読売新聞 2014年08月17日

北方領土演習　ロシアの挑発は看過できない

日露間の最大の懸案である北方領土を舞台にした挑発行為であり、断固として容認できない。

ロシアが国後、択捉両島や千島列島で、１０００人規模の軍事演習を実施した。多数の攻撃用大型ヘリコプターや軍用車両が参加したという。北方領土での本格的な演習は２０１０年７月以来とされる。

安倍首相は「到底受け入れることはできない」と批判し、外務省は駐日ロシア臨時代理大使に厳重抗議した。当然の対応である。

日本固有の領土である北方４島は、１９４５年の終戦直後からソ連に不法占拠されてきた。長年にわたる日露領土交渉の係争地における一方的な軍事演習は、両国間の信義を大きく傷つける。

特に問題なのは、ロシアが、日本の抗議に対し、「ロシアは軍事演習を行う場所を自国領内で独自に決定できる」と拒絶する声明を発表したことだ。日本の事前の中止要求も無視している。

ロシアのプーチン大統領は演習と同時期に、ウクライナ南部のクリミア半島を訪問した。今回の演習には、３月に編入を強行したクリミアと同様、領土問題では一切譲歩しない姿勢を強調する狙いがあるのではないか。

国後、択捉両島にはロシア軍の機関銃・砲兵師団約３５００人が駐留し、近年、装備の近代化を進めている。北方領土の「ロシア化」の一環だ。日本はロシアに粘り強く自制を促す必要がある。

ロシア極東軍には、フランスから購入する予定のミストラル級強襲揚陸艦が配備される可能性が指摘されている。小野寺防衛相は７月末の日仏防衛相会談で、強襲揚陸艦の売却中止を求めた。こうした外交努力も続けたい。

ロシアは、ウクライナ問題を巡る米欧の対露制裁に日本が同調していることに反発している。

日本が今月５日にロシア政府関係者らの日本国内資産凍結などの追加制裁を決めると、ロシアは、今月末の日露外務次官級協議を延期する対抗措置をとった。

一方、米欧からの農水産物輸入を禁じたが、日本は対象外とした。日本と米欧の分断工作だろう。

今回の演習により、日露関係の一層の停滞は避けられまい。両国が合意している今秋のプーチン大統領の来日も、実現が一段と厳しい状況になった。

大切なのは、日本がロシアの揺さぶりに動じず、米欧との協調を維持することだ。力を背景とした領土の侵害や現状変更を許さない戦略的外交を展開すべきだ。