概算要求基準 歳出改革の断行を求める

朝日新聞 2014年07月27日

予算編成 納税者への責任果たせ

政府が来年度予算の概算要求基準を閣議で了解し、編成作業がスタートした。

国の借金が1千兆円を超えた財政をたて直していくには、税制改革を通じた負担増、経済成長に伴う税収増とともに、予算の徹底した見直しが欠かせない。

来年10月に消費税の再増税が予定される一方、安倍政権は法人減税を急ぐ。企業を核に日本経済を元気にし、国民全体に恩恵が及ぶ絵を政権は描くが、疑問や反発は根強い。

納税者の理解を得るには、例年にも増して予算を効果的に配分し、賢く使うことが求められている。

ところが、疑問符がつく動きが早くも相次いでいる。

今は2年に1回の薬価改定について、経済財政諮問会議の民間議員が毎年行うよう提言した。薬の価格は、発売から時間がたつにつれ下がっていく。それをきめ細かく反映し、患者の窓口負担や保険料負担、税金の投入を減らすのが狙いだ。

ところが、医師会や製薬業界、族議員などが「毎年改定では、そのための調査が不十分になる」「新薬開発や医療機関経営への影響が大きい」などと反発。政府が6月に決めた「骨太方針」では、改革するのかしないのか、あいまいな表現にとどまった。国民と業界のどちらを向いているのだろうか。

公共事業を巡っては、政府は今年度予算の前倒し執行へ号令をかける一方、補正予算編成による上積みが霞が関周辺では当然のように語られている。

東日本大震災の復興事業や東京五輪の施設建設、景気回復に伴う民間工事の増加が重なり、人件費や資材費の高騰は深刻だ。入札が成立せず、予定価格を引き上げてようやく発注にこぎつける例も珍しくない。「景気下支えには公共事業」と、政府が経費増に拍車をかけてどうするのか。

高齢化に伴って医療や介護、年金に必要な予算が膨らみ続ける一方、子育て支援など手厚くしたい分野は少なくない。効果や必要性が薄れた給付は、国民に痛みを強いてでも削っていかざるをえない。

その前に、より少ない予算でサービスを維持する取り組みさえ徹底できないようでは、財政再建など夢物語である。

予算配分にメリハリをつけるための「優先課題推進枠」も、来春に統一地方選を控え、地方向けに予算をばらまく手段になりそうな気配だ。

安倍政権には、財政への危機感がないのだろうか。

毎日新聞 2014年07月26日

概算要求基準 「水膨れ予算」許されぬ

政府の来年度予算編成の入り口となる概算要求基準が閣議了解された。安倍晋三首相は「経済再生と財政健全化を両立するメリハリのついた予算とする」と説明した。基準は本来、予算の膨張に歯止めをかけるものだ。だが、成長戦略などの実現を狙いとして4兆円という巨額の特別枠が設定された。予算の水膨れが予想される緩み切った内容だ。

今回の基準は、公共事業など政策判断で増減できる「裁量的経費」について、各省庁に前年度に比べ1割減らして予算要求するよう定めた。そして、削減後の額の3割まで特別枠として別枠での要求を認めた。

この特別枠は、政府が6月に決めた成長戦略、骨太の方針に盛り込んだ施策と、新たに目玉として位置づけた「地方創生」に沿って地方活性化を実現する目的で設けられた。

成長戦略や骨太の方針には農業、教育、国土強靱(きょうじん)化、人口減対策、防衛などさまざまな政策が掲げられている。道路建設や農地整備など旧来型の事業も、いずれかの看板に付け替えれば特別枠の要求になる。こんな「何でもあり」のやり方で財政健全化が達成できるわけがない。

人手不足や資材価格上昇で、建設費は高騰を続けている。特別枠をテコに公共事業を増やせば高騰に拍車をかけ、民間の事業や東北地方の復興に支障となりかねない。

地方の活性化にしても、若者の流出に歯止めをかける長期的な対策が求められている。教育や雇用の機会を増やすことに知恵を絞るべきだ。公共投資やインフラ整備は一時的なカンフル剤にしかならない。むやみに税金を投入することは慎まなければならない。

昨年の概算要求基準でも特別枠3.5兆円が設定された。政府はこれを年末までに1.9兆円に絞って当初予算案に計上したと説明する。しかし、当初予算案と並行して消費増税対策として2013年度補正予算案が編成され、振り分けて計上されただけだ。

今回の基準で歳出総額が示されなかったのも問題だ。来年10月に予定されている消費税率10%への再増税について、安倍首相が最終判断する前であり、税収が見込めないからだという。

だが、再増税は法律に明記された原則だ。今は再増税を前提に作業を進めて問題はないはずだ。再増税の対策として今年も補正予算を持ち出す狙いが透けて見える。

政府は新たな借金にあたる新規国債発行額を今年度の41.3兆円から減らすという。2度にわたり消費増税をするのだから当たり前の話だ。国債発行額は明確に減らさなければならない。それが国民に対する約束を果たすことだ。

読売新聞 2014年07月27日

概算要求基準 特別枠を「抜け道」に使うな

経済成長と財政健全化を両立するメリハリのきいた予算とするため、要求段階から厳しく精査する必要があろう。

政府が2015年度予算の大枠となる概算要求基準を決めた。人口減対策や地方活性化など、安倍政権の重要課題に予算を重点配分するため、4兆円の特別枠を設けるのが柱である。

特別枠の財源として、公共事業費などの「裁量的経費」を14年度予算の約15兆円から1割削減する方針も盛り込んだ。

優先度の高い政策を推進するため、予算の配分を変えていく狙いは理解できる。

ただ、特別枠に要求できる予算の範囲を、政府の「骨太の方針」や成長戦略で掲げた諸課題に関係する事業としたのは疑問だ。

これでは、外交や防衛なども含めた幅広い分野の事業が要求の対象となり得る。

来春の統一地方選をにらみ、地域振興に関連した歳出圧力も一段と高まろう。

特別枠を「抜け道」にして、成長戦略などにかこつけた要求が各府省から殺到する懸念がある。

財政運営の司令塔である経済財政諮問会議が本来の役割を果たし、対象を具体的に絞り込むべきだったのではないか。

安倍首相は諮問会議で、来年度予算について「メリハリのついた予算とするよう政府を挙げて取り組んでいく」と強調した。

諮問会議の議長である首相は、「不要不急」の事業の要求が横行しないよう、各府省に指導力を発揮してもらいたい。

焦点は、最大の歳出項目である社会保障費の抑制を徹底できるかどうかである。

高齢化などによる社会保障予算の「自然増」は、来年度も1兆円近い。概算要求基準はこれを厳しく精査する方針を明記した。

予算節約の努力を通じ、割安な後発医薬品の利用促進や、年金支給開始年齢の引き上げの検討など、社会保障制度改革を着実に進展させる必要がある。

政府は、現在30兆円と巨額の赤字である国と地方の基礎的財政収支を、20年度までに黒字化する目標を掲げている。

だが、政府試算によると消費税率を予定通り10%に引き上げ、実質2%の経済成長を見込んでも、11兆円の赤字が残るという。

財政基盤がぜいじゃくでは、機動的な経済政策を行えず、日本経済の本格再生も望めまい。来年度予算を財政再建に道筋をつける第一歩としなければならない。

産経新聞 2014年07月26日

概算要求基準 歳出改革の断行を求める

平成27年度予算編成で各省庁が予算を要求する際の大枠となる概算要求基準が決まった。

脱デフレを果たし、民間主導の成長につなげるには優先課題への重点配分が必要だ。そのためにも不要不急で政策効果の薄い事業を排し、メリハリを利かすべきだ。バラマキは厳に慎み、歳出改革の断行を求める。

来春の統一地方選を視野に入れて与党からの歳出圧力も高まるだろう。それで財政規律が緩む事態は避けなくてはならない。

公共事業などの1割カットを求める一方で、成長戦略や地方活性化に絡む要求には4兆円規模の特別枠を設ける。ただ消費税率10%への引き上げが最終決定していないとして、本来は明示すべき歳出総額の上限は示さなかった。

いずれも26年度の基準を踏襲した枠組みだが、これで歳出膨張を防げるのか心配だ。26年度は税収の上ぶれを見越した歳出圧力に歯止めがかからず、過去最大の予算規模に膨らんだ。同じ轍(てつ)を踏むようでは、経済成長と財政健全化の両立は果たせない。

概算要求基準で、高齢化に伴って毎年増える年金・医療費などは自然増を含め「合理化・効率化に最大限取り組む」としたのは当然だ。景気回復を下支えする公共事業も、中身を吟味しなければ十分な効果を得られない。人手不足や資材の高騰を踏まえ、計画的に事業を選別すべきだ。

経済財政諮問会議が示した予算編成の指針では、5年以上経過している既存の施策は縮小・廃止を原則とするほか、26年度予算の政策効果などを検証すべきだとしている。こうした取り組みを歳出改革の進展につなげたい。

問題は特別枠である。成長戦略を具体化し、アベノミクスの効果を地方に波及させる目的は理解できるが、各省庁が通常予算では認められないような事業を潜り込ませるようでは、単なるバラマキの場となってしまう。

政府は、国と地方の基礎的財政収支の赤字を27年度に22年度から半減させ、32年度に黒字化する目標を掲げている。政府の試算では半減目標は達成できるが、32年度は、消費税率を10%にしても11兆円の赤字が残る見込みだ。

このままでいいわけはない。黒字化目標は国際公約であり、もはや財政健全化を後回しにしている余裕はないはずだ。

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