ウクライナ協議 緊張緩和への節目に

朝日新聞 2014年09月08日

ウクライナ 停戦を安定化の一歩に

停戦はあくまで事態打開への一歩でしかない。

ウクライナの領土保全と主権の尊重を基礎に、しっかりとした合意をつくりあげ、恒久的な安定につなげるべきだ。

同国東部で戦闘を続けてきた政府軍と親ロシア派武装勢力が停戦で合意した。

戦火による多数の死者に加え、隣のロシアや国内の別の地へ逃れた避難民も100万を超えた。生活を支える施設の大半を破壊された都市部では、きびしい冬を前に人道危機の恐れが高まっている。

国際社会はまず、戦乱で傷つき、苦境にあえぐ人びとへの支援と復興の措置を急ぎたい。

そのうえで長期的な和平づくりへ国際支援を加速させたいところだが、実際は停戦が維持されるかどうかも心もとない。

ロシア軍の介入で軍事的な苦境に立たされたウクライナ政府は、経済的にも危機が深まる中で、やむなく停戦に応じた。

だが、紛争地である東部の統治をどうするかをめぐっては、対立の構図は変わっていない。

ウクライナ政府は、経済活動や言語の選択などで東部の分権化は進めるが、分離・独立は一切認めない方針だ。親ロシア派とは依然、隔たりがある。

かぎを握るのは、やはりロシアの動向だろう。

ロシアは軍事的なてこ入れで戦況を変える一方、プーチン大統領が停戦を働きかけた。その背景にあったのは、ロシア国内での風向きの変化だ。

この夏から科された米欧による制裁は、ロシア経済に打撃を与えている。また、軍事介入で死亡したロシア兵の情報を独立系メディアが盛んに伝え、厭戦(えんせん)気分も増してきた。

世論調査では、ウクライナとの公然とした軍事紛争への支持が急速に減りつつある。

ただしプーチン氏は、それでもウクライナ東部をロシアの影響下におこうとする野心は捨てていないようだ。同氏が示した和平案には、東部の分離に道を開く内容もあり、ウクライナ政府は懐疑心を残したままだ。

プーチン氏がウクライナの領土保全を明言せず、欧州連合(EU)加盟などの親欧米政策を揺さぶり続ける限り、争いはいつでも再燃しかねない。

欧米が停戦後も警戒をゆるめないのは当然だ。北大西洋条約機構(NATO)は、有事に即応できる部隊の新設などを決め、EUも新たに準備した制裁を発表した。

ロシアはこれ以上自らを孤立させる行動をやめ、真の紛争解決に動かねばならない。

毎日新聞 2014年09月05日

ウクライナ合意 停戦で露軍は撤退せよ

ロシアのプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領が、ウクライナ東部の停戦実現への枠組みに合意した。親露派武装集団を交えて5日に開かれる代表者会合で最終合意を目指す。2600人以上の死者を生んだ戦闘に終止符を打ち、欧米とロシアの制裁合戦を招いた危機の打開につながることを期待したい。

読売新聞 2014年09月07日

ウクライナ停戦 欧米は露の介入を排除せよ

戦闘の停止は一歩前進だが、持続的な停戦にはロシアの軍事介入を排除することが肝心だ。

ウクライナ東部で戦闘を続けてきた政府軍と親ロシア派武装集団が、ようやく停戦に合意した。

ただ、散発的な軍事衝突も伝えられ、情勢は流動的である。

4月以来の戦闘で、2000人以上が死亡した。8月下旬、武装集団を支援するロシア軍がウクライナに侵入した頃から、政府軍は一気に劣勢に立たされた。

政府軍が東部を軍事的に制圧するのは困難な状況にある。ポロシェンコ大統領には、停戦以外の選択肢はなかった。ロシア側にも、欧米との対立の深刻化を回避したい思惑があったと見られる。

産経新聞 2014年09月07日

ウクライナ停戦 米欧は対露圧力緩めるな

ウクライナ東部で戦闘を続けてきた同国政府と親ロシア派武装勢力が停戦で合意した。

ウクライナからの分離独立などを求める親露派は、ロシアの武器、兵力支援を得て政府軍の鎮圧作戦に抵抗し、約5カ月で民間人を含め2500人余が死亡した。

これ以上犠牲者を出さないためにも、双方は停戦を順守し、その間に最終的な政治解決を目指さなければならない。

北大西洋条約機構(NATO)首脳会議はウクライナ情勢をにらんで緊急展開部隊創設を決め、対露経済制裁に支持を表明した。

部隊は数千人規模で、同様にロシア系を抱えるバルト三国や、ポーランドなどにロシアが万一、軍事介入してくるような事態に2日以内で展開が可能だ。プーチン露政権への軍事圧力として働く。

首脳会議に結集した米欧諸国は軍事、制裁の2つの圧力を強め、親露派を武装解除し、ウクライナ東南部に侵攻したロシア軍を撤退へ追い込んでもらいたい。

制裁の実施主体である欧州連合(EU)、そして米国は対露追加制裁の準備を整えている。停戦合意により一時見合わせても、発動の構えは継続すべきだ。

今回の合意は、親露派がロシア提供の高性能兵器を大量に保持したままで、露軍もウクライナ進駐を続ける中での停戦である。

ウクライナのポロシェンコ大統領は「流血を止めるため、できることを全てしなければならない」と述べた。ロシアからの強力な親露派支援で形勢不利に立たされたウクライナ側としては、プーチン氏主導の停戦提案をのまざるを得なかったといえる。

ロシアと親露派に有利な現状の固定化を許してはならない。

そのため、合意にうたわれた欧州安保協力機構(OSCE)の停戦監視の下で、親露派の武装解除と露軍の撤退に加え、ロシアから親露派への武器、資金流入の停止を実現してほしい。

同時に、やはり合意された東部2州での地方分権の推進などをウクライナ政府と親露派、ロシア、OSCEなどが協議しなくてはならない。停戦はそうした政治決着への一歩にすぎない。

NATOは冷戦期、旧ソ連の脅威に対抗し西側の集団防衛に当たった。継承国ロシアのウクライナ侵略で、原点回帰を迫られた米欧同盟はその真価が問われる。

朝日新聞 2014年09月02日

ウクライナ 許されぬロシアの侵入

ロシアによるウクライナ東部への介入が深刻化している。

親ロシア派勢力に高性能の兵器を渡しているうえ、1千人を超す軍部隊を侵入させた。

米欧などでつくる北大西洋条約機構(NATO)が、その証拠として衛星写真を公開した。

この介入で、ウクライナ政府軍が優勢だった戦況は一変した。親ロ派の武装勢力による拠点の制圧が相次いでいる。

欧州連合(EU)の首脳会議は、ロシアの行為を「侵略」と非難した。軍の撤退を求めつつ、新たな制裁の準備を決めた。当然の対応である。

だが、プーチン大統領は国際社会からの警告に、ほとんど聞く耳を持たぬかのようだ。さらなる強硬姿勢に傾いている。

驚く発言があった。「ロシアは最も強力な核大国の一つだ。軍事紛争で我々にかかわらないほうがよい」とし、「核戦力を強化する」意向も示した。

米欧への対抗姿勢を意図しているようだが、核戦力に言及するとはもってのほかだ。核の削減と不拡散を求める国際社会の努力を踏みにじるような暴言であり、遺憾というほかない。

またプーチン氏は、ウクライナ東部に「国家機構」の設立を検討する必要がある、との考えも示した。これも論外だ。

東部の安定化のために高い自治権を与える「連邦制」は語られてきたが、それでは飽き足らず、事実上独立させようというもくろみかもしれない。

軍事介入で国の基本的なあり方を隣国に押しつけるようなことが、許されるはずもない。

EU首脳会議は、ロシアが行動を変えなければ、1週間をめどに新たな制裁を科す方針だ。米国も同じ方向にある。今週開かれるNATO首脳会議も、ロシアの行動を欧州の新たな脅威と見て対応を協議する。

米欧の制裁に反発してロシアは、農産物の輸入を禁じた。そのためEUなどは多大な経済的損失を被っている。

だが、いまのロシアの振る舞いは、主権の尊重と領土保全という、戦後秩序の原則への挑戦である。国際社会は、そうした暴挙をやめさせるよう、決然と行動せねばならない。

紛争の平和的解決を国是に掲げる日本にとっても、看過できない事態である。

こうした不法ぶりに目をつぶれば、ソ連が力ずくで占拠した北方領土の返還を求める主張も、説得力を失う。

日本政府は、主要7カ国(G7)の枠内でしっかり足並みをそろえ、より厳しい制裁を考えるべき時である。

毎日新聞 2014年08月28日

ウクライナ協議 緊張緩和への節目に

ロシアのプーチン大統領とウクライナのポロシェンコ大統領がベラルーシのミンスクで会談し、ウクライナ東部の戦闘など一連の危機の打開策を協議した。戦闘がマレーシア航空機撃墜という悲劇を招き、国際社会に衝撃を与えて以来、両首脳の直接会談は初めてだ。具体的な進展は今後に委ねられたが、欧米とロシアの制裁合戦で国際社会の緊張が高まる一方だった流れを変え、緊張緩和への節目となることを期待したい。

読売新聞 2014年08月30日

ウクライナ情勢 ロシアは侵入を直ちにやめよ

ロシア軍の兵士1000人以上が、ウクライナ領内に侵入していたことが判明した。

クリミア半島編入に続く露骨な介入である。隣国の主権を踏みにじる暴挙は、断じて容認できない。

北大西洋条約機構(NATO)は、侵入の「動かぬ証拠」として、ウクライナ領内を移動する露軍の自走砲の隊列をとらえた衛星写真を公開した。撮影日は、今月21日だとしている。

国連安全保障理事会が緊急会合を開き、欧米各国の代表がロシアを一斉に批判した。米国のパワー大使は会合で「ロシアはウソばかりついてきた」と指摘した。

オバマ米大統領が、「暴力の責任はロシアにある」と強調し、制裁強化を示唆したのは当然だ。菅官房長官も、「G7(先進7か国)で連携しながら適切に対応していきたい」と述べた。

それでもロシアは、ウクライナ侵入の情報について「でたらめだ」などと否定し続けている。

国際社会は協調してロシアに圧力をかけ、ウクライナへの不当な介入をやめさせる必要がある。

ロシアは、ウクライナ東部で親ロシア派武装集団に加勢しているロシア人は、軍に属さない「義勇兵」だと説明してきた。

ところが、ロシア軍の兵士が2週間以上前から戦闘に加担していたことも明らかになった。

ロシアの人権委員会のメンバーは、ウクライナ東部ドネツク州で13日、100人以上のロシア兵がウクライナ軍の攻撃で死亡したと証言した。弾薬運搬中のトラックの車列が攻撃されたという。

ロシア軍がウクライナで大規模に活動していたことになる。ウクライナ東部の戦闘は「ウクライナ内部の危機だ」とするプーチン大統領の主張と、真っ向から矛盾する事実と言える。

プーチン氏は26日、ウクライナのポロシェンコ大統領と会談し、「いかなる協力についても話し合う」と述べた。笑顔で握手を交わす裏で、着々と軍事介入を進める。そんな“二枚舌外交”が長く通用するわけもない。

ロシア大統領府直属の人権委から話が漏れたのも、情報統制がとれなくなってきた表れだろう。

欧州連合(EU)は30日の首脳会議で、ロシアに対する追加の経済制裁を協議する方針だ。

天然ガスをはじめエネルギーをロシアに依存する欧州が弱腰の姿勢を見せれば、ロシアをますます増長させよう。毅然きぜんとした対応が求められる。

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