中国指導部汚職 虎退治より難しい改革

朝日新聞 2014年07月31日

中国汚職摘発 真の法治をめざすなら

中国共産党の政治局常務委員とは、13億人の大国を仕切る最高指導部メンバーである。

胡錦濤・前政権に9人いたうちの一人だった周永康氏(71)が「重大な規律違反」を問われることになった。

大規模な汚職があったとされ、改革開放以降では最高位の摘発となる。はびこる腐敗をただすことは正しい方向だ。

ただし、異例の大物立件の本質は、習近平(シーチンピン)・現政権が仕掛ける権力闘争であることを見落としてはなるまい。

周氏は国有石油企業の出身。石油ビジネスに絡む不正資金をてこに、利益で結ぶネットワークを築いたとみられている。

一枚岩にみえる中国指導部だが、党と国家の中枢は多元的で、各部門が利益集団化しがちだ。最近、そこにメスを入れるケースが相次いでいる。

トップが汚職で捕まった鉄道省は、習政権発足時に三分割した。軍の元最高幹部の徐才厚氏は収賄の疑いで党籍を奪った。そして今は「石油グループ」に切り込もうとしている。

周氏は江沢民・元国家主席とつながりが深かったといわれる。党内の抵抗は強かったに違いない。

関係者の拘束は、一昨年に周氏が常務委員を退いた直後から始まった。同時に習政権は反腐敗の旗のもと、「地位の高い者も例外扱いしない」と強調し、世論の地ならしをした。

実に周到な準備で一歩ずつ追い詰めた末の立件である。これで習氏の政権基盤は固まったとみるべきだろう。

党中央委の昨年の総会は司法改革を唱え、次の10月の総会の主な議題も「法治」とされる。

ただ、この立件が法治に資するかといえば、根本的な疑問がぬぐえない。

今回の決定を下したのは、党中央であり、司法ではない。党の調べで違反ありと認定すれば党籍を奪(はくだつ)し、そこではじめて司法手続きに移る。党は司法に優越し、党中央は常に間違えないという前提がある。

汚職をなくして公正な社会を築くという目標はいいが、それが一党支配をより強固にするための権力者の道具でしかないなら、おのずから限界がある。

法治といえば、国民の諸権利を明記した憲法が、いまの中国にはある。しかし、「憲政の実現」を訴える弁護士や学者を次々と弾圧している現状は、法治にほど遠い。

真に必要なのは党の指導者をもチェックできる「法の支配」だ。それこそが反腐敗の王道ではないのか。

毎日新聞 2014年07月31日

中国指導部汚職 虎退治より難しい改革

中国共産党は、胡錦濤(こ・きんとう)前政権で最高指導部である政治局常務委員会のメンバーだった周永康(しゅう・えいこう)・前中央政法委員会書記(71)を「重大な規律違反」で立件・調査すると決定した。大規模な汚職に関連した疑いとみられ、腐敗が上層部にまで広がっている実態が浮き彫りになった。

中国では党の決定が司法の上位にある。刑事事件については今後、検察当局の捜査が進む見通しだが、立件の発表自体が有罪宣告に等しい。10月に開かれる中国共産党の第18期中央委員会第4回総会(4中全会)で党籍剥奪などの処分が決まる可能性が高い。

中国国内では「聖域」とされてきた常務委員経験者の汚職摘発に踏み切ったことを歓迎する声が多いようだが、権力の監督システムの欠如など腐敗には構造的要因がある。再発防止には政治改革や司法改革が不可欠だ。

習近平(しゅう・きんぺい)国家主席は2012年秋の総書記就任後、「虎(大物)もハエ(小物)も一網打尽にせよ」と指示し、反腐敗キャンペーンを進めてきた。次官級以上の高官だけで30人以上が摘発され、先月末には政治局委員も務めた徐才厚(じょ・さいこう)・前中央軍事委員会副主席が党籍を剥奪された。

周氏についても家族や側近、関係のある実業家らが相次いで調べを受け、捜査対象であることは公然の秘密だった。しかし、周氏は石油業界出身で江沢民(こう・たくみん)元国家主席を後ろ盾に四川省や公安省トップを歴任し、治安対策にも力をふるった大物だ。立件には慎重論があったとされる。

周氏に関連して押収された資産は総額900億人民元(約1兆4400億円)に達するともいわれる。収賄などで無期懲役判決が確定した薄熙来(はく・きらい)・元重慶市党委書記と共に政変を企てた疑いも持たれており、江氏ら長老もかばいきれなかったのではないか。

慣例を破って「聖域」にメスを入れたことで習主席の権力基盤が強化されることは確かだ。だが、成長の鈍化や経済格差拡大を背景に共産党幹部や政府高官の腐敗に対する国民の不満はかつてないほど高まっている。周氏の立件にとりあえず留飲を下げる国民も少なくはないだろうが、構造的要因が解消されない限り、根本的な解決にはつながらない。

「人治の国」といわれて久しい中国だが、10月の4中全会では「法治」が主要議題に設定された。周氏の処分と合わせ、不正防止のための制度改革を進めようという意欲はあるのだろう。共産党体制の維持を前提に国民を納得させるだけの改革が打ち出せるのか。習政権にとっては虎退治以上に困難な課題が待っているともいえそうだ。

読売新聞 2014年07月31日

周永康氏摘発 腐敗蔓延の陰で続く権力闘争

中国の最高指導部メンバーの不正に、調査のメスが入る。極めて異例の事態である。

中国共産党が、2012年秋まで党政治局常務委員を務め、党内序列9位だった周永康・前党中央政法委員会書記について、「重大な規律違反」があったとして、調査、立件することを決めた。

具体的な容疑は明らかにしていないが、昨年来、周氏の側近や元部下らが汚職容疑で相次いで摘発されている。周氏自身も、汚職に関与したとの見方が強く、既に軟禁状態にあるという。

巨大な党組織の頂点に立つ政治局常務委員は、現在、習近平総書記以下、7人しかいない。周氏の在任中も9人だった。

このごく一握りのトップ層に関しては、党の分裂回避や威信維持の観点から、不正は摘発しないとの不文律があったとされる。

だが、腐敗の蔓延まんえんは今、国民の不満・不信の源であり、党の生き残りにも関わる重大問題だ。「ハエもトラもたたく」と腐敗一掃を宣言した習氏は、タブーに手を付けざるを得なかったのだろう。

特大の「トラ」の摘発には、腐敗撲滅に向けた断固たる姿勢を国民にアピールする狙いがある。10月の党中央委員会総会でも、反腐敗が主要議題となる見通しだ。

中国での腐敗摘発は、党内抗争とも密接に結びついている。

周氏は、豊かな資金力を誇る石油業界「石油閥」の中心的存在である。政法委書記として公安や司法部門の実権も握っていた。

江沢民・元総書記や江氏側近の曽慶紅・元常務委員らが後ろ盾とされる。昨年、収賄罪で無期懲役が確定した薄煕来・元党政治局員とも近かったと見られている。

習氏は現在、治安対策や経済改革の指導組織のトップに相次いで就任するなど、自身への権限集中を急いでいる。

周氏を摘発し、その背後にいる石油閥など既得権益層や江氏の影響力を排除することは、習氏が権力基盤を固める一環と言えよう。ただ、これで習政権が盤石になると見るのは早計だ。

周氏摘発は一時的に民衆に歓迎されるとしても、根深い党の腐敗体質に変わりはない。習氏の強引な手法に対する党内の反発が強まる恐れもある。中国の社会と政治の安定は、なお遠い。

内政が不安定化すれば、習氏は国民の愛国心に訴えるため、独善的な対外姿勢を強めかねない。日本は、腐敗摘発の陰で続く権力闘争を注視する必要がある。

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