朝日新聞 2010年01月26日
米金融規制 銀行の公共性立て直せ
米国で過去30年にわたり進んできた規制緩和と金融機関の巨大化。その流れを逆転させる新たな金融規制案を、オバマ政権が打ち出した。
世界同時不況を引き起こした金融危機の再発を防ぐには、思い切った規制の立て直しが必要だ。オバマ大統領の目指す方向性を支持したい。
新規制案は、金融機関を伝統的な銀行業務をするものと、大きな損失の危険を承知での投資も認められる証券会社に分けようとしている。
銀行は一般預金者の貯蓄の受け皿として高い公共性を有するため、経営危機に際して中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)の融資など公的な保護を受けられる。半面、自己資金による証券売買や各種ファンドへの出資など高リスク業務は禁じられ、企業や個人への融資に専念する。
一方、証券会社は特に業務の制限はない代わりに銀行のような保護は得られない。また、すべての金融機関が、負債の大きさなどに応じて事業の規模を規制される。
高額の報酬を目当てに野放図なリスクをとり、失敗したら「大きすぎてつぶせない」を盾に税金で救ってもらう。危機で露呈したのは、そんな金融界のモラル喪失だった。悪循環はもう許さない、という大統領の決意の表れが今回の規制改革案だといえる。
考え方は、1930年代に大恐慌の反省をもとに決められた銀行と証券の業務分離に近い。新規制の知恵袋であるボルカー元FRB議長には、金融分野の「公共性の再建」という明確な理念があるようだ。
米国の金融システムは世界中からの借金に依存する間に大きくゆがんでしまった。いまや世界的な不均衡の是正が求められ、米国も金融システムの再構築が必要だ。
公共性が高く、政府が税金を使ってでも守るべき部分と、企業や投資家の自己責任に任せる部分に分けよう、というのは理にかなっている。
失業率が10%を超えている中、従業員にボーナスをはずむ一方で貸し渋りを続ける大手金融機関に対する米国民の怒りは根強い。手ぬるい規制では済まなくなったのだろう。
民主党の強固な地盤だったマサチューセッツ州の上院補選で敗北した直後だけに、この規制強化案には「大衆迎合のためのウォール街たたき」との批判もある。株式相場は「オバマ・ショック」で大きく下げている。
だが、巨大金融機関の暴走による危機を繰り返さないよう制御するための民主的ルールはどうあるべきか、という問いは、避けて通れまい。
米国にならって金融の規制緩和を続けてきた日本も含めて世界が直面する課題だけに、G20などの場でも議論を深めていくべきだ。
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毎日新聞 2010年01月23日
米金融規制強化 「大統領の戦い」支持する
オバマ米大統領が就任して1年、リーマン・ショックまでさかのぼれば16カ月。ようやく歴史的変革につながる可能性を秘めた金融規制案が米国で登場した。
預金を扱う銀行にリスクの高い投資活動をさせない、というのが、大統領自ら発表した規制強化策の柱の一つだ。預金者を守るという観点から国に保護されている銀行が、ヘッジファンドに出資したり、自社の利益のために顧客業務とは関係のない証券取引を行ったりすることを禁じるものである。投資に失敗しても最後は公的資金で救済してもらえるとの甘えから、金融機関が危険な投資に手を染めるのを防ぐ狙いがある。
もう一つの柱は金融機関が巨大になりすぎないよう規模に新たな歯止めをかけるものだ。無責任な経営に原因があっても、「大きすぎてつぶせない」との理由から金融機関を税金で救済せざるを得なくなる事態の再来を阻止しようというものだ。
オバマ政権が昨年夏に取りまとめた規制改革案は「改革」と呼ぶには中途半端な内容だった。金融機関の肥大化や業務の複雑・多岐化といった根本的な問題にはメスを入れず、金融自由化の原則を維持するものだった。すでに法案が議会で審議されていたが、大統領は本格的な規制強化に向け大きくかじを切った。勇気ある方針転換として評価したい。
背景には政治的な計算もあっただろう。マサチューセッツ州選出の連邦上院議員補選で民主党候補が敗北した影響は小さくないはずだ。上院で民主党が安定多数を失い、医療保険制度改革の先行きも不透明になる中、ウォール街たたきは、格好の人気取りになり得る。
発表を受け米国の株式市場は急落した。東京市場にも余波が及んだ。規制が実施されれば、大手金融機関の姿が大きく変わり、従来のような高収益は期待できなくなるからだ。しかし、企業や国民の経済活動を支える本来の金融業とは、そもそも世間一般とかけ離れたもうけなど無縁のはずである。
今後、ウォール街の猛反撃が予想される。それを覚悟の大統領は「彼らが戦う気なら、受けて立つ用意がある」と宣言した。議会の支持獲得も難航するかもしれないが、ひるまず指導力を発揮し続けてほしい。形だけの金融界たたきに終わってはいけない。必要なら修正を何度繰り返してでも、有効な再発防止策を練り上げてもらいたい。
他の主要国との政策協調も必要になってくるだろう。また、銀行業から証券、保険業務まで幅広く手掛ける“金融のデパート”を目指す日本の路線も、影響を受けかねない改革だ。動向を注意深く見守りたい。
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