新型インフル ワクチンだけには頼れない

読売新聞 2009年08月28日

新型インフル ワクチンだけには頼れない

ワクチンがあれば新型インフルエンザの感染を防ぎ、急拡大も抑えられるのではないか――。

こんな期待が高まっているが、そうした思惑通りに行くだろうか。

例年のインフルエンザでも、ワクチンの接種で流行を抑え込めたという例はないからだ。

一定の効果はあるだろう。例年の流行でもワクチンを接種すれば症状は軽い、と言われてきた。

大勢が接種すると、感染拡大のペースが遅れるという効能も指摘されている。ワクチンで重症化する患者が減れば、その分、医師や病院も治療に余裕が持てる。

問題は、インフルエンザワクチンの予防効果が低いことだ。接種すれば発症を防げる「はしかワクチン」などと異なる。しかも一般的にワクチン接種には、ごくわずかだが、副作用がある。

政府は、インフルエンザワクチンの限界を国民に丁寧に説明する必要がある。特に大切なのは、ワクチンだけが対策ではない、と理解してもらうことだ。

まず予防する。手洗い、うがいは鉄則だ。ほとんどの人に免疫がないので、流行が拡大すれば、感染を免れることはできないという自覚も必要になる。

その際、腎臓病などの持病を抱えた人や幼児を除き、通常はほとんどが軽症で済む、ということも覚えておきたい。無論、軽症でも感染を広げない注意は要る。

ただ、例年のインフルエンザでも、ワクチン不足は各地に不安を広げることが、よくある。

まして、今回は新型だ。新型用ワクチン製造は本格化しているが必要量に追いつかない。国内で約2000万人分が不足する、とも言われている。新型のワクチンを巡る混乱は避けたい。

そのためにも、ワクチンをだれに接種するか、優先順位の論議を急ぐ必要がある。医療従事者や新型感染で重症化しやすい人は当然だろう。それでも、現在の供給見通し量では追いつかない。

政府は、新型用のワクチン確保に全力を挙げるべきだ。

その切り札として、欧米などからのワクチン輸入が有力視されている。ただ、安全性を確認する方法や副作用が出た時の詳細な対応が決まっていない。

国内では15年前まで、小中学生全員にインフルエンザワクチン接種を義務づけていた。だが、副作用被害に加え効果を疑問視する意見も出て、廃止された。

再びワクチンへの不信感を広げることがない対応が重要だ。

産経新聞 2009年08月30日

新型ワクチン 安全性の確認重視したい

新型インフルエンザの流行が国内で拡大を続けている。国立感染症研究所によると、全国約5000の定点観測医療機関の報告に基づく17~23日の1週間の推計感染者数は15万人にのぼる。

沖縄はすでに大きな流行の継続を示す「警報レベル」に達しているが、他の地域は「注意報」段階で、本格的な流行拡大はこれからだ。各地域の実情を踏まえ、対策に力を入れる必要がある。

厚生労働省では、ワクチン接種の優先順位や輸入に関する検討も進められている。

舛添要一厚労相は26日に開いた有識者との意見交換会で、新型インフルエンザのワクチンについて(1)5300万人分を確保したい(2)国産ワクチンの年内製造量は1300万~1700万人分にとどまる(3)不足分は輸入交渉を進めている−との考え方を示した。

5300万人分の内訳は、ぜんそくなどの持病を持つ人約1000万人、妊婦約100万人、乳幼児600万人、小中校生約1400万人、65歳以上の高齢者約2100万人、医療従事者約100万人−としている。

今回の新型インフルエンザは、世界中の誰もワクチンを接種していない現状でも、かかった人の大多数が1週間ほどで回復する。ただし、重症化のリスクを抱える人もいるので、そうした人たちへの感染の機会を減らし、死亡を防いでいくことが大切だ。

重症化防止を優先すると、予防接種が急がれるのは、持病を持つ人、妊婦、乳幼児で、これに医療従事者を加えても計約1800万人だ。中にはワクチン接種を望まない人もいるので、国産の1300万~1700万人分で年内は何とか対応できるのではないか。

輸入ワクチンには、副作用の不安も指摘される。輸入に踏み切る場合でも、安全性に焦点をあてた臨床試験を国内で行うべきだ。

ワクチン接種の開始は10月下旬なので、冬の流行には備えられても、現在の流行の拡大には間に合わない。ワクチンは重要な対策ではあるが、すべてではないこともこの機会に認識しておきたい。

重症化は早期に治療を提供すれば防げることが多いという。その意味でも特定の医療機関に一度に患者が集中して混乱するような事態は避けたい。とりわけ休日や夜間の医療体制については、予想される患者の増加に備えて、充実を急ぐ必要がある。

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