危険ドラッグ 人間をやめることになる

読売新聞 2014年07月29日

危険ドラッグ 摘発の徹底で流通を阻止せよ

名称変更を機に、違法なドラッグの規制をさらに強めたい。

乱用者による事件・事故が相次ぐ「脱法ドラッグ」の名称が「危険ドラッグ」に改められた。

「脱法」では、法規制が及ばないとの誤ったメッセージを与えかねず、安易な使用を誘発する恐れがある。そうした判断から、警察庁と厚生労働省が公募した。

危険性を強調しようという狙いはわかるが、違法性が十分に伝わる名称なのか、という疑問は残る。政府は、危険性と違法性をともに周知する必要がある。

危険ドラッグに手を出したことのある人は、全国で40万人に上るとされる。厚労省が乱用者を対象に調査したところ、4割以上に幻覚や妄想の症状が出ていた。覚醒剤の3割を上回っている。依存症状が生じた人も6割近かった。

極めて有害であることは明らかである。急性中毒症状で救急搬送されるケースも急増している。

蔓延まんえんを阻止するため、政府が緊急対策をまとめたのは当然だ。

警察や地方厚生局が連携し、約250か所とされる販売店への一斉立ち入り検査を行うことなどが対策の柱だ。危険薬物を容易に入手できる状況を改めるには、販売店の規制強化が欠かせない。

摘発が後手に回った教訓から、緊急対策では、違法な指定薬物に分類される前でも、薬事法で販売を禁じる「無承認医薬品」として取り締まることも打ち出した。

指定薬物を含む疑いのある商品については、販売業者に成分検査を命じ、結果が出るまで販売を停止させる。命令に従わなければ、業者に罰則を科す。

移動販売やインターネットを介した注文販売に移行しつつある業者の監視を強めてほしい。

密造・販売ルートの実態把握も重要だ。沖縄、石川両県では製造工場が摘発された。原料の薬物は中国から輸入された疑いがある。日本への流入を水際で阻止するため、税関でのチェック体制を強化する必要があろう。

薬事法上は違法とされていない商品であっても、身体に危害を及ぼす恐れがあれば、条例で独自に規制している自治体もある。

和歌山県は、お香やアロマと表示した商品でも監視製品に指定し、扱う店に届け出を義務付けている。大阪府は、警察官の店舗への立ち入り調査権限を条例に盛り込んだ。東京都も条例を改正し、同様の規定を設ける方針だ。

政府の取り組みを補完する上で、自治体の役割は大きい。

産経新聞 2014年07月27日

危険ドラッグ 人間をやめることになる

深刻な社会問題となっている「脱法ドラッグ」について、厚生労働省と警察庁は呼称を「危険ドラッグ」と改めた。

「脱法」ではその危険性を明確に表現できないとして、公募した中から選んだ。危険(脱法)ハーブを含め、幻覚作用をもたらす精神毒性が強い有害薬物を広く「危険ドラッグ」と呼ぶ。

応募が多かった中には「廃人ドラッグ」「破滅ドラッグ」「錯乱ドラッグ」もあった。刺激が強すぎるとはいえ、より実相に近いと思われるものもある。「危険ドラッグ」の呼称がふさわしいかはともかく、この機に使用しない、させないことを徹底させたい。

発端は東京・池袋の繁華街で先月、男女8人を死傷させた交通事故だ。乗用車を暴走させた男は危険ハーブを吸引し、「全く記憶がない」まま運転していた。その後も同様の事故が全国で相次ぎ、26日には、警察官が危険ドラッグを持っていたとして逮捕された。

危険ドラッグについては、禁止薬物を指定しても、すぐに成分構造の一部を変えたものが出回るため、厚労省は昨年3月、類似薬物もまとめて規制できる包括指定を導入した。

それでも、いたちごっこは続いている。池袋の暴走事故で男が使用したハーブに含まれた物質は、包括指定の網も逃れていた。

このため厚労省は、薬事法が所持や使用を禁じる指定薬物に緊急指定した。だがこれも、重大事故の後追いにすぎない。

物質の成分を追う限り、新種の危険ドラッグに振り回される状況は変わらない。「疑い」段階での販売停止や、指定薬物に定める前の危険ドラッグも無承認ドラッグとして取り締まるなど、さまざまな対抗策が練られている。

あらゆる法令を駆使して法の網を狭めるとともに、製造、販売に関与する組織を追い詰めるため、通信傍受やおとり捜査の対象とすることも検討すべきだ。

「覚醒剤やめますか? それとも人間やめますか?」

いまも耳に残るのは、日本民間放送連盟が昭和58年に制作、放映した公共広告の名文句だ。

あの標語を、もう一度思いだしたい。「危険ドラッグ」も、人を錯乱、破滅させ、廃人に追い込むものだ。幻覚に苦しみ、自傷他傷行為を繰り返す者もいる。社会からなんとか、追放したい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1898/