「想定外」を埋めていってもらいたい。
新幹線の何よりの売りは安全性である。衝突、脱線、火災といった列車事故での乗客死傷ゼロは輝かしい実績だ。
ただ、95年に東海道新幹線の三島駅で乗客がドアに引きずられて死亡した事故や、トンネルのコンクリートが山陽新幹線の列車屋根を直撃した99年の事故など、新幹線でも死角はしばしば露呈してきた。
近年はスペインや中国で高速鉄道の大事故が起きた。「新幹線は大丈夫」との「神話」に陥ることなく、不断の向上でさらなる高みを目指してほしい。
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