イラク空爆 米国が一歩踏み出した

朝日新聞 2014年08月12日

イラク空爆 めざすべきは国民統合

軍事力だけでは問題は解決しない。いまのイラク情勢は、米国がくぐった対テロ戦争のジレンマを再び見せつけている。

米軍がイラクで始めた空爆は急場しのぎの対処でしかない。過激派組織「イスラム国」の想定外に速い勢力拡大に追い込まれた末の決断だった。

イラクの混乱の根本原因は、国内各派を結集できる政権や軍が存在しないことにある。

米政府は、イラク国内の政治対話と国際的な支援づくりにこそ力を入れ、挙国一致政権の誕生を促さなくてはならない。

オバマ米政権による空爆開始には二つの理由があった。

まずは、人道危機の回避である。「イスラム国」から追いたてられた数万人の少数民族の命を守るとしている。

もう一つは、イラク北部クルド人地域の中心都市アルビルの防衛だ。イラク復興の拠点の一つであり、多数の欧米企業事務所や、米国の領事館がある。

一昨年にリビア東部ベンガジの米領事館が襲われ、大使らが殺された事件で、オバマ政権は国内で強い批判を浴びた。イラクで同じ事態を避けるためにも腰を上げざるを得なかった。

そこまで事態が悪化するまで米政府が関与をためらってきたツケともいえる。内戦が続く隣のシリアで放置された「イスラム国」が伸長してきた経緯を考えても、米国の中東政策は明らかに後手に回っている。

2年半余り前に米軍が撤退して以降、イラクのマリキ政権は自らのイスラム教シーア派の優遇に走りすぎた。スンニ派、クルド人の主な勢力と権益を分かち合っていれば、過激派が巣くう余地は小さかっただろう。

マリキ氏の下で事態が収拾できるかは見通せない。少なくともイラクの政界が早く、有効な指導体制を築くよう国際社会が後押しする必要がある。

シーア派に影響力をもつイランや、スンニ派と関係が深いサウジアラビアなど周辺国の利害は複雑だ。国際社会は、イラク国民を分裂ではなく統合を志向するよう導くことが大切だ。

いまはシーア派が独占する国軍や警察にスンニ派も加え、同じ国民意識を持って治安を守る国に育てなくてはならない。

相当の時間がかかるだろう。それでも当座の対症療法と並行して、長期的な政治対話を進めさせる責任が米国にある。

欧州や日本も傍観できない喫緊の事態である。フランスやオーストラリアは人道支援への参加を表明したが、各国ともそれぞれの立場と特性を生かし、イラクの再建に協力すべきだ。

毎日新聞 2014年08月09日

イラク空爆 米国が一歩踏み出した

米国がイラク空爆に踏み切った。複数の米軍機がイラク北部でイスラム過激派の移動砲台などをレーザー誘導弾で爆撃した。2011年に米軍がイラク撤退を完了して以来、初めての本格的攻撃である。

読売新聞 2014年08月16日

イラク首相退陣 過激派排除へ勢力を結集せよ

イラク北西部で勢力を拡大するイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」の排除へ、重要な一歩としたい。

イラクのマリキ首相が退陣を決断し、新首相に指名されたアバーディ国民議会副議長への支持を表明した。マリキ氏は、イラク分裂の危機に対処できないまま、自己保身に走り、内外の信用を失っていた。

約8年間の執政で自らの支持基盤のシーア派を偏重した結果、スンニ派やクルド人の強い不信を買い、ついには3期目の組閣への協力も得られなくなった。

マリキ政権からのスンニ派などの離反が、「イスラム国」の伸長を許した一因である。マリキ首相の退陣で、国難の乗り切りに不可欠な国民融和の大きな障害が取り除かれたことは、評価できる。

アバーディ氏は、マリキ氏と同じシーア派出身だが、政治色が比較的薄く、実務家肌とされる。スンニ派やクルド人との融和を早急に実現する必要がある。

最初の課題は、9月上旬の期限までに挙国一致内閣を樹立することだ。そのためには、スンニ派やクルド人の協力が得られるよう、マリキ流の政治と決別する姿勢を打ち出す必要がある。各政治勢力の結集を図ることが肝要だ。

米欧や日本、イラン、サウジアラビアなどは、アバーディ氏支持で足並みをそろえた。「イスラム国」の脅威に対処するには、新体制作りを一致して支えることが重要だと判断したからだ。

「イスラム国」は、マリキ政権打倒を狙ったスンニ派部族やフセイン旧体制残党と共闘している。過激思想に感化された国外の若者も加わり、勢力は約1万人にも上るという。放置すれば、テロの脅威が世界へ拡散しかねない。

スンニ派幹部による政治的働きかけで「イスラム国」とスンニ派部族などとの連携を断ち切り、勢力を弱体化させねばならない。

米国は限定的な空爆で、米総領事館のある北部アルビル周辺への「イスラム国」の侵攻の足止めや、少数派ヤジーディ教徒の一部救出など、一定の成果を上げた。

米軍は、空爆態勢を数週間以上も維持する方針で、クルド人勢力への武器供与も始めた。だが、限定空爆の効果には限界がある。崩壊寸前のイラク軍治安部隊を本格的に支援し、再建すべきだ。

イラク北部のクルド自治区だけで70万人に上るとされる避難民への支援も重要だ。人道的観点から、日本も米欧と連携し、効果的な支援を検討したい。

産経新聞 2014年08月13日

イラク新首相指名 国の結束固める体制急げ

イラクの宗派対立を深めてきたマリキ首相に代わり、同じイスラム教シーア派政党のアバディ国民議会第1副議長が新首相候補に指名された。

アバディ氏はイスラム教スンニ派やクルド人など各勢力を取り込んだ組閣を急ぎ、議会の承認を得たうえで、スンニ派過激組織「イスラム国」の進撃をはね返す挙国一致体制を築かなければならない。

氏はフセイン独裁政権下で英国に亡命し、政権を倒したイラク戦争後に帰国して政界入りした。その新首相指名を、オバマ米大統領は「重要な一歩」と歓迎した。

オバマ氏は、イラク北部で「イスラム国」に脅かされるクルド人勢力を手助けし、人道的危機に瀕(ひん)する少数派を救うため限定的空爆に踏み切っている。「米軍事行動だけで危機を終わらせることはできない」とも強調した。

シリアのアサド政権との戦いで地歩を固めた「イスラム国」がイラクに攻め入り、瞬く間にスンニ派の北西部を支配したのは、マリキ政権による多数派シーア派の過度の優遇で生じた宗派、民族間の分裂状況につけ込めたからだ。

例えば、北部の要衝モスルは、マリキ氏に反発したスンニ派の部族やフセイン政権軍の残党が「イスラム国」に加勢した結果、シーア派偏重で弱体化した政府軍が逃走し、あっけなく陥落した。

「イスラム国」の勢いを押し戻すには、米軍の空からの援護射撃だけでは不十分だ。穏健スンニ派を「イスラム国」から引き離し過激派を孤立させるとともに、政府軍とクルド人部隊を連携させることが不可欠である。

そのためには、政府を先頭に各派が結束して対処しなければならない。政府軍の指揮・戦闘能力、規律の向上も喫緊の課題だ。

「イスラム国」がシリア、イラク両国にまたがる地域に居座り、周辺国への勢力膨張の機をもうかがう状況は、国際テロの拠点化にもつながりかねず、中東を超えて世界全体の脅威である。

国際社会は、イラク次期政権による「イスラム国」との戦いに支援を惜しんではならない。

問題は、マリキ氏がなお、権力にしがみつき内外の退陣圧力に抗していることだ。首都バグダッドに配下の特殊部隊を展開させるなど不穏な動きも見せている。

マリキ氏は国を割った責任を取り潔く身を引くべきだろう。

読売新聞 2014年08月10日

米軍イラク空爆 オバマ大統領の苦渋の決断だ

米軍がイラクで、イスラム過激派組織に対する空爆に踏み切った。

2011年に米軍がイラクから全面撤収して以来、初の軍事介入だ。

イラクからの米軍撤収を大きな成果に掲げてきたオバマ政権にとって、再度の軍事介入はイラク政策の転換を意味する。

米軍が空爆したのは、イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」の拠点だ。米空母搭載の戦闘攻撃機や無人攻撃機が、迫撃砲陣地などを繰り返し爆撃した。

イラクでは、シリア内戦に乗じて勢力を拡大したイスラム国が、他の宗派や民族を攻撃し、都市や油田を次々に占拠している。国家崩壊の危機である。

劣勢のイラク政府をテコ入れするため、米国は軍事顧問などを派遣したが、その後も戦況は悪くなるばかりだ。過激派の攻勢に歯止めをかける軍事行動に乗り出したことは理解できる。

オバマ大統領は目的について、外交官や軍事顧問などイラク在住の米国人の保護を挙げた。

さらに、過激派の迫害で山岳地帯に逃げ込んだ多数の住民が、食料も水もなく死に直面していると指摘し、「大虐殺に相当する。米国は見て見ぬふりはできない」と、人道的な側面を強調した。

イラクの要請に基づく今回の空爆に対し、英仏は明確な支持を表明した。岸田外相も、「テロとの戦いの一環」だとして、一定の理解を示した。

米国は11月に中間選挙を控えており、空爆は政治的にも難しい決断だったと言えよう。

イラク情勢の悪化について野党共和党内には、オバマ政権の「弱腰」が原因とする批判が多い。

一方、国民の多くは米軍の海外派兵に反対だ。オバマ氏が地上部隊の派遣を強く否定した背景には世論への配慮もあるのだろう。

懸念されるのは、空爆の効果が不透明で、「出口戦略」が描けていないことだ。いたずらに空爆が長引けば、イラク国民の反米感情が高まる恐れもある。

長期的なイラク安定化のためには、イラク国民の融和と、イラク軍の強化による治安の改善を図ることが欠かせない。

イスラム教のシーア派とスンニ派、クルド人などの各勢力が参画する挙国一致内閣を早期に樹立することが肝要だ。

米国は、シーア派大国のイランや、スンニ派に影響力を持つサウジアラビアなど周辺国と連携し、イラク安定に向けて粘り強く外交努力を続けるべきだ。

産経新聞 2014年08月10日

米イラク空爆 「イスラム国」拡大許すな

米国がイラク北部で、イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」拠点に対する限定的な空爆の実施に踏み切った。

イラクとシリアの国境にまたがる地域を支配し、周辺国を含め侵攻拡大をうかがう同組織は中東全体の脅威であり、座視できない。空爆はイラク政府が要請していたもので、正当な軍事行動である。

「イスラム国」は6月上旬、イラク第2の都市モスルを制圧し、首都バグダッドに向け進撃した。最近は、北部クルド人自治区への圧力を強めていた。

迫害を逃れたクルド民族の少数派住民約4万人が山頂に追い詰められ、孤立した。オバマ米大統領が「見て見ぬふりはできない」と介入を決断したのは当然だ。

自治区中心都市アルビルには米兵、米外交官がおり、大統領は国民保護も目的に挙げた。

「イスラム国」は、拘束・殺害したイラク政府軍兵士らの写真をネット上で公開したり、クルド民族の女性多数を拉致したりするなど、極めて残虐な集団だ。他宗教・宗派の弾圧や、イスラム国家樹立宣言など、国際秩序の破壊は決して許されない。

オバマ大統領は地上部隊の派遣は否定している。空爆を後押しにイラク政府軍、クルド部隊が攻勢に転じることが期待される。

米国主導のイラク戦争は、サダム・フセイン長期独裁政権を打倒した。フセイン後のイラクに待っていたのが混乱であってはならない。米国は、イラクの平和と安定に相応の役割を担うべきだ。

オバマ大統領は米軍にも多大な犠牲を強いたイラク戦争の「終結」を自身の実績だとしているが、今後もできることを躊躇(ちゅうちょ)してはならない。

空爆承認の声明で大統領は「唯一の永続的な解決策は、イラク各勢力の和解だ」とも述べた。国内の対立解消なくして、イラクの安定はあり得ない。

多数派のシーア派を支持基盤とするイラクのマリキ首相は、スンニ派など少数派を冷遇し、宗教対立を悪化させた。スンニ派住民の一部が政府より「イスラム国」を受け入れたことも事実で、過激組織に付け入る隙を与えた。

4月のイラク議会選後、次期首相選びが難航している。イラク各勢力は危機の今こそ新政権作りで協力し、過激組織に対して団結すべきだ。

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