中国共産党の政治局常務委員とは、13億人の大国を仕切る最高指導部メンバーである。
胡錦濤・前政権に9人いたうちの一人だった周永康氏(71)が「重大な規律違反」を問われることになった。
大規模な汚職があったとされ、改革開放以降では最高位の摘発となる。はびこる腐敗をただすことは正しい方向だ。
ただし、異例の大物立件の本質は、習近平(シーチンピン)・現政権が仕掛ける権力闘争であることを見落としてはなるまい。
周氏は国有石油企業の出身。石油ビジネスに絡む不正資金をてこに、利益で結ぶネットワークを築いたとみられている。
一枚岩にみえる中国指導部だが、党と国家の中枢は多元的で、各部門が利益集団化しがちだ。最近、そこにメスを入れるケースが相次いでいる。
トップが汚職で捕まった鉄道省は、習政権発足時に三分割した。軍の元最高幹部の徐才厚氏は収賄の疑いで党籍を奪った。そして今は「石油グループ」に切り込もうとしている。
周氏は江沢民・元国家主席とつながりが深かったといわれる。党内の抵抗は強かったに違いない。
関係者の拘束は、一昨年に周氏が常務委員を退いた直後から始まった。同時に習政権は反腐敗の旗のもと、「地位の高い者も例外扱いしない」と強調し、世論の地ならしをした。
実に周到な準備で一歩ずつ追い詰めた末の立件である。これで習氏の政権基盤は固まったとみるべきだろう。
党中央委の昨年の総会は司法改革を唱え、次の10月の総会の主な議題も「法治」とされる。
ただ、この立件が法治に資するかといえば、根本的な疑問がぬぐえない。
今回の決定を下したのは、党中央であり、司法ではない。党の調べで違反ありと認定すれば党籍を剝奪(はくだつ)し、そこではじめて司法手続きに移る。党は司法に優越し、党中央は常に間違えないという前提がある。
汚職をなくして公正な社会を築くという目標はいいが、それが一党支配をより強固にするための権力者の道具でしかないなら、おのずから限界がある。
法治といえば、国民の諸権利を明記した憲法が、いまの中国にはある。しかし、「憲政の実現」を訴える弁護士や学者を次々と弾圧している現状は、法治にほど遠い。
真に必要なのは党の指導者をもチェックできる「法の支配」だ。それこそが反腐敗の王道ではないのか。
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