昭和天皇実録 国民に開く近現代史に

朝日新聞 2014年09月09日

昭和天皇実録 歴史と向き合う素材に

昭和天皇の生涯のできごとを記録した昭和天皇実録を、宮内庁が公表した。

昭和天皇にかんする公的資料はもともと限られており、研究や検証は、公刊された側近や政治家の日記やメモ、米公文書などをもとに進められてきた。

公表された実録は、天皇の動静を包括的に編集した宮内庁の公式記録といえ、これからの議論の足がかりになる。

ただし天皇の発言の直接引用はほとんどなく、できごとを年代順に淡々と記したものだ。

各地への行幸や視察については細かい記述があるが、戦争をめぐる自らの責任や退位をめぐる言動などについては、宮内庁の慎重な姿勢がうかがえる。

たとえば、東京裁判に向けて退位について考えていたことは木戸幸一内大臣の日記などで知られているが、実録では、退位で戦争責任者の引き渡しを止められるかどうかを木戸氏に尋ねた、との記載があるだけだ。その胸中の揺れは見えにくい。

靖国神社がA級戦犯を合祀(ごうし)したことについて不快感を示したとされることも引用はせず、報道した日経新聞の記事にふれるにとどめている。

こうした点について、宮内庁は原則的に複数の資料で確認できたことを記載するとの編集方針を説明している。

大正天皇実録の公開にあたっては、一部が黒塗りにされ、話題になった。今回、黒塗りの部分はないが、記述の適否を慎重にみきわめた結果ともいえ、あくまでも宮内庁がみた昭和天皇の記録ととらえるべきだ。

実録は、公表に先立って先月、天皇に献上された。重い歴史の引き継ぎでもある。

昭和の時代が教えるのは、選挙で選ばれていない世襲の元首を神格化し、統治に組み込んだ戦前のしくみの誤りだ。その反省から形成された現代の社会を生きる私たちは、絶えずその歴史に向き合い、議論を深めていく必要がある。

実録をまとめるために使われた膨大な資料は、そうした議論の素材となりうるものだろう。終戦直前の侍従長の日記など、これまで知られていなかった新資料も約40点あるという。

そうした資料は宮内庁だからこそアクセスできるもので、その収集、記録や管理を担う責任は重い。

実録の中では、原典が明示されない記述や、公開されない資料の引用もある。提供者や遺族の意向の制約はあるだろうが、国民の幅広い研究と検証のために、可能な限り、一次資料を公開する姿勢をみせてほしい。

毎日新聞 2014年09月09日

昭和天皇実録 国民に開く近現代史に

87年の生涯にわたり、日々の動静や言行を記録した「昭和天皇実録」を宮内庁が公開した。昭和史研究は重要な「時間軸」を得たが、個々の事象の意義づけや実態解明にはまだ余地を残している。これを大きなステップとして、国民に開かれた実り豊かな研究へとつなげたい。

読売新聞 2014年09月09日

昭和天皇実録 史実解明へ一層の情報公開を

昭和天皇の事績を編年体で記した「昭和天皇実録」が公表された。

実録は、国の歴史を後世に伝える上で、極めて重要な資料である。

昭和から平成となって、既に四半世紀が過ぎた。軍国主義の時代から終戦、戦後の復興、高度経済成長へ――。実録は、激動の昭和を振り返るよすがともなろう。

実録の編纂へんさんは、「明治天皇紀」「大正天皇実録」などに続くものだ。1989年に87歳で崩御した昭和天皇の生涯を60巻、1万2000ページにわたり詳述した。

未公開だった侍従日誌をはじめ、約3000点の史料が活用された。昭和史の定説を大きく覆すような記載はないとされるが、昭和天皇の日々の動静が、確たる史料に基づいて記されている。

2・26事件や、終戦に至る過程など、近現代史の重大な局面が、正確な時系列で明らかにされたのは初めてだ。新たに発掘された元侍従長の私的日記などにより、昭和初期の天皇の心情や思想も、改めて浮き彫りになった。

宮内庁は当初、昭和天皇実録の公開に慎重だった。

明治天皇紀は完成から35年後の1968年、明治100年記念事業としてようやく刊行された。

大正天皇実録は、いまだに刊行されていない。2002年以降、情報公開法に基づく請求を受け、開示されたが、天皇個人に関わる記述が黒塗りにされた。

この措置が批判を浴びたため、宮内庁は昭和天皇実録の全面公開に踏み切った。天皇実録が、国民にとって大切な資産であることを考えれば、妥当な措置だろう。

しかし、戦後に関しては、「A級戦犯」の靖国神社合祀ごうしに対する感想など、昭和天皇の言葉が具体的に紹介されていない部分が目立つ。宮内庁は「個々の場面で総合的に判断した」と説明するが、肩すかしの感は否めない。

今後、史実の解明をより進めていくためには、実録の編纂に使用した侍従日誌、女官日誌などの開示が欠かせない。

「お手元文書」と呼ばれるこれらの史料は、天皇や皇族に代わって宮内庁職員が作成した私的文書と位置づけられ、情報公開請求の対象外となっている。

ただ、実録編修に使用したお手元文書の写しは、公文書として情報公開請求の対象となる。宮内庁は、開示について「個々に慎重に判断する」方針という。

重要な公的記録は、積極的に開示すべきだ。宮内庁には一層の情報公開が求められる。

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