避難者自殺判決 東電の責任厳しく指摘

朝日新聞 2014年08月27日

原発と自殺 過酷さに司法の警告

福島第一原発の事故のために避難生活を強いられた女性が、命を絶った。つかの間だけ戻れた自宅で焼身自殺した。

夫と子どもたちが東京電力に賠償を求めて提訴した。約2年の審理をへて、裁判所はきのう、東電の責任を認めた。

判決は、避難生活によるストレスの過酷さを強調している。慣れ親しんだ暮らしや仕事を奪われ、将来も見えない。その心の負担はあまりに重い。

ひとたび事故を起こせば、避難生活の中で自ら死を選ぶ人が出ることを東電は予想できたはずだ。判決はそうも指摘した。

原発の事故は、人間の環境も人生も激変させる。そこで起きた自殺との因果関係をそもそも否定する方がむずかしい。まっとうな司法判断である。

避難中の自殺はこのほかにも起きている。事故が時を超えて、どれほど重い苦難を人びとに強いているか、この判決は改めて考えさせる。

事故と自殺との関連性はこれまで、あいまいにされてきた。遺族が直接、賠償を求めても、東電側が因果関係を認めなかったり、認めても遺族には納得できない低い額を示したりといった対応が多かった。

今回の裁判でも東電は、女性の精神的な弱さに責任があったかのような主張をしてきた。この判決を機に、そうした姿勢を反省すべきだ。

個々の人間の心が強かろうが弱かろうが、死を選ばせるほどのストレスを与えたことに免罪符はないだろう。

家族関係や健康など、自殺をとりまく状況はさまざまだ。原因の厳密な特定はむずかしい。だとしても避難生活の中で起きたケースである限り、直接、間接に事故が影を落としていることは明らかといえる。

東日本大震災に関連した自殺者の人数は、遺体を調べる警察が判断し、内閣府がまとめている。それによると、福島県内では、2011年10人、12年に13人、13年に23人と、時間がたつほど増えている。岩手、宮城両県より多く、今年も7月末までに10人にのぼっている。

計56人の半数近くの年齢は、50~60代に集中しており、動機は、健康問題(27人)、経済・生活問題(15人)などが挙げられている。

いま何より肝要なのは、震災と原発事故がもたらす悲劇をこれ以上、起こさないことだ。

被災者を死に追い込まないために、ストレスをいかに小さくできるか。その手だてを、国、自治体、東電を中心に社会全体で急がねばならない。

毎日新聞 2014年08月27日

避難者自殺判決 東電の責任厳しく指摘

福島第1原発事故に伴う避難生活中に自殺した58歳の女性をめぐる裁判で、慰謝料など約4900万円を遺族に賠償するよう福島地裁が東京電力に命じた。東電にとって厳しい判断が示された。

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