吉田調書公開 朝日が「撤退」取り消して謝罪

毎日新聞 2014年09月12日

吉田調書公開 次は「幸運」に頼れない

原発過酷事故の恐ろしさが3年半たった今も生の言葉から伝わってくる。東京電力福島第1原発の事故当時の所長、吉田昌郎氏が政府の事故調査・検証委員会のヒアリングに答えた「吉田調書」が、他の18人分の調書とともに公開された。

読売新聞 2014年09月13日

原発事故調書 危機管理強化へ重い教訓だ

東京電力福島第一原子力発電所事故で、政府の危機管理はいかに迷走したか。調書が深刻な状況を物語っている。

政府事故調査・検証委員会が、吉田昌郎元福島第一原発所長や菅元首相ら19人から聴取した調書を、政府が公開した。

うち11人は、民主党政権の国会議員だ。政府事故調の報告書に記された以上の新事実は見当たらないものの、当時の事故対処を検証する上で、重要な証言だろう。

一例が、菅氏による福島第一原発の事故翌日の視察だ。最高指揮官が首相官邸を離れることには、当時から様々な意見があった。

菅氏は、「(現場などとの)コミュニケーションがスムーズにいかず、責任者ときちんと会って話をした方がいいと判断した」と、視察を正当化している。

官房長官だった枝野幸男氏も、「菅さんが現地に行って、私が全体を見ている。その方がものは回ると思った」と容認した。

だが、寸秒を惜しむ状況だった現場の受け止め方は違う。吉田氏は「十分に説明できたとは思っていない。自由発言できる雰囲気じゃなかった」と答えている。

現地で対応していた池田元久・元経済産業副大臣も、「(首相は)東京にいた方が事故対応がしやすい」と視察に否定的だった。官邸サイドとの認識の差は大きい。

政府事故調の報告書は「首相は各機関・部局に情報収集と対応策を任せ、最終判断を行うのが役割」と指摘した。その上で、「介入は現場を混乱させ、判断を誤ることにつながりかねず、弊害の方が大きい」と結論づけた。

吉田氏の証言と重ねると、菅氏に対する事故調報告書の厳しい評価は当然と言えよう。

調書からは、官邸に情報が集まらない実態も浮かぶ。第一原発1号機が水素爆発した際も、ニュース映像しか情報はなかった。

官房副長官だった福山哲郎氏は「官房長官会見の前でも全然情報が上がってこない。何なのだこれは、という感じだ」と語った。

事故対応に当たった国会議員は、原発に関する知識も乏しかった。原子炉の圧力を下げる「ベント」について、経済産業相だった海江田万里氏は「初めて聞く言葉だった」と述べている。

民主党政権が専門知識を持つ官僚を使いこなせず、機能不全に陥っていた。重い教訓である。

残念なのは、東電の関係者の調書が公開されていない点だ。事故の検証を深めるため、東電も可能な限り、公開に協力すべきだ。

読売新聞 2014年09月12日

吉田調書公開 朝日が「撤退」取り消して謝罪

◆国際的に誤解広めた責任は重い

朝日新聞が、東京電力福島第一原子力発電所事故を巡る「吉田調書」の記事を取り消した。

海外まで波紋を広げた「命令違反」「撤退」という記事の根幹が誤りだった。撤回は当然の判断である。

いわゆる従軍慰安婦問題報道でも、訂正が遅れたことを初めて明確に謝罪した。朝日新聞の一連の慰安婦報道が、日本の国益を大きく損なったことを考えれば、謝罪は遅きに失した。

これらの問題は、新聞に対する国民の信頼を失墜させかねない。朝日新聞の責任は極めて重い。

◆東電作業員名誉損なう

吉田調書は、政府の事故調査・検証委員会が、福島第一原発の吉田昌郎元所長から生前に聴取した証言だ。その記録を入手したとする朝日新聞は5月20日朝刊で、「所員の9割が所長命令に違反し、約10キロ離れた第二原発に撤退した」と報じた。

政府が11日に公開した吉田調書を読めば、そのような事実がないことは明らかである。

吉田元所長は「撤退」という言葉を強く否定している。撤退の指示も出しておらず、所員や作業員が自らの命令に違反したとの認識もない。

現場に多くの作業員が残り、事故対応に当たっていたことは、国内外で周知の事実だ。朝日新聞の報道直後から、記事内容について疑問を呈する声が出ていた。

この点について、記者会見した朝日新聞の木村伊量社長らは、「他の報道機関が調書を入手し、事実関係の食い違いを報じ始めたため、社内で調査を始め、誤りと判断した」と説明した。

「調書を見る人間が限られ、チェックが働かなかった」とも釈明し、取締役編集担当を解職した。社長自らについても、社内改革後に進退を判断するという。

吉田元所長は、調書の中で、所員たちが第二原発に退避したことを「正しいと思った」などと述べている。朝日の記事は、その部分に一切触れず、「命令違反」をクローズアップしている。

都合の良い部分だけを取り上げて記事にした、と受け取られても仕方があるまい。

朝日の記事は、事故当時の過酷な状況の中で、体を張って最悪の事態と闘っていた作業員たちの名誉を国内外で傷つけた。

◆国益害した慰安婦報道

朝日は、記事撤回を海外にも発信するという。海外での誤った認識を正すことが重要だ。

朝日新聞の誤った報道が、内外に大きな影響を及ぼしたのは、慰安婦問題も同様である。

朝日新聞は8月5日朝刊の特集面で、これまでの慰安婦報道についての検証結果を掲載した。

その中で、韓国・済州島で慰安婦を強制連行したとした吉田清治氏の証言が虚偽であったことは認め、証言をもとにした少なくとも16本の記事を取り消した。しかし、それに対する謝罪の文言はなく、厳しい批判を受けていた。

この点について、木村社長は「誤った記事を掲載し、訂正が遅きに失したことについて、読者におわびする」と謝罪した。

今後は、社外の弁護士や歴史学者、ジャーナリストらで構成する第三者機関を設け、慰安婦報道が日韓関係や国際社会に与えた影響などについて徹底検証していく方針という。

一方で、木村社長は、自社の検証結果に「自信を持っている」と強調している。

◆新聞の影響自覚したい

朝日新聞慰安婦報道の問題点の本質は、国による強制連行があったという吉田氏の証言に疑義が持たれても、それを黙殺し、修正しなかったことによって、日本の国益を大きく損ねた点にある。

国連人権委員会に1996年に提出されたクマラスワミ報告でも吉田氏の証言が引用された。

広い意味での強制性があったことが重要だとの朝日の主張は論点のすり替えにほかならない。

安倍首相は11日のラジオ放送で、「報道は国内外に大きな影響を与える。時として我が国の名誉を傷つけることもあると十分に認識しながら、正確で信用性の高い報道が常に求められる」と述べた。もっともな指摘である。

報道機関は「国民の知る権利」に奉仕する重い役割を担う。

ずさんな取材により、誤解を世界に広めた朝日新聞は、事実を正確に伝えるという報道機関としての基本を大きく踏み外したのではないだろうか。

読売新聞も十分に自戒しながら、質の高い報道に取り組んでいきたい。

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