日本経済の追い風となってきた円安も、行き過ぎれば手放しでは歓迎できなくなる。
政府・日銀は、円安の副作用にも目配りした政策運営に努めるべきだ。
1ドル=100円近辺で安定していた円相場が、ここ1か月で大きく円安に振れ、先週末には約6年ぶりの110円台に迫った。
景気が堅調な米国の利上げ観測が強まり、円売り・ドル買いが加速したことが主因である。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、国債購入などの量的金融緩和策を10月で終えると表明した。ゼロ金利政策を解除し、異例の金融緩和を通常に戻す「出口戦略」の計画も公表した。
これに対し、日本は消費税率引き上げ後に景気がもたつき、黒田東彦日銀総裁が追加金融緩和も辞さない構えを見せている。
主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の記者会見でルー米財務長官は、「ユーロ圏と日本の成長には失望させられている」と述べた。「強いドル」の局面は当面、続くと見られる。
気がかりなのは、為替相場の動きが激しいことだ。乱高下につながる投機の動きはないか、政府・日銀は監視を強めてほしい。
円安は、企業の輸出代金や海外で上げた収益の為替差益を拡大させる。東京市場の平均株価が約8か月ぶりに1万6000円台を回復した。業績への円安メリットを素直に評価しているのだろう。
ただ、日本経済全体を見ると、円安には「負の側面」もある。
みずほ銀行の推計によると、円安が10円進めば、上場企業には計1・9兆円の増益効果がある一方、非上場企業は逆に1・2兆円の減益になるという。
輸出や海外展開に縁のない中小企業や、小売り、サービスなど内需産業は円安メリットが乏しい。それに加え、輸入原材料や電気料金の高騰などでコストはかさむため、経営は圧迫される。
過剰な円安で、中小企業が苦境に陥らないか心配である。
経済の構造的な変化も見過ごせない観点だ。生産拠点の海外移転が進み、円安でも国内生産や輸出が以前ほど増えなくなった。
円安の恩恵が、雇用増や賃上げとして国内に還元されにくくなったと言える。家計の所得が伸びない状況で、輸入食品やガソリンなど必需品の高騰が続けば、消費が低迷し、景気回復の足を引っ張る懸念があろう。
円安が景気に与える影響を、詳細に分析することが急務だ。
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