スコットランド 独立否決でも難題は残った

朝日新聞 2014年09月20日

英の住民投票 国の姿を見直す契機に

スコットランドの人びとは、英国に残る道を選んだ。独立の是非を問うた住民投票で、反対が賛成を上回った。

背景にあったのは、英国との一体感を保ちたい人びとの願いだけではない。混乱を避ける意識も強く働いたとみられる。

もし独立となれば、通貨や住民の国籍など、国のかたちをめぐる途方もない交渉が待ち構えていた。財政、福祉、国防など、あらゆる分野で見通せない不安がぬぐえなかった。

ただ、これで一件落着とはならないだろう。このできごとが投げかけた問いは重い。

なぜ、独立を求める声がこれほど広がったのか。英国は現実を振り返り、自らを問い直す必要がある。その教訓は他の国々にとっても有益なはずだ。

2年前に住民投票の実施が決まった時、独立派の支持は3割ほどだった。英キャメロン政権が実施を認めたのも、必ず勝てるとの自信があったからだ。

ところが独立派は終盤になって大きく支持を広げた。最終的に敗れたものの、一時は世論調査で逆転を果たした。

そこには、地域のナショナリズムだけでなく、英政府が進めてきた政策への不満があった。

欧州連合(EU)と距離をおき、自由競争を重んじる英政府に対し、スコットランド住民は、EUとの協調、福祉重視などを志向している。

そうした理念をめぐる葛藤は、多くの国々が共有する課題でもある。

投票に表れた声に英国は耳を傾け、自国の制度や政策のあり方を問い直すべきだ。さもないと、独立を求める声は再び高まるに違いない。

スコットランドの自治をどう拡大するか。地元とどう対話するか。今後の課題に取り組む英国の姿を世界が注目している。

それは、スペインやベルギー、フランスなど、独立を求める地域を抱える欧州諸国だけに限らない。民族や歴史の経緯などから、分離独立をめぐる係争を抱える国は数多い。

英国は、そうした国々とも意見を交わしつつ、開かれた議論を可能とする土壌づくりを進めてほしい。

独立まではいかずとも、統治の権限を中央と地方とでどう分け合うかは、ほとんどの国にとって普遍的な課題でもある。

日本も決して無縁ではない。北海道や沖縄はじめ、地方分権を求める声は少なくない。日本と英国とで、何が共通し、何が異なるのか。

私たち自身も考えるきっかけとしたい。

毎日新聞 2014年09月20日

スコットランド 国家の進化につなげよ

去るべきか、とどまるべきか−−。英国からの独立を問うスコットランドの住民投票が行われ、独立反対派が勝利した。イングランド、ウェールズ、北アイルランド、そしてスコットランドから成る「連合王国」は維持される。

読売新聞 2014年09月20日

スコットランド 独立否決でも難題は残った

英国が分裂し、混乱に陥る最悪の事態は回避された。だが、自治権限をどう拡大するかなど、難題が残っている。

英北部スコットランドの独立の是非を問う住民投票は、反対が55%に上った。スコットランドが英国にとどまることが決まった。

英国の面積の32%、人口の8%を占めるスコットランドが独立すれば、英国の国力低下は避けられなかった。英ポンド急落に伴う欧州経済への打撃や、核搭載潜水艦の母港移転による安全保障政策の綻びを招く恐れもあった。

キャメロン首相は投票結果について、「英国が団結を維持できたことは喜ばしい」と述べ、国民に結束を呼びかけた。

住民投票は、独立を目指すスコットランド民族党(SNP)と、反対する与野党の保守、労働両党などが対決する構図だった。

スコットランド自治政府を掌握するSNPは、独立すれば、北海油田などからの税収を基に社会福祉を充実できる、と訴えた。

しかし、財源確保の見通しは甘く、英ポンドの使用継続も英政府から拒否され、代替案を示せなかった。欧州連合(EU)残留が可能だとの主張も根拠を欠いた。

複数の大手企業が、独立すれば本社をスコットランドから移すと公表するなど、経済界には独立への反対論が強まっていた。

独立反対が過半数を占めたのは、経済面や対外関係での悪影響への懸念が主な理由だろう。現実的な判断だったと言えよう。

ただ、2年前に投票実施が決まった後、独立賛成派が大幅に伸長したことの意味は大きい。

キャメロン政権は、スコットランドの自治権限の大幅拡大を約束した。既に権限が移譲されている教育分野などに加え、社会福祉や税制も対象となる見通しだ。

スコットランドに刺激を受けたウェールズや北アイルランドからの権限拡大の要求に、どう応えるかも課題である。

特定地域の住民が独自の歴史、文化を背景に独立を求める動きはスペインのカタルーニャ自治州など欧州各地で活発化している。

欧州統合の進展により、現在の国境を絶対視せず、EU傘下にいれば小国でも独立を維持できる、と安易に考える風潮が助長されている面もあるのではないか。

今回の住民投票は、世界的な注目を集めた。民族主義などと結びついた自治要求が国際秩序をも揺るがしかねない、という問題意識が共有されたからだろう。

産経新聞 2014年09月20日

スコットランド 英国に留まってよかった

英国残留を選択した北部スコットランドの賢明な判断を歓迎したい。

スコットランド独立の是非を問う住民投票は、反対票が賛成票を10ポイント余り上回り、独立は決定的な差で否決された。

英国分裂という一時の懸念は現実化しなかったものの、独立待望論は依然くすぶっている。

キャメロン英首相は、英国に留(とど)まれば徴税分野を含む自治権を大幅に拡大すると約束し、投票結果を受けた演説でも来年1月までの立法措置を強調した。首相が述べたように、「連合王国が結束して前進する」ためにも、速やかな公約の実現に努めてほしい。

スコットランドがイングランドと「合併」して300年以上たつが、実態はイングランドによる支配だとする不満が今もスコットランドには根深く残る。

3年前のスコットランド議会選で、独立を掲げる地域政党が初めて過半数の議席を得たことが今回の住民投票につながり、首相もそれを受け入れた経緯がある。

その首相にも、ここまで独立派が追い上げるとは予想外だったろうが、見通しの甘さから混乱を広げた責任を問う声や、イングランドにも自治権を拡大せよとの要求が噴き出している。キャメロン氏は当面、傷ついた威信を回復し、「スコットランド後」の内政を安定させることが急務である。

英国政治の不安定化は金融資本市場にも悪影響を及ぼす。残留決定で、一時急落した英通貨ポンドは買い戻されたが、市場の反乱はいつ再燃しても不思議ではない。英政府は、市場への影響を最小限に留めるよう、対策に全力をつくす責務もある。

事は英国内に留まらない。今回の住民投票は、スペインのカタルーニャ自治州の分離独立運動などに再び火をつけている。

民族自決の原則は尊重されるべきだが、武力衝突が続いた北アイルランド紛争は記憶に新しい。分離独立機運の台頭を甘く見てはならない。同様の問題を抱える欧州の国々はくれぐれも安定が損なわれぬよう対応してもらいたい。

欧州連合(EU)は今、統合プロセスの岐路にある。組織急拡大の結果、加盟国の利害が対立する局面が増え、意思決定が困難になっている。スコットランドの選択は、中央と地方の対立が民主的に回避された点で、統合の今後にも回答を示したといえないか。

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