前代未聞のごまかしだ。責任は極めて重い。
大阪府警の全65署が、窃盗や器物損壊などの犯罪を認知した件数を過少報告していたことがわかった。5年間で8万件を超え、全体のほぼ1割に当たる。
府警は不正な統計をもとに、長年続いてきた街頭犯罪ワースト1を10年に返上した、と発表していたが、虚構だった。
当の府警の受け止め方にまた驚く。「幹部の指示はなく、各署の担当者が独自判断でやった」とし、組織ぐるみの不正ではなかったと結論づけた。
誰も明確に指示していないのに、全署が同じ不正に手を染めたとすれば、事態はより深刻だろう。組織に根ざした問題として受け止めるべきである。
警察の不正な統計処理は各地で問題になってきた。佐賀県警は人身事故件数を少なく偽装し、愛知県警でも交通死亡事故などの計上漏れが発覚した。
共通するのは、統計数値に対する異様なこだわりである。
大阪の場合、ワースト1返上に意欲を燃やす橋下徹知事(当時)の誕生で、歴代の府警トップが現場にはっぱをかけ続けた。多くの担当者が重圧を感じ、「犯罪を計上しにくい雰囲気があった」と証言している。
警察組織は上意下達が原則だ。上層部が統計をまるで成績指標とみて、数値を減らせば表彰、増えれば叱責(しっせき)、というような信賞必罰で臨むと、現場が顔色をうかがうようになるのは、当然といえる。
犯罪の認知件数は、地域の治安状況の指標であり、それを率直に受け止めて対策を講じるのが筋である。「犯罪を届け出ても正しく処理されないのでは」と市民に思われれば、弊害も大きすぎる。
府警は、当時の署長や刑事課長ら97人を処分の対象とした。
こうした問題が起きるたび、関係者を処分し、「指導を徹底する」と繰り返すのが警察の常だ。だが、そういう懲罰型の対応だけでは、組織自体に起因する問題の根絶は不可能だろう。
ただでさえ警察の負担は高まっている。相談は全国で年170万件を超え、ストーカーや家庭内暴力など慎重な対応を求められる事案も増えている。一方、国や自治体の財政難で要員増は追いついていない。
使命感が高いはずの現場がなぜ不正に傾くのか。警察庁は警察全体の問題ととらえ、外部識者の意見も聞きながら、背景事情の解明に取り組むべきだ。
大阪などを特殊ケース、と片付けるようなら、不正はまた必ず起きる。
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