◆「次」のリーダー育成も重要課題だ◆
脱デフレを確実にし、経済の活力を増す。日本の平和を確保する安全保障法制を整備する。
こうした重要課題に新たな陣容の総力を挙げ、果敢に取り組まねばならない。
安倍首相が内閣改造・自民党役員人事を断行した。
首相は記者会見で「改革は道半ばだ。諸政策を心機一転、さらに大胆かつ力強く実行する」と述べ、内閣改造の意義を強調した。
選挙にらむ重厚な布陣
自民党幹事長に前総裁の谷垣禎一法相、総務会長に二階俊博衆院予算委員長を起用した。政調会長には衆院当選3回の稲田朋美行政改革相を抜擢した。高村正彦副総裁は留任し、選挙対策委員長には茂木敏充経済産業相が就いた。
ベテランと中堅・若手のバランスを取り、重厚な布陣で政権を安定させる狙いがある。11月の沖縄知事選や来春の統一地方選、さらに衆院解散も見据えて、選挙対策を重視したのだろう。
総裁経験者の幹事長起用は、極めて異例である。谷垣、二階両氏は、中国要人とのパイプを持ち、公明党との関係も良好だ。保守主義を標榜する首相とは、タイプがかなり異なる。
両氏の起用により、与党内の融和を図り、政策の幅を広げることが大切である。首相官邸と党執行部が連携を強化し、重要政策を遂行することを最優先すべきだ。
石破茂前幹事長の処遇をめぐって一時、首相と石破氏の対立が表面化した。石破氏がラジオ番組で幹事長続投を公然と希望するなど異様な展開となり、首相は石破氏を無役にすることも検討した。
だが、最後は、双方が歩み寄り、石破氏は入閣した。
一昨年秋の総裁選を争った両氏が、決定的な対立を回避し、挙党態勢を維持したのは妥当な判断である。政権復帰から1年8か月余で党の結束が乱れるようでは、国民の信頼を得られない。
消費増税どう判断する
改造内閣では、危機管理能力に定評のある菅義偉官房長官ら6閣僚が留任し、骨格は維持された。官房副長官、首相補佐官など官邸スタッフもそろって続投した。
経済政策「アベノミクス」を担当する麻生太郎副総理・財務相と甘利明経済再生相も留任した。
3本目の矢である成長戦略の成否を左右する環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が、山場を迎える。甘利TPP相や、党TPP対策委員長を務めた西川公也農相らが連携し、合意を目指したい。
改造内閣の最重要課題である地方創生は、地方移住、雇用創出、子育て支援など総合的な人口減対策と中長期的戦略が欠かせない。石破地方創生相を中心に、政権全体で取り組む必要がある。
景気の現状も心配だ。8%への消費税率引き上げに伴う消費の反動減から、回復が遅れている。12月には、10%への税率再引き上げの是非を判断せねばならない。景気の腰折れを避け、経済を成長軌道に戻せるかがカギを握ろう。
「安倍カラー」の人事も散見される。教育改革を担う下村博文文部科学相を留任させた。拉致問題相には、山谷えり子参院政審会長を充てた。第1次安倍内閣で官房長官だった塩崎恭久政調会長代理を厚生労働相に起用した。
塩崎氏は今度は、官僚を上手に使いこなし、社会保障制度改革に取り組んでほしい。
安倍政権は7月、集団的自衛権の行使を限定容認する政府見解を決定した。秋の臨時国会で法整備の全体像を示し、来年の通常国会で関連法の成立を図る方針だ。
新設の安全保障法制相には、防衛副大臣も務めた江渡聡徳衆院安保委員長が、防衛相兼務で起用された。順当な人事だろう。
外交の継続性を重視する観点から、岸田文雄外相は留任した。
年末に予定される日米防衛協力の指針の改定を通じ、より強固な日米同盟を構築すべきだ。
11月の北京でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)などの機会を利用し、懸案の中国、韓国との首脳会談も実現したい。
真価問われる女性登用
改造内閣では、小渕優子経産相、高市早苗総務相、有村治子女性活躍相ら、過去最多と並ぶ5人の女性閣僚が誕生した。
首相は「女性が輝く社会の実現」を唱え、霞が関でも女性官僚を登用している。閣僚人事にその方針を反映させたのは理解できる。今後は、成果が問われよう。
首相自身、衆院当選3回で幹事長に抜擢された経験がある。石破、岸田両氏に加え、小渕、稲田両氏ら、将来のリーダーをきちんと育成してもらいたい。
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