エボラ出血熱 拡散の危険を忘れずに

朝日新聞 2014年08月05日

エボラ出血熱 拡散の危険を忘れずに

交通機関の発達で、地球はどんどん小さくなっている。

人や物が世界中を行き交うのに伴って、さまざまなリスクも往来するようになった。

その一つが感染症である。

西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリアの4カ国で、エボラ出血熱の感染拡大が続いている。

世界保健機関(WHO)の最新のまとめでは、1440人の患者のうち826人の死亡が確認されたという。

エボラ出血熱が1976年に発見されてから、最も大規模な感染拡大になっている。

日本からは遠いことのようにも見えるが、こうした感染症はいつ国内に入ってくるか分からない。

今のうちに態勢を着実に整えておきたい。

米国は今回、医療援助でリベリアに入っていて感染した米国人医師を、隔離室のあるチャーター機で帰国させ、アトランタの大学病院に入院させた。全米でも4カ所しかない高度隔離病棟施設という。

日本でも、エボラやマールブルグ病など特に危険な一類感染症の患者については、感染症法に基づいて、各都道府県に置く第一種感染症指定医療機関に隔離することになっている。

施設がたくさんあるのは一見いいことだが、医療スタッフの練度は大丈夫だろうか。定期的に点検しておきたい。

より深刻なのは、エボラウイルスなどを研究できる施設が国内にはないことだ。

間違っても病原体が漏れ出さないよう、最も厳重な高度安全実験施設(BSL4施設)でなければならないが、世界には約40カ所あるのに国内はゼロ。

実際に国内で患者が発生したり帰国患者を受け入れたりしても、感染した血液や組織を迅速に調べられず、診断や治療が後手に回る恐れがある。

今年3月に日本学術会議はBSL4施設が必要とする提言をまとめた。最終的な候補地がどこになるにせよ、地元の理解を十分得られるよう、厳格な安全運用などの基本構想づくりを急ぐべきだろう。

感染症対策は設備だけではない。たとえば、エボラは重症化した患者の血液や体液との接触で人から人への感染が起きるほか、野生動物の肉を食べて感染することもある。

感染地域にはできるだけ近寄らず、正しい知識で感染を予防することが重要だ。

「感染症は知識で予防する」というのは、いつでも何の感染症にも通じる鉄則である。

毎日新聞 2014年08月09日

エボラ出血熱 国際協力で食い止めを

西アフリカでエボラ出血熱の感染が拡大を続けている。世界保健機関(WHO)の6日時点の報告によると、ギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリアの4カ国で、疑い例も含めると1700人以上が発病、900人以上が死亡している。

読売新聞 2014年08月09日

エボラ出血熱 国際連携で拡大を食い止めよ

西アフリカで、エボラ出血熱の大量感染が起きている。国際社会が連携し、拡大を食い止めなければならない。

感染は今年2月頃、ギニアから広がった。隣接するシエラレオネとリベリアを含め、死者は3国で900人を超えた。1976年に最初の患者が確認されて以来、最大の被害である。

3国と国境を接していないナイジェリアで死者が出たほか、中東のサウジアラビアでも、似た症状の患者が死亡した。感染が世界に拡散しかねない危険な状況だ。

世界保健機関(WHO)は「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を宣言し、空港での監視強化や旅行者への情報提供など拡散防止策を取るよう各国に勧告した。

日本も「対岸の火事」とみなさず、着実に対策を取るべきだ。

エボラ出血熱は、患者の血液などに触れることで感染する。有効な治療法はなく、患者の致死率は50~90%と極めて高い。

過去の感染は主に農村部で起きたが、今回は人口の多い都市部にも及んでいる。感染が広がりやすい、憂慮すべき事態である。

エボラ出血熱の拡大を封じ込めるには、感染者を厳格に隔離することが肝要だ。住民に対する衛生知識の周知徹底も欠かせない。

大量感染が起きた3国は、近年まで内戦やクーデターが続き、行政や医療の体制は今も脆弱ぜいじゃくだ。自力での対処には限界がある。

多くの医師や看護師が感染したため動揺が広がり、治療スタッフの確保が困難になっている。

米国政府は、西アフリカに派遣する医療専門家を50人増員する方針を決めた。現地の厳しい現状を踏まえてのことだろう。

日本も資金援助など、できる限りの支援が求められる。

外務省はギニアなどの3国を対象に「感染症危険情報」を出し、不要不急の渡航を延期するよう呼びかけている。感染を日本に飛び火させないため、水際での警戒を怠ってはならない。

国内で感染者が出た場合は、指定医療機関に隔離されることになっている。搬送や受け入れの手順を再確認することが大事だ。

問題は、エボラ出血熱など致死率の高い感染症のウイルスを安全に扱うための特別な施設が、国内には1か所もないことである。病原体の分析を外国に依頼せざるを得ないようでは、対応が後手に回る恐れがある。

国民の命を感染症から守ることも国家の重要な危機管理である。体制の強化を急ぐべきだ。

産経新聞 2014年08月09日

エボラ対策 ここでも積極平和主義を

エボラ出血熱の流行が西アフリカで拡大している。世界保健機関(WHO)は専門家による2日間の国際緊急委員会の検討を経て8日、国際的に懸念される公衆衛生上の非常事態を宣言した。

今年3月以降のギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリア4カ国の報告数は4日現在、患者1711人、死者は932人に達している。農村部だけでなく都市部にも広がり、直近3日間だけで新規症例108例、死亡45例が報告されている状態だ。

年内の終息は困難とみられ、1976年にアフリカで初めてエボラの流行が確認されて以来、最悪の事態となっている。

エボラウイルスは感染した人や動物の血液、排泄(はいせつ)物、嘔吐(おうと)物などに直接、触れることで感染する。したがって治療や看病、あるいは亡くなった患者の遺体を清める際に直接、患者の血液などと接触することが感染の原因になる。

逆に、そうした接点がなければ感染しないので、致死率は高いが感染力は弱い。今回はそれでも流行が広がり、止まらない。

西アフリカ地域では初のエボラの流行で住民や医療機関に予防や治療の知識がなかったこと、初期症状があっても周囲の目を気にして隠してしまうこと、亡くなった人を清めて弔う習慣から遺体に触れる機会があることなどが拡大要因となったと考えられる。

発熱などの初期症状がマラリアと似ていることから判断が遅れてしまうケースもあるという。

現地には欧米や日本からも医療関係者が支援に入り、実際の診療や介護、現地スタッフの研修や住民への啓発活動を続けている。

だが、診療や看護には、ガウンやマスク、ゴーグルなどで最高度の感染防止策を取りつつあたらなければならず、医療スタッフの消耗度は激しい。流行拡大とともに人材不足が深刻化しており、流行を抑えるには世界レベルの支援体制が一段と求められている。

ウイルスの感染経路や医療基盤の状況から見て、わが国に流行が飛び火し、国内で感染が拡大する可能性は実は低い。

ただし、油断は禁物だ。海外で事業や援助活動に携わる邦人も多い。遠い他国の出来事として傍観することなく、専門家の派遣など可能な限りの貢献を継続して果たす姿勢は、積極的平和主義の観点からも必要だろう。

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