首相国連演説 常任理事国へ戦略的に挑め

朝日新聞 2014年09月28日

国連演説 首相の重い国際公約

安倍首相が国連総会の一般討論演説で、中東の過激派「イスラム国」との戦いに関連し、難民支援などに計約5千万ドルを拠出すると表明した。

演説後の記者会見では、難民や周辺国への人道支援など「軍事的貢献でない形で可能な範囲の支援を行う」とも語った。

日本は米国などの軍事攻撃には関与せず、あくまで非軍事の支援に徹する方針を国内外に示したことになる。

では、日本として何ができるのか。テロ対策での国際的な連携はもとより、難民の受け入れなど、平和的な支援に知恵を絞らなければならない。

米軍などのシリア領内での空爆について、首相の見解は「やむを得ない措置だったと理解している」というものだった。

空爆にあたっては、シリア政府からの明確な要請も、国連安全保障理事会での決議もなかった。国際法上の根拠には疑問が残り、「支持」でなく「理解」にとどめたのだろう。

集団的自衛権の行使容認を閣議決定した政権がどう振る舞うか。ここは国際社会での日本のありようが問われる。

自衛隊への憲法上の制約がゆるめられ、政治判断で自衛隊を動かす余地が大きくなった。

もちろん、閣議決定だけで自衛隊は動かせない。関連の立法措置が必要であり、自衛隊の活動の範囲を規定する歯止めなど具体的な中身は今後の国会論議にかかっている。

「イスラム国」との戦いは長期化が予想されており、米国が自衛隊の支援に期待する可能性もある。だが、首相自身が「軍事的貢献でない支援」と国際社会に約束した。そのことを忘れてはならない。

一般討論演説で首相は改めて積極的平和主義を掲げた。各国と協力し、海外の紛争や安全保障上の課題に関与していく考え方だが、軍事的貢献ばかりが国際協力ではない。

紛争から一定の距離をとり、非軍事的な手段で平和構築をはかってきた戦後日本の歩みは、世界に誇れるものだ。

日米関係は重要だが、国際的な支援のあり方は各国がそれぞれ判断すべきことだろう。米国とは違う独自の立場で、その個性をいかすべきではないか。

国連常任理事国入りに改めて意欲を示した演説には、こんな一節も盛り込まれた。

「日本の未来は既往70年の延長上にある。不戦の誓いこそは、日本の国民が世々代々、受け継いでいくものだ」

この言葉もまた、首相の重い国際公約となる。

毎日新聞 2014年09月27日

日本と常任理 何をやるかが肝心だ

安倍晋三首相は、国連総会の一般討論演説で、来年の国連創設70年をにらんだ国連安全保障理事会の改革を訴え、日本として常任理事国入りを目指す意欲を示した。安保理は多くの問題を抱えており、改革が必要なことは明らかだ。ただ重要なのは、日本が常任理事国になって何をやりたいかだ。首相はそのことを国内外にきちんと示してもらいたい。

読売新聞 2014年09月27日

首相国連演説 常任理事国へ戦略的に挑め

国連安全保障理事会の改革は、関係国の利害が複雑に絡むため、実現が難しい。だが、「国連重視」を掲げる日本は率先して取り組むべきだ。

安倍首相がニューヨークでの国連総会で演説した。国連創設70周年の来年に向け、「21世紀の現実に合った姿に国連を改革し、日本は常任理事国となり、ふさわしい役割を担いたい」と表明した。

安保理はしばしば機能不全に陥り、国際紛争に対応できなくなる。拒否権を持つ常任理事国の米英仏と、露中が対立するためだ。

ロシアのクリミア半島編入などウクライナ情勢が典型例である。米国が「有志連合」を組織し、イスラム過激派組織「イスラム国」への空爆に乗り出したのも、安保理の対応に限界があるからだ。

アジアやアフリカは、加盟国や人口が多いのに、常任・非常任理事国の割り当ては少ない。地域的な偏りを是正し、安保理の機能を回復する改革は長年の懸案だ。

常任理事国入りを目標とする日本、ドイツ、インド、ブラジル4か国(G4)の外相はニューヨークで会合を開き、来年の改革実現に向けて、全加盟国に協力を求める共同声明を発表した。

G4は2005年にも、常任・非常任理事国を拡大する決議案を提出したが、中国や米国が反対し、実現しなかった。その反省を踏まえ、米中両国の一定の理解を得つつ、大票田のアフリカとの連携を戦略的に進めることが重要だ。

常任理事国を目指す日本は、一層の国際貢献が求められる。

首相は演説で、国連平和維持活動(PKO)に関連し、「平和構築分野で世界に貢献する人材を、質量とも一層育てていきたい」と語った。紛争予防や復興支援などに力を入れねばならない。

対外援助で、女性の地位向上を重視する考えも示した。「20世紀には紛争が起きると、女性の名誉と尊厳が深く傷付けられた歴史があった」と指摘し、「紛争下での性的暴力をなくすため、国際社会の先頭に立つ」と強調した。

いわゆる従軍慰安婦問題で中国と韓国が日本をおとしめていることが念頭にあるのだろう。日本が、教育や保健・医療分野の知見を生かし、世界の女性の自立を後押しする意義は大きい。国連と連携し、持続的に取り組みたい。

来年は戦後70年に当たる。首相は「不戦の誓いは、日本国民が世々代々、受け継いでいく」と言明した。様々な機会に、平和国家としての歩みを発信し、国際社会の理解を深めることが大切だ。

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