調査捕鯨 再開へ日本の主張は通るのか

朝日新聞 2014年09月21日

調査捕鯨 強行の損失は大きい

南極海での日本の調査捕鯨に対して、国際社会から厳しい姿勢が改めて示された。

スロベニアで開かれた国際捕鯨委員会(IWC)の総会で、日本の調査捕鯨の再開を遅らせることを狙った決議案が可決された。

国際司法裁判所が「日本による現行の調査捕鯨は科学的とは言えない」として、中止を命じる判決を出してから約半年。政府は、捕獲する鯨類や頭数を絞り、目視やDNAの採取など捕獲しない調査を増やすことで、15年度からの再開を目指している。

しかし、それで反対国を説得できるメドは立っていない。IWC総会での決議に拘束力はないものの、再開しようとすれば反発を招くのは必至だ。

鯨肉の消費は低迷しており、「調査捕鯨で得た鯨肉の販売収入で調査する」という仕組みは崩れている。年間数十億円の税金を投入してまで、わが国が国際的に孤立しかねない捕鯨再開を強行することが、果たして得策だろうか。

「調査自体は必要だ」との立場を維持しながら、捕獲しない調査に徹する。これまで蓄積してきたデータも生かす。そう訴えて、反捕鯨国も含めて国際的な共同調査に改める道はないのか。

IWCが管轄する調査捕鯨とは別に、和歌山県太地町などでは「沿岸小型捕鯨」が行われている。地域社会に根付くこれらの捕鯨も、海外の反捕鯨団体からやり玉に挙げられてきた。調査捕鯨は見直し、地域の文化と結びついた捕鯨を守ることに全力をあげるべきではないか。

水産庁は、IWCの科学委員会に対し、11月上旬に調査捕鯨の新たな計画を提出する構えだ。捕獲をまじえた計画を再び出せば、いよいよ後に引けなくなる。

国際司法裁判所の判決が出た直後、自民党捕鯨議員連盟は調査捕鯨再開への取り組みを求める決議文を安倍首相に出した。首相の地元、山口県にある下関港は捕鯨の拠点の一つだが、政府として国際関係に目配りした判断を期待する。

「調査」を名目に捕鯨を続けているのは、わが国だけだ。1980年代に停止された商業捕鯨の再開につなげる狙いだが、その見込みは皆無と言っても過言ではない状況である。

安倍政権の外交政策は「法の支配」が柱の一つのはずだ。国際司法裁判所のメッセージは、重く受け止めねばならない。

政策転換は、早く、大胆な方がよい。

読売新聞 2014年09月21日

調査捕鯨 再開へ日本の主張は通るのか

反捕鯨国の攻勢を受けて、日本は一段と苦しい立場に追い込まれた。

国際捕鯨委員会(IWC)の総会で、日本による南極海での調査捕鯨再開を先延ばしするよう求める決議が、賛成多数で採択された。

決議は、強硬な反捕鯨国であるニュージーランドが提案したもので、2016年の次回総会で審議されるまで、日本の調査捕鯨を認めないとする内容だ。

日本は今年3月に国際司法裁判所から中止を命じられた調査捕鯨を、15年から再開する方針を表明している。決議は、これに待ったをかける狙いがあるのだろう。

決議に拘束力はなく、日本は予定通り調査を再開する構えだ。とはいえ、「決議に反する」などとして、国際社会の風当たりが強まることは避けられまい。

あくまで再開を目指すのなら、調査捕鯨の意義を裏付ける科学的なデータを示し、説得力のある主張を展開する必要がある。

日本は、クジラが大量の魚を食べ、漁業資源に打撃を与えている実態の解明など、調査捕鯨の成果を強調してきた。

こうした実例をもっと示し、国際理解を広げることが大事だ。このままでは南極海だけでなく北西太平洋の調査捕鯨についても、中止を迫る声が強まりかねない。

日本は南極海での調査捕鯨の年間捕獲枠を約1000頭に設定してきたが、実際の捕獲数は4年連続で300頭を下回った。

反捕鯨団体「シー・シェパード」に妨害された影響を考慮しても、「必要なサンプル数を得るための捕獲調査」との主張が通りにくくなっているのも事実である。

日本は、11月までにIWC科学委員会へ調査捕鯨の新たな計画書を提出する。最低限の捕獲数に絞り込むなど、多くの国に認めてもらうための工夫が求められる。

日本は1988年に撤退した商業捕鯨の復活を掲げているが、国内の鯨肉需要は低迷している。商業捕鯨に対する水産会社や消費者のニーズは限られよう。

商業捕鯨の再開を期し、大規模な調査捕鯨を続けていく意味は薄れてきたのではないか。

調査捕鯨は多額の国費を投入して実施されている。政府は国内向けにも、継続する必要性を、丁寧に説明しなければならない。

北海道や和歌山県などでは、小型クジラを対象とした沿岸捕鯨が行われている。これらはIWCの管理対象外だ。日本の伝統に根ざした貴重な食文化を、しっかり後世に伝えていきたい。

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