中国のWTO違反 独善は国際社会が許さぬ

朝日新聞 2014年08月19日

WTOの意義 無差別いかす柔軟さを

国境を越えて影響を及ぼし合うグローバル化の深化に、ルール作りが追いつかない。そんな21世紀の現実を映し出す典型的な例がある。世界貿易機関(WTO)だ。

昨年末の閣僚会合で、通関業務の簡素化などの「貿易円滑化」について協定を結ぶことに合意していた。しかし、インドなど一部の国の反対で、期限としていた7月末までに協定を結べなかった。

この結果、2001年に始まった多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)の先行きが見えなくなった。これまで何度も行き詰まっては、対象分野を絞るなどして何とか継続してきた。それもいよいよ限界である。

その一方で、自由貿易協定(FTA)が広がっている。自由貿易の主役をWTOから奪うかの勢いだ。FTAの協定国同士は互いに低い関税率を享受できても、それ以外の国は対象外で差別的な取り扱いを受けてしまう。

WTOは「すべての国に対する無差別の自由化」をうたう。そこに意義があるし、FTA花盛りの今もWTOの存在価値は失せてはいない。実際、1995年の発足時、128だった加盟国・地域は現在、160に増えた。今も20カ国以上が加盟に向け手続き中だ。

貿易をめぐる紛争解決の場としても、実績をあげている。例えば、中国によるレアアースなどの輸出制限について今月、WTO協定違反だという日米欧の主張が認められた。こうした争いを当事者間の交渉で解決するのは容易ではない。

それでも、時代に即したルール作りに失敗し続ければ、WTOへの信頼も揺らいでしまう。

交渉がまとまらない理由の一つは、全会一致を意思決定の原則にしていることだ。民主的とは言えるが、利害が異なる160の国の意見はなかなか一致しない。

注目したいのは、一定の国の賛同で協定を結ぶ方式だ。こちらはFTAと異なり、すべての国に参加の扉を開いている。

WTOではIT製品の関税引き下げについて、この方式をとっている。具体的には、29の国・地域が96年に合意し、参加国・地域のIT製品貿易が世界の90%を超えた時点で発効することとした。参加国が増えて協定は97年に発効。現在は78の国・地域が参加し、世界のIT貿易の97%をカバーしている。

WTOは柔軟な意思決定方式を広げ、新たなルール作りを急ぐべきだ。投資や電子商取引など対応すべき分野は多い。

読売新聞 2014年08月21日

中国WTO敗訴 不当な輸出規制を是正せよ

自国の利益を優先した資源の輸出規制は国際的なルールに反する。その原則が確認された。

世界貿易機関(WTO)は、中国政府によるレアアース(希土類)の輸出規制などが、WTO協定に違反するとの最終判断を下し、中国の敗訴が確定した。

中国は今回のWTO決定に従い、不当な輸出規制を直ちに是正すべきである。

レアアースはハイブリッド車の高性能モーターやスマートフォンなどに使われる貴重な素材で、中国は世界シェア(占有率)の9割超を占める最大の生産国だ。

中国は2010年にレアアースの輸出枠を大幅に削減した。一部のレアメタル(希少金属)とともに輸出税も導入している。

日本と米国、欧州連合(EU)は、こうした措置がWTO協定に違反するとして、12年に共同で提訴していた。

中国は審査で「環境や天然資源を守るための規制だ」などと反論したが、輸出制限の一方で、国内企業への供給は従来通り続けてきた。自国産業を優遇していたのは明らかだろう。

WTOが、輸出規制は保護主義的な措置だとする日米欧の主張を全面的に認めたのは当然だ。

中国はこれまで、自国の資源を外交的な圧力をかける手段としても利用してきた。

10年に尖閣諸島沖で中国漁船が衝突事件を起こし、日中関係が緊張した際は、レアアースの対日輸出を一時停止した。

こうした行為は、特定国に対する差別的な扱いの禁止など、WTOの基本原則に反する。

中国は01年にWTOに加盟し、自由貿易の恩恵を享受しながら高い経済成長を遂げてきた。経済大国としての責任を自覚し、ルールを順守すべきだ。

日本は今後も、レアアースをはじめ希少資源のほとんどを輸入に頼らざるを得ない。外国による輸出規制などで、経済活動が深刻な打撃を受けないようにすることが重要である。

日本の政府と業界はレアアースやレアメタルについて、調達先の多様化のほか、資源権益の確保などを進めてきた。さらなる取り組みが求められる。

使用済みの機器から有用な資源を抽出するリサイクルの促進や、レアアースの代替品の開発などに力を注ぐことも大切だ。

「資源小国」の逆風をバネに、官民を挙げて技術開発を加速してもらいたい。

産経新聞 2014年08月19日

中国のWTO違反 独善は国際社会が許さぬ

中国によるレアアース(希土類)の輸出規制は不当だとして、世界貿易機関(WTO)に共同提訴していた日本と米国、欧州連合(EU)の勝訴が確定した。

中国は、輸出制限で国際価格の高騰を招いた一方、国内向けには安価に供給する優遇策を取ってきた。これが国際ルールに違反する保護主義的な行動であると明確に認定された。

ハイテク製品に使われるレアアースの安定供給は、世界経済の発展にも資する。中国は不公正貿易を反省し、早急に是正措置を講じなければならない。

2010年秋の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件後、日本は中国から、事実上のレアアース禁輸措置を受けた。こうした中国の動きなどを不当な措置として共同提訴したものであり、WTOの違反認定は当然といえる。

日本ではこれを受け、官民を挙げて調達先の多様化を進めた。中国に再び資源を外交カードとして利用させないためにも、引き続き「脱中国」の資源戦略を進める必要がある。

同時に、欧米と結束を強め、国際ルールを軽視し、自国の利益を優先させる中国の独善的な振る舞いに転換を迫らなくてはならない。中国に不公正貿易を許さない姿勢を貫くことが肝要だ。

レアアースは産業だけでなく、軍事的にも重要な戦略物資だ。世界需要の大半を供給してきた中国は輸出数量を制限し、一方的に輸出税を課した。市場をゆがめた中国の責任は極めて大きい。

恣意(しい)的な通商政策には、代償が伴う。中国の強引な輸出規制で、日本企業の中国離れが一気に加速した。中国のレアアース業界は、需要低迷で打撃を受けたことを忘れてはなるまい。

レアアースなどの資源戦略に限らず、中国の独善的な経済運営に対する日米欧の先進諸国の警戒感は強まっている。

最近では、独占禁止法違反の疑いで、自動車などの外資系企業を軒並み調査する中国当局に対し、「国内産業を保護するための外資たたきではないか」という見方も出ている。

こうした海外の懸念を払拭する姿勢が今、中国に強く求められている。WTO加盟で自由貿易の恩恵を存分に享受し、世界2位の経済大国になった中国にとっては、最低限の責務といえる。

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