谷を流れ下った大量の土砂が、多数の住宅をのみ込んだ。
局地的豪雨に見舞われた広島市内の10か所以上で20日未明、土石流や崖崩れが発生した。約40人の死亡が確認され、行方不明者もいる。痛ましい災害だ。
夏休み中だった安倍首相は急きょ、首相官邸に戻り、被災者の救命・救助にあたっている自衛隊の増員などを指示した。
現地では、救助活動中の消防隊員も犠牲になった。警察や消防、自衛隊は、二次災害に注意を払いつつ、不明者の捜索に全力を挙げてもらいたい。
気象庁によると、広島市安佐北区では、20日午前4時半までの3時間雨量が200ミリを超えた。例年の8月1か月間の1・5倍の降水量だった。大量の雨水が、土砂と樹木を巻き込みながら、山裾の住宅地に流れ込んだ。
甚大な被害が出た原因として、広島特有のもろい地質が指摘される。花こう岩が風化し、堆積した「まさ土」の上に、多くの住宅が建てられている。
広島県内の土砂災害危険箇所は3万2000か所に上り、都道府県の中で突出して多い。日頃からの備えが、どこよりも求められていたと言えるだろう。
広島市では1999年6月にも、今回のような崖崩れなどが発生し、20人が死亡した。この災害をきっかけに、土砂災害防止法が2001年に施行された。
防止法は、都道府県が、危険箇所を調査した上で、警戒区域や特別警戒区域に指定し、市区町村がハザードマップを作製するよう義務付けている。特別警戒区域では、宅地開発が規制される。
だが、今回の被災地域の多くは警戒区域に指定されていなかった。人員不足で指定作業が追いつかないとの証言もある。防止法が機能しなかったのは残念だ。
広島市が住民に避難指示・勧告を出したのは、20日午前4時15分以降だった。既に、土砂災害が発生していたとみられる。市は「雨量の分析を誤った」と、発令の遅れを認めた。
ただ、適切に避難指示・勧告が発令されても、豪雨と暗闇の中での避難は、危険が伴う。
広島市に限らず、夜間や未明に発生した災害での避難の在り方は、重要な検討課題である。
今回の豪雨は、日本海にある前線に、南の暖かく湿った空気が流れ込んだことが原因だ。この気圧配置はしばらく続くという。西日本を中心に、警戒を怠れない。
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