TPP協議 進展阻む米国の対日強硬姿勢

朝日新聞 2014年11月04日

TPP交渉 「中間選挙後」を生かせ

目標としてきた今年末までの合意は厳しくなった。「最終ラインが見えるところまで来た」などと強調することが、かえって難航ぶりを浮き彫りにする。

環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る交渉である。10月末に参加12カ国による閣僚会合が豪州で開かれたが、目立った進展は見られなかった。

交渉の全体像は変わらない。「新たなルール作り」と「関税撤廃・引き下げを柱とする市場開放」の二つがからみあう。

ルール作りの論点は、新薬の特許などの知的財産権、民間企業と国有企業の公正な競争、貿易・投資促進と環境保護の両立などだ。総じて「先進国対新興国」の構図である。

関税交渉でカギを握るのは参加国全体の経済規模の8割を占める日米両国の交渉の行方だ。日本側の牛肉や豚肉、米国側の自動車・自動車部品などを巡り、にらみ合いが続く。

日米の膠着(こうちゃく)状態のかたわらで、他の国は様子見を決め込む。関税交渉の遅れがルールを巡る交渉の足を引っ張る。そんな「負の連鎖」にどうやってくさびを打ち込むか。

焦点は、米国政府の強硬姿勢が、4日の米議会中間選挙を経て変わるかどうかだろう。

米国が主張する通り、TPPは貿易や投資にかかわる幅広い分野で高い水準の自由化を掲げてきた。

その旗の下で、自国の有力産業との一体ぶりが際だつのも米国だ。畜産や自動車、製薬などの業界と連携し、米国発の多国籍企業の利益につなげる思惑がちらつく。米国が今秋以降、日米交渉の場などでことさら強い態度に出てきたのも、中間選挙を控え、業界の声に敏感になっている議会に配慮してのこと、との見立てがもっぱらだ。

米国のそうした姿勢は「消費者の利益を高める」という通商自由化の理念を曇らせかねない。新薬の特許強化を求める米国に対し、新興国が「安価な後発薬が手に入りにくくなり、国民が困る」と反発しているのが代表例だ。

交渉参加12カ国の担当閣僚は、今月上旬にも再び会合を持つ予定だ。

中間選挙後の米国政府の姿勢は、選挙結果にも左右され、予断を許さない。ただ、交渉の潮目を変える絶好の機会を迎えていることは確かだろう。

国と国との利害のぶつかり合いをまとめるには、妥協も欠かせない――。自由化に前向きな提案をしつつ、米国をそう説得する役回りを果たせるのは、日本をおいてほかにない。

毎日新聞 2014年10月28日

TPP交渉 日米は原点に立ち返れ

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉に参加する12カ国による閣僚会合が、年内合意への道筋を描けないまま終了した。

読売新聞 2014年09月26日

TPP協議 進展阻む米国の対日強硬姿勢

新たな自由貿易の枠組み作りが大詰めで足踏みしている。交渉を前進させるには、大胆な歩み寄りが必要だ。

ワシントンで行われた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を巡る日米閣僚協議は、双方が折り合わないまま終了した。

今回の協議は、米国産の牛・豚肉の輸入が急増した場合に、関税率を元の高い水準に戻す緊急輸入制限措置(セーフガード)の発動要件など、最後まで難航している分野の決着を目指していた。

甘利TPP相は協議後、「当方は柔軟性のある提案をしたが、進展を得られなかった」と述べ、フロマン米通商代表の譲歩が不十分だったとの認識を示した。

甘利氏は「今後は(米国以外との)2国間協議を加速する」としたが、TPP交渉を主導する日米が正式合意しないと、12か国による交渉全体は前に進まない。

11月中の大筋合意という目標の達成は、今回の日米物別れで一段と不透明になったと言えよう。

日米両国は交渉を再開し、最終合意を急ぐべきだ。

米側がかたくなな背景には、11月4日の中間選挙を控え、日本に譲歩しにくい事情がある。

オバマ政権に対し、厳しい姿勢で交渉に臨むよう求める声が、議会や業界団体で高まっている。

中でも、政治力の強い畜産団体と、その関係議員は、日本が農産物の関税撤廃に応じない場合、TPP交渉から日本を排除するよう迫っている。

国内の過激な対日強硬論をどう抑え込むか。交渉妥結へ、オバマ大統領の指導力が問われよう。

大統領に通商一括交渉権(TPA)を与える法案が、与党・民主党の反対などで成立していないことも気がかりである。

日米協議が決着しても、議会の反対で合意を反故ほごにされる懸念が残る。オバマ氏は責任を持って民主党を説得し、TPA法案の早期成立を図ってもらいたい。

TPPを実現し、アジア太平洋地域に世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める巨大経済圏を誕生させる意義は大きい。

関税の引き下げや貿易・投資のルール共通化によって経済活性化のメリットが期待できる。

経済力を増す中国をけん制し、地域の安定に資するという戦略的な狙いもある。

国際交渉で各国がそれぞれ国益を主張するのは当然だ。しかし、最終段階においては、大局的な見地から譲歩し合い、合意に達することが重要だ。

産経新聞 2014年09月27日

TPP足踏み 妥結に米の譲歩欠かせぬ

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉をめぐる日米の閣僚協議が物別れに終わった。

交渉全体を主導すべき両国が歩み寄れず、逆に足を引っ張ったままであるのは極めて残念だ。再協議のメドすら立たず、交渉参加12カ国が目指す年内合意も危ぶまれる。日米に引きずられて各国の交渉機運がしぼみ、妥結への推進力が失われないか心配だ。

問題は、米国がいまだに強硬な交渉態度を崩さないことだ。オバマ大統領が安倍晋三首相との4月の会談でみせた早期妥結への決意はどこへ行ったのか。

いつまでも溝を埋められないようでは、本当に交渉をまとめようとしているのかすら疑わしくなる。双方の国内事情を乗り越えて打開を図れるよう、両首脳には強い指導力を発揮してほしい。

閣僚協議では、日本の重要農産品をめぐり相も変わらぬ対立が続いた。牛・豚肉の関税引き下げ幅や、輸入が急増したときに関税を引き上げる緊急輸入制限(セーフガード)の扱いなどだ。甘利明TPP担当相はフロマン米通商代表部(USTR)代表に「柔軟性のある案」を提示したが、それでも協議は進展しなかった。

国益がぶつかり合う通商交渉では双方向の譲歩が欠かせない。安倍政権には引き続き妥協点を見いだす努力が求められる。同時に米側に対し歩み寄りを強く促さなければならない。日本が一方的に譲歩するようでは禍根を残す。

11月の中間選挙を前に農業団体などからの圧力が増しているオバマ政権が、簡単に妥協できないことは理解できる。だが、日本はもちろん他の参加国も国内事情を抱えている。米国の都合だけを押し通すことは許されない。

もともと閣僚協議の開催は米側が強く求めてきたものだ。日本側はむしろ政治決断による着実な前進が期待できないなら開くべきではないと慎重だった。閣僚協議が米国内向けに対日強硬姿勢を示す場にすぎないなら意味はない。オバマ政権には、国内の反対論を抑えてでも交渉を加速させる覚悟が問われている。

日米主導で貿易・投資ルールをつくるTPPは日本の成長戦略の柱だ。台頭する中国を牽制(けんせい)する狙いもある。年内に交渉全体の大筋合意を果たすには時間的な猶予は少ない。日米ともに交渉を漂流させない責務を負っている。

朝日新聞 2014年09月27日

TPPと日米 原点に返り交渉続けよ

環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に伴う日米閣僚会談が物別れに終わった。

本格化して4年が過ぎたTPP交渉は、オバマ米大統領も言及した通り、年末にかけて大筋合意できるかどうかが成否を左右しそうだ。交渉参加12カ国のうち、2大大国である両国が歩調を合わせないと前へ進めないのが実情である。

甘利TPP相が「議論がかみ合わなかった」「まとめるには、(日本だけでなく)双方が歩み寄る必要がある」と米国に不快感を示した通り、溝は深い。予定より早く会談を切り上げ、次回会談の日程も決めなかったため、TPP交渉が「漂流」する恐れもささやかれる。

ここは、日米ともにTPPの原点を確認してほしい。

世界貿易機関(WTO)での自由化交渉が滞るなか、成長著しいアジア太平洋地域で新たな貿易・投資ルールを作り、世界経済を引っ張る。WTO停滞の原因ともなった先進国と新興国・途上国の利害対立に向き合いつつ、貿易促進と労働者や環境の保護との両立など、新たな課題を見すえた「21世紀型」の協定にする。そんな目標だった。

一方、日米交渉の現在の焦点は、牛肉・豚肉や自動車など「モノ」の貿易自由化を巡る利害対立だ。関税引き下げ・撤廃とその期間、輸入急増時の緊急輸入制限措置(セーフガード)の組み合わせなど、技術的な駆け引きが続いている。

もちろん、これらは重要な論点だろう。が、あまりに業界の声に振り回されていないか。

とりわけ、11月上旬に議会の中間選挙を控える米国にその傾向が顕著だ。豚肉の対日輸出を増やそうと日本市場の大幅な開放を求める養豚業界、日本製乗用車の輸入を抑えるために関税撤廃に否定的な自動車業界などの政治力に、米政府の立ち位置が定まらないようだ。日本側は、今回の日米閣僚会談での米国の強硬姿勢について「議会や業界へのアピールだった」と不満を募らせている。

日本政府も、牛肉・豚肉やコメなど農産品の「重要5項目」を守るよう求める国会決議を抱える。消費者の利益を念頭に置きつつ、必要な業界保護策を講じる。この基本に沿って米国と向き合い、交渉を軌道に乗せてほしい。

TPP交渉は、知的財産権の保護や国有企業の扱いなど、先進国と新興国が対立する難題を抱える。全12カ国の閣僚会合が模索されているが、日米が対立したままではそれも危うい。

両国の責任は重い。

毎日新聞 2014年09月26日

TPP日米協議 交渉全体の漂流を防げ

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉を巡る日米間の閣僚協議は、合意への道筋を描けずに終わった。TPP交渉全体をまとめる機運が損なわれたことは否めない。

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