大阪府警の偽装 あきれる治安回復工作

朝日新聞 2014年08月07日

警察の不正 組織の病理にメスを

前代未聞のごまかしだ。責任は極めて重い。

大阪府警の全65署が、窃盗や器物損壊などの犯罪を認知した件数を過少報告していたことがわかった。5年間で8万件を超え、全体のほぼ1割に当たる。

府警は不正な統計をもとに、長年続いてきた街頭犯罪ワースト1を10年に返上した、と発表していたが、虚構だった。

当の府警の受け止め方にまた驚く。「幹部の指示はなく、各署の担当者が独自判断でやった」とし、組織ぐるみの不正ではなかったと結論づけた。

誰も明確に指示していないのに、全署が同じ不正に手を染めたとすれば、事態はより深刻だろう。組織に根ざした問題として受け止めるべきである。

警察の不正な統計処理は各地で問題になってきた。佐賀県警は人身事故件数を少なく偽装し、愛知県警でも交通死亡事故などの計上漏れが発覚した。

共通するのは、統計数値に対する異様なこだわりである。

大阪の場合、ワースト1返上に意欲を燃やす橋下徹知事(当時)の誕生で、歴代の府警トップが現場にはっぱをかけ続けた。多くの担当者が重圧を感じ、「犯罪を計上しにくい雰囲気があった」と証言している。

警察組織は上意下達が原則だ。上層部が統計をまるで成績指標とみて、数値を減らせば表彰、増えれば叱責(しっせき)、というような信賞必罰で臨むと、現場が顔色をうかがうようになるのは、当然といえる。

犯罪の認知件数は、地域の治安状況の指標であり、それを率直に受け止めて対策を講じるのが筋である。「犯罪を届け出ても正しく処理されないのでは」と市民に思われれば、弊害も大きすぎる。

府警は、当時の署長や刑事課長ら97人を処分の対象とした。

こうした問題が起きるたび、関係者を処分し、「指導を徹底する」と繰り返すのが警察の常だ。だが、そういう懲罰型の対応だけでは、組織自体に起因する問題の根絶は不可能だろう。

ただでさえ警察の負担は高まっている。相談は全国で年170万件を超え、ストーカーや家庭内暴力など慎重な対応を求められる事案も増えている。一方、国や自治体の財政難で要員増は追いついていない。

使命感が高いはずの現場がなぜ不正に傾くのか。警察庁は警察全体の問題ととらえ、外部識者の意見も聞きながら、背景事情の解明に取り組むべきだ。

大阪などを特殊ケース、と片付けるようなら、不正はまた必ず起きる。

毎日新聞 2014年08月02日

大阪府警の偽装 あきれる治安回復工作

大阪府警の全65署が2008年から5年間、刑法犯の認知件数約8万1000件を計上せず、警察庁に過少報告していた。実際より約1割少なく見せかけていたことになる。

読売新聞 2014年08月04日

大阪府警不正 犯罪統計の操作にあきれる

組織のメンツのため、実際に起きた犯罪を、統計上はなかったことにした。これで治安回復を装っていたとは、あきれるばかりである。

大阪府警が2008~12年の5年間で、計8万件に上る刑法犯を犯罪統計に計上していないことが発覚した。65の全警察署が関与し、毎年、認知件数の4~13%が不正に操作されていた。

未計上事件の9割近くが窃盗だった。特に自転車盗、車上狙いなどの街頭犯罪に集中していた。都道府県別で街頭犯罪が全国最多だった大阪では、08年から「ワースト1返上」を目標に掲げ、府を挙げて対策に取り組んでいた。

その“成果”で、10年以降は東京を下回ったとされた。ところが、判明した未計上分を加えると、「ワースト1」のままだった。

府警は、「組織的な指示はなかった」と説明しているが、実態はどうなのか。件数削減に向け、各警察署には相当のプレッシャーがかかっていたという。

各署の幹部は、月ごとに集計される署別の件数比較に一喜一憂していた。軽微な事件について「計上する必要があるのか」と統計担当者をとがめることもあった。

犯罪統計は、治安情勢を映し出す重要な指標である。虚偽の数字がまかり通れば、住民の防犯意識にも影響が及ぶだろう。

他の都道府県警でも同様の不正がないか、点検が必要だ。

今回の不正発覚を受け、今年の警察白書は、発表直前に大幅なデータ修正を余儀なくされる異例の事態となった。

白書は、窃盗犯の認知件数が減少を続け、昨年は40年ぶりに100万件を下回ったと強調している。再集計でも、この事実は変わらないものの、大阪府警の不正で、犯罪統計全体の信頼性が損なわれたことは間違いない。

窃盗犯について、白書は、検挙数が激減している点を問題視している。「国民の体感治安に悪影響を及ぼしかねない」からだ。

警察庁が実施した国民の意識調査で、日常的に不安を感じる犯罪として、空き巣などの窃盗を挙げた人が最も多かった。

身近な犯罪だけに、たとえ被害が軽微でも、犯人が捕まらなければ、被害者や近隣住民の不安はいつまでも解消されない。

住民同士のつながりが希薄となり、近年、聞き込み捜査で情報を得るのが難しくなっているという。警察に求められているのは、捜査力を維持し、犯人を着実に捕まえることである。

産経新聞 2014年08月04日

大阪府警過少申告 粉飾で治安は向上しない

大阪府警は平成24年まで5年間の刑法犯認知件数に、窃盗など計8万件以上を計上していなかった。大阪府は22年以降、街頭犯罪の全国ワーストワンを返上したとされていたが、過少申告分を足せば、いずれも東京都の件数を上回りワーストであり続けたことになる。とんだ粉飾である。

不正に処理された数字を基に汚名返上と胸を張られても、体感治安に変化があるはずはなかった。何より警察が嘘をついて、誰を信用して社会の安全を守ればいいのか。「嘘つきは泥棒の始まり」と、子供を諭すのに困るような事態は厳に戒めてもらいたい。

しかも、過少申告は府内65署のすべてで行われていた。府警は当時の署長や刑事課長ら89人を注意処分としたが、「あくまで担当者レベルで不適切処理が広まったもの」と組織ぐるみの不正を否定し、懲戒処分はなかった。

指示や組織的関与がないままに全署で同様の不正が行われていたなら、その根はさらに深いと言わざるを得ない。

「ワーストワンの汚名返上」は、20年に知事に就任した橋下徹氏が発した大号令だった。府警は同年、各署に街頭犯罪対策担当を配置し、直轄警察隊を発足させて犯罪抑止の取り組みを強めた。

大量の過少申告も、この年から始まっている。大号令のプレッシャーが各署の担当者が申告する数字をゆがめたとすれば、本末転倒も甚だしい。

自転車の盗品発見は計上しなくていい。車の器物損壊は保険が下りれば実害がなくなるから件数に数えない。これらが、大阪独自の「ルール」となっていた。そんなことは、「犯罪統計規則」のどこにも記されていない。

犯罪統計の正確かつ迅速な作成およびその効率的な運用を図ることを目的とした同規則は、「犯罪と思料される事件を認知し、又は検挙したときは、速やかに警察庁へ報告しなければならない」と規定しているだけだ。

ひったくりや自転車盗などの身近な犯罪は、体感治安に直接的な影響を与える。大阪はこれまでも府警がマウンテンバイク部隊を導入し、民間がひったくり防止カバーを配布するなどの地道な努力を重ねてきた。数字の操作などというセコいまねに頼らず、街頭犯罪撲滅の先進自治体となるような気概をみせてほしい。

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