改造内閣発足 中韓と関係構築を急げ

朝日新聞 2014年09月04日

安倍改造内閣 国民合意の政治を望む

安倍首相がきのう、2度目の首相就任からは初めてとなる内閣改造と自民党の役員人事に踏み切った。

2012年12月に発足した第2次安倍内閣は、ひとりの閣僚の交代もないまま1年8カ月間、職務をまっとうした。

問題発言による辞任や問責決議を受けての改造で閣僚が頻繁に代わった前の民主党・野田内閣と比べれば、これまでの政権運営の安定ぶりは際だっている。安倍氏が「様々な改革を実行し、予想以上の成果を収めることができた」と自賛したくなる気持ちもわかる。

安定した政治それ自体は歓迎したい。震災や原発事故からの復興、少子高齢化への対応など喫緊の課題を考えれば、不毛な政争をしている余裕はない。

しかし、だからといって、安倍首相がいまのままの政治手法を続けることには、危惧を抱かざるを得ない。最大の問題は、国民的な合意を得ようという姿勢の欠如である。

「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍首相にしてみれば、集団的自衛権の行使を認めた7月の閣議決定は、大きな「成果」なのだろう。

だが、私的懇談会の報告を受けた与党協議による性急な議論の進め方は、憲法9条に基づく戦後の安全保障政策の大転換という内容の重さとともに、世論の分断を招いた。

閣議決定後の主な報道機関の世論調査では、おしなべて半数が行使容認に反対や評価せず、8割が議論や検討が十分でなかったなどと答えている。

昨年の特定秘密保護法の成立の際も、世論は同様に反応した。首相とは異なる意見の持ち主は少数派ではない。

改造内閣はすぐさま、アジア外交の立て直し、消費税率の再引き上げ、そして原子力発電を再稼働させるかどうかの判断に直面する。いずれも難題であり、国民の考えや感情が割れるテーマである。

さらにその先には、私たち日本人が歴史とどう向き合うかが改めて問われる戦後70年の節目が控えている。

安倍氏は主要閣僚を留任させる一方、党四役を一新。首相とは政治信条で隔たりのある谷垣前総裁を幹事長に起用した。来秋の党総裁選での再選をにらみ、党内融和を図る狙いがあるようだ。

より大切なのは党内融和ではなく、国民合意だ。あらゆるテーマで合意を形成するのは困難だとしても、「見解の相違」だと異論を切り捨てるだけの政治であってはならない。

毎日新聞 2014年09月04日

改造内閣発足 中韓と関係構築を急げ

第2次安倍改造内閣と自民党の新体制が発足した。安倍晋三首相は主要閣僚をおおむね留任させる一方で、党の要である幹事長に前総裁の谷垣禎一前法相を起用した。

読売新聞 2014年09月04日

安倍改造内閣 経済再生へ挙党態勢を固めよ

◆「次」のリーダー育成も重要課題だ◆

脱デフレを確実にし、経済の活力を増す。日本の平和を確保する安全保障法制を整備する。

こうした重要課題に新たな陣容の総力を挙げ、果敢に取り組まねばならない。

安倍首相が内閣改造・自民党役員人事を断行した。

首相は記者会見で「改革は道半ばだ。諸政策を心機一転、さらに大胆かつ力強く実行する」と述べ、内閣改造の意義を強調した。

選挙にらむ重厚な布陣

自民党幹事長に前総裁の谷垣禎一法相、総務会長に二階俊博衆院予算委員長を起用した。政調会長には衆院当選3回の稲田朋美行政改革相を抜擢ばってきした。高村正彦副総裁は留任し、選挙対策委員長には茂木敏充経済産業相が就いた。

ベテランと中堅・若手のバランスを取り、重厚な布陣で政権を安定させる狙いがある。11月の沖縄知事選や来春の統一地方選、さらに衆院解散も見据えて、選挙対策を重視したのだろう。

総裁経験者の幹事長起用は、極めて異例である。谷垣、二階両氏は、中国要人とのパイプを持ち、公明党との関係も良好だ。保守主義を標榜ひょうぼうする首相とは、タイプがかなり異なる。

両氏の起用により、与党内の融和を図り、政策の幅を広げることが大切である。首相官邸と党執行部が連携を強化し、重要政策を遂行することを最優先すべきだ。

石破茂前幹事長の処遇をめぐって一時、首相と石破氏の対立が表面化した。石破氏がラジオ番組で幹事長続投を公然と希望するなど異様な展開となり、首相は石破氏を無役にすることも検討した。

だが、最後は、双方が歩み寄り、石破氏は入閣した。

一昨年秋の総裁選を争った両氏が、決定的な対立を回避し、挙党態勢を維持したのは妥当な判断である。政権復帰から1年8か月余で党の結束が乱れるようでは、国民の信頼を得られない。

消費増税どう判断する

改造内閣では、危機管理能力に定評のある菅義偉官房長官ら6閣僚が留任し、骨格は維持された。官房副長官、首相補佐官など官邸スタッフもそろって続投した。

経済政策「アベノミクス」を担当する麻生太郎副総理・財務相と甘利明経済再生相も留任した。

3本目の矢である成長戦略の成否を左右する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が、山場を迎える。甘利TPP相や、党TPP対策委員長を務めた西川公也農相らが連携し、合意を目指したい。

改造内閣の最重要課題である地方創生は、地方移住、雇用創出、子育て支援など総合的な人口減対策と中長期的戦略が欠かせない。石破地方創生相を中心に、政権全体で取り組む必要がある。

景気の現状も心配だ。8%への消費税率引き上げに伴う消費の反動減から、回復が遅れている。12月には、10%への税率再引き上げの是非を判断せねばならない。景気の腰折れを避け、経済を成長軌道に戻せるかがカギを握ろう。

「安倍カラー」の人事も散見される。教育改革を担う下村博文文部科学相を留任させた。拉致問題相には、山谷えり子参院政審会長を充てた。第1次安倍内閣で官房長官だった塩崎恭久政調会長代理を厚生労働相に起用した。

塩崎氏は今度は、官僚を上手に使いこなし、社会保障制度改革に取り組んでほしい。

安倍政権は7月、集団的自衛権の行使を限定容認する政府見解を決定した。秋の臨時国会で法整備の全体像を示し、来年の通常国会で関連法の成立を図る方針だ。

新設の安全保障法制相には、防衛副大臣も務めた江渡聡徳衆院安保委員長が、防衛相兼務で起用された。順当な人事だろう。

外交の継続性を重視する観点から、岸田文雄外相は留任した。

年末に予定される日米防衛協力の指針の改定を通じ、より強固な日米同盟を構築すべきだ。

11月の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)などの機会を利用し、懸案の中国、韓国との首脳会談も実現したい。

真価問われる女性登用

改造内閣では、小渕優子経産相、高市早苗総務相、有村治子女性活躍相ら、過去最多と並ぶ5人の女性閣僚が誕生した。

首相は「女性が輝く社会の実現」を唱え、霞が関でも女性官僚を登用している。閣僚人事にその方針を反映させたのは理解できる。今後は、成果が問われよう。

首相自身、衆院当選3回で幹事長に抜擢された経験がある。石破、岸田両氏に加え、小渕、稲田両氏ら、将来のリーダーをきちんと育成してもらいたい。

産経新聞 2014年09月05日

改造内閣と中韓 首脳会談への環境整えよ

中国の習近平国家主席が3日、「抗日戦争勝利記念日」の重要講話で、日本との「長期の安定的で健全な発展を望んでいる」と述べた。

習主席が公式の場で日中関係改善に言及したのは、昨年12月の安倍晋三首相による靖国神社参拝後、初めてだ。日本との関係改善を模索するシグナルならば歓迎したい。

同じ日に発足した第2次安倍改造内閣にとって、中韓両国との関係改善は重要課題だ。習講話について、菅義偉官房長官は「中国と日本は地域の平和と繁栄のために責任を持っている。友好は極めて大事だ」と応じた。

安倍政権はこの機を捉え、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議時に日中首脳会談を実現すべく、全力を傾けてもらいたい。

公船による尖閣諸島周辺での領海侵入をはじめとする中国の海洋進出攻勢は日本はもとより、東アジアの脅威となっている。

こうした日本側の懸念事項を含む諸課題を首脳が直接話し合うことは、相互に意味がある。

関係改善への動きはみえる。

福田康夫元首相が7月に訪中して習主席と極秘会談し、8月の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合の際も2年ぶりに日中外相会談が行われている。APEC成功には日中首脳会談が必要だとの思惑も中国側にはあろう。

問題は、日本側が尖閣諸島の領有権問題の存在を認めるといった「会談の前提条件」に中国がどこまで固執するかだ。日本側は会談実現を急ぐあまり、こうした要求を受け入れて、将来に禍根を残すことがあってはならない。

同じことは韓国についても言える。朴槿恵(パククネ)大統領は8月15日、日本の朝鮮統治終結を記念する「光復節」の演説で、「(日韓国交正常化50年の)来年を韓日の新たな出発の元年にしなければならない」と強調、日本の政治家の「知恵と決断」に期待を表明した。

日本批判一辺倒だった従来の演説よりもやや抑制した印象を与えたとはいえ、今後も慰安婦問題で日本の譲歩を求め続けるのでは、関係改善はおぼつかない。

日中、日韓首脳が政権発足後、一度も会談できない事態が長引くことは、地域の安定にも好ましくない。中韓両国は、前提条件なしの首脳会談が避けられないことをそろそろ認めるときだろう。

産経新聞 2014年09月04日

安倍改造内閣 日本再生の司令塔となれ

■「拉致」「安保法制」に全力注げ

安倍晋三首相が第2次内閣として初の人事刷新を行い、記者会見で「実行実現内閣として国民の負託に応えていく」と語った。

発足以来、閣僚交代なしで617日間と戦後最長を数えた当初の内閣は、デフレ脱却や消費増税、集団的自衛権の行使容認に取り組み、高支持率を維持してきた。

改造後も、喫緊の課題は経済成長を確実なものとするための施策の実現だ。人口減少、地方活性化対策などへの新たな取り組みも急務となる。新体制を成長や改革の加速につなげる強い指導力を首相には求めたい。

≪憲法改正の積極発信を≫

首相が麻生太郎副総理兼財務相や菅義偉官房長官、岸田文雄外相ら内閣の屋台骨を支える顔ぶれを留任させたのは、従来の政策の継続性を内外に示すものだ。

なかでも、首相の外交・安全保障政策を特徴づけてきたのは、中国の軍事的台頭や北朝鮮の脅威から日本の平和と安全、国民の生命・財産を守り抜く決意である。

この点で、ともに初入閣の山谷えり子拉致問題担当相と江渡聡徳(えと・のりのり)防衛相兼安全保障法制担当相は重責を担う。

北朝鮮による拉致被害者らの安否再調査報告が迫っている。山谷氏は自民党拉致問題対策本部長の経験を生かし、被害者全員の救出に全力を尽くしてほしい。

集団的自衛権の行使容認に伴う関連法案は、来年の通常国会に提出される。江渡氏は法案の起草にあたり、自衛隊の行動に必要以上の制約をかけないよう留意し、国会答弁に備える必要がある。

日米防衛協力の指針(ガイドライン)の年内改定でも、集団的自衛権の行使容認を踏まえ、日本が共同防衛により大きな責任を果たせる内容を盛り込んでほしい。

改造の目玉である5人の女性閣僚起用と併せて注目したいのは、衆院当選3回の稲田朋美前行政改革担当相が党四役ポストの政調会長に抜擢(ばってき)されたことだ。

保守派の論客であると同時に、憲法改正を強く主張してきた。いわゆる「安倍カラー」の根幹である憲法問題について、執行部内で積極的に発言できる人物を配置した点を評価したい。

大きな正念場を迎えているのは、経済再生と財政再建の両立を目指す、自律的な経済成長への取り組みだ。4月の消費税増税後、個人消費は実質所得の減少などが響き低迷が続いている。

景気回復の遅れは、来年10月に予定する消費税の再増税をめぐる判断にも影響を与える。

アベノミクスを支えてきた麻生氏や同じく留任する甘利明経済再生担当相は、新成長戦略の具体化を通じ、民需主導の景気回復をさらに推し進めるべきだ。

民間企業に活力を与える規制改革や、成長市場の開拓につながる環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の早期妥結がカギだ。

≪人口減対策は総合的に≫

首相は新幹事長に、総裁経験者で税と社会保障の一体改革をめぐる3党協議を担当した谷垣禎一前法相を起用した。消費の落ち込みにも目を配りつつ、再増税の判断について政府与党間で十分に意思疎通を図ってもらいたい。

経済再生に必要な低廉で安定的な電力供給には、原発の再稼働が不可欠だ。原子力規制委員会に科学的で迅速な安全審査を促し、安全性が確認されれば地元同意を経て早期に再稼働させることが重要だ。小渕優子経済産業相をはじめ政府の大きな責務である。

新たな政策課題への取り組みについて懸念もある。最重要政策の一つとされる人口減少対策と地方活性化は、総務省や国土交通省、厚生労働省など多くの府省にまたがる総合的な課題といえる。来年度予算では「地方創生枠」の獲得を目指し、各府省が似たような事業を要求している。

問われているのは、一過性の景気浮揚策ではない。人口減少の歯止めにつながる政策をいかに展開するかである。石破茂地方創生担当相の最大の役割も、各府省を取りまとめ、総合的な戦略を打ち立てることにあろう。首相の全面的なサポートも無論、必要だ。

地方の人口維持には少子化対策が不可欠だ。政府は「50年後に1億人程度」維持という目標も掲げているが、少子化担当を畑違いの行革相のポストとの兼務にした。人口減少対策にどこまで真剣なのかと疑問がわく。具体的成果で拭わねばならない。

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